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第22話 異世界から来た証明

MBAを取得して、アメリカで働いていたミナは、なぜか異世界に来てしまった。そして、なんとか生活力を身につけようと、野菜買い取り事業をする商会を作った。その事業に出資してもらおうと、領主のところに行った。

村娘にしては賢すぎるミナに、領主の息子アンドリオンは違和感を感じる。

そして…。


初めてのかたは、下に用語集があります!


 半月後、馬車工房の親方は約束通り設計図を書いてくれていた。それを持参して、ミナはガルベルトと共にブリア城へと向かった。


 今日こそは、定期便の投資の返事がもらえるのではないかと期待が高まる。胸が少しだけ高鳴った。荷馬車の予算に納得ができれば、良い返事がもらえるかもしれない。


 前回通されたアンドリオンの執務室に行く。そして、ミナは荷馬車の設計図を大きな机に広げた。


「ほう…。これはおもしろいな。詳しく説明せよ」

 テーブルに身を乗り出して設計図を見ているのは、アンドリオンだけだ。取り巻き二人は座ったまま、腕組をしている。


「はい。こちらは一台の馬車に木箱を48箱積むことを考えた仕様になってございます。車輪には楕円バネを取りつけます。それから雨対策として…」


 ミナは各仕様の目的をかなり細かく説明した。


「以上でございます。何かご質問はございますか?」

 ミナは一気に説明した。顔を上げてアンドリオンを見ると、彼はミナを不思議そうに見ていた。


「あの…アンドリオン様?」

 ふふっと彼は笑い、しばらく黙っている。


「この仕様は君が考えたのか?」

「はい。そうでございます。わたくしも2カ月ほど実際に荷馬車に乗り、使い勝手を考えました」

「ふむ…」


 アンドリオンは、まだ黙っている。

「なかなか面白かった。女がこのように設計図を説明するのを初めて見たな」


「はあ…」

(そこ?! あれだけ一生懸命説明したのに、聞いてたのかな?)


 ミナはちょっとムスッとして、「ご質問はございませんでしょうか」ともう一度言った。


「ああ、ここの部分だが…」

 アンドリオンは思い出したように設計図を指さし、いくつか質問した。


 そして、ミナが答えるのをおもしろそうに、図面ではなく、ミナの顔を見て聞いている。


「…君は責任感が強いようだな」

 とアンドリオンは少しニヤリと笑って言った。


「もちろんございます。商いをしようとする者には当然のことだと思っております。参加する者たちの信用と財産がかかっておりますので」


「そうか…」


アンドリオンは座った。ミナとガルベルトも座るように勧められる。


「企画書は検討させてもらった。荷馬車の価格を考えると、あの投資額が高すぎるというわけでもない。それは理解した…だが…」

「はい? 何かご不明な点でも?」


 ミナが首をかしげると、アンドリオンはテーブルに身を乗り出し、片肘をついた。

「どうにもわからぬことがあるのだ」

「はい、何でございましょう?」


「君のその知識だ。いったいどこから学んだ? どこで教育を受けたのだ? ただの村娘には不可能であろう」


「それは…。わたくしは遠い国の大学に行きまして…。そこで学んだのでございます」

「どこだ?」


 それを聞かれると困るのだが、答えるしかない。嘘を言うよりも、本当のことを言った方がいいだろう。


「アメリカという国でございます」

「なに?! …な…なんと…!」

 アンドリオンは眉間に皺を寄せて2人の取り巻きと顔を見合わせた。


「初めて聞く名前だ。それはどこにある国なのだ?」

 為政者としては、自分の知らない国があるというのは不穏なことなのだ。


「はい、それが…。実はわたくしはその国からさらわれて、ここに連れてこられたようなのです。ですが、いったいどのように連れてこられたか、まったく記憶がないのでございます」


「ほお~? …なんと面白いことを言う…」


 ロエルとラッシェンが口を挟む。

「神隠しということか?」

「神隠し? ずっと前に神隠しに会った娘がいたという記録は読んだことがあるが…。消えたのではなく、現れたというのは記録がないと思うぞ」


(神隠しか。いいアイデアじゃない! それで、それ以上追及しないとくれたらいいんだけど…)

 ミナはひそかに期待した。


「ふむ…。記憶がないのではしかたがないが、大学にいたことは覚えているのだな」


「はい。記憶がないのは、連れてこられた経緯だけでございます。向こうの国にいたとき、仕事をしすぎてついふらりと倒れました。そのあと、気が付くとエルノー村付近の草原にいたのでございます」


