レンダ、詐欺師から債券を買う……?
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。
初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!
サナンダは翌日、デフールの住む郊外の屋敷を訪ねた。
その家は街道から見える位置にあり、二階建ての大きなレンガ造りの建物だ。
背後には広い牧場と馬場、それにかなり横長の厩舎がある。
「どうした。サナンダ」
サナンダが手に入れた債券はデフールが持っている。デフールの金で買っているからだ。
「へい。昨日、酒場で話していた夫婦が、債券を買いに来たけど、どこにもないと言って話していたのを聞きまして」
「ああ。それがどうした?」
「で、旦那はアレを……。もしかして、アレにそっくりなものを……」
さすがに、明るいうちからはっきり話すのは遠慮する。
「フフン。お前も気づいたか。アレを用意すれば、売れるってな」
「へえ」
「そのふたりが言ってました。年取った親父が買いたがっていると。自分が死んでも、若い女房が困らないようにしてやりたいと。つまり、そういう年齢の男はアレを買いたがるんじゃないかって思ったんです」
「ふむ。お前にしては上出来だ。客の絞り込みか。確かにな……」
「で、抽選に当たったけど実は金がないやつとか、買ったはいいが、やっぱり売りたいってやつとか、そういうやつを探しに銀行をうろうろしたって言ってました」
「ふむ。なるほど……。そいつら、馬鹿ではないな」
デフールは「ふむ」と考える。
(富裕層で、年齢は50歳以上。妻は若い。そういう男は無性に欲しがるってことだな……。
そして、買ったはいいが、急に金が必要になって売りたいというやつがいるかもしれないと思って、探しているということか……)
デフールは考えを巡らせると、にやりと笑った。
「また情報を頼むぞ」
そう言って、デフールはサナンダに銀貨を1枚渡す。
「へい。ありがとうございます」
サナンダは頭を下げて、デフールの屋敷を出ていった。
サナンダが去ったあと、デフールはしばらく考え込む。
(バンリオルが売り出すというから、買いに行かせてみたが……)
今のところ、販売は厳重に管理されている。
しかし、まだ債券というものがよく知られていない今こそが、動き出すチャンスだろう。
(絶対にこのチャンスをモノにしてやる……)
デフールは口元をゆがめてニマリと笑った。
第174話 詐欺師をだます詐欺師
3月の初め、いよいよ第2期の債券申し込み抽選会が始まる。
今度は1週間前にバンリオル銀行の前の立て札で告知しておく。
今回も、バンリオル銀行の口座を持っている人が対象だ。
抽選会にはまた多数の人が殺到した。そこで新たに口座を作る者がいる。
前回同様、それらの人々を調べ、身元を洗う。その中から、怪しい人物に目星をつける。
しかし、王都警備隊の今回の一番大きな目的は1回目に撒いた種の回収だ。
カイルとフライアならぬ、レンダとフランは、抽選会の当選発表の日の夕方に、カスラに着く。そして、前回と同じ酒場に入っていった。
二人で気落ちした様子で、黙って定食を食べている。
そこへ、サナンダが入ってきた。
「おう。やっぱりいたか」
サナンダはふたりをみつけるとテーブルに勝手に座る。
「ええと……。あんたの名は……」
「サナンダだよ。忘れたのか?」
「ああ、サナンダだったな。何か用か?」
サナンダは眉をしかめる。
「なんでぇ。ふたりとも、お通夜みたいな顔して。あはん、債券、また外れたのか」
「ああ。……やっぱ、当たりっこないよな」
フランも手慰みにフォークをクルクルと回して、ため息をついている。
「今回、また手ぶらで帰ったら、父さんにまた怒られるわ……」
サナンダはニヤリと笑う。
「あんたら、俺が言った言葉を忘れたのか?」
「ええ?」
「ほら、売りたいやつを探してやるっていったろ?」
