エカーリアの花嫁行列に突然のトラブルが?!
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。
初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!
第185話 花嫁行列
9月の初め。
朝早くから、ブリア城は大騒動だった。居城の前にはずらりと馬車が並ぶ。
その中でもひときわ輝く、おろしたての豪華な馬車が、花々に飾られて、正面に停まっている。
城の内部の広間では、ブリア領主アンドリオンが、台座の上の椅子に座り、その横には補佐官イソールズと行政顧問ミナが立っていた。
左右の壁際には、たくさんのブリアの官僚、騎士、従者たちが並ぶ。
「エカーリア様、フィルベラ様、おなりでございます」
侍従の声とともに、扉が開き、豪華な衣装を身に着けたエカーリアがしずしずと歩いてくる。その後ろにフィルベラがいる。
それから、少し遅れて、エカーリアに同行する侍女たち、文官たち、護衛たちが広間に入る。
エカーリアはブリア領主の前に着くと、そこで跪いた。
そのすぐ後ろにフィルベラ。
その後ろに従者たちがずらりと整列する。
「お兄様。永らくお世話になりました。この度は、わたしくの婚儀のためにこんなにも立派な用意をしていただき、心より感謝申し上げます。本日、わたくしはブリアを発ち、王都へ、そしてラッスル領へと向かいます。どうぞ、お兄様も末永く健やかにお暮らしくださいますように……」
「うむ」
フィルベラは三か月ほどエカーリアに同行するために、今日は旅立つ側に立っている。
父カリディオンは隠棲して離宮にいるため、エカーリアはすでに離宮で挨拶を済ませている。
エカーリアは頭を上げて、アンドリオンを見た。
かつて、「自分は愛されていない」と信じて、母と兄を怨んで、心を閉じていた自分。その時間が悔やまれる。
お金がなくて結婚できないという状態から、ここまでの準備をしてくれた。
それは、兄の愛以外のなんだろうか。
そして、隣のミナを見る。
(もし、お兄様がミナさんをみつけていなかったら……)
もちろん、ミナの力が大きいのはわかっている。自分をひきこもりから脱出させ、声を出す訓練もさせ、仕事をさせ、自信を持たせてくれた。街に連れ出して、世の中を、庶民を見せてくれた。そして、ゼビルスを連れてきてくれたのだ。
だが、そのミナが兄の家臣として働いてくれたからこそ、この幸運に巡り合えた。これも兄のおかげなのだ。
そして、イソールズ。
農民支援策の担当の一人として、イソールズには指導を受けた。官僚がどう考えるか、仕事をどう回すか、お金をどう管理するか。これらはただの貴族の娘では学べなかった。
何もできない娘のままでは、広大な領地を運営する公爵家に嫁ぐことなどできなかっただろう。
「……お兄様が与えてくださった大きな愛は、遠くの地に行きましても、決して忘れません」
そう言って、エカーリアは再び頭を下げ、深々とお辞儀をした。
「ああ。幸せに暮らせよ」
アンドリオンは満足そうにゆっくりと微笑んだ。
エカーリアは広間を出ていく。
そのあとに続くフィルベラに、アンドリオンは声をかける。
「母上。エカーリアをよろしくお願いいたします」
「ええ」
フィルベラはにっこりと微笑んで、広間を出ていった。
アンドリオンにとっても、この半年は大変な神経を使う日々だったのだ。
こうして、無事に送り出せることが嬉しい。
ミナは、アンドリオンの横に立って笑顔でエカーリアを送り出してはいるが、まだ安心はしていない。
徒歩で進む従者もいるため、王都までの旅は10日もかかるのだ。王都に着くまではまだ神経を使う。
街道はちょうど2日前に開通式が行われており、舗装は間に合ったが、まだ天候が心配だ。
「雨が降って歩けなくなったときの備えはできていますか?」
「宿の部屋は確認しましたか? 延長になったときは?」
ミナは担当者たちにリスク管理について様々な質問をした。
だが、どんな突発的なことが起きるかはわからない。
ブリア領軍司令官クレストン伯が率いる兵団が同行するので、大概のことは大丈夫のはずだが……。
だが、あとはエカーリアの側近に任せてある。
この先は彼らがエカーリアを守るのだ。
* * *
タンブリーを出て4日目。ブリアを抜けてエレミア領に入る。30台以上の馬車が通るため、行列はかなり長い。真ん中よりも少し前のほうに、花嫁の馬車がある。
馬車の中にはエカーリアとフィルベラ、そして、侍女頭のリラと、護衛騎士が乗っている。
めったに見ない花嫁行列を一目見ようと、近隣の村人たちが行列を街道に出て待っている。五大商会から贈られた最新式のこの馬車は、窓にルーバーとガラスがついているため、ルーバーを上げればガラス窓になり、外から中が見える。
エカーリアはガラス窓から見物人に手を振った。
「うぉ~!! 姫様が手を振ってくださったぞ!!」
「え、私に振ってくださったのよ!」
民衆が喜んでくれるのが、エカーリアもうれしい。
「エレミアでもエカーリア様は人気ですわ!」
リラは得意げだ。
だが、問題が起きたのはエレミアに入って2日目の午後のことだった。
突然、行列の前のほうから声が上がる。
「うお~!!」
「さ、下がれ~!!」
男たちが大声で叫び、女たちの悲鳴が上がる。
鳥たちがギャーッと鳴いて一斉に飛び立つ。
ドド~ン……!!!
