ミナ、ブリアに優秀な技師を取り込む秘策を考える
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。
初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!
「なるほど……。だから、金融商品。利息がもらえるという証書を、モノと同じように、人に売ることもできる、ということなのですね」
バンリオルは大きく頷いた。
「はい。そういうことになります」
ミナはバンリオルの理解の早さに感心する。
「しかし、欲しい人がそう簡単にみつかるか……。もし簡単にみつかるようなら、その商品は結構売れると思いますが」
「さすがでございます、ボリックさん! わたくしの故郷では、銀行のような債券取扱所がございまして、そこで自由に売買できるのでございます」
「ええ?!」
「たとえば、ボリックさんが銀貨100枚でそれを買ったとします。でも、5%の利率で利息を3年間もらった後で、売りたくなった。その場合、買う人は少しでも安く買いたいですよね? ボリックさんは早く売りたい。すると、銀貨100枚ではなく、97枚とか、少しだけお安くして売るかもしれません。すると、ボリックさんから買った人はちょっとトクをしますよね」
「な、なんと、それはおもしろい! 私が97枚で売っても、利息はすでに15枚もらっていますから、損はしておりませんな!」
「この債券が出回りますと、いずれ、こういう債券市場が必要になるかもしれませんね」
「でしたら、ぜひ、バンリオル銀行でやらせていただきたいですな!」
「ええ。それはありがたいですわ。ですが、この発行元は王府ですので、わたくしの一存では決められませんわ」
そう言って笑った。
「ミナさん、この仕組みが広まれば、金持ちだけが商売をする時代ではなくなりますな」
「はい。国中のお金が動き始めますわ」
「ううむ……。これはすごい。……やはりミナさんは恐ろしい……」
バンリオルは腕組みをして唸った。
「おほほ……」
ミナは笑ってごまかした。
* * *
バンリオルが去って、代わりにカイルがやってくる。
「カイル……」
ミナはギュッと抱きつく。
「ミナ」
カイルはギュッと抱きしめる。
「最後に会ったのはいつかしら?」
「……1か月と5日前」
「あれ? そう?」
もっと長い間、会えていない気がする。
「そうだよ。割と早かったほう」
「ええ? まあ、掃討戦のときにはずっと会えなかったものね……」
ふたりでソファに座る。
「それ、どうしたんだ? そんなの、持っていなかったろ?」
カイルはイヤリングに指でツンと触れた。
「レオスト様とシャンドラ様からいただいたの! きれいでしょ?」
「ああ。きれいだ! 大きなメリ石だな。すごく似合ってる」
顔を近づけて、そのままキスをする。
(メリ石?)
カイルが石の名前を言った。ミナはその名前を知らない。
「いつ帰れるの?」と聞きたいが、自分もいつ帰れるかわからないので、聞きづらい。
カイルはミナの心の声を聞く。
「まだいろいろあってな。旦那様も狙われていて……。タンブリーにはしばらく帰れそうもない」
「狙われている? 誰に?」
「偽商人たちがかなり捕まったろ? あれは五大商会がやったことだから、旦那様だけじゃなくて、五大商会の代表たちはみんな報復を警戒しているんだ」
「な、なるほど。まだ大物が残っているってことね?」
「そういうことだな」
(ふうん……)
「カイル、ボリックさんをお願いね。彼に何かあったら、私も悲しい」
「ああ。わかってる」
バンリオルはふたりにとって恩人だ。カイルは絶対に守ってくれるだろうと、ミナは思った。
ミナは心の中でまた討伐戦を考える。
こういう盗賊の類を許してはいけないのだ。
(何かできないかな……)
第168話 技師を呼ぶための仕組み
ミナは王都のブリア出張所に行き、ブリアの商務部港湾担当に郵便で指示を出す。
桟橋の延長工事は予算がすでにできたので、その設計を進めてもらうのだ。