「ああ。だけど、本当に探せるわけないだろ。売りたいやつはまず銀行に行くさ。だが、銀行には、そういうやつから買いたいやつが列をなしているんだぜ。とても俺らにはまわってこない。あんたがいくら探そうとしても、無理ってもんだ」
「チッチッ」とサナンダは指を振る。
「あんたら、まだまだ若いな。世間ってもんがわかっちゃいない」
ふたりは顔を上げて、サナンダを見る。
「え、どういうことだ?」
サナンダはテーブルに身を乗り出し、両腕をテーブルに重ねる。
「いいかい? 裕福なやつらっていうのは、見栄っ張りなんだ。だから、みんなが買うって言っているものを、自分だけ黙って見ているってことはできないんだよ。それで、つい抽選に参加する。当たっちまう。買っちまう。だが……本当はそんな余裕がない。
そしたら、どうすると思う?」
「……銀行に行くだろ? 銀行に買ってくれる誰かを探してもらう?」
「馬鹿。そんなみっともないことなんかできないんだよ」
「じゃ、どうするんだ?」
「人づてにこっそり売るんだよ。銀行を通さずな」
「そんなこと、できるのか?」
「ああ。買った者が銀行に行って、名義変更をすればいいんだよ。そしたら、自分は銀行に行かずに済む」
「ふうん?」
レンダとフランは顔を見合わせる。
「俺はそういう見栄っ張りを知ってる。ま、任せな。あんたら、何枚買いたいんだ?」
「とりあえず……5枚」
レンダが言うと、フランも黙ってうんうんと首を振る。
「なんだ。5枚かよ」
「だって、買うには上限があるんだぜ。1人5枚までって聞いたぞ。それ以上持っていたら、おかしいだろ」
「あ、……そうなんかい」
サナンダは口元をすぼめた。
「ま、明日またここで待ってな。おれが話をつけてやるから」
「ああ。わかった」
* * *
翌日、サナンダは酒場の奥の部屋にレンダとフランを呼ぶ。
だが、入ってきたのはレンダ1人だ。
「あれ? 女房はどうした?」
「ああ、今はいない。それより、手に入ったのか?」
「約束通り、話をつけてきたぜ」
「債券を見せてくれ」
「ああ。その前に、金を見せろ」
レンダは金袋を出し、1枚1枚、金貨を並べた。
サナンダが手を出そうとすると、さっと袋に入れる。
「債券が本物か、ちゃんと確認してからな」
「ふん……。用心深いな」
サナンダは債券を5枚並べる。
「へえ……。これが債券ってやつか……」
レンダはその番号を見た。その番号は続き番号になっていた。
「ふん。これ、ニセモノだぞ」
「な、なに?!」
「俺にニセモノを売ろうとしやがったな」
レンダは立ち上がり、サナンダをにらみつける。
「馬鹿を言え。これは本物だ。なんでニセモノだってわかるんだよ? お前、見たことないんだろ?」
「ああ、初めて見たぞ。でもな、番号を見ればニセモノだってわかるんだよ」
「な、なに?!」
「それに、あんたは知らないと思うけどな。そもそも1人1枚しか買えねえ。それから、売るときには持ち主がだれだれに譲渡するって裏書しなきゃ、譲れないんだぜ。それも銀行でな」
「お、おめえ……。何者だ……」
サナンダも立ち上がり、ナイフを出した。
「ただ者じゃねえな。いったい誰だ?」
カイルはこのニセ債券をどうするつもりなのか……?!
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
ミナはコブルーで祝祭を開催して、エカーリアの結婚資金を作った。その裏で王国軍が盗賊掃討戦、詐欺師掃討戦を遂行した。ミナが次に計画したのは港の拡張工事のための債券発行である。その裏で再び、詐欺師たちをおびき寄せる作戦を立てた。詐欺師の一味は動き出し、カイルが諜報員としておびき寄せる。
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…
カイル(レンダ) … ミナの夫。バンリオル商会工作員、25歳
フライア(フラン) … カイルの相棒で、認識疎外魔法ナスコムの使い手。26歳
サナンダ … 馬の売人。詐欺師デフールの一味。
デフール … 馬商で、詐欺集団の大物。バンリオル銀行に恨みを持ち、債券を買って悪だくみをしている。