バサバサバサ!!
大きな音がして、地震のような低い地鳴りがした。
「な、何事?!」
フィルベラとエカーリアは互いに抱きしめ合う。
林にはさまれた街道で、大木が一本倒れてきて、道を塞いだのだ。
幸い、馬車には当たらなかったが、長い行列が分断されてしまった。
クレストンと部下たちは、その場所に向かい、何が起きたのかを確かめる。
「むむむ……。これはかなりの大木だな……」
「根元から抜けています。2、3日前の大雨で地面が緩んだようです。ここはもともと地面が緩い地域ですので」
「仕方がない。いったん休憩だ。我らはこの木をどけるぞ」
「はっ」
エカーリアの馬車にもその連絡が行く。
クレストンはこの大木をどけるために、兵にロープをいくつか持ってこさせ、木を馬に括り付ける準備をしていた。
すると、左の丘からたくさんの男たちの声が聞こえ、走り寄ってくる音がする。
「うお~!!」
「どけどけ~!!」
「やっちまえ~!!」
「俺が先だ~!!」
歓声を上げて丘を駆け下りる音だ。
「な、なんだ?!」
クレストンは頭を上げて周囲を見る。
「盗賊か?!」
護衛兵が飛び出す。
「第一隊、前へ!」
号令がかかり、槍兵がエカーリアの馬車を囲んだ。
それぞれの馬車からも護衛兵が出て、剣を抜いて周囲を警戒する。
「な、なんですの?!」
リラが叫ぶ。
「はっ、見てまいります!」
馬車にいた護衛騎士が少し窓を開け、様子を見る。
丘からなだれ込むように降りてきたのは、盗賊……ではなく、樵たちだ。
「ブリアのお姫様だ!」
「おお~、花嫁行列だ!!」
何人かの髭もじゃの男たちが馬車の前に集まってくる。
「お前たち、何者だ!」
クレストンは叫ぶが、髭もじゃの男たちが持っているものは剣でもナイフでもなく、背中に斧、腰にノコギリだった。
「俺たちゃ、樵だ。この近くの林で競技会に出るための訓練をしていたところだ。
この木をどけるんだろ? 俺たちに任せな!」
クレストンは目を見開いて、「なに?!」と驚く。
「へへっ! 俺たちの腕、見せてやんよ! 目ん玉見開いて、そこで見てな!」
男は鼻の下を指でこすり上げて、得意げに言う。
ちょうどいい試し切りの木をみつけて、大喜びだ。
「あ、ああ……」
クレストンはどうやら本物の樵だと理解し、腕を上げて兵士たちに戦闘態勢を解かせ、整列させる。
「やろうども! さあ、並べ!」
「おう!!!」
7人の髭もじゃの樵が大木に沿って並び、背中から斧を出す。
石畳に斧がぶつからないように木切れを噛ませる。
そして、大将らしき男が、腕を高く揚げ、「よ~い、はじめ!!」と腕を素早く下ろして合図をすると、一斉にものすごい勢いで斧を振り下ろし始めた。
カーン……。
カーン……。
カーン……。
「な、なんと……」
そのすさまじいスピードと力強さに、クレストンも部下たちも、唖然として見ている。
「ワハハハ!! 今年の優勝は俺たちだ!!」
男たちはあっという間に、大木を分断し、それから街道の隅によけた。
「さあ、花嫁さん、通ってくんな!」
樵たちは一列に並ぶ。みんな、楽しそうに大笑いだ。
「やっぱ、俺が一番だったな~!」
「馬鹿言え! 俺だったろ?!」
と一番争いを始めた。
「ああ。よくやってくれた。感謝する」
クレストンが樵たちに礼を言う。
「いいってことよ。花嫁さんによろしくな!」
そう言って、楽しそうに笑う。
それを少し離れたところに停めてある馬車で見ていたエカーリアは、護衛に手を預けて馬車を降りる。
「エカーリア様?!」
