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カイルと劇場へ。……すると美人女優がカイルに……?!

このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。


初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!

 レオストは女性のエスコートは慣れているようで、いつもは大股で歩くのだが、女性の手を引く時には、女性の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれる。


 奥の私室に入っていくと、レオストの正妻シャンドラが待っていた。

 いつもながら、つややかな織物の美しい衣装だ。ミナはひそかにそれを観察する。

 エカーリアの衣装もこのグレードが必要だということだ。


「ミナ! よく来たわね! さあ、ここに座って」

 と、ミナを椅子に座らせる。


 シャンドラは壁際のコンソールテーブルの引き出しから、箱を取り出す。

 そして、箱を開けて、中身をミナに見せた。


「ほら、ごらんなさい。これは、この前のイヤリングに合わせて作った、首飾りよ」

「えっ?!」


 それは、イヤリングと同じ黄色い丸い石3つを中心にはめ込んだ首飾りだ。

「あのイヤリングとセットにできるでしょう?」

 シャンドラは上機嫌でミナに首飾りをつけてくれる。


「あ、あの……」

 ミナが戸惑っていると、立ったまま見ているレオストが口を出す。

「ミナ、もらっておくがよい。シャンドラは大喜びなのだ」

 と言って笑った。


「あ、あの……。ですが、すでに金貨10枚もいただいております……」

 ミナは遠慮がちに言う。


「あれは、結婚式の費用がなくなった分であろう。それに、あれはアンドリオンに渡すのであろう? これは別だ」

 レオストはフフフと笑う。


「ええ! ミナ! あなたのおかげで、我が公爵家は、今、王国で一番の功労者だと呼ばれているわ!」

 シャンドラはミナに首飾りをかけた後、一歩引いて立ち、首飾りを満足げに見る。


「盗賊討伐も、詐欺師討伐も、サロンではその話で持ち切りよ。特に詐欺師たちには痛い目に遭っている貴族は多いの。

 どちらも殿下の配下の手柄。だから、貴族たちは皆、私たちに称賛の言葉を言いに来るのよ。なんて言ったと思う?」

 シャンドラは夢見るように指を組んでうっとりする。


「『こんな素晴らしいことはアラゴンキア始まって以来だ』と。『殿下のお名前はアラゴンキアの歴史に残るでしょう』と! そう! 殿下のお名前はアラゴンキアを別次元に押し上げた功績で、歴史に残るのよ!」


 その言葉に興奮を抑えきれない様子で、シャンドラは嬉しそうにレオストを見る。

「こんなに誇らしいことがあって?」

 レオストもシャンドラにやさしく微笑みを返し、愛情深いしぐさで肩を抱く。

「ああ。そなたにも苦労を掛けたな」


 レオストが起こした王太子アルースト暗殺未遂事件でシャンドラもゼビルスも処刑になるかもしれなかったのだ。それはアンドリオンとフィルベラも同じだ。

 レオストの言い分が正しいとシャンドラは信じていたが、レオストが許された後も、社交界でそれを言うことはできなかった。


 その肩身の狭い思いが消えたどころか、逆に称賛されるようになった。自分が信じていたレオストが復権し、今や称賛の対象だ。これはすべてミナのおかげなのだ。感謝せずにおかれようか。

 シャンドラは今や心の底から安堵し、改めてレオストに敬愛の念を深めた。それはレオストにとっても嬉しいことだ。


「まあ! そんなにお喜びいただけたのですね! それは嬉しいです!」

「ああ。ミナ。遠慮なくもらっておくがよいぞ」

「は、はい!」


 ミナは深々とお辞儀をする。

「いつもお心遣いいただき、ありがとうございます。心より御礼申し上げます」



 銀月宮を辞して宿に戻る馬車の中で、ミナはシャンドラとレオストの嬉しそうな顔を思い出す。


 ミナにとっては、盗賊や詐欺師が横行する国内の事情が許せなかった。

 コブルーを自由港にするそもそもの目的は、国防だ。隣国の侵略を阻止しようとする国が、国内の脅威を野放しにしておいては、どうやって外敵を退けられようか。


 国内を取り締まることは国の基本なのだ。それを当然のこととして提案しただけだったのだが、それがあれだけレオストに喜ばれる結果となった。

 レオストの評価が上がれば、エカーリアの立場も上がるし、アンドリオンの平安にもつながる。そして、いよいよ国防に力を入れられるのだ。


(よかった……)

