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国中が歓喜する春、長い討伐戦のあとに帰ってきたミナの大切な人

このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。


初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!



第179話 すべてが歓喜する春


 デフール一味の私兵と、カラバル、ミダルガン、そしてカラバルの私兵を捕らえた警備隊は、総隊長チェスコブの下で、最終的な大捜査を行う。別動隊で動いていた部隊が、デフールの屋敷に乗り込んで一味を捕らえた。

 そこで偽造債券を押収する。


 そして、その供述から偽造した闇の摺師をたどり、闇の大物バードンにたどり着き、かなりの詐欺集団を一掃できた。


 バードンにはかなりの金が隠されており、それらも没収する。

 彼は見本市にエッカールをはじめ、たくさんの詐欺師を送り込んでおり、そこからも警備隊はバードンの情報を得ていた。バンリオルを襲ったのも、見本市で手下を奪われたバードンの報復で、実働はデフールの手下だ。


 今まで、バードンとデフールとの関係はわかっていなかったため、バードンの捕獲はかなり大きな功績となった。


 応酬した金から、騙されてニセ債券を買った3人にも、金が戻された。


 * * *


 後日。

 警備隊総隊長チェスコブから詐欺集団掃討作戦完了の報告を受け、王弟レオストは満足する。


「皆、よくやった! 素晴らしい働きであった。国王陛下からもお褒めの言葉があるであろう」

 昨年の王国軍を使った盗賊討伐も、王都警備隊を使った詐欺集団の討伐も、いずれもレオストの手柄となる。


 これで、王弟レオストは、かなりの名誉を回復したのだった。


(ふむ……。これはミナにまた褒美をやらねばな……)

 レオストはフフンと笑い、またシャンドラに何かを選ばせようと考えていた。


 * * *


 4月の半ば。カラバルたちを捕らえて約1か月後。残党も芋づる式にかなり捕獲できた。


 債券を使った詐欺集団摘発作戦に協力していた五大商会は、王城の会議室に召集を受ける。そこで、チェスコブからこの知らせを聞き、驚喜した。


「な、なんですと~?!」

「おお~!!」

「すばらしい!!」

 大商人たちは思わず歓喜の声を上げた。


 昨年は盗賊が一掃され、今年は詐欺集団も一掃された。


「こんなに喜ばしいことがありましょうか!!」

 バンリオルは両手を広げて、神に感謝の気持ちを表現する。


「ええ! アラゴンキア、万歳!!」

 コーハラル商会会長のボマンドが叫ぶ。


「本当にすばらしい! これはレオスト殿下とミナ殿のおかげですな!」

 ダルザ商会会長のフレメルも言い、こぶしを振り上げる。


「エクドール! 体が良くなってよかった! ご回復の折に、素晴らしい知らせではありませんか?!」

 ブラーゼ商会会長のカレイダがコマキア商会のエクドールに声をかける。


「ええ。私が休んでいるうちに素晴らしい成果! ああ、やってくれましたな! ありがたい!」


 コマキア商会の会長エクドールは暴漢に襲われた怪我が治り、その暴漢もバードンの手下で、まとめて逮捕されたことをチェスコブから聞き、満足する。


「五大商会の諸兄に、私からご提案したい!」

 この中では一番若いボリック・バンリオルが声を上げる。


「これはラッスル公爵のレオスト殿下、ブリア侯爵の行政顧問ミナ殿。このおふたりがいなければ、なされなかったこと。そして、そのきっかけは、ラッスル公爵家とブリア侯爵家の婚姻という縁から始まったもの。