リラが驚愕する。フィルベラも心配顔だ。
「大丈夫よ、リラ」
エカーリアは馬車を降りると、護衛騎士に手を引かれ、ゆっくりと樵たちの前に進み出た。
花嫁が馬車から出てきたのを見て、樵たちは馬鹿笑いをパタッと止めて、あんぐりと口を開けたまま止まった。
エカーリアは樵たちの前に停まると、優雅に一礼する。
「エレミアの樵の皆さま。難儀をお助けいただき、ありがとうございます」
「は、は、は……い……」
髭もじゃの男たちは皆、ぼうっと顔をあからめて、斧を置くと石畳の上に座り、「はは~!」と深くお辞儀した。
見たこともない豪華な衣装の美しいエカーリアは、まるで天女が舞い降りてきたように感じたのだ。
それを見てにっこりして、「競技会、頑張ってくださいませね」と言った。
そして、エカーリアは馬車に戻る。
行列はまた進んでいった。
「み、見たか……。ブリアのお姫様を……」
「ああ、……見た。この世のものじゃねえくれえきれいだった……」
「このまま、目に焼き付けておきてぇ……」
「天女を見たんだ……。俺たちゃ、絶対優勝だな……」
樵たちは座り込んだまま、余韻にふけっていた。
「エカーリア様。あのようなこと……。下賤な男たちにお辞儀をなさるなど……」
リラはエカーリアにお小言を言いたいようだ。
「いいえ、リラ」
エカーリアはきっぱりと言う。
「下賤な者ではないわ。あのかたがたは、ミナさんが作り上げたコブルーの競技会に出る勇者たちだわ。その方々に助けていただいたのよ」
(そして、その競技会で作ったお金でわたくしを嫁がせてくれたの。そこでも助けられた……)
「は、はあ……」
リラはその言葉にきょとんとする。
フィルベラはエカーリアの誇らしげな横顔を見て、心が熱くなる。
(お兄様。ミナさん。……わたくしはもう臆病な女の子ではございません。
公爵家の……ゼビルス様の妻なのです)
エカーリアは心の中でふたりに宣言した。
胸の中にはふたりの笑顔が浮かんでいた。
ーー花嫁行列の馬車は力強く動き出した。
王国アラゴンキアの次元を1段階上げる盗賊掃討戦は終わり、次は第四部第三章となります。
皆様がお忘れのあの人が出てきます……。
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
ミナはブリア領主のため、妹エカーリアが王弟ラッスル公レオストの長男ゼビルスと結婚できるよう、資金づくりを計画する。その際に、大掛かりな盗賊掃討戦、そして詐欺集団掃討戦を提案した。一方で、王国初めてとなる債券販売を始め、コブルー港拡張工事の金を捻出する。一連の討伐が終わり、商人たちは大歓喜し、王都で記念の大市を開催し、国王が新時代のアラゴンキアを宣言した。そして、エカーリアがいよいよラッスル家に嫁ぐ日が来た。
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別小説、完結しています。よかったら、訪問してください!
クリスタル・ハート・カフェ
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…
カイル … ミナの夫。バンリオル商会の諜報工作員、25歳
アンドリオン … ミナの上司。27歳
エカーリア … アンドリオンの妹。王弟レオストの長男と結婚する
フィルベラ … アンドリオンの母
イソールズ … ブリア領主補佐官
競技会 … ミナがエカーリアの結婚資金作りのために企画したイベント




