ボンクラ婿のレンダ、豹変する
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。
初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!
「心配すんな。あんたがニセモノを売りつけようとしたことは、黙っておいてやるよ」
レンダはニタニタと笑った。
「なに……」
サナンダは脂汗をかく。
そして、いったんつばを飲み込み、自分を落ち着かせようとする。
「馬鹿言え。ホンモノだって言ってるだろう……」
今までは地方の豪農のぼんくら婿程度に思っていたが、今はまったく違う雰囲気だ。
何も知らないフリをして、実はこっちをはめていた。
(こいつ、絶対にただ者じゃねえ……)
サナンダは債券を袋にしまう。
「なあ、俺と取引しないか?」
「な、なに? 取引だと……」
「ああ。俺の義父は金持ちでな。あんたみたいにあくどいことをして稼いだ金さ。その金を若い女房にやろうとしている。債券に替えてな。俺たちはその女にやりたくない。だから、ニセ債券を渡して、親父を安心させる。そして、代金を俺たちがもらう。どうだ? 誰も損しないだろう?」
そして、アハハと笑った。
「俺たちが探しているのは、最初からニセ債券さ。安心しな」
「お前……。どこの組織のもんだ?」
「ふん。ニセ債券を50枚持ってこい。俺は親父に金貨50枚もらう。お前には金貨10枚やろう。どうだ?」
「な、なんだと?!」
サナンダは目の前の男が、とんでもない男だと思った。
詐欺師の自分を利用して、自分の義父に詐欺をしようとしている、ということか。
「あんたはこのままニセ債券を安全に売れる。俺は、自分で偽造しなくて済む。親父は安心してあの世に行ける。俺の女房は喜ぶ。みんな万々歳だ」
「お前……。とんでもねえ詐欺師だな」
「どの口が言ってんだ」
レンダが笑う。
「どうするんだ? 乗るのか、乗らないのか?」
「の、乗るわけないだろ! 金貨50枚で売れるものを、10枚だと?! 馬鹿言うんじゃねえ!」
「やっぱりか……」
レンダはフフッと笑った。
「あんたは確かにこれがニセ債券だと知ってる。そしてニセ債券1枚を金貨1枚で売るつもりってことだな」
「う……」
「ずうずうしいもんだな」
サナンダは頭を働かせる。
(こいつ、債券の番号の秘密も銀行でしか売買できないことも知っている。つまり、バンリオルに仲間がいるってことだ。そして、あくどいことで稼ぐ義父だと? もしかして、こいつはデフール様の宿敵の……)
「ま、話に乗らないんならそれまでだ」
そして、レンダは振り返って部屋を出ていく。
「せいぜい、警備隊に気をつけな。ニセ債券を取り締まろうと必死だぜ」
「おい、待て!!」
サナンダはナイフでレンダを後ろから切りつけようとする。
「俺をなめてんじゃねえよ。くそったれが!」
レンダは後ろが見えていたかのようにスルリと躱す。
「あぶねえな」
「お前、カラバルのもんだろう!」
サナンダは何度もレンダにナイフを突きつける。
「カラバル?」
そう言いながら、レンダはナイフで応戦し、サナンダのナイフを弾き飛ばした。そして、ナイフの柄で頭を殴り、床に倒す。
「じゃあな。残念だったな。俺は真剣に買いたかったんだぞ。ま、他をあたるとするさ。ニセ債券を売ろうとするアホウはほかにもいるからな」
そう言って、レンダは出ていった。
サナンダは頭を押さえながら、やっとのことで立ち上がる。
「くそったれめ~~!!」
その眼には憎しみの色が湧いていた。
* * *
王都警備隊の本部で、チェスコブとオルスク、カイルとフライア、それに数人の部下たちが机を囲み、作戦会議をする。
レンダとサナンダの取引の間、実は警備隊はいつ入っていってもよいように、周辺に隠れていた。しかし、結局、サナンダを泳がして、様子を見ることにした。
カラバルという名前が出たからだ。
サナンダを捕らえることはいつでもできるが、下っ端を捕まえてもあまり意味はない。
「カラバル一味はデフールの宿敵だ。カラバルはデフールの元手下で、デフールに怨みを持っている。それで、やつらの獲物を奪うことがよくある。
カラバルはデフールの陰に隠れていることが多いので、なかなか実体がわからなかったのだ」
総隊長のチェスコブが説明する。
「で、総隊長。この際、カラバルもおびき出すつもりで?」
オルスクがチェスコブに尋ねる。
「ああ。少なくとも、今サナンダは、デフールのところに行って、レンダがカラバルの手下だと思って、さんざん悪口を言っているだろうな。カラバルの手下じゃないとわかったら、今度はカラバルから買うのかと思っているだろう」
「とすると、いずれにしてもデフールがカラバルに報復すると……」
「うむ……。その可能性はある。少なくとも、レンダが詐欺師だと信じていれば、レンダがサナンダを警備隊に売るとは思うまいな。藪蛇になるからな」
サナンダはレンダの売り言葉に買い言葉でレンダを攻撃したが、実際には警備隊を呼ぶとは思っていなかっただろう。
「……だか、それよりも先に、ニセ債券を売りたいだろうな。これはタイミングがあるからな。できれば、無知な大口の客にさっさと売ってしまいたいはずだ」
