クルストの対抗心。自分の名誉を上げるための案とは
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。
初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!
第187話 王太子クルストの望み
成人した王太子の住む宮殿は、広大な王城内にいくつもある宮殿のひとつ、モガル宮だ。ミナは、4年前に現国王アルーストが王太子だったときに、ここに呼ばれたことがある。
次の時代の王太子に再び呼ばれるとは思ってもいなかった。
近衛兵が守る部屋の中には、ゾーイは入って来られない。そこからミナはひとりで部屋に入った。
そこはこじんまりとした部屋で、明るいテラスがある応接室だ。
クルストはソファーに座ったままミナを迎える。そばには若い侍従が1人いるだけだ。
「お召しに従い、参上いたしました。ミナ・クロエ・ヨードンでございます」
「うむ。そこに座れ」
クルストはこめかみに指をあて、足を組んだまま、ミナを向かいに座らせた。
栗色の豊かな巻き毛が肩まで伸びている。父譲りの琥珀色の瞳だ。
「本日は何用でございましょうか……?」
いろいろと推測してみたが、まったく理由が思い浮かばない。
「父上がそなたを呼べと言ったのだ」
「は? なんのために……でございましょうか」
(ボリックさんの言う通り、仲直りのためってことかな?)
クルストはにこりともしない。
「なんのために……か」
ただ繰り返す。
「私は別に呼びたくないのだが、父上がおっしゃるには……」
はあ、とため息をつきながら、クルストは目を伏せた。
「ミナの力を借りろと」
ふてくされたように言った。
「はい?……」
よほど不承不承なのだろう。なかなか話が進まない。
ミナも2年前のクルストの印象が悪いから、会いたくないと思っていたが、クルストも同じだ。
2年前のことを互いに根に持っているというわけだ。
ミナも大人気なかったと少し反省する。
(父親が叔父に殺されようとしていたのだから、その息子のゼビルス様に腹を立てるのは、ある意味当たり前だわ。同じ学院にいるのは苦痛だったに違いないのだし……)
単純に嫌な奴だと思っていたことを心の中で謝る。
(ごめんね……)
そして、改めて、
「何かお手伝いできることがございましょうか?」
と微笑みながら言った。
「ああ。ないと言えばないが、あると言えばある」
「はあ……」
侍女が入ってきて、お茶を出してくれた。
しかし、クルストが「どうぞ」と言わないので、ミナは手を出せない。
かといって、話し始めるわけでもなく……。
そんなクルストを見かねたのか、ずっとそばに立っていた若い侍従が声をかける。
「殿下。次のご予定が控えておりますので、お早めにお話を……」
「あ、うむ……」
侍従に言われて、お茶を一口飲み、やっと話し始めた。
「そなたも飲むがよい」
「は、いただきます」
「で、父上がおっしゃるには、私の立場の広報のことなのだが……」
クルストはミナを見るのではなく、宙を見て話す。
「国内外に私の存在を知らしめるために、何をすればよいかをミナに聞けと」
「は? ……それは外交の問題なのですよね?」
ミナは首を傾げた。畑違いだと思う。
侍従が口を出す。
「殿下は外国のみならず、国内にもお名前を知らしめたいとお考えなのでございます」
「……あ、なるほど! 理解いたしました」
ミナはやっとピンときた。
このたびのレオストの活躍とゼビルスの結婚で、ラッスル家の名が広まった。ゼビルスがいとこである以上、王太子という自分の地位を脅かしかねない。
だから、民衆や外国に自分の名を広めたいというわけだ。
「それは良いお考えだと思いますわ!」
「そ、そうなのか?」
ミナの意外な反応にクルストは驚く。
クルストが敵とみなしているラッスル公爵レオストと、その嫡男ゼビルスの名を全国に広めたのはミナなのだ。
クルストとしては、ミナはゼビルスの味方だから、自分の名を広めることに協力するはずもないと思っていたのだ。
「はい。殿下のお立場を国内外に示す、というのは、未来の君主として当然のことでございます」
「そ、そうか……」
クルストはホッとしたように肩の力を抜いた。
侍従はその様子を見て嬉しそうに微笑む。
「で、何かお考えでも?」
ミナは言葉を促す。
「いや……。いろいろと提案はしたのだが、どれも大掛かりすぎるとか、一時的だとか、局所的だとか、なかなか認めてもらえぬのだ。記念の建物を建てるとか、祭りを開催するとか……」
「つまり、比較的簡単にできて、永続的なことがよろしいのですね?」
「そうだ」
クルストは少し、ふてくされた態度を改めて素直になったので、それが逆に子供っぽくなった。
まだ20歳なのだ。カイルに最初に会ったときと同じ年齢だ。時々子供っぽいところが出るのも仕方がないだろう。
「かしこまりました。明日、案をお持ちいたしますわ!」
「なに? 明日だと?」
「はい。ご都合はいかがでございましょう? できましたら、側近の文官のかたとご一緒がよろしいかと存じます」
「わかった! 明日の11時だ。よいな?!」
半分嬉しい思いを隠して、目だけ険しくして、クルストが強く言いつける。
「はい。かしこまりました」
* * *
その夜、ミナはせっせと企画書を書く。
クルストの懸念はただの対抗心でまったく意味がない、というわけではない。
ゼビルスが国民に人気となると、何か王府に失敗があったり、災難があったりすると、次期国王はクルストではなくゼビルスに、と言いだす可能性がある。
だから、ゼビルスばかりを有名にしては国が割れる元だ。
それはミナにとっても困ることである。
商業は国が安定してこそ栄えるのだ。
(クルストの名を内外に広めるには、これよ!)
と、わくわくして資料を作った。
「比較的簡単にできて、永続的なこと。そして、名が内外に広まること」
これが最大の条件だ。
(そして、多くの国民が喜ぶこと……)
ウフフと顔をにやけさせながら、ミナは資料を書き終えた。
ミナがサラサラと書いた案とはいったい?
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
ミナはブリア領主のため、妹エカーリアが王弟ラッスル公レオストの長男ゼビルスと結婚できるよう、資金づくりを計画する。その際に、大掛かりな盗賊掃討戦、そして詐欺集団掃討戦を提案した。一方で、王国初めてとなる債券販売を始め、コブルー港拡張工事の金を捻出する。一連の討伐が終わり、商人たちは大歓喜し、王も祝福し、アラゴンキアに新しい時代が訪れた。そんなとき、ミナは王太子に呼び出される。
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…
ゾーイ … ミナの護衛騎士
ボリック・バンリオル … 国内最大の商会で、ミナの支援者であり、ミナの夫カイルの雇い主。
ゼビルス … ラッスル公王弟レオストの嫡男で、ミナの上司であるブリア侯アンドリオンの妹と結婚した。




