王太子クルスト、ミナに接近か?!
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。
初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!
第四部 成長する王国
第3章 未来への投資
第186話 エビーナの招きの日
エカーリアの結婚式は9月15日に、王都で催された。
そのときに集まる貴族の数は、大変なものだった。
この1年で大量の盗賊や詐欺師が掃討され、素晴らしい手柄を立てた、今を時めくラッスル公爵の嫡男ゼビルスの結婚式とあって、王弟ラッスル公爵レオストに挨拶をしたいという貴族たちが全国から集まったのだ。
街中に明るい華やかさがあふれ、活気があった。
結婚式のあとも王宮や王都の公爵家などでたくさんの舞踏会が開かれるため、王都に2週間滞在後、若いふたりはラッスル領に向かうことになっている。
ミナは結婚式には参列しないのだが、毎年9月23日に開催される商人たちの会合「エビーナの招き」に出席するため、王都にやってきた。それはまだ結婚式の余韻が冷めやらぬ頃だった。
ミナは、会場となっている王立劇場に初めてやって来た。民間劇場のリリアガナ劇場よりも一回り大きな造りだ。
毎年訪れているバンリオルがミナを案内してくれる。
劇場の下から上を見回すと、アラゴンキアの主だった商人たちがたくさん集まっている。そこから、弧を描くように左右に階段が続き、ボックス席に上がるようになっている。
ミナとバンリオルが座ると、護衛が後ろに立つ。バンリオルの護衛カイルと、ミナの護衛ゾーイだ。
「国王陛下、王太子殿下、おなりでございます!」
その声を聞いて、商人たちは立ち上がり、拍手で迎える。国王と王太子がテラス付きの中央のボックス席に上がり、テラスから手を上げ、商人たちに挨拶をする。
「ほう。王太子は今年初めてのご参加ですな」
「そうなのですね?」
ミナが王太子クルストに会ったのは、もう2年半も前だ。もう王立学院を卒業しているはずだ。
(20歳? 19歳?……くらいかな?)
「王太子は今、何をしておいでなのですか?」
ミナがバンリオルに尋ねる。
「学院を卒業なさってから、行政を担っておいでですよ。今は、総務庁にいらっしゃいます」
「総務庁?」
「はい。まずは仕事の全体を見るといったところでしょうか」
「なるほど。そうなのですね」
今回の進行役を務めるダルザ商会の会長フレメルが舞台に立ち、開会のあいさつをした後、今年の重要な報告をする。
「皆様もご存じの通り、今年はまた、大変有益な年となりました。昨年の盗賊討伐に続き、今年前半は詐欺集団の大規模な摘発を完了し、アラゴンキアは商人にとって、今まで以上に安全な環境となったと言えるでしょう」
会場を埋め尽くす商人たちが皆拍手をする。
「そして、今年はもう一つ、金融商品の発表がございました。これについて、その発案者のブリア侯行政顧問ミナ殿にお越しいただきましたので、発表をお願いしたく存じます。――では、ミナ殿!」
ミナは階段を下りて舞台に向かう。このために今日、出席したのである。
「皆様、本日は債券についてご案内したいと思います。
これは、コブルー港の開発資金を捻出するために、考案したものでございます……」
マイクがないので、大きな声を出さなければならない。こんなとき、(ああ、合気道をやっていてよかった……)と思うのだ。声が響く設計にはなっているが、大きな声を出す練習をしていなければ、ここで発表するのは結構つらいことになるだろう。
「アメリカの大学に行く」と言った14歳のときに、祖母がしかめっ面で、「だったら合気道を習いなさい」と言ったことから習い始めたのだ。祖母は合気道の達人だったからだ。
その中に腹から大きな声を出す訓練がある。それがこんなに役に立つとは思わなかった。
その大好きな祖母はミナが大学院を卒業するころに亡くなったのだが。
「というわけで、今後、利益を出せるような施設を作るときには、この債券という方法で、より広くから資金を調達できる、というわけでございます。コブルーはこれから、埠頭を4つ作る予定ですので、7回で1組として、あと3組ほど、債券を発行する予定でございます」
「ミナ殿!」
