怪しい夫婦、王都近郊をうろつく
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。
初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!
第173話 債券の使い道
王都近郊の宿場町カスラに、一軒だけの酒場がある。
ある夜、50代の白髪の男、サナンダは、いつものようにカウンターに座っていた。
黙って座るだけで、カウンターから料理と酒が出てくる。常連客なのだ。
店内は結構広い。テーブル席がいくつかあるが、今はわずかしか人がいない。
しばらく黙って食べていると、ギッと扉が開く。
男女の一組が入ってきて、中央の席に座る。
ふたりともまだ若く、女は白っぽい茶色の髪で小柄だ。髪を結いあげて髪留めで止めている。男はがっしりとして背が高く、黒髪だ。どちらも身なりはそこそこいい。
壁の木札に書かれたメニューを見て、男がカウンターに向かって注文する。
「週替わり定食2つ。それと酒な」
「あいよ」
カウンターの料理人が返事をする。
「疲れたわよ……」
女がぼやく。
「ああ、あちこちの銀行を全部歩き回ったからな……」
ふたりでため息をつく。
「後で、脚をもんでね」
女がにっこりする。
「ああ……」
男は目線をずらして、気のない返事をした。
「銀行」と聞いて、サナンダは聞き耳を立てた。
「父さんも無理難題言うんだから。抽選外れたって言うの! まったく……」
「はあ……。ま、もうすぐあの世だろ。もう少しの辛抱だ」
そう言って、料理人がカウンターに置いた料理を男が運んで、ふたりで食べ始めた。
「なんなの? あのサイケンってやつ。あたしには何度聞いても全然わかんない」
「ああ、俺にもよくわかんね……」
「あんたがわからないなら、あたしがわかるわけないか」
「だって、新しい商品だってよ。誰も見たことないんだぜ? 証書みたいなもんだって言うのはわかるが、金を貸すのとどう違うのかよくわからん……」
そう言って、またため息をつきながら、飯を食べる。
サナンダはカウンターに置かれた彼らの酒のカップを運んでやりながら、声をかけた。
「あんたら、今、サイケンって言ったか?」
ふたりはハッと顔を上げる。
ほい、とサナンダは酒のカップを置いた。
胡散臭そうにふたりが見るので、
「俺はここの常連さ。サナンダってんだ」
と言って、同じテーブルに座る。
「ああ、言った。それがどうかしたか?」
「債券、買いに来たのか?」
「ああ。だけど、抽選、外れちまった。そう言ったのに、親父があきらめきれないっていうから、またフリストルに来て、なんとか残ってないか探したけど、なかったさ」
不満足そうに、若い男は飯を食べ続ける。
「お前、名前は……?」
若い男は顔を上げて、一瞬眉をひそめたが、
「レンダ。なんか用か?」と言った。
「ま、そう警戒すんなよ。俺は馬を扱っててな。仕事であちこち行くから、結構いろんな噂を聞くんだよ」
サナンダは人の好さそうな笑顔を見せる。
「ふうん……。それがどうした?」
「債券ってのはすごい人気らしいな」
「ああ、人気過ぎて、抽選になんか当たりっこないぜ」
レンダは食事を終えて、酒を飲む。
「どこを回ってきたんだ?」
男女はふたりで顔を見合わせる。
「王都の5つの銀行とか、バンリオルの郊外の支店とか……」
レンダが答えた。
「抽選に当たったけど実は金がなくて買えないやつだって、いるかもしれないでしょ? 買ったけど、『やっぱり誰かに売りたい』ってやつとかさ。そういうのがどっかに残ってないかって……」
と女が補足する。
「おまえさんの名は?」
「フラン」
女は最後の一口を食べ終わる。
「あたしの父さんが、債券を買ってこいって言うから、しかたなくうちの人と一緒にフリストルに来た。もう二度目よ。行ったり来たり」
フランは酒を水代わりにごくごくと飲んだ。
「『俺はもうすぐ死ぬ。そしたら、ネリルが心配だ。金を残してやらなきゃ…』ってね。あたしらに残せばいいのに!」
「ネリルって?……」
サナンダは話が見えない。
「父さんの二度目の女房! あたしには関係ない」
「ああ。俺らがネリルを見てやるって言ってんのに、あの親父、『信用ならない』だと」
「債券を買って、どうすんだ?」
「知らん。そもそも俺は債券を知らん。債券を買えば、金が減らないって言ってた。そんなわけあるかってんだ。ま、ボケてんのかもな」
「でもさ……。債券を買って帰んないと、あたしたちも父さんからお金をもらえないのよ。あんた、どうする?」
フランは困ったような顔をしてレンダを見つめる。
「また次に売りに出されたときに抽選に申し込むしかないだろ」
「はあ。当たるかどうかわからない抽選のために、何回ここまで来るのよ」
フランはげんなりしたようなため息をつく。
「おめえら、どこに住んでんだ?」
「ラッスル」
「ああ、近いんだな」
それはここから馬車で半日だ。
サナンダはしばらく黙って考えた。
「債券、探してやろうか? あったら何枚買いたいんだ?」
「えっ?!」
ふたりとも顔を上げる。
「うそだろ。そんなに何枚も買っているやつなんて……」
「ま、俺も知らんけどな。言ったろ? 俺は噂話に詳しいんだよ。だから、とりあえず、周りに聞いてみてやるよ」
「へえ。ま、抽選で当たるよりも、そっちのほうが確率は良さそうだな」
それから、少し考えるポーズをする。
「……ふたりでここに来るための宿代や馬車代を考えたら、銀貨5枚くらいは上乗せして払っても、まだましだな」
フランも頷く。
「あたしたち、次回の抽選申し込みのときにはここに泊まることにするよ。その時、また外れたら、教えてちょうだいよ」
「ま、そんなに都合のいい話はないと思うけどな」
レンダがアハハと笑う。
「ああ。いいぜ。俺も銀貨1枚くらいはもらえるだろ? それならちゃんと探してやるさ」
サナンダは笑顔を作った。
ふたりは立ち上がり、カウンターで金を払うと、上階の宿のほうに上がっていった。
「あんた。脚、もんでね」
とフランがレンダの腕に抱きつく。
「ああ……」
サナンダはひとりでテーブルに残り、考え込んでいた。
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
ミナはコブルーで祝祭を開催して、エカーリアの結婚資金を作ると同時に王国軍が盗賊掃討戦、詐欺師掃討戦を遂行した。ミナが次に計画したのは港の拡張工事のための債券発行である。その裏で再び、詐欺師たちをおびき寄せる作戦を立てた。債券を買おうと富裕層は大騒ぎ。その裏で、秘密の作戦が動いていた。
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…
カイル(レンダ) … ミナの夫。バンリオル商会工作員、25歳
アンドリオン … ブリア領主。ミナの上司,27歳
フライア(フラン) … カイルの相棒で、認識疎外魔法ナスコムの使い手。26歳