 そこで、我らは最大の感謝を込めて、この婚姻を祝福するために、皆で両家にご祝儀を差し上げようではございませんか?!」


「おお、それは良い案ですな!」

 全員が賛成し、商会から金を出し、それをもとに、エカーリアとゼビルスのためのラッスル公爵の紋章入りの馬車を五大商会から贈ることになった。

 それは旅の多い商人たちが愛用する、サスペンションの効いた最高の乗り心地の馬車である。ゼビルスは王都と領地を毎月行き来しているため、これは喜ばれるだろう。


「それから、今まで盗賊対策にかけていた金を、もちろんゼロにはできませんが、かなり民衆に還元できるのではないでしょうか。商品価格が下げられます!」

「うむ。それは良いことだ!」

 バンリオルの言葉に、フレメル以下、他の大商人も同意する。


「まずは、それを還元するための大々的な大市(おおいち)を王都で開こうではありませんか?! 民衆とともに、この歓喜を分かち合うのです!」

「おお~!!!」


 こうして、8月に王都で大市を開催することになったのである。


 何かでバカ騒ぎしたいくらい、大商人たちはこの喜びを表現したくてたまらなかった。


 * * *


 その数日後、タンブリーでは……。

 第2回目の貴族向け下賜品の選定会では、美しい六角形の螺鈿の箱に入った三角の瓶入り香辛料の6本セットと、銀の飾り枠の化粧木箱に入ったほんのりピンク色に染めた石鹸のセットに決まった。どちらも、ひとつ欠けると補充したくなる形状である。

 アンドリオンが最終的に決定した。


 しかし、惜しくも選定されなかったいくつかの商品も、「ラッスル公爵家・ブリア侯爵家結婚記念品」の称号をつけて全国で販売できる、ということになり、商人たちはそれぞれ満足のいく結果となった。


 ミナがひそかに気に入ったのは、ガルマン商会が作った馬車の座席用のふかふかなじゅうたんだ。今までになかった商品だ。それを「ブリア敷」と名付けて、全国で販売することになった。ミナは自分で一つ買うことにした。



 そして、そのまま公爵家の使用人たちに贈る品の業者の選定に移る。


 担当者の総務部官僚のクーガンがある程度の候補を選び、その中から、女性向けにはほほ紅と化粧筆、男性にはインクとペンを配ることになった。どちらもブリアの自慢の品だ。

 ついでに、ブリア領で配る酒、つまみに出す肉と野菜。

 これらの商品を逆オークションで、一番安く納入できる商会を選び出す。


 これらの仕事を終えれば、エカーリアの結婚準備でミナの関わる仕事は一段落だ。

 あとの細かい準備の進行は、ロエルに任せればやってくれるだろう。



 そんな会議を終えて、ミナはそのまま執務室に戻らず、今日は仕事を早めに終えることにした。

 コブルーの拡張工事も順調だ。

 詐欺集団摘発の目的も果たせたと王都から連絡が来ていたし、ミナは久々に少し安心して過ごせると感じていた。


 * * *


 ブリア城内の執務室から若草宮に戻り、玄関の呼び鈴のヒモを引きながら、いつものように自分で扉を開けると……。


「ミナ様、お帰りなさいませ!」

 侍女のシオーヌが駆け寄ってくる。

 だが、ミナは1階に漂う懐かしい香りに表情が変わった。

「カイル! カイルが帰っているのね?!」


 そう言いながら、ケープを外し、階段を駆け上がる。

「は、はい!」

 シオーヌは階段の下でミナのケープを受け取って、駆け上がっていくミナを見送った。


(ユーリカの香り……)

 それはカイルが家に帰ったときに、体を洗うときに使う薬草のオイルだ。

 二階の部屋の扉を開けると、揺り椅子にもたれて眠ってしまった愛しい夫がいた。


 4年前半前。それは、まだミナがカイルの家に住んでいた頃。

 ミナが夕食の準備をしながら、毎日のように見ていた姿だ。

 激しい訓練や狩りの後に納屋で体を洗った後、彼は広い食堂の隅で、いつもああして揺り椅子にもたれ、目を閉じていた。


 同じようにくつろいでいる姿が見たくて、カイルと結婚したときに、この若草宮にも揺り椅子を置いた。ミナからカイルへのプレゼントだ。


 だけど、カイルと毎日のようにここで過ごしたのは、結婚してわずか1か月だけだった。

 去年の2月から、もう14か月もほとんど会えなかったのだ。


 盗賊討伐。そして、詐欺集団摘発。その2つで主要な役割を果たしていた。


(どっちも私が言い出したことだから、誰にも文句は言えないわ……)