「ほう。それは不思議な…」


 アンドリオンは少し遠くを見て考えていたが、別の言葉に興味を抱いた。


「向こうでもすでに働いていたのか。どのような仕事をしておったのだ?」

「はい。新しい商いの仕組みを作る仕事をしておりました」

「…なるほど。合点がいった」


 アンドリオンは非常に興味を持ったようで、ふむふむと頷き、何かを思いついたようにニヤリと笑った。


「ガルベルト。お前はもう下がってよい」

「は、かしこまりました。しかしながら、ミナを村に送り届ける役目がございますので、しばらく控室で待たせていただきますがよろしいでしょうか」


「いや、必要ない。ミナは私が送り届けさせる。だから、安心するがよい」

「は…」


 ガルベルトはミナを見た。上司がこう言うのだから、その通りにするしかないだろう。ガルベルトは一礼して下がった。


 二人の取り巻きはなにやらアンドリオンに言いつけられて、どこかに行った。それから、アンドリオンはミナを連れて棟を移動した。侍女が一人、ミナに付き添った。


 案内されたのは、敷地の中央に立つ塔のある高い建物で、これは領主一族の居城である。

「あの…。どこに行くのでしょうか?」


「心配するな」

 アンドリオンは説明しなかった。


 すたすたと城の中に入り、二階に上がると、中央の大きな広間に出る。その奥にもう一部屋があり、そこに入っていく。


 高い天井。壁際に弦楽器や管楽器が丁寧に並べられている。そして、いくつかの椅子と、譜面台。


「ここは音楽室ですか?」

「素晴らしいだろう?」

 アンドリオンは自慢げにニッコリした。


 竪琴のような楽器、木琴のような楽器。ギターのように弦をはじく楽器。フルートのような管楽器。いろいろな楽器が並んでいた。


「素晴らしいですね…。でも、なぜここへ?」

 ミナは彼が何をしようとしているのか、意味がわからなかった。


 彼はバラバラに並べられた椅子の一つに座り、微笑みながら言った。


「私はな、人の育ちを見極めるのに音楽が重要だと思っている。


 なぜなら、知識は人に聞くこともできるし、本でも学べるが、音楽は実際に楽器がなければ身につかないからだ。


 つまり、音楽をたしなむかどうかは、その人間の暮らしてきた環境を映し出す鏡だと思っている」


 この世界では確かにそうなのかもしれない。教養は貴族のものであり、貴族は音楽を自らの品位のあかしだとしているから、彼の理論も間違いではないだろう。


「ミナ、ここにある楽器の中で、何か演奏できるものがあるかい?」

(こ、困った~!)


 ミナが弾けるのは、たった一曲。キーボードで「カノン」が弾けるのみだ。


 焦って見回したが、部屋の隅で布がかけられた台のようなものに目が行く。


 おそるおそるそばに行くと、確かにそれはハープシコードらしかった。さっと布を取る。

(よかった…)


 確かにハープシコードだ。キーボードとほとんど同じ鍵盤だ。


 ミナは椅子に座り、フタを開けると、とりあえず音を確認した。簡単な和音を引いてみる。

(ちゃんと調律してある…)


 アンドリオンは足を組んでゆったりと座り、ミナがすることを見ていた。侍女は彼のそばに小さなテーブルを置き、飲み物を用意する。


(とりあえず、少し指慣らしをしたら、弾いてみるか)


 和音をアルペジオで何度か弾き、そのままミナが弾ける唯一の曲、「パッヘルベルのカノン」を弾き始めた。子供の頃、家にあったローランドのキーボードで何度も弾いた曲だ。


 音符を覚えているので長い間弾いていなくても、すぐに思い出せる。


 音楽室に、なめらかなハープシコードの音が流れ始めた。


 アンドリオンは最初は微笑んでいたが、ミナがメロディーを弾き始めるとまじめな顔になっていく。

(この娘は…)


 アンドリオンの頭の中で、大きな驚きと深い確信が生まれていた。


(確かにただ者ではない…。教養は本物か…)


 彼にしてみれば、村娘だと思っていたミナが、アンドリオンが聞いたこともない曲を弾くのだ。

 それはこの国の歌でも、吟遊詩人が歌う異国の歌でもない。まったく異なる旋律なのだ。


 それは、神隠しで連れてこられたというロエルの説を受け入れるに十分だった。


(神隠しで来ただと? なぜこの国に現れた? なんのために…)

 ミナは何度か繰り返し演奏したが、5分ほど弾いて、やめた。


「いかがでございますか? わたくしの知識の証明になりましたでしょうか」

 そして、椅子から立ち上がって、アンドリオンにまっすぐ向き合った。


「わたくしは音楽を学びませんでしたので、見よう見まねでございます。わたくしの好きな曲を一曲だけ覚えただけなのです。これでご容赦くださいませ」


 そう言って、一礼した。


「あ、ああ…」

 夢から覚めたような表情で、アンドリオンは深い思考から戻ってきた。


「十分だ。もう下がってよい。しばらく待っているがよい」

そう言って、彼は侍女を呼び、ミナを下がらせ、顔をそむけた。


「あの…?」

 ミナは問いかけたが、アンドリオンは黙って何かを考えこんだままだ。


 その人を拒絶する雰囲気に、「企画書の返事はいつくれるのか?」と聞くことができなかった。

侍女はミナを案内し、またもとの棟にある一室に連れて行った。塔の移動だけでも、結構な時間がかかる。それだけここは広い。


(私はちゃんと、今日中に家に帰れるのかしら?)

そんな心配を胸に、ミナは知らない部屋で一人、アンドリオンを待つのだった。


どうにもミナが不思議でならないアンドリオン。なんとか、この疑問を晴らそうとして、音楽を利用し、決定的な確信を得た。

アンドリオンはミナに出資をするのか…?


用語集

ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て起業している。のちのブリア侯行政顧問

ガルベルト … エルノー村の村長

アンドリオン … ミナが住むブリア領の領主の息子

ロエルとラッシェン … アンドリオンの取り巻き

エルノー村 … ミナがこの世界に来た入り口の村


ぜひ、ブックマークと高評価、よろしくお願いいたします~!

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