主演女優サビリヤの悩みをミナは解決できるのか?
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。
初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!
サビリヤは近くで見ると、さらにすごい美人だった。
「こちらがブリア官僚のミナさんね。よくお名前をお聞きするわ。まさか、カイルの奥様とはつい最近まで知りませんでしたけど……。サビリヤでございます。お見知りおきを」
膝をちょっとまげて、簡単な礼をする。
ミナはハッと我に返って挨拶をする。
「こちらこそ! こんなにも美しい方にお声をかけていただき、光栄ですわ。すばらしい舞台でした。感動いたしました!」
こんな美人に話しかけられると、女の自分でさえ上がってしまう。
単純に嬉しそうにするミナに、サビリヤは好感を持った。高名な官僚なのに全然お高くないのだ。
ミナは混乱していて、よく頭が回らなかった。
全然劇場に縁がないと思っていたカイルが、実は劇場の人とこんなにも親しいとは……。
演技を学んでいたというのもあるが、逆に、自分が文化に無知すぎた。カイルとのあまりの差にショックを受けた。
「ね、ミナさん。ちょっとお話したいのだけど……」
「え?」
「サビリヤ、今日はもう遅いから、別の日に相談しては?」
クランスが止める。
「え? ええ。そうね……」
ミナは「なんだろう?」と思いつつ、何か相談事があるのだと気づいた。
「ええ。わたくしたち、もうしばらく王都に滞在いたしますわ。よかったら、明日か明後日の午後にでも宿にお越しいただければ……」
とミナは言う。
「まあ、ほんとに?!」
サビリヤはミナの言葉を聞いて、クランスに嬉しそうな顔を向ける。
「では、明日の午後におじゃまさせていただきます! よろしいでしょうか」
「ええ。ではお待ちしておりますわ」
「ありがとうございます! ……じゃね、カイル!」
手を振りながら、クランスに背中を押されてサビリヤは楽屋に戻っていった。
「ああ」
カイルも手を振って見送った。
宿はすでに知っているのだな、とすると、カイルが伝えたのだろう……とミナは思う。
(なんの相談かしら……)
ミナは首を傾げた。
その後、ゾーイが馬車の用意ができたと伝えに来たので、みんなで馬車に乗って帰る。
馬車の中でカイルがずっと得意そうな顔をするのが、ミナはちょっと憎らしかった。
「なんだ? ミナ。何か言いたいことでも?」
カイルは、目を逆三角にしているミナがおもしろくてたまらない様子だ。
「うん……。あんな知り合いがいるなんて、全然話してくれなかった」
ムスッとして答える。
「話す機会、なかっただろ?」
「うん……」
「それに、ミナは演劇なんか興味なさそうだったし」
「ま、そうね。……でも……」
そう言って、「はぁ」とため息をつく。
「なんだ?」
カイルがため息の意味を聞く。
「少し反省した」
「なにを?」
「仕事ばっかりして、他のことに興味がなさすぎだって……」
本当は、カイルとの文化の差にショックを受けたのだ。
ミナはまだ、カイルの仕事を戦士としてしか考えていなかった。
(実際には、すごく幅広い仕事をしているんだろうな。だから、いろいろな知識が必要なんだ……)
宿では小説を読んでいたし。
ミナが読む本と言えば社会学系の本ばかりだ。
横目で隣に座るカイルを見る。
「いい反省だ」
そう言って、カイルは満足したように笑った。
「世間を知るためには文化も味わう。じゃないと、商売もうまくいかないぞ?」
「いいこと言うのね」
ミナは目を見開いた。その通りだと思った。
「旦那様が言っていた」
ミナはハッとして首を振り向けて、カイルを見る。
「なんだ。ボリックさんの受け売り?」
「ミナを少し楽しませてやれってさ」
「う、うん……」
馬車に座り直し、殊勝な顔で、しばらくその意味を味わった。
(何が「王国を変えるほどの女」よ。私、全然だめじゃない……。