 カイルを長い間危険な任務に就かせてしまったが、それだけの成果はあったのだ。

 ミナは、レオストとカイルと、みんなでやり遂げたこの成果に、心の底から満足し、大きく安堵の息を吐いた。



第181話 カイルの教養が意外過ぎた



 王城から宿に戻ると、カイルが部屋で宿から借りた小説を読みながら待っていた。

 帰ってきたミナを抱きしめながら、首飾りに驚く。


「すばらしいな。殿下からいただいたのか?」

「うん。なんだか急にいろいろいただくようになっちゃったわ」

 その言い方が子供っぽくて、カイルはクスッと笑う。

「これは……ドルドーで取れるメリ石だな。イヤリングと同じ石だ」


「え、カイル、わかるの?」

「ああ。ちゃんと学んでいる」

「そうなんだ。バンリオルで?」

「ああ。諜報員の訓練所で」


「ふうん……。いろいろ学ぶのね」

「宝石は高価だから、詐欺にも使われるだろ?」

「なるほど……」


(私は石の名前なんか知らなかった……)


 カイルの教養に驚いた。

 まあ、自分がかなり無知なことは知っているのだが。

 もう3年もバンリオルの訓練所でさまざまなことを学んでいれば、ミナよりカイルははるかに知識があるのだろう。


 それから、カイルはミナから体を離して、微笑む。

「ミナ。今夜は劇場に出掛けよう。切符はもうある。4人分な」

 カイルが珍しく、王都の劇場に行こうと言う。


「え? カイル。劇に興味があるの?」

「ああ。もちろん」


 そう言って、宿のクロゼットを開いて、ブリアから持ってきたカイルの高級な服を見せる。そこにはミナの舞踏会用のドレスもある。


「それに、その首飾り。つけて出かけるいい機会だろ?」

「そうね」

 あのイヤリングも持ってきている。


 ミナは今まで、そういう遊びのような楽しみをしたことがなかった。

(王都の大市(おおいち)を企画しようとしているのに、全然文化的なものを知らないっていうのはまずい……)


 そう思うと、すごく行きたくなった。

「うん。すごく楽しみ!」


 こうして、ゾーイとフリーゼの4人で王都の劇場に出かける。フリーゼもひそかに喜んでくれた。観劇は彼女も初めてなのだ。


 王都には2つの劇場がある。1つは王立劇場で、こちらは音楽会が多い。

 もう1つは民間の劇場で、こちらは演劇が多い。

 カイルが連れてきたのは、民間のリリアガナ劇場だ。


 最初に四重奏の短い演奏があり、そのあとに演劇だ。お話は妖精の女王の悲恋の物語だ。

 女優がとても美しく、衣装も華やかだ。


(うわ~、きれいな人……。エカーリア様と同じタイプだな……)

 フワフワした金髪、キラキラした青い目。妖精の女王にふさわしい、ひらひらした衣装。

(う~ん……。夢の中から出てきた人みたい……)


 劇にはときどき泣かせ場があり、ミナは思わず涙を浮かべる。

 歌がところどころに挿入され、女優が美しい声で歌う。

(うわ……きれいな声……)



「うん、すごくよかった……」

 終わった後、カイルに満足そうに微笑みながら、彼に手を預けて、劇場の席を立つ。

(映画を見た後みたい。こんな気分、何年ぶりかな……)

 フリーゼも満足したようで、夢見心地だ。


「このお話は150年前の小説が題材なんだ」

「そ、そうなの?! カイル、そのお話、読んだことあるの?」

「ああ。あるぞ」


(この世界ではみんな知っているお話なのかな? それとも……)

 ミナはそういうことがまったくわからない。

「有名な小説なの?」

「貴族の間ではな。作者は貴族。ウルス男爵だ」


(そうか……。私には貴族の常識的な文化の知識がまったくない……)

 自分の無知に気づいて「はぁ~」とため息をつく。


 彼は諜報員なので、貴族のフリをすることもある。だから、貴族の常識を知らなければならないのだ。

(イギリス貴族がシェークスピアを知らないとしたら、それはニセ貴族っていうのと同じか……)


 ロビーに出て、ゾーイが馬車を回すために出ていき、3人で待っていたところ、カイルが男の声で呼び止められた。


「カイル!」


(だ、だれ?!)