そして、新埠頭の設計図に取り掛かってもらう。
王府の財務部では、債券の仕組みを詳細に検討してもらうが、いろいろな計算が必要で、完成するまでまだ時間がかかる。そのため、ミナは技術者の目星をつけることにした。
訪れたのは、王府の建設庁だ。カルドゥスに紹介をもらって、土木技師に会うことにした。
一通りの挨拶をして、ミナは話を切り出す。
「ブリアでは、コブルー港の埠頭の増築を予定しております。全部一度ではなく、一つひとつ造っていく予定でございますが、技師が足りません。王府から何人か、派遣していただくことは可能でしょうか」
「ふむ……少々お待ちください」
担当官のロミダンは建築技師の名簿を手にして戻ってきた。
「今、王都での建築現場でかなり技師が出ております。それから、街道工事があちこちで始まっており、そこへも行っておりますな。ま、派遣できなくはないと思いますが……」
ミナはその続きを待つ。
「やはり、ブリアと言いますと、国境地域。どうしても遠いと感じますし、よほど収入が良いか、それともよほど興味のある建築現場でないと、希望する者はいないかと……」
ロミダンは表情を変えずにそう言った。
「はあ……」
(要するに、ブリアじゃ魅力がないから誰もいかないよってこと?!)
「興味のある建築現場なら、来ていただけるということですね?」
「ええ。技師というのは、自分の力を試したいという思いが旺盛ですので、名を残せる建築ができるか、というのは仕事を選ぶ大きなポイントですな」
(名を残す……)
「わかりました。とにかく、技師はいると。で、建築現場に魅力があれば、来ていただけると」
ミナは念押しする。
「ええ。おそらくは」
ロミダンは抑揚のない声で言った。
* * *
次に、ミナはレオストの許可をもらって、王立技師養成所を訪れる。ここで新人の勧誘をするのだ。
ミナは授業のじゃまをしないように、お昼休みの時間に食堂にやってきた。
養成所の事務担当が、ミナを学生に紹介してくれる。
「皆様に少しお聞きしたいことがございます」
たくさんの学生がミナのところに集まる。
「わたくしはブリア侯行政顧問のミナと申します。ブリアでは、コブルー港の拡張工事を予定しております。皆様がもし、コブルー港でお仕事をするとしたら、どんなことをなさりたいでしょうか? こんなことができるなら、働いてみたい、と思えるアイデアをいただきたいのでございます」
学生たちはう~ん……と腕組みをして考えた。
学生たち皆、夢を持っている。
「美しい橋を架けたい」
「巨大な城を建てたい」
「目立つ凱旋門や記念塔を建てたい」
などだ。
「コブルー港では輸送箱を使っていると聞いています! 新しい試みをしているとか」
「ええ。車のついた輸送箱をタラップを使って人力で押して船に運んでいます。まだ輸送箱用の荷揚げ機がないのです」
「荷揚げ機?」
「滑車を使った荷揚げ機ですわ。樽や穀物を運べる滑車はあるのですが。標準輸送箱用の荷揚げ機を開発していただけますか?」
ミナはニコニコして答える。学生たちが積極的な反応をしてくれることがうれしい。
だんだんと人だかりができ、講師たちも集まってきた。
「ん~……。拡張工事というと、新しく埠頭を造るということですよね? それはどんな規模なのですか?」
「はい、一つ目は外国船・大型商船用となっております。補強工事として、3つの埠頭の拡張も計画しております。ここには、トロッコ線を設置いたします」
「トロッコ?!」
「へえ。港にトロッコですか……」
「だとしたら、大型倉庫も必要ですよね?! 私は、大型倉庫の効率の良い設計を考えているのです!」
「まあ、それは素晴らしいです! どのようなものですか?」
「倉庫内の天井に滑車を取り付けます。それを使って、縦にどんどん積み上げていけるような……」
「私のアイデアも聞いてください。私のアイデアは、船のドックの排水のアイデアです!」
「ミナ殿。私は水門のアイデアがあるのですが、水門を造る予定は?」
次々とアイデアが出てくる。
