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ミナ、ブリアの産業活性化のために、商人たちをビシビシと鍛える

このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。


初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!


 ミナは会議が終わると、下賜品係の2人を残す。


 公爵領内の貴族への下賜品を担当するのは、総務部文官のエガロだ。

 公爵家の使用人への下賜品を担当するのは総務部文官クーガンだ。


 部屋にはアンドリオンも残っている。


「先ほどは贈り物の選び方を簡単に申し上げましたが、この際、ブリア領内の商人を活性化するために、少しテコ入れをしようと思うのです」

 まずアンドリオンに向けて言う。


「ほう……。テコ入れとな」

「はい。技能者たちの労働意欲は高まりましたが、逆に、ブリア内の商人の活性化が足りません」

「ふむ」

「ですから、ここは公爵家に納入する2つの下賜品を使って、ブリアの商業を少し活性化したく存じます」


「……」

 アンドリオンは心ひそかに(また始まった……)と思っている。

 作り笑いをして、ミナに尋ねる。

「で、具体的に何をするのだ?」


「先ほど申し上げましたように、贈り物にはだいたいの条件が必要でございます。それを業者に集めさせ、プレゼン……発表会を開催します。そして、逆オークションで採用します」


「ほ、ほう……」

「は、はあ……」

 ふたりの文官は冷や汗だ。

 意味のわからないことを言われたのだ。


 アンドリオンも意味がわかっていないが、ミナについてはいつものことなので、追及しない。


「これは本来、商務部のお仕事かもしれません。ですから、おふたりで、商務部の文官と組んで、開催なさることをお勧めいたします」

「は、はあ……」


 * * *


 ふたりの文官はよく意味がわからないまま、商務部へと駆け込む。

 商務部執務室のドアを開け、2人の総務部文官は、商務部長モルギアにすがりつく。


「お、お助けください!」

「な、何事だ?!」

「ミナ殿が……」

「ミナ殿がどうした?」

「私どもにはまったくわからないことを……」

「ぎゃくなんとかとか、なんとか会とか、なんとかかんとか……」


 商務部長モルギアは眉をしかめたが、ハッと気づいて、ダッと立ち上がる。


「心配いらぬ! 安心せよ。そなたらが無知なのではないぞ。

 ミナ殿を理解できぬのは我らも同じ。私が聞いてこよう!」


 そう言って、ふたりを連れてミナの執務室に向かった。


 こうして、商務部を巻き込んで、ブリアの商業活性化が始まった。



第177話 ブリア商人たちの提案



 2週間後。

 ブリア城内行政棟の大会議室には、領内を代表するいくつかの商会の会長と番頭たちが集まっていた。

 それぞれが、自慢の商品を詰めた木箱を部下に運ばせ、部屋の隅に積み上げている。


 前回の会議で、ミナが総務部官僚にプレゼンを提案した後、商務部長モルギアがブリア領の産業振興会にお知らせを貼りだした。


 それは、エカーリアの婚姻の記念下賜品として、これこれの条件を満たすものを提案せよ、とある。

 その中で、領主が商品を選んだものが、受注する、という内容だ。

 今回の集まりは、そのプレゼン――商品提案会なのだ。



 商品を並べ終えて、商人たちが机に座っていると、やがて扉が開く。

「ブリア侯アンドリオン様のおなりです」

 一同が立ち上がる。


 アンドリオンに続き、ロエル、商務部長モルギア、総務部の文官たち、そして最後にミナが入ってきた。

 ミナは前の机のアンドリオンの横に座り、商人たちを見回す。


 実は、ブリアの産業振興会の商人たちには、ミナは4年半ほど前に会っている。

 みすぼらしい服で、野菜の一括買い取り事業についてのプレゼンをしたときだ。

 だが、あのときのぼろを着た娘が、今、領主の隣にいるとは誰も思うまい。


(カイルが見かねて、服を買ってくれたっけ……)

 今思うと、本当に場違いだったのだ。

 商人たちがミナの後ろにどこかの大商人でもついていると思ったのも無理はない。プライク商会が話を聞いてくれたのが奇跡に思える。


 カイルを思い出して、ちょっとせつなくなり、ため息をついてしまう。

(もうずっと会えてない……)


「いやいや……」と首を振り、また目の前の商人たちを見る。


(うん。別人のフリをしておこう……)

