レンダとフランの怪しい夫婦。髪飾りを売りに、買取屋に
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。
初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!
王都警備隊本部では、第2期の債券抽選会の申し込みから、また13人の怪しい者をあぶりし出した。
「これは大きな組織の者のようですな」
オルスクがチェスコブに報告する。
「こちらが調べの付いた8人分の資料になります」
「ふむ。これらの者は、どうやら……」
チェスコブは資料を確認すると、腕組みをして、にやりと笑う。
「カラバルの者たちだ」
* * *
カイルはフライアとともに、馬車に乗って王都からラッスルに向かう街道を何度も移動する。
同じ道を何度か通ることで、詐欺師たちを引き寄せるためだ。
カスラの酒場で一休みする。
注文しようとすると、酒場の料理人がレンダとフランに声をかける。
「あんたら。この村を早く出ていったほうがいいぜ。何人かがあんたらを探していたぞ。物騒なことになるかもしれん」
「え? そうか?」
レンダがフランを見る。
「どうする?」
「あんた。やつらに言ってやんなよ。もうあんたたちの債券はいらないって。ほかのをみつけたって」
「ふふ」
レンダは笑う。
「ま、ほっとけ」
そういって、料理人に銀貨を1枚置く。
「ありがとな」
* * *
警備隊本部での作戦会議。
「なるほど。デフールはレンダを探していると……」
オルスクがレンダの報告を聞いて、宙をにらんで考え込む。
「やっぱり、売りたくなったのかな?」
カイルはオルスクの顔をのぞき込む。
「その可能性はあるな。サナンダの一存で断ったが、交渉できると思ったのではないかな?」
オルスクは頷く。
「うちの調べによると、デフールは今のところ、3人の者に債券を売ったようだ。しかし、なかなか思ったように売れないのだろうな」
「ふん、そりゃそうだろうな。みんな馬鹿じゃない」
カイル、オルスクのふたりで「ふ~む」と次の出方を考えている。
「ここはやはり、詐欺師同士でなんとかつぶしあってもらいたいものだ」
オルスクが力強く頷きながら言う。
「ああ。デフールとカラバルだな。どうやってぶつけるか……」
「一番簡単なのは、互いの獲物を奪い合わせることだ」
「なるほど。デフールには俺はすでに追いかけられているぞ。だったら……」
オルスクとカイルはふたりで頷いた。
オルスクは部下に資料を持ってこさせる。
「カラバル一味の人相書きはこれだ。今、一番接触しやすい奴は……」
* * *
王都の外壁近くにある小さな買い取り屋ミダルガン。
カランと扉についた鐘がなる。
「いらっしゃいませ」
店主が人の好さそうな笑顔で客を迎える。
夫婦らしきふたりが入ってきて、店内をきょろきょろと見ている。
店主はその二人の身なりを見て、庶民にしてはなかなかの上客だと思っている。
「ここは初めてですな? 今日はどんなご用件で?」
「ああ……」
男はカウンターに両腕を載せて身を乗り出す。
「女房が髪飾りを売りたいんだ。見てくれ」
女はふてくされている。
「ふん。街できれいな髪飾りを見つけたのに、この人、買ってくれないんだもん」
そう言って、しぶしぶ、今着けている髪飾りを外す。
「たくさん持ってるだろって言ったんだよ。山ほど買ってやっているのに、なんでいつまでも欲しがるんだよ。今持っているのを売ってからにしろ」
「……しかたないわね……」
そう言って、小さな石が一つついた髪飾りをカウンターに置こうとして、また手の中でもて遊ぶ。
「これも気に入っているんだけどな……」
「どっちにするんだよ。アレを買いたいなら、コレを売れ」
「わかったわよ……」
ブツブツ言いながら、女は髪飾りを店主に手渡す。
「ほう。これはなかなかのものですな」
店主は拡大鏡で石や金属の細工を確認する。
