ミナ、次なる国全体の産業振興策をレオストに提案
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。
初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!
第180話 王家のブランド戦略
ボリック・バンリオルは、カイルを先にタンブリーに帰した3日後、自分も王都フリストルからタンブリーに戻ってきた。
4月20日。
バンリオルはブリア城のミナの執務室にやってくる。
カイルは1か月の休暇をもらっているので、バンリオルの護衛はタンブリー担当のミゼロだ。
「まあ。ボリックさん。お久しぶり……」
ボリックはミナの前に進み出ると、跪く。
「ミナさん! あなたはまさにエビーナの遣い。我々商人たちが、どれだけ感謝しておりますことか!」
まるで王子が姫に跪くように、畏まって挨拶をする。
「まあ、どうなさったのですか?」
ミナはいつもと違う様子に驚く。
「ミナさんに、ぜひ受け取っていただきたい贈り物がございます。これは五大商会の代表たち5人からの贈り物でございます」
そう言って、バンリオルはミゼロに箱を持ってこさせる。
「こちらをどうぞお受け取りくださいませ」
そう言って、バンリオルは木箱を開けた。
そこには、豪華な金細工の髪飾りが入っていた。
「まあ!」
目もくらむばかり、とはこのことだ。
その金細工の髪飾りには繊細な透かし彫りが彫られており、それだけでキラキラと輝く。
「ミナさんもこれからはもっと、華やかな場所にお出になる機会が増えるでしょう。ですから、何にでも合わせやすい金の髪飾りをお持ちしました」
「えっ?!」
そして、またバンリオルは右手を胸に当てて、一礼する。
「ミナさんのおかげで盗賊や詐欺師が一掃され、私たちの頭の中から暗雲が消えたのでございます。そのお礼をしたいと皆で考え、これをお贈りさせていただくことになりました」
「ま、まあ!」
ミナはさっきから驚愕だ。こんな高価なものをもらっていいのだろうか……?
「こ、こんなものをいただくなんて……。思ってもおらず……」
(わ、わいろにならないか……)と心配するくらいだ。
「ぜひ、受け取ってください! 私がお渡しすると約束しておりますので、受け取っていただかないと、私が皆に怒られます」
バンリオルが頭を下げる。
「は、はい。ありがとうございます。では、ありがたく、いただかせていただきます」
ミナはやっと笑顔で答えた。
そして、ふたりでソファに座る。
「本当に。すばらしいことですよ、ミナさん。私たちは今初めて気づいたのです。
今までは、盗賊がいて当たり前、詐欺師がいて当たり前というような思いが根底にあったのです。だから、対処するのも当たり前。
……ですが、今こうして、盗賊や詐欺師が一掃されますと、それがどんなに重々しい暗雲だったかを思い知ったのです」
バンリオルは今の心境がどれだけ晴れやかなものかを語る。
最初から一度もなくなったことがない暗雲は、その存在に気づくことすらできないのだ。
「皆、『アラゴンキア、万歳!』と思わず唱和しております。そして、この喜びを民衆にも伝えたくて、フリストルで大市を開催しようという運びになりました」
「まあ。それは素敵なアイデアですね!」
「ええ。平たく言えば、大安売りでございます。ですから、ぜひ、ミナさんにまた、いろいろなヒントをいただければと思いまして……」
ミナは先日、ブリアブランドの商品を「ラッスル公爵家・ブリア侯爵家結婚記念品」として売り出そうとしたばかりだ。その戦略をちょうど練っていたところだ。
各地で売り出そうと思ってはいるが、王都で大市を開催するならば、そこで発表したほうが宣伝になる。
「それは楽しそうな企画ですね。ぜひ、参加させてくださいませ!」
(これは、うまくいくと、レオスト殿下を巻き込んで……)
ミナの頭がまた高速で回り始めた。
* * *
数日後、ミナはカイルとともに王都に向かう。カイルは休暇中だから、単に夫として同行するのだ。それにいつもと同じくフリーゼとゾーイ。
王都までの街道は8割が完成している。これはかなり快適で、街道沿いには新しい宿も開業している。
途中、新しくできたエレミア領内の宿に泊まった。
なかなか良い宿ではあるが、料理がイマイチだ。
それから、デラー領の宿に泊まる。ここはなかなか素晴らしい。
街道沿いの新しい宿をチェックするのはミナにとっては仕事の内なのである。
帰りには別の宿に泊まる予定だ。
(これは、新しい宿の評価基準を作らないとね……)
最近のミナの頭の中は、認証制度でいっぱいだ。
認証ビジネスは業界が成熟すると必要となる制度なのだ。
(ブリアの宿も負けていられないわ……!)