 プライク商会も来ているが、会長も番頭も、ミナの知らない人だから大丈夫だろう。



「本日はお集まりいただき、ありがとうございます」

 ミナが選定会を取り仕切る。


「お知らせしておりますとおり、この度の選定会は、ブリア侯妹君エカーリア様とラッスル公爵ご嫡男ゼビルス様とのご結婚の折に、下賜する品となります。

 今回の第1回目は、ラッスル領の男爵以上の貴族に下賜するものの選定でございます」


 商人たちは姿勢を正した。

「まずは、皆様からのご提案をお聞きしましょう」


「は。ガルマン商会がご提案いたしますのは、ブリアの職人が織った美しいじゅうたんでございます。ベッドの横におく足置きサイズでございます」


「我がプライク商会がご提案いたしますのは、香油でございます。こちらは当商会がバンサラーから独占契約をしてコブルーにて輸入している品でございます」


「我がケライラ商会は螺鈿細工の小物入れでございます。これは、アーガリアから取り寄せた貝殻を使って、ブリアの職人が作ったものでございます」


「ミゼレン商会から、貴重な香辛料をお持ちいたしました。中身の香辛料は、ブリア特産のペレを塩とタバに混ぜた、肉料理に合うものでございます」


「ダバッキ商会がお持ちしましたのは、ブリア産の花、スルハの香油入り石鹸でございます」


「コボル商会がご提案いたしますのは、ブリアの職人が作りました銀製の枠に入れたグラスでございます」


「フエルデ商会のご提案は、女性の皆さまには香木の扇子、男性の皆さまには香木の紙切ナイフでございます」


 ミナはすかさず尋ねる。

「それはブリアの特産ですか?」

「あ、いえ。アーガリアのものでございます」

「独占契約をなさっているのですか?」

「あ、いえ。……独占ではございません」

「それでは、ブリアの宣伝にはなりませんね」

「は、申し訳ございません……」


 ロエルは資料を見て、アンドリオンに価格表を示す。

 資料には価格や材料の産地などが書いてある。


「ミナ、どうするのだ?」

 アンドリオンがミナに小声で聞く。

 領主が決める、となっているが、実際にはミナ任せだ。


「そうでございますね……」


 ミナは少し考え込む。

「まず、皆様。もう一度主旨をよく思い出してくださいませ」


 意外なことを言われ、全員、ビクリとして、互いに顔を見合わせる。

 そして、ミナは立ち上がる。


「この度の下賜品はただあげればよい、というものではございません。ブリアの宣伝と今後の売り上げを促進する目的がございます」

「は、はあ……」


 アンドリオンは内心、(また始まったぞ……)と思っているが、澄まして黙っている。


「まず、じゅうたんでございますが……」

 それを提案したガルマン商会が、背筋を伸ばす。


「大変美しいじゅうたんでございますね。その分少し価格が……。それに、じゅうたんは一度買えば、あまり買い替えるものではございません。ただ、いつも目にしますので、記念としての価値はございますね」

「は、はい。やはり、結婚記念でございますから、ずっと残るものが良いかと思いまして……」


「それは一理ございますが、でしたら、もっと『ブリア製』とわかるものでなくてはいけません。たとえば、『ブリア織り』とか『ブリア柄』とか。そういう名で呼ばれている特徴のあるものであれば、再度注文するときに、あの『ブリア織り』を買いましょう、と思われるのでございます」

「はあ……」


「次に、香油でございますが……」

「は、はい!」

 香油のプライク商会が立ち上がる。


「香油は消耗品ですから、なくなれば注文されます。しかも、この商品は独占契約ということですから、プライク商会を通さねば買えない、ということですね。商品としては良いものでございます」

「は、はい!」

「しかしながら……」

 ミナは少し眉をしかめる。


「香油がなくなれば、容器は捨てられ、何も残りません。それではだめなのでございます」

「えっ……?」


「次に螺鈿細工の箱でございますが……」

「は、はい! 我がケライラ商会が持ってまいりました!」

「螺鈿細工はブリアの名産品ですから良いのですが、これもまた、しょっちゅう買うものではございませんので、リピ……いえ、繰り返し購入していただけるものではございません」


