ミナ、ブリア城の侍女、侍従たちを徹底的に教育する
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。
初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!
第176話 ミナ、ブリア城の従者たちを叩き上げる
3月1日。
アンドリオンは城の一番大きな広間に従者たちを集めた。その数約60人。
結婚式の日取りが決まってから、それぞれの従者たちはエカーリアのラッスル行きの準備に大忙しだ。
だが、結婚式そのものがまれなことでもあるが、王族と結婚するというさらにまれなことなので、皆緊張して、何をどうしていいかわからず、会議だけが何度か開催されているのである。
前方に置かれたテーブルには、中央にアンドリオン、その左右にエカーリアとフィルベラが座っている。
そして、その前には椅子がいくつも並べられ、侍女たちが座り、後ろには侍従や護衛などが経ち並んでいる。
「領主様。エカーリア様の荷物でございますが、馬車の台数で約35台分になるかと……」
「な、なに?!」
侍女頭のリラの言葉にアンドリオンは驚愕する。
「いくらなんでも、それは多すぎであろう。予算がなくなるぞ……」
アンドリオンは、補佐官のイソールズを見る。
「……確かに。エカーリア様のお荷物の馬車は10台で見積もりを出しております。35台はさすがに多すぎるのでは? ほかにも荷物がございますから、全部で70台を超えますぞ」
「何をおっしゃいます! 衣装はもちろん、楽器に家具。書物に手芸道具。エカーリア様が公爵家で恥ずかしくない暮らしをなさるためには、このくらいは必要でございます」
とリラが言う。
別の侍女が口を出す。
「領主様。衣装でございますが、王都からお針子を呼ぶと言っても、王都には山ほどのお針子がおり、どのものを呼べばいいのか……」
「それはバンリオルに相談せよと言ったであろう?」
「はい。ですが、バンリオルが出した候補も6人おりまして、その先の選定ができておりません」
「領主様。そもそも、エカーリア様についていく従者や護衛の選定がまだでございます」
「領主様、公爵家への贈り物の選定も……」
「あなたがた、少しおだまりなさい。こちらが優先でございましょう!」
リラが怒る。
「いえいえ、領主様。従者の荷物がはっきりしませんと、荷馬車の用意もできません。城の馬車だけではとても足りませんので、あちこちにお願いして借りてこなくてはいけません。その予定を立てる必要がございます。まずは従者を決めていただきませんと……」
「いえ、こちらのほうが……!」
喧々囂々となり、アンドリオンは頭を押さえ、エカーリアはおろおろし、フィルベラは眉根を寄せて胸を押さえる。
そこへミナが部下2人を連れて入ってきた。
「皆様、お待たせいたしました」
後方から、領主一族が座るテーブルに向かう。その手には大きな巻物を持っている。
「ミナ、遅いではないか……」
アンドリオンはほっとする。
「はい。申し訳ございません。資料を用意するのに少し時間がかかりまして」
そう言って、部下に指示して巻物を広げさせ、全員に見えるように高く掲げさせる。
「こちらが、お輿入れ完了までのスケジュ……予定表となります」
「おお~?!」
担当者たちが前に出て、その表を見る。
それは、工事の工程表のような体裁のもので、どの部門がどの日程で何をするかが、一目でわかるようになっている。
「皆様。こちらをよくご覧いただいて、この期間で作業を終えていただきたく存じます。時間管理は事業の基本でございます」
「ええ~?!」
「で、でも……」
「いや、それは……」
いろいろな声が上がる。
アンドリオンとイソールズも立ち上がって、その表を見る。
「なるほど。これはわかりやすいですな」
「で、ですが、ミナ殿。この期間に決めろ、と言われても、決まらなかったらどうするのですか?」
文官が眉をしかめる。
「いえ、決めてください。終わりを決めないと、いつまでも決まりませんので」
「と言われましても……」
「あなたは何を担当していらっしゃるのですか?」
「公爵家への贈り物でございます」
「それは公爵家の使用人たちにふるまうものですね?」
「はい、さようでございます」
「でしたら、ブリアの特産品でお願いします。工芸品ですね。たとえばブリアのカルナットで造った髪飾りなど。つまり、まずブリアのものであること。一人当たりの予算を決めること。次に、男性用、女性用と決めていきます。つまり、選択肢を徐々に狭めて残ったものから選ぶのです」
「な、なるほど。かしこまりました」
「ミナ殿。公爵領内の貴族に配る下賜品に関してはどのように……」
別の文官が質問する。
「これも、ブリアのものでお願いします。できましたら、消耗品で。たとえば、ブリア特産のペレ酒の高級品、あるいは、コブルー経由で取り寄せたバンサラーの香油など。繰り返し購入したくなる品にしてください」
さりげなくバンサラー品の宣伝をしておく。ザッカリムには祝い金として金貨10枚をもらっているので、そのお礼に商品を買うのはいいことだろう。
「ミナ殿。エカーリア様の身の回りの荷物の選定をしましたのに、馬車が多すぎると言われたのでございます」
リラがイソールズをにらみながら訴える。