アンドリオンには「商人に任せろ」と言われているのに、つい闘争心が出てしまう。
今回の王都行きは、五大商会のバンリオル以外の4商会に贈り物のお礼を言うことが含まれているが、一番大きな目的は、レオストに会い、新しい商売のアイデアに協力を求めることだ。
夫と一緒なので、出張所の宿ではなく王都の高級宿に泊まり、半分新婚旅行気分だ。
4つの大商会への挨拶を済ませると、ミナは王城内の銀月宮へと向かった。
「レオスト殿下。お時間をいただき、ありがとうございます」
「うむ。ミナ。よく来た。私もそなたに会いたいと思っておったぞ」
「まあ、さようでございましたか?」
「まあ、そちらの用から申すがよい」
「はい。まずはこちらをご覧くださいませ」
フリーゼに持たせた包みを広げる。
それは、ブリアからラッスル領の貴族に贈る下賜品だ。
「この度のエカーリア様のお輿入れの下賜品として、ラッスル領の貴族の皆さまにお配りする品でございます」
「ほう?」
レオストは手に取ってみる。
「こちらは螺鈿の箱に入れた香辛料の瓶のセット。こちらは、化粧木箱に入れた石鹸。どちらも、ブリアの特産品でございます。まずは殿下にお受け取りいただきたく存じます」
「ほう……」
螺鈿の箱をよく眺める。六角形の形状がとても美しい。
そして、香辛料を一瓶取り出し、一口なめてみる。
「これはなかなかうまいな。酸味のある果物の香りがする。肉料理に合いそうだ」
次に、化粧木箱を手に取る。箱の縁には飾り模様の銀枠がはめ込んであり、ふたには花の浮き彫りがある。その中に入っている石鹸を手に取る。
「これは……。ピンク色なので果物かと思ったら石鹸なのか。女たちが喜びそうであるな」
「はい。ありがとうございます。ブリア侯が選定いたしまして、下賜品として選んだのはこちらでございますが、そのほかの商品の出来栄えも素晴らしいものでしたので、称号を与えることにいたしました」
「なに? 商品に称号?」
「はい。まだ仮の名前でございますが、『ラッスル公爵家・ブリア侯爵家結婚記念品』としております」
「ふむ。なるほど」
「そこで、殿下にご相談でございます。このような、各領地の特徴ある素材を使った、領地自慢となるような品を選定し、良質であるという認証を与えるという商いの仕方をご提案いたしたく存じます。
この認証を与える役は、高貴な方でなくてはなりません。ですので、これをぜひ、殿下にお願いしたく……」
「なに? それはどういうことだ? 私にはよくわからぬ。詳しく説明いたせ」
レオストは、そばに控える書記官を指でクイと呼ぶ。
そして、ミナの言葉をメモさせる。
「はい。たとえば、このように商人が工芸品をお持ちしたとします。すると、殿下はそれを査定し、確かに良質で、その領地の特産品と認められるものは認証を与えます。それを仮に『王弟認証』という名前にいたします。
そして、商人はその認証の印章を商品に付けることで、その商品の品質や技術、格の高さを客に示すことができるのでございます。
つまり、王弟の信頼というものが、商品の価値を高めます」
「ふむ。なるほど……」
レオストは頷く。
「で、認証を与えた側は、その商品の売り上げに関して、価格の10%を認証料として受け取る、という仕組みでございます」
「な、なに?!」
「そして、その認証料という利益は、殿下と領主、それに、その仕組みを運営する組織で分けます」
「な、なるほど……」
レオストは文官を見る。「理解したか?」という意味だ。文官は頷く。
「これはたいした額ではないかもしれません。
ですが、この目的は、工芸品をつくる職人と商人が一体となって、領地の産業を振興させることでございます。
良いものを作れば、王弟認証という名誉が得られる。これが職人の気持ちを高揚させ、良い商品を生み出す原動力となるでしょう」
「ふむ。なるほど……。それは一考の価値があるな」
「はい。で、ここからはできれば、というお話なのでございますが……。
五大商会は、この度の盗賊討伐と詐欺集団摘発に関して、大変喜んでいらっしゃいます。それで、この喜びを記念するために、大市を王都で開催したいとのことでございます」
「うむ。それは王都警備隊にも申請が来ておった」
「はい。その大市で、この認証品が展示販売できれば、この上ない機会であると存じます」
「なるほど……」
レオストは顎を人差し指と親指ではさみ、「ふうむ」と考え込んだ。
「ミナ、その認証は、王家のものが良いのだな?」
「はい。さようでございます」
「ミナ、その制度はこれからずっと続けるのであろう?」
「はい。長く続けられれば幸いでございます」
「ならは、王弟より国王、または王室の名がよかろう」
「はい?」
「なぜなら、国王はいつの時代も存在するが、王弟がずっと存在するかはわからぬ。だから、王室の名にしておくとよいであろう」
「なるほど! ごもっともでございます!」
「ふむ。この制度の意味を理解したぞ。さっそく、国王陛下に奏上し、裁可をいただくとしよう」
「は。ありがとうございます!」
「この件はしばらく待っておれ。……それよりもミナ、シャンドラが会いたがっておる。奥へ行くぞ」
さっとレオストは立ち上がり、ミナの手を取る。
「は、はい!」
ミナはカイルとふたりで、ウフフの新婚旅行……。これから王都で楽しみます。
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
ミナはブリア領主のため、妹エカーリアが王弟レオストの長男ゼビルスと結婚できるよう、資金づくりを計画する。その際に、大掛かりな盗賊掃討戦、そして詐欺集団掃討戦を提案した。一方で、億国初めてとなる債券販売を始め、コブルー港拡張工事の金を捻出する。一連の討伐が終わり、商人たちは大歓喜し、王都で記念の大市を開催することになった。そこでミナは新たな産業振興策を考えて……。
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別小説、完結しています。よかったら、訪問してください!
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…
カイル(レンダ) … ミナの夫。バンリオル商会工作員、25歳
王弟レオスト … ミナの支援者で、エカーリアの婚約者ゼビルスの父
シャンドラ … レオストの正妻
ボリックバンリオル … 王国一の商会でミナの支援者
フリーゼ … ブリア領主から派遣されているミナの侍女 50代
ゾーイ … ブリア領主から派遣されているミナの護衛騎士
アンドリオン … ブリア領主でミナの上司
シャンドラ … レオストの正妻