質問者が手を上げる。
「その利息は必ず支払われるので? もし、事業がうまく利益を上げられない場合は?」
「はい。その可能性はございます。ですが、この事業の債券の利息は国が保証します。コブルーの開発は国の事業でございますので」
「ふむ。ということは、国は危険を背負う、ということになりますな」
「はい。ですから、国が必要だと認めた事業のみが、認可されるでしょう」
いくつかの質疑応答を終えて、ミナは壇上を降りた。
その後、何人かの商人が新しい提案をしたり、報告をしたりして、会合は終わる。
ミナとバンリオルが席を立とうとしたところ、王太子の侍従が手紙を持ってきた。
「ミナ殿に王太子クルスト殿下よりご伝言でございます」
「え? わたくしに……ですか?」
それをさっと広げると、「できるだけ早く会いに来るように」という伝言だった。
(うわ~。王太子からの呼び出し……)
ちょっと顔を曇らせるが、すぐに笑顔をつくる。
「かしこまりました。明日の午後にでもお伺いいたします」
「承知しました。では、時間についてはのちほど、お泊まりの宿にご連絡いたします」
侍従が戻っていくと、バンリオルがミナをのぞき込む。
「ミナさん、いつ王太子と会われたのですか?」
「ええ、2年半前に。ゼビルス様とグラディコ公爵の舞踏会に行ったときに、そこでお会いしたのですわ。……あまりよく思われていないようでした。まあ、平民が公爵家の舞踏会に出るなんてことが、そもそもお気に召さなかったのだと思いますけど……」
バンリオルはクスッと笑う。
「ミナさんは王族に縁が深いのですね」
「縁……でしょうか?」
ミナは正直、王太子の縁なんかいらない、と思った。
「王太子とゼビルス様は因縁の仲なのです。
ゼビルス様を支援していらっしゃるミナさんをよく思っていない可能性がありますな」
「そうですよね……」
「今は和解なさった陛下とレオスト殿下ですが、その争いは4、5年激しく続きましたからね。その最中に王立学院にいらっしゃったゼビルス様と王太子は、学院内でも激しく対立していたようですよ」
「なるほど。しばらくは学院内でケンカ状態だったということなのですね」
「ええ。しかし、割譲派が圧倒的に多かったのでゼビルス様は学院内で孤立無援だったでしょう」
(そうか。もともと父親が敵同士だったのだから、あの攻撃的な態度はいつも通りだったということか……)
ミナは2年前のクルストとその取り巻きの様子を思い出して納得した。
「その殿下が何のご用なのでしょうね?」
「まあ、ご心配は無用でしょう。おそらく、陛下がミナさんと王太子の仲を取り持とうとしていらっしゃるのではないかと……」
「そう……なのですか?!」
(確かに。私がこの世界にずっといるのだとしたら、いつかは王太子が王になるのだし……)
仲良くなっていないと、将来に暗雲が広がるかもしれないのだ。
「陛下はミナさんをとても高く評価していらっしゃいますから、むしろ、王太子殿下がミナさんを遠ざけていらっしゃるとしたら、それは損だと思っていらっしゃるでしょうよ」
バンリオルがニコリと微笑みながら言った。
「はあ……。そうだといいのですけど」
(あまり会いたくないなあ……)
少し気が進まないミナだった。
この章はミナと王太子クルストのお話。ミナが王太子を……。お楽しみに。
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
ミナはブリア領主のため、妹エカーリアが王弟ラッスル公レオストの長男ゼビルスと結婚できるよう、資金づくりを計画する。その際に、大掛かりな盗賊掃討戦、そして詐欺集団掃討戦を提案した。一方で、王国初めてとなる債券販売を始め、コブルー港拡張工事の金を捻出する。一連の討伐が終わり、商人たちは大歓喜し、王都で記念の大市を開催し、国王が新時代のアラゴンキアを宣言した。
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…
カイル … ミナの夫。バンリオル商会の諜報工作員、25歳
エカーリア … ブリア領主の妹。王弟レオストの長男と結婚した。
ボリック・バンリオル … 国内最大の商会で、ミナの支援者であり、カイルの雇い主。