「すべての荷物が一度に必要なわけではございませんよね?」
「ま、まあ……」
「お輿入れは9月半ば。ですから、たとえば夏物はすぐに必要ございません。このように、最初の1か月で必要なもの。次の3か月、半年、1年で必要なものと、優先順位を分けるのです。
そして、まずは最初の1か月分を運べばよろしいでしょう。そしたら、馬車10台分で十分ですよね?」
「は、はい。おっしゃるとおり……」
「残りは順次送りましょう。それならば、ブリア侯の馬車だけで事足りるはず」
ミナの言葉にイソールズが頷く。
「それから、リラ。エカーリア様の衣装はワンセットで注文してください。ドレス数着を先に注文、というのではなくて、ドレスと靴と髪飾り。これらが一組です。ドレスがあっても、靴がなければ着られませんので」
セットで必要なものはセットで揃わなくては役に立たないのだ。
「は、はい! かしこまりました。で、どこに頼めばよいでしょうか。今、6人のデザイナーがおりますが……」
「まずはエカーリア様を見ていただかなければいけません。まずは6人にブリアに来てもらってください。それからエカーリア様のために描かれたデザイン画を描いてもらいましょう。そこから秋物を10点選びます」
「かしこまりました!」
リラは、ミナがまだ村娘だったころに、身支度を手伝ってくれていたフィルベラ付きの侍女だ。エカーリアとアンドリオンとミナの3人の食事会にはいつもいて、3人の話を聞いていた。今やブリア城内の侍女頭だ。
最初はミナを訝っていたリラだったが、ミナのおかげでエカーリアはあれよあれよと変わり、結婚相手も見つけてきて、公爵家に嫁ぐまでになった。
リラにとってミナはヒーローなのである。
「ミナ殿。まだラッスルに向かう護衛と文官が決まらないのでございます。希望者が多くて……」
侍従が言う。ラッスルはブリアよりも格が高いから、希望者が多いのだ。
「希望を聞いていてはきりがございません。技能、勤務態度、奉公年数などを点数評価し、そこから候補者を選定し、その中から最終的にエカーリア様に選定していただきます。その決定が最終です」
「か、かしこまりました」
「それから、従者の荷物は衣装箱一つといたします。あとは必要なら自分で運ぶこと」
「えっ……」
形がないもの、量が不定なものは、さっさと形と量を与えて決めてしまう。
「各自がばらばらに荷物を持っていこうとすれば、馬車の台数はいつまでも決まりませんからね」
「は、はい」
「皆様、何か質問は?」
ミナが全員を見まわして質問を待つ。
「ないようでございますね。では……」
部下が次の表を広げる。
それは、成績評価基準だ。
「なんですか? これは……」
担当者たちがまた少しずつ近寄って表を見る。
「こちらは、皆様の仕事の精度を確認する基準表でございます」
「えっ?!」
ミナは指でピシッと表を叩く。
「期限を守る!」
「予算内で納める!」
「品質重視!」
「ほかの部署との連携!」
「ミスのない正確さ!」
ひとつひとつビシッと叩き、読み上げる。
そして、それぞれの言葉の下に、細かい説明が書いてある。
「よろしいですか? これらを各部署ごとに評価させていただきます」
「ええ~?!」
「成績が一番よかった部署には、領主様からお褒めの言葉と特別報酬がございますので、皆様、頑張ってくださいませ!」
と、ミナはにっこりする。
「は、はあ………」
広間はざわつく。
「で、できるのか……」
「予算って……」
「いや、他の部署が遅れたら……」
ブツブツ言っている。
アンドリオンは初耳だが、黙っていた。
そして、フフと笑う。
(ミナは相変わらず、無双だな……)
自分は問題に意識が行く。そして、つい心配ばかりしてしまう。
だが、ミナは解決する道を考え続けるのだ。
席に戻ったミナに、小声で聞く。
「なんだ? 私からの特別報酬というのは?」
「誰がもらうかで異なりますわ。オホホ」
とミナはごまかす。
「アンドリオン様はご心配なさらずに」
(侍女だったら、アンドリオン様が使用したハンカチとかで十分……)
ミナはほくそ笑むのであった。
カイルはまだ王都郊外で詐欺師捕り物に参加中。
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
ミナは債券を発行し、その裏で詐欺師たちをひきつけ、討伐作戦を企んでいた。思惑通り、詐欺師の一味は動き出し、カイルが諜報員レンダとしておびき寄せる。馬商デフールの一味サナンダがレンダに接触し、ニセ債券を売ろうとする。デフールの上にいるラスボス、バートンや、デフールのライバルであるカラバル一味も絡んで、王都警備隊は一網打尽を企てる。
一方、いよいよ近づくエカーリアの結婚式の準備にブリア城は大騒動をしていた。、
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別小説、完結しています。よかったら、訪問してください!
クリスタル・ハート・カフェ
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…
アンドリオン … ブリア領主。27歳
エカーリア … アンドリオンの妹で、王弟の嫡男に嫁ぐ準備をしている
フィルベラ … アンドリオンの母
バンリオル … 大商人