はあ……自分の無知を思い知らされた……)
だが、しばらくすると別の思いが押し寄せる。
(ううん。そうじゃない。私がショックなのは……)
ミナはちょっと認めたくなかったのだが……。
(文化どころか、夫についても何も知らなかったこと……)
心の中にため息があふれ、自己嫌悪が襲ってくる。
力が抜けて、カイルの腕にしがみついて目を閉じた。
「すみませんでした……」
「なに謝ってるんだ?」
ミナの唐突な謝罪にカイルが笑う。
「謝りたい気分なんです……」
「アハハ」
(はい。笑ってください……。正直、完全に妻失格でした……)
反省でかなり落ち込むミナだった。
第182話 大市のイベント企画
翌日の午後早くに、サビリヤは男性1人を連れて、ミナとカイルが泊まる宿に現れた。
顔を隠していた帽子とベールを部屋で脱ぐ。
「ご紹介します。こちらはリリアガナ劇場の支配人エフランです」
「エフランです。ご高名なミナさんにお会いできるとは光栄です」
40代のエフランは、もみあげが立派な紳士だ。
「ま……(ご高名って……)」
ミナは少し顔を赤らめた。
「ミナでございます。何かご相談があるとお伺いしましたが…」
「ええ……」
カイルがふたりに椅子を勧め、みんなテーブルについた。
フリーゼがお茶を用意してくれる。
「実は、劇場の経営についてのご相談なのでございます」
エフランは少し戸惑いながらミナの顔を見る。
「このようなことをミナさんにご相談して良いものか、わからないのですが……」
「カイルが、『相談してみたら?』って言ってくれたんです」
サビリヤがちらりとカイルを見て、ちょっと肩をすくめる。
(あ、招待券をくれたのはそういうことか)
ミナは納得する。
「まあ! もちろんですわ。お役に立てることでしたら……」
ミナがそう言うと、カイルがミナにニッコリした。
「実は、うちの劇場は王都ではとても権威があるものでして、王立劇場よりも歴史は古いのでございます。そのせいか、お客様がほとんど貴族で、しかもいつも同じ顔触れなのでございます」
エフランが話し始める。
「まあ……」
ミナは「さもありなん」という思いだ。劇場の切符は庶民にとっては結構高い。
「で、いつも同じ顔触れとなりますと、同じ演目ではどうしても退屈されてしまいます。こうして、私どもは常に新しい演目を用意せねばならず、これは大変な負担でございます。衣装や舞台装置も馬鹿になりません。それで、赤字になってしまうのでございます」
「なるほど……」
「私どもの願いとしましては、もっといろいろな方に来ていただきたいのですよ。とはいえ、貴族の方と庶民が混ざるというのは難しいので、夜は今まで通り貴族向け、そして昼は庶民というふうにしてみましたが、残念ながら庶民の客足は悪く……。お代は半額にしたのですが……」
「なるほど……」
ミナは少し考える。
「庶民の足を運ばせることはできると思います」
「ほ、ほんとですか?」
「ええ。でも、貴族の顔触れを変えるというほうが難しいですね……。貴族は数が限られますので」
「ミナ、富裕層でもいいんだぞ?」
カイルが口をはさむ。
「あ、そうね。富裕層ならきっとまだまだ人口はいるのね……」
「ふ~む」とミナはしばらく考える。
「ということは、富裕層にも演劇のおもしろさが十分に伝わっていないということですね?」
「は、はい。興味のない方は一度もおいでになりませんので」
「なるほど……」
ミナがそうだったのだから、さもありなん、だ。
こんなに何度も王都に来ていても、カイルに誘われなかったら一度も来なかっただろう。
「あの……。宣伝はどのようにしていらっしゃるのでしょうか?」
「はい。主に劇場壁の看板でございます」
「それだけ?」
「はい。あとは、お客様が誰かにお話しくださるとか。新しい演目の初日には、道化師に看板を持って街を歩かせております」
「わかりました」
ミナは思った。
(これは、トレーラーがないからなのだわ!)
