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ミナは稼ぐ手を緩めない。そのころ、詐欺師の目途もつき……

このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。


初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!



第172話 経費を絞り上げる目的


 2月の初め。ミナはタンブリーの執務室で、王都の出張所から債券の成り行きについての報告の書簡を読む。


「う~ん。いい調子」

 ミナは今のところの進行に満足だ。とりあえず、お金は金貨100枚確保できた。

 桟橋拡張工事はスタートできる。

 技師の確保もできたし、本番の2つ目の新埠頭の設計は、フェルビルたちに任せられるだろう。


 とはいえ、良い設計であれば、それだけお金がかかる。たっぷりとお金をかけて、良いものを造るに越したことはない。


(もっと儲けるには……)

 ミナは朝から晩まで、どうやって利益を上げるかばかり考えている。

(そうだわ。広告収入ね!)


 広告は下手をすると景観を損ねるが、アートにしてしまえば、これも良い客寄せとなる。

 まず、港湾局の軒下の壁に、コブルー全体の案内図を絵師に書かせる。


 そこに、広告を付けられるようにするのだ。

(高級宿、酒場、飯屋、買取屋、装備品屋、鍛冶屋……)

 旅行ガイドブックのように、C3などと書いてあると、地図上で店の場所がわかるようにする。


(倉庫の壁にも広告用の掲示スペースを作って……と)

 その広告スペースを月額で売る。

(少し軒を伸ばさなきゃ……)

 初期経費が少しかかる。

(ええと……。軒下を伸ばす経費の回収は……)


 一人でブツブツと言いながら、書字板に数字を書く。

 いろいろな店の広告が貼りだされている様子をイメージする。


「う~ん……」

 また腕組みをして唸り始める。

 広告収入だけではなかなか儲からないが、こういう小さな積み重ねが大事だ。

「塵も積もれば山となる……」


 収入も大切だが、利益を上げるには経費節減や効率性アップも大切だ。


「要は、接岸時間を短くするわけだから……」

 埠頭の改善で荷揚げ時間を減らすことはだいぶできそうだ。


「あとは、補給時間を減らすには……」

 またつらつらと書字板に絵や数字を描いていく。


 水や油、燃料の提供、食糧の提供、帆やロープ、工具の補充……。

(だいたい、補給するものは決まっているんだから、いちいち船を降りて、それを買いに行くのは面倒よね。通販みたいに注文したら届くとか、できないかしら……)


 こうして、ミナは『補給セット注文システム』なるものを考案する。

 船を降りず、湾内に漂いながら、注文を取りに来た小舟の御用聞きに注文する、というシステムだ。

 大きめの木の板に補給品のリストを書いておき、そこに数字を入れて返してもらう。

「近海漁業用補給3日セット3人分」

「遠洋航海用補給7日セット10人分」

 などだ。


 そのリストにないものだけ、別枠で注文すればいい。

 つまり、毎回一つひとつ考えなくてよい仕組みにするのである。

 前日に注文して、翌日の決めた時間に接岸すれば、わずかな時間で補給ができる。


「これだったら、補給だけのために寄港する船が増えるわ。市場の商品がもっと売れる! 寄港が増えれば案内板と広告が必要になって、広告収入も増える」


「ウフフ」とミナはほくそ笑む。儲かると思えるこの瞬間がミナの至福の時だ。



 ミナがブツブツと考えているところに、アンドリオンがやってくる。


 最近はアンドリオンのほうがミナのところにやってくることが多くなった。ミナを呼びつけて待っている時間がイライラするからだ。


「ミナ、公爵家との結婚式の日取りが正式に決まったぞ」

「え、いつですか?」

「9月15日だ」

 それは悪くない日取りである。

 今年のコブルーの祝祭は昨年と同じ10月15日だ。

 その1か月前となる。


「そうですか。今から準備しませんとね」

「ああ。だが、それはうちの侍従たちに任せればよい」


「いえ! 少しでも経費を少なくしませんと!」

 ミナはこぶしを振り上げる。

 商売を知らない侍従たちに任せたら、商人の言いなりになるではないか。


「た、たとえば……?」

 アンドリオンはとりあえず座って、ミナの話を聞く。

 ミナもソファに座り直し、熱弁をふるう。


「まずは、エカーリア様の従者用の衣装代でございます。これは着替え分を含めて春夏冬で全部で48着。金額は馬鹿になりません。お仕着せですからデザインも布も同じ。縫製がきちんとしていれば、どこの仕立て屋でもよいでしょう。ですので、入札制とさせていただきます」