「あの、ミナ殿。それを採用していただくと、……あの、自分で造るということになるでしょうか?」
「それはモノにもよりますが、大きなものでしたら、先輩の技師の監督の下で働いていただく、ということになります。小さなもので、わずかな人数で造れるものであれば、ご自分で造っていただく、ということになります。
もちろん、ちゃんと正当な労賃をお支払いいたしますよ。それだけではございません。
新しい工法、新しい部品などを考案していただきましたら、その発明品にお名前を付けさせていただきます」
「ええ~?!」
学生たちは驚きの声を上げた。
「あ、あの! 私は聞いたことがあります。造船科のキトーは、ブリアの技師として、レオスト殿下に設計図をお買い上げいただいたと! そして、その船はキトー船と呼ばれているのですよね?!」
「ええ! キトー船は、試験船の建造がだいたい終わったところで、航行を試験中ですわ」
「うわ~! それはすごいですね!」
「ええ! 皆様のアイデアをできる限りコブルー港に採用したく存じますので、ぜひ一度、コブルーをお訪ねくださいませ。ご自分の目で港を見ていただければ、きっとアイデアがどんどん浮かぶことでございましょう」
「え、コブルーへ……?」
「そうですね。現場を見てみないと……」
学生たちが静かに考え始める。
「あ、あの……」
一人の学生がおそるおそる手を上げる。
「はい、なんでしょうか?」
「あの、私はキトーと同じ平民でして。とてもコブルーに行くお金の余裕がございません。出世払い……というのはありますか?」
ミナは微笑んだ。
「ご心配はいりませんよ。冬の間はお休みがございますよね? そのときに、ご希望のかたをコブルーにご招待いたしましょう。馬車代、宿代、食事代は、ブリアが持ちます」
「ええ~?!」
どよめきが起きる。
「ただし、人数は12人まで。希望者が多いようでしたら、面接をして、成績表か設計図などを見せていただいて、選定させていただきます。
……できましたら、限られた予算ですので、平民優先とさせていただきます。貴族のかたは自費でお越しいただくと幸いでございます。高級宿、高級馬車とはまいりませんので」
「は、はい!……」
皆感激して、明るいため息を吐く。
「詳しくはまたお知らせにまいりますね」
「は、はい!!」
休憩時間の終わりを告げる鐘がなり、学生たちは興奮の中で食堂を去っていく。
ミナも、食堂を去ろうとすると、何人かの大人の男たちに呼び止められた。
「あ、あの……、ミナ殿」
「あ、はい。なにか?」
「私は土木科の講師、フェルビルと申します……。あの、アイデアを出すのは、講師でもかまいませんか?」
何人かの男たちは皆講師である。つまり、本物の技師たちだ。
「もちろんでございます。大歓迎ですわ! 講師の皆様には、別枠で予算を用意させていただきます」
「おお。それはありがたい!」
ミナはほくそ笑んだ。
20人くらいの旅行費用ならばリクルート費用としては安いものだ。
(よし、これで技師たちの興味を引いたわ……)
ついに債券に手を出したミナ。国を作り上げるには、金融商品がかかせない!
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
ミナはコブルーで祝祭を開催して、かなりのお金を作った。その裏で、王国軍が盗賊掃討戦を、五大商会が詐欺師掃討戦を遂行した。ミナが次に計画したのは港の拡張である。その資金作りのため、ミナは王都の財務庁にやってきた。そこで提案したのは債券という金融商品だ。それを官僚たちに説明したあと、大商人ボリック・バンリオルに会いにきて、彼にも説明した。
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…
カイル … ミナの夫。バンリオル商会工作員、24歳
ボリック・バンリオル … バンリオル商会の代表、30歳
レオスト … 王弟で国防の最高司令官
シャンドラ … レオストの正妻