 ミナはびっくりだ。ここでカイルの知り合いがいるなんて、思いもしなかった。

「師匠」

 カイルが相手をそう呼び、手を上げた。


(えっ、師匠?)

 ミナが困惑していると、カイルが師匠と呼ぶその男性は、50代でなかなかしぶい感じだ。スタイルも良く、首にスカーフを巻いていて、元役者ではないかと思える、洗練された雰囲気がある。


 彼はミナの前で優雅に一礼した。

「これは、ミナ・クロエ・ヨードンさんですね。演出家のクランスです。初めまして」

「は、はい。初めまして。クランスさん」


 そして、さっと横を向いて、カイルを見る。

(なんで師匠なの?!)と聞きたいのだ。


「ミナ。こちらは私の演技指導の先生だよ。だから、師匠と呼ばせていただいている」

 急にカイルが貴族風になって、言葉遣いを変えた。その顔は「フフン」と得意げだ。

 ミナをわざと驚かせようとしたのがわかって、ミナは「やられた!」と思った。


「演技の師匠?!」

「ええ。もう3年くらい指導させていただいております」

 クランスはミナの手を取って、口づけをした。

「えっ、そうなのですか?」


「昨年はほんの2、3回だったがな」

 クランスはカイルを見て微笑む。


 ミナは全然知らなかった。

 バンリオルの諜報員として「役者並みに」演技指導を受けていると聞いてはいたが、まさか本物の演出家に指導を受けているとは思わなかったのだ。


 だが、バンリオルがカイルにつけてくれる教師はダンスもマナーも、いつも一流だ。だから、本物の演出家がカイルの師匠というのもありえることだった。


 もともと農民で冒険者の彼がすんなり貴族社会に溶け込めているのも、演技指導のおかげだ。ふるまいや言葉遣いはもちろん、表情の作り方、間の取り方なども教わる。


「今回の切符をくださったのだ」とカイルが言った。

 ミナが驚いて目をぱちくりさせているのを面白がっている。


「ま、まあ! ご招待いただいたのですね! ありがとうございます。何も存じませんで、失礼いたしました」

 ドレスの裾を持って、ちょこんと頭を下げる。


 クランスはフフッと笑う。

「バンリオル様からもミナさんの話をよくお聞きしています。王国を変えるほどの力をお持ちだとか……」

「まあ……。いえ、それはさすがに大げさですわ……」

 ちょっと照れる。


「ああ。サビリヤがやってきます。……主演女優ですよ」

 頭に薄いベールをかけた優雅な女性が近づいてくる。


「やあ、サビリヤ」

 カイルがよく知っている風に挨拶をする。

「カイル」

 サビリヤはカイルのほほにキスをする。……といっても口紅がつかないように、音だけだ。


 ミナの知らない世界のカイルが突然現れたように感じて、それに戸惑う。


ミナの文化度が試される。バンリオルで教育を受けているカイルのほうがミナよりも文化的に上とは……。


いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。

この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。

---今までのあらすじ---

ミナはブリア領主のため、妹エカーリアが王弟レオストの長男ゼビルスと結婚できるよう、資金づくりを計画する。その際に、大掛かりな盗賊掃討戦、そして詐欺集団掃討戦を提案した。一方で、王国初めてとなる債券販売を始め、コブルー港拡張工事の金を捻出する。一連の討伐が終わり、商人たちは大歓喜し、王都で記念の大市を開催することになった。そこでミナは新たな産業振興策を考えてレオストに提案する。

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別小説、完結しています。よかったら、訪問してください!

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用語集

ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…

カイル … ミナの夫。バンリオル商会の諜報工作員、25歳

王弟レオスト … ミナの支援者で、エカーリアの婚約者ゼビルスの父

エカーリア … ミナの上司ブリア領主の妹。レオストの長男に嫁ぐ

アンドリオン … ブリア領主でミナの上司

フィルベラ … アンドリオンの母

バンリオル … 王国一の商会でミナの支援者。国防も担っている

フリーゼ … ブリア領主から派遣されているミナの侍女 50代

ゾーイ … ブリア領主から派遣されているミナの護衛騎士


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