債券に群がる人々から、詐欺師たちを洗い出す
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。
初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!
第171話 コブルー債で王都騒然
吐く息が白くなる1月の王都フリストルの朝、王国の富裕層を大騒ぎさせる大事件が始まった。
バンリオル銀行本店の扉が開く前から、店の前には長い列ができていた。
「まだ開かぬのか!」
「申し込みは今日からだろう?」
「急げ! 100枚しかないぞ!」
厚い外套を着た商人たちが、寒さも忘れて順番を待っている。
その様子を見て、通りすがりの者たちが首をかしげた。
「なんだ?」
「バンリオルで何かあったのか?」
「また取り付けか?」
「いや、違うらしいぞ。新しい商品を売るそうだ」
「えっ、銀行が商品を? なんだ、そりゃ」
「金貨1枚で、1年ごとに利息が入る証書らしいぞ!」
噂はあっという間に市場へ広がっていった。
バンリオル銀行では、客に次のように説明する。
「申し訳ございません。現在は、購入予約の申し込みでございまして、すぐにご購入いただけるわけではございません。書類に必要事項をご記入いただき、お申込みください。その中から、抽選で100名様に購入権が当たるということになっております」
「なんじゃ、そりゃ。すぐに買えるのではないのか?!」
「はい。申し訳ございません」
「次のお客様、どうぞ!」
「わしも買いたいのだが……」
「はい、当行に口座をお持ちで?」
「いや……。持っておらん」
「では、まず銀行に口座を作っていただくことになります」
「えっ、なぜだ?」
「はい。利息の支払いを受け取るためでございます」
「な、なるほど。それはすぐにできるのか?」
「3日ほどかかりますが……」
「ま、なら間に合うな」
ダルザ銀行では朝から客が押しかけていた。
「こちらでは売っておらんのか!」
「申し訳ございません。当行では取り扱っておりません」
「なぜだ!」
「はい。まだ試験段階でございますので、当行ではまだ安全かどうか確認できませんと、お客様への販売は控えさせていただいております」
「フン。たかが金貨1枚。しかし、不公平ではないか! わしは出遅れたわい」
そう言って、出ていった。
実は、これらの初日の客はほとんどがサクラである。
債券の話をバンリオルの顧客のみに通達したことにしているが、これも嘘である。
騒ぎ立てて、詐欺師の目を引くようにしているだけだ。
詐欺師は、この話を知らなかったことに焦るだろう。
そして、この騒ぎを見た一般の民衆があちこちで噂を始める。
「おい、聞いたか。バンリオル銀行で、なんかすごいオトクな商品が販売されたんだってよ」
「金貨1枚貸せば、利息が毎年もらえるってやつだろ?」
「ほう? そりゃ、金貨1枚なら、買えなくはねえな。でも、口座がねえな……」
「口座は作りゃいいんだとよ。それからでも申し込みは間に合うってさ」
「えっ?!」
* * *
抽選申し込みが始まって、1週間経った。
銀行の裏では、財務庁の官僚と五大商会の商会員がせっせと新しく作られた口座を調べている。
バンリオル銀行を最初の取扱銀行にしたのは、一番口座数が多いからだ。だから、新規で口座を作る人は一番少なくなる。そのほうが調べやすい。
その理由を聞いた残り4つの銀行は、皆納得して、バンリオル銀行に任せることにした。
この1週間で、口座を作りに来た客は25人。その名前を調べて、すでにほかの銀行に口座を持っているかを調べる。だから、バンリオル以外の商会員も顧客名簿を調べるという作業をしているのだ。
そして、念のために、財務官僚が税務帳簿を調べ、事業をしているかどうかをチェックする。
「今のところ、この4人が怪しいですな」
財務庁の官僚が、チェスコブの部下で、詐欺摘発係となったオルスクに言う。
そこには4人の名前がある。
「身分証は確認したのだろうな」
「はい。口座申し込みでは必ず確認いたしますので。この4人は特に、どこにも口座を持っておりませんし、事業をしている経歴もありません。フリストルの税務部だけの調べですが…」
「貴族でもございません。平民です」
オルスクの部下が紙を数枚持ってくる。
「身体特徴はこちらでございます」
口座開設の手続きを長引かせて、その間に衝立の後ろにいる絵師に簡単な絵を描かせている。
「ふむ……。これは見事な絵ですな」
銀行の商会員が覗き込んで驚く。
「は、恐れ入ります」
絵師が照れる。絵師は警備隊で雇われている、人相書きの専門家だ。
「あと1週間ございます。あと何人申し込むか……」
* * *
こうして、2週間の抽選申し込み期間が過ぎ、口座開設者は合計67人となった。
その中の7人が怪しい。
同じ詐欺師の元締めが、7人を抽選会に潜り込ませた可能性が高い。
この販売そのものが詐欺師あぶりだし作戦なので、怪しい者をわざと当選させる許可を王府からもらっている。7人のうち1人を選ぶのだ。
「いやいや、これはもしかすると、2つの組織があるのでは?」
「うーむ……確かに」
債券の偽造ができるような大掛かりな詐欺は組織でなければできない。
警備隊がつかんでいる主だった詐欺集団の情報は2組ある。
「しかし、もし同じ組織だとしたら、債券が2枚行ってしまいます。それはまずいでしょう」
1枚しかなければ、書面の数字の意味はわからないが、2枚あれば推測できるかもしれない。だから、2枚のほうが偽造しやすいのだ。
「いやいや、詐欺師はどうしても債券が欲しいはず。4人程度では抽選に当たらない可能性のほうが高い。7人1組と考えるほうがよいでしょう」
侃々諤々の議論が始まる。
「う~む。これはカケですな……」
もし、その1人が外れたら、今回の囮作戦は機能しない。
「だが、最初の4人を調べたとき、共通の人物が浮かび上がった。だから、つけさせている」
オルスクが商会員たちに言う。まだ後半の3人は調べがついていないのだ。
「だから、4人のうちの1人を選ぶなら、かなりの確率でアタリだろう」
結局7人のうち1人を当選ということにした。
1月29日には、バンリオル銀行の表に立て札を立て、当選発表をした。
多くの人が見に来る。
自分の番号がない者は、「くそ~!! はずれか!」と悔しそうに言い、申し込みの半券を破る。
欲しかったのに買えなかった人がたくさんいるということだ。
当選者は大喜びで、そのまま銀行の中に入っていく。
そして、7人のうちの1人、サナンダという男が当選し、銀行にやってきて、債券を買っていった。
オルスクの部下が、その男を付ける。
(行先は、おそらく……)
オルスクには目星がついていた。
サナンダは50代の男で、口座の申し込みは7人中、2番目だった。
最初の2,3人はおそらくかなり首領に近い手下だろう。その中で一番年上の者を選んだのは、それだけ首領と長く働いている可能性があるからだ。
サナンダが戻っていった先は、王都のはずれにある牧場の家だった。
(やはり……)
オルスクは部下の報告に頷く。
だいたい、詐欺師の隠れ家の目星はついた。
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
ミナはコブルーで祝祭を開催して、かなりのお金を作った。その裏で、王国軍が盗賊掃討戦を、五大商会が詐欺師掃討戦を遂行した。ミナが次に計画したのは港の拡張である。その資金作りのため、ミナは債券の仕組みを提案し、その裏で詐欺師討伐に新たな罠を仕掛けた。そして、債券が販売される日……。
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用語集
五大商会 … 王都に銀行を持つ5つの大商会。バンリオル、コマキア、ダルザなど
チェスコブ … 王都警備隊の隊長で、詐欺師摘発の任務を受けている