「引き取り価格は銀貨10枚ほどで」
「はあ~??」
女は不満そうだ。
「ま、そんなもんだろ」
男は満足げだ。
店主はさっさと髪飾りを奥の引き出しに入れ、代わりに銀貨を10枚ほど出した。
「お客様はどこの商人様で?」
「あは。俺はラッスルから来たんだ。商人じゃないぜ。女房はそこの人夫元締めの娘で、俺はそのぼんくら婿だよ」
アハハと言って男は笑う。
「うらやましいですな。いい奥様をお持ちで」
「ああ……。女房は可愛いぜ。だが、その親父が人使いが荒くてな……」
「あたしら、今年になってもう4回も王都に来てるのよ。父さんが債券を買ってこいって言うから……」
そう言って、フランはレンダに腕をかけて寄りかかる。
「さいけん?」
ミダルガンは耳をそばだてた。
「ああ。知ってるか? 今、バンリオルで大人気の金融商品ってやつだ」
「ああ、聞いたことはございますね。それをお買いになりにいらしたので?」
「ああ。でも抽選に外れて、ちっとも買えねえ」
「あんた、早くあのお店に戻ろうよ。髪飾り、買ってくれるんでしょ?」
「ああ。わかったよ」
男は女の肩を抱いて、ふたりで扉のほうに向かう。
「あ、お客様。お待ちを……」
「あん?」
「債券でしたら、……うちでも扱えますよ。うちは買い取り屋でございますので……」
「えっ?!」
ふたりは顔を見合わせた。
「ほ、ほんとうか?!」
「え? 信じられない……」
それぞれに驚きの表情で、立ちつくす。
「ご安心ください。実は、債券を売りたいというお客様はいらっしゃったのですが、買い取り手がないとこちらも儲かりませんので、お断りしていたのでございます。よかったら、お泊りの宿をお教えいただければ、ご連絡を差し上げますよ」
「そ、そいつは助かる! 俺はレンダ。こいつはフラン。宿は……」
ふたりはミダルガンを出る。
そして、ゆっくりと歩いた。
「まだつけてるな……」
カイルが、上着の内側に隠したトーチを見て言う。
「うまくいったわね……」
フライアがカイルの腕を両手で抱いて、甘えるようにぴたりとくっついて歩く。一応、敵にトーチを気づかれないしぐさだ。
ふたりはミダルガンに入る前から、デフール一味につけられていることを知っていた。
「女が『ほかのところで債券をみつけた』と言った」と、カスラの酒場の料理人から話を聞いているはずだからだ。
デフール一味はいったい誰から買うのかを確認したいと思い、泳がせていたら、カラバル一味と接触したことを知る。
「今頃やつら、焦ってるぜ。この店がカラバル系だってのは詐欺師界隈じゃみんな知ってるしな」
カイルはフフッと笑った。
ぼんくら婿レンダと、かわいい女房フラン。なかなかうまくハマっています……
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
ミナは債券を発行し、その裏で詐欺師たちをひきつけ、討伐作戦を企んでいた。思惑通り、詐欺師の一味は動き出し、カイルが諜報員レンダとしておびき寄せる。馬商デフールの一味、サナンダがレンダに接触し、ニセ債券を売ろうとする。相手が1枚上手なのを見て、サナンダは驚き、ボスのデフールに報告する。デフールはそのまたボスのバードンに言われ、レンダの義父にニセ債券を売れと言うのだった。
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…
カイル(レンダ) … ミナの夫。バンリオル商会工作員、25歳
フライア(フラン) … カイルの相棒で、認識疎外魔法ナスコムの使い手。26歳
オルスク … 王都警備隊の隊長
チェスコブ … 王都警備隊総隊長
サナンダ … 馬の売人。詐欺師デフールの一味。
デフール … 馬商で、詐欺集団の大物。バンリオル銀行に恨みを持ち、債券を買って悪だくみをしている。
カラバル … 詐欺集団。デフール組織とライバル関係にある