「うむ。そうですな。情報に格差がある今でなければ、騙される者がおりませんからな」
全員がしばらく考え込んだ。
第175話 キツネたちの騙しあい
サナンダはデフールの屋敷に行き、一部始終を説明する。
「デフール様。どうみてもやつは堅気じゃありませんぜ。カラバルのものではないかと……」
「ふむ……」
(しかし、カラバルはラッスルにはいないはずだ。それに若い女房がいるという話も聞いてないな……)
デフールは椅子の肘掛けに肘を立て、考え込む。
「そいつ、債券には詳しかったのだな?」
「は、はい。番号がどうとか、銀行でないと売れないとか。あと、1人1枚までだとか……」
「ふん。つまりそいつは、バンリオル内に情報屋を持っているんだろう」
「あ、なるほど」
「ということは、そいつを捕まえれば、バンリオルの情報屋が引っ張り出せる。そして、やつの銀行の信用を落とすことができれば……」
デフールは盗賊たちから盗んだ荷を買ったり、商人たちを騙してカラ荷を売ったりしているが、バンリオル商会にはその手が通用せず、逆に痛い目に遭うことがなんどかあった。
(バンリオルに報復ができれば……)
「それに、お前はどうやら顔が割れている。だから、そいつはお前の行きつけの店でお前を待っていたんだ。だから、お前はもう動くな。あとはこっちでやる」
「は、はい。申し訳ありません」
サナンダは慌てて頭を下げた。
サナンダが帰った後、デフールは考える。
(債券の販売は、他の者たちも当たっている。何枚かは売れたが……。1枚1枚ではらちが明かぬ)
さすがに、債券は発行されたばかりのものなので、本当に儲かるものなのかが不明で、客も慎重なのだ。
しばらくしてデフールのところに来客がある。
それはデフールが会いたくない客だった。
使用人に案内されて、恰幅のいいりっぱな衣装を着た60代の男がデフールの屋敷にやってきた。
「こ、これはこれは、バードン様。今日はいったい何のお越しで?」
「ふん」
デフールはその部屋の上位の場所の椅子を空け、バードンに差し出す。バードンは当然のようにそこに座った。
「お前は最近、おもしろいものを造ったそうではないか」
低くて渋い声でバードンは言う。
「は?」
「とぼけるなよ。うちの摺師を使っただろう」
「うっ……」
バードンは従者に指で指示し、デフールの前に偽造債券を1枚置いた。
「これを知らぬとは言わせぬぞ」
バードンは元貴族の出身。今は闇の商人の大元締めだ。
デフールが若いころに、バードンの資金を借りて成長していった、いわば恩人である。
そのため、バードンには頭があがらない。
債券の偽造には、バードンが昔から使っているベテランの闇の摺師に頼んだのだ。
「あいつに口止めは効かぬ。あいつに手を出したら、お前の命はないと思えよ」
「はは……。それは心得ております」
デフールは頭を下げた。
「で、これを誰に売るつもりなのだ?」
「は、地方の、まだ債券の情報をよく知らない富豪層という目星をつけておりますが、まだ具体的には……」
「ふん」
デフールは心の中で(まずい)と思った。
知られたからには、バードンは分け前を要求する。自分の利益が減るのだ。
なんとか、うまくごまかさなければならない。
「実は、邪魔が入りまして……。今後を思案しているところでございます」
「ほう。なんだ、その邪魔というのは?」
「はい、実は……」
デフールはレンダという詐欺師の話をする。
「この男は何者かわかりません。うちの者はカラバルの者ではないかと言っておりますが……」
「ほう? カラバル?」
「はい。ですので、対策を考えているところでございます」
「ふむ……」
バードンはゆったりと座ったまま、考え込む。
「少なくともその男は、金貨50枚を払う者を知っているということだな」
「はい。そうなりますな」
「その男を探せ」
「えっ? どうなさるので?」
「その男の義父をみつけて、その義父に我らが直接売ればよい」
「カラバルにですか?」
「カラバルかどうかはまだわからぬのだろう? 誰であろうと、情報に疎い富豪ならば問題ない」
「はあ……」
デフールは面倒なことになりそうな予感がした。
レンダ、詐欺師を相手に騙しまくる……。
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
ミナは債券を発行し、その裏で詐欺師たちをひきつけ、討伐作戦を企んでいた。思惑通り、詐欺師の一味は動き出し、カイルが諜報員としておびき寄せる。馬商デフールの一味、サナンダがカイルに接触し、ニセ債券を売ろうとする。相手が1枚上手なのを見て、サナンダは驚き……。
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…
カイル(レンダ) … ミナの夫。バンリオル商会工作員、25歳
フライア(フラン) … カイルの相棒で、認識疎外魔法ナスコムの使い手。26歳
サナンダ … 馬の売人。詐欺師デフールの一味。
デフール … 馬商で、詐欺集団の大物。バンリオル銀行に恨みを持ち、債券を買って悪だくみをしている。