 自分で突っ込みを入れる。

 自分の夫が借り出されることがわかっていながら計画しているのだから、仕方がない。


 そのカイルが目の前に、昔と同じように揺り椅子に座って眠っていた。

 夢のような光景に、起こしてしまうのがもったいなくて、しばらくそばに座って、寝顔をじっと見ている。


(最後に会ったのは去年の11月……)

 王都のバンリオル邸だ。5か月も会っていなかった。


 その前が、コブルーで騒動のあった去年の9月。

 あのとき、将軍の前で「妻は無謀なところがありますので……」と言ったっけ。


(一番無謀なことは、自分の夫を危険な任務に出すことかも……)

 ミナは「はぁ……」とため息をつく。

(ごめんね……)


 カイルの寝顔。長くて黒いまつげが伏せられているのを見るのが好きだ。

 ぶらりと下がっている手に触れたい。でも、起こしたくない。

 ずっと危険な仕事をしていて、疲れているのだと思うと、この眠りを乱したくない。

 ……でも、早く触れたい。


 そんな葛藤をしている自分がおかしくて、涙がにじむ。

 開け放たれた窓からは、柔らかな春の風が入ってくる。彼のユーリカの香りが消えないように、窓を閉めたい。

 でも、その音で起きてしまったら……。


 この奇跡のような時間が続いてほしくて、でも、触れたくて……、髪の毛にだけ……。

 そう思って、膝立ちになって顔をのぞき込んで、髪の毛に触れる。


 最初に会ったときは、肩までの長い髪の毛をしていた。だから、揺り椅子に座って髪を乾かすのが日課だったのだ。


 無口だったカイル。でも、いつも黙って、それとなくミナの様子を見てくれていた。

 ミナがこの世界をまだ何にも知らなかった頃、カイルから見たミナは、かなりあぶなかしかったに違いない。


(妖精……。天然……。無謀……)

 呼び名が変わっただけで、中身は同じかもしれない。


(「髪、切ったのね」と指でつまんだのは、いつだったかしら……)

「ふふっ」と思わず微笑む。


 その拍子にカイルが目を覚ます。

 ミナは目を見開いた。

 声が漏れたのだろうか。腕が瞼の上に陰を作ってしまったせいだろうか。



 カイルが目を開けたら、いきなり目の前に、愛しい妻の黒い大きな目があった。

 髪をつまんでいて、いたずらをしようとしていたのか、びっくりした目をしているのがおかしい。


 カイルは大きく微笑んで、そのまま揺り椅子から立ち上がり、ミナを抱きしめ、ふたりでカーペットの上に倒れた。


「おかえりなさい、カイル……」

「ん……」


(窓、開けたままなの……閉めなきゃ)

 そう言いたかったが、唇はふさがれていた。


 カイルの髪の毛の隙間から青い空が見える。まだ日は高い。


 幸せな春の甘い時間が流れていった。


ミナ、結婚後、やっと本当の春が来た。


10月からアップの時間が20:10になります!


いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。

この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。

---今までのあらすじ---

ミナは債券を発行し、その裏で詐欺師たちをひきつけ、討伐作戦を企んでいた。思惑通り、詐欺師の一味は動き出し、カイルが諜報員レンダとしておびき寄せる。馬商デフールの一味、サナンダがレンダに接触し、ニセ債券を売ろうとする。デフールの上にいるラスボス、バートンや、デフールのライバルであるカラバル一味も絡んで、王都警備隊は一網打尽を企てる。お取りになったレンダは債券を買うフリをしてカラバル一味に接触した。

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別小説、完結しています。よかったら、訪問してください!

クリスタル・ハート・カフェ

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用語集

ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…

カイル(レンダ) … ミナの夫。バンリオル商会工作員、25歳

デフール、カラバル、バートン、エッカール …詐欺師たち

チェスコブ … 王都警備隊総隊長

王弟レオスト … ミナの支援者で、エカーリアの婚約者ゼビルスの父

シャンドラ … レオストの正妻

バンリオル … 王国一の商会でミナの支援者

アンドリオン … ブリア領主でミナの上司

ロエル … アンドリオンの側近


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