「は、にゅ、入札……」


「それから、領地にふるまう酒でございますが、これは、領地内の酒蔵にお触れを出し、この機会に酒を宣伝したいと希望する者から割安で酒を提供していただきます」

 これもやることは決まっているから、価格入札制でできる。


「は、はあ……」

 アンドリオンはため息をつく。

「君は忙しいと思ったのだが……。自分でやりたいのだな?」


「何をおっしゃいます。何のための忙しさでございましょうか」

「何のためなのだ?」


「お金を儲けるために決まっております。儲けるなら忙しくて当たり前でございます」

「儲ける? 安くするのだろう?」

「はい。経費の削減は、利益の増大と同じでございます」


「はあ~……」

 アンドリオンは再びため息をつき、額を右手で抑える。

「済まぬが、私にはその根性が理解できぬ……」


「さようでございましょうとも。アンドリオン様は高貴なお生まれですから、それでよろしいのです。このようなことはわたくしにお任せくださいませ。オホホ……」

「そ、そうか……」


 貴族はお仕着せを着る人の対極にいる。一人ひとりが特別なのだ。

 量で勝負する庶民にこそ、一律に決めてしまう「標準化」は合うのである。


「とはいっても、わたくしがすべてを取り仕切ることはできませんので、この手配を担当する者を選びませんと」

「わかった。ロエルを君の手伝いによこすとしよう」

「は、ありがとうございます」


 こうして、ミナはかなりのものを標準化していった。

「領地で開催する祝いの料理はアレとアレとアレ。これらが上手に作れる料理人を競技させて募集します」

「花嫁の馬車行列を飾る花もアレとアレとアレを使います。その納入と飾り付けを入札で募集いたします」


 先に内容を決めれば動きは速くなり、余計な経費は減る。


「そうして浮いた経費でエカーリア様の衣装や宝飾品を作ります。そこはお金をかけませんと!」

 ウェディングドレス以外も新調しなくてはいけない。女性の場合、既婚と未婚ではドレスのデザインが異なるからだ。


「結局、一番金をかけるのはそこなのだな?」

 アンドリオンはほっとして微笑む。

「はい。エカーリア様を最高に美しくできる王都一のデザイナーに頼むのでございます!」


(こだわりぬいた衣装を作ってもらうのよ!)とミナは息巻く。


 そして、7か月後を思って、「ウフフ」とミナはもう勝ち誇ったように笑った。


 * * *


 一方、王都では7人の調査が続く。

「チェスコブ総隊長。現状を報告いたします」

 オルスクが部下とともに、チェスコブに報告書を提出する。


「7人の身分を調べましたところ、ほぼ全員がこちらの関係者であることがわかりました」


 オルスクが指さしたのは、資料の中の馬商デフールの情報である。


「馬商デフール。郊外に牧場を持っており、あちこちから買い集めた馬を調教して、馬市場で販売しております。宿場町の厩にも馬を卸しており、御者や馬商から各地の噂が自然と集まる立場にあります」


「なるほど……」

「7人はここの雇われ人、または牧場関係者、あるいは親戚となっています。

「ほう」

 チェスコブは腕組みをして、頷く。


「バンリオルがとらえた襲撃者を問いつめましたところ、その仕事の依頼は馬市場にいた斡旋業者からのものとのことでした」

「ふむ……」

 チェスコブは資料をよく読む。


「なるほど。ほぼつながったな。摺師に注意はしておるか?」

「は。証書の制作をしております摺師とその弟子たちには、怪しい依頼を受けたらすぐに連絡するように伝えております。証書の偽造は厳しい実刑ですから、すでに警備隊に目をつけられていると知れば、依頼を受けることはしないでしょう」

「ふむ。順調だな……」


(さて、やつらがいつ動くか……)


「次はいかがいたしましょうか?」

「ふむ……」


 チェスコブは少し考える。

「向うの出方を待っているのは無駄だ。少しエサをちらつかせるとしよう」

「は。エサですか?」

「うむ。……バンリオルのところに優秀な工作員がいるからな」


 チェスコブはニヤリと笑った。


カイルの出番がやってきた……。


いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。

この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。

---今までのあらすじ---

ミナはコブルーで祝祭を開催して、エカーリアの結婚資金を作った。その裏で、王国軍が盗賊掃討戦を、五大商会が詐欺師掃討戦を遂行した。ミナが次に計画したのは港の拡張である。その資金作りのため、ミナは債券の仕組みを提案し、その裏で詐欺師討伐に新たな罠を仕掛けた。そして、債券が販売される日……。

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用語集

ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…

カイル … ミナの夫。バンリオル商会工作員、24歳

アンドリオン … ブリア領主。ミナの上司,26歳

フェルビル … 王都から呼び寄せた技師

エカーリア … アンドリオンの妹。結婚準備をしている

ロエル … アンドリオンの側近

チェスコブ … 王都警備隊隊長で、今回の詐欺師グループ摘発を遂行中

オルスク … チェスコブの部下


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