映画などを宣伝するときには、内容の一部を見せる。それがトレーラーだ。それがないと、なかなか足を運ばない。
「今度、王都で大市がございますの。ご存じですか?」
ミナは突然大市の話を始める。
「え? いいえ」
エフランとサビリヤは顔を見合わせ、首を横に振る。
「今、計画中ですが、8月ごろには開催されると思います。その大市で、劇の内容の宣伝をなさいませんか?」
「劇の内容を? 劇場……ではなくて?」
「ええ。たとえば……昨日の演目でしたら、妖精の女王が人間の王子を木陰から見て、恋焦がれる、というシーンがございますよね。ほんの7分くらいのシーンを大市で演じるのでございます」
「えっ、市で?!」
また、エフランとサビリヤは目を見開いて、顔を見合わせる。
「ええ。ほんの7分だけ見せると、どう感じると思いますか?」
「……」
ふたりは黙って考えている。
「続きが見たくなる……」
カイルがニマリと笑って言う。
「そのとおりですわ。今まで一度も演劇を見たことのない人ほど、続きが見たいと思いますわ。そして、『続きは劇場でご覧ください』と言ってください。そして、その場で切符を売るのです。当日券よりも2割ほど安くして。そこで切符を買った人は、絶対に見に来ますわ」
「なるほど……」
「それで来てくれるかしら?」
「大市は朝から夕方までですので、5回くらいは公演できるでしょう。同じシーンで良いのです。それだけで、かなりの切符が売れるでしょう」
「で、でも……」
サビリヤは不安そうだ。
「野外でやるということですよね? うまく行くかしら? 声が通るかしら? 周りはうるさくないかしら? もし、雨が降ったら?」
エフランはしばらく考えていたが、首を縦に振る。
「サビリヤ、やってみよう。中央広場に小さな舞台をつくり、衣装を着て、一人ずつ台に上がって、セリフを言うんだ。太鼓で合図して、観客を静かにさせる。それからチェロを弾く。……工夫はできる。一度やってみよう」
「ええ。もしこれがうまく行けば、月に一度くらい、広場で寸劇を演じるのですわ。それは短くて良いのです。話の続きが気になる、と思わせれば良いでしょう。なにより、華やかな役者の皆さんを見れば、劇場に行きたくなりますわ」
「わかりました! やってみます!」
「ええ。でしたら、わたくしのほうから、大市の委員会にその演目を入れるように伝えます。そしたら、ある程度の舞台や背景などを用意してくれるでしょう。これは大市の客寄せになりますから、やってくれますわ」
ミナは明るく言った。
(うん。いいイベントになりそう……)
ふたりの客は、満足して帰っていく。
扉で見送って、部屋に戻ろうとすると、カイルがミナの肩を引き寄せる。
「ありがとう、ミナ」
ミナはその胸に顔をうずめる。
「カイル。私にもっと視野を広くしろって教えてくれたのでしょ。ありがと……」
夫がいるというのはいいものだ、とミナは実感した。
ふたりでいると、時々価値観をシャッフルすることになる。そして、狭まってしまった視野を広げられるのだ。
(もう少し、文化を楽しもう……)
王都に滞在中、ミナはカイルとともに、王立劇場の四重奏の演奏会を訪れたり、小さな競技会を見に行ったり、郊外の湖の貴族向けレストランに行ったり、いくつかの小説の本を手に入れたりなど、文化にいそしむことにした。
いつも旅に同行してくれるフリーゼにも、それは良い褒美となったのだった。
ミナ、仕事ばかりして夫に関心が少なかったことに反省しきり……。
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
ミナはブリア領主のため、妹エカーリアが王弟レオストの長男ゼビルスと結婚できるよう、資金づくりを計画する。その際に、大掛かりな盗賊掃討戦、そして詐欺集団掃討戦を提案した。一方で、王国初めてとなる債券販売を始め、コブルー港拡張工事の金を捻出する。一連の討伐が終わり、商人たちは大歓喜し、王都で記念の大市を開催することになった。そこでミナは新たな産業振興策を考えてレオストに提案する。その後、カイルと訪れた劇場で主演女優がカイルに挨拶にきた。
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別小説、完結しています。よかったら、訪問してください!
クリスタル・ハート・カフェ
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…
カイル … ミナの夫。バンリオル商会の諜報工作員、25歳
サビリヤ … リリアガナ劇場の主演女優
クランス … 演出家でカイルの師匠
フリーゼ … ブリア領主から派遣されているミナの侍女 50代
ゾーイ … ブリア領主から派遣されているミナの護衛騎士
ボリック・バンリオル カイルの雇い主でミナの支援者の大商会会長