「あ、いや。しかし、美しい螺鈿細工ですから、テーブルも買ってみたいとか、購入意欲が広がればと……」

「ええ、その可能性はあるかもしれません。それでも、そんなに購入する可能性は高くございません」

「ぐっ……」


「ペレ入りの香辛料というのは悪くありませんね」

「はっ、ありがとうございます!」

 ミゼレン商会が立ち上がって一礼する。

「ですが、これも香油と同じで、なくなったときに残るものがございません」


 商人たちは全員、かなりがっかりし始めた。

 どれも採用される気配がない。

「あの……」

 商人たちは何か言いたいのだが、何を言えばいいかわからない。


「ミナ。ではいったいどうするのだ……?」

 アンドリオンもあきれて、商人の代わりにミナに質問する。


 モルギアもロエルも眉をしかめている。

 とても今日、決まりそうもなかった。


「納品は8月末でよいのです。まだ時間はございます。ですから、こちらの要望に合う商品を作り上げてください」

「ええ? そ、それはいったい……」


 ミナは螺鈿細工と香辛料を手に取る。


「たとえば、この螺鈿細工で美しい卓上用の箱を作ります。その中に香辛料を入れるのです。そして、食事の時に美しい螺鈿の箱をテーブルに飾る。こうしておくと、中身がなくなれば、補充しようと思いますよね?」

「な、なるほど……」

 そう言葉をもらしたのは香辛料を持ってきたミゼレン商会だ。


「貴族の方はよく食事会をなさいます。そのときにテーブルの上の螺鈿の箱をご覧になった方が、同じものをとご注文くだされば、注文は増えますね」

「は、はい! おっしゃる通りですな」

 ケライラ商会が嬉しそうに言う。


 そして、ミナは香油を手に取る。


「それから、この香油もです。香油を美しいガラス瓶に入れれば、香油がなくなったときに、補充したくなりますよね?」

「は、はい! 確かに。ガラスに入れれば、黄金色が美しく映えます! それは容器ではなく、装飾品になりますな!」

 プラーク商会が興奮して答える。


「それから、石鹸も同じこと。たとえば、この石鹸、果物のかたちに成形するのはいかがでしょうか? そして、銀の縁取りのある小箱に果物のように固めた石鹸を詰めるのです。少し着色できると良いですね。すると、心がワクワクしますし、なくなったときに銀の小箱の中身を補充したくなるでしょう」


「な、なるほど……」

 ダバッキ商会が頷く。


 商人たちは互いに顔を見合わせる。互いの製品が自分の製品に役立つと気づいたのだ。


「そうか……。組み合わせによって、価値が高まるということですね?」

「わかりました! ミナ殿。我々は工夫が足りませんでした。もう一度チャンスをくださいませ。改めてご提案させていただきます!」

「わが商会も!」

「うちも!」

「私どもも!」


 ミナはその声を聞いて満足する。


「わかりました。では、また1か月後に発表会を開催いたしますので、そのときに新しい商品をお持ちくださいませ」

「はは~!!」


 会議が終わると、商人たちはそれぞれに集まって、商談を始める。

「ぜひ、うちと一緒に商品を作らせていただきたい!」

「うちも、ぜひ銀の箱を!」

「うちはガラスで!」


 こうして、商会が互いに協力し合って、商品開発に乗り出すこととなった。


 * * *


 ミナは行政棟の会議室から城に戻る途中、アンドリオンに歩きながらお詫びを言う。

「申し訳ございませんでした。わざわざご足労いただきましたのに、決めることができず、また次回、足をお運びいただくことになりました」


「ああ。どうせこんなことだろうと思ったぞ」

 アンドリオンは笑う。

「え、そうなのですか?」

「ああ。君のことだ。簡単に決めるとは思えなかった」


 ロエルも「ふふ」とあきらめたような笑いをもらした。


「ですが……」

 モルギアは満足げに微笑む。

「ミナ殿のおかげで、商人たちが互いに協力して商品開発を始めました。これは良い傾向ですな」

「ええ! きっと頑張ってくれますわ!」


「ええ。螺鈿細工の卓上香辛料入れ。これは貴族らしい、良いテーブルの装飾となりますな」

 モルギアはふむふむと何度も頷いて、目を細めた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。

この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。

---今までのあらすじ---

ミナは債券を発行し、その裏で詐欺師たちをひきつけ、討伐作戦を企んでいた。思惑通り、詐欺師の一味は動き出し、カイルが諜報員レンダとしておびき寄せる。馬商デフールの一味サナンダがレンダに接触し、ニセ債券を売ろうとする。デフールの上にいるラスボス、バートンや、デフールのライバルであるカラバル一味も絡んで、王都警備隊は一網打尽を企てる。

 一方エカーリアの結婚式の準備にブリア城は大騒動をしていた。婚家のラッスル領に下賜する商品を選定する会が始まる。


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別小説、完結しています。よかったら、訪問してください!

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用語集

ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…

アンドリオン … ブリア領主。27歳

カイル … ミナの夫。今は詐欺掃討戦に参加中

エカーリア … アンドリオンの妹で、王弟の嫡男に嫁ぐ準備をしている

ロエル … アンドリオンの側近の文官

アーガリア … 向かいの大陸


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