レオストを名誉回復させた報酬としてミナが受け取ったのは……
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。
初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!
第166話 港の改造計画
ミナは再び、土木部を訪れる。主任のスカルドに紹介された土木部の土木技師、ワットンに相談だ。
ワットンは40代の年季の入った技師だ。前回の港湾拡張工事にも、技師になりたての時に関わっている。
「まずは、漁船用の第1、第2埠頭、それに小型船用の第3埠頭のご相談です」
「はい」
ミナは書字版に簡単な図を描く。この3つは木製の桟橋だ。
「このように、まず、桟橋の幅を2メートルほど広げ、長さを50メートルほど延長したいのでございます。そして、桟橋の中央にレールを敷き、トロッコを走らせます」
「は、トロッコ?……をですか?」
「はい。こんなふうにして、魚市場の入り口までつなげます。ここに引き込み線をつくり、貨車だまりを作ります。船が着いたら、ここからさっと貨車を出せるように……」
「あの……。トロッコと言いますと、あの……鉱山にある、アレですか?」
「はい。アレでございます」
「それを桟橋につける……と?」
ワットンはきょとんとする。
ミナが考えたのは、まずはボトルネックの解消作戦だ。
漁船は朝から漁に出て、昼前には一斉に戻ってくる。そのため港は短時間で混雑し、順番待ちの船が沖合にあふれてしまう。それがほかの船の航行を妨げるのだ。
ならば、漁船が埠頭にいる時間そのものを短くすればいい。
トロッコを使ってさっさと荷を動かせば、接岸時間をかなり節約できる。
そして、第1、第2の漁船用のトロッコは、魚市場あるいは加工工場まで一挙に運んでしまう。第3埠頭は倉庫街までレールを敷く。
「トロッコですと、馬1頭でかなりたくさんの荷を一挙に運べますわ!」
「は、はあ……。港にトロッコ……」
ワットンは頭が混乱中だ。
「港にトロッコ……」としばらくつぶやいている。
「ふむ……。それは可能ですが……。レールが錆びやすいので、排水を……。う~ん……。桟橋を補強し、長さを増やす……。う~ん……」
かなり悩ませてしまった。
「ざっとですが、費用は……」
ワットンは過去の資料を見る。
「桟橋1つ分で金貨50枚ほど。……ですが、トロッコとレールの費用はここではまだわかりません。扱ったことがございませんので」
「ええ、それで結構ですわ!」
(金貨100枚でなんとかできそう……)
ミナは心の中で見積もる。
ミナは、7つ作りたかった埠頭を、3つは桟橋を伸ばし、荷揚げ場を増やし、接岸時間を短縮する作戦に変え、とりあえず4つにすることにした。
「なるほど。埠頭を増やすのではなく、接岸時間を減らして、捌ける量を増やす……ということですか」
ワットンは感心したように、何度も頷く。
「はい。次は大型船が入る埠頭を1つ増やしたいのでございます」
「1つ……ですか?」
「はい。将来的には4つ増やしたいのですが、まずは1つ作り、運用しながら、利益を出し、次を作っていきます」
一挙に作るのが予算的に難しいので、できたところから利益を出していくことにした。
「予算がないというのはわかりますが……それは工事としては効率が悪くなります。通常は、全部できてから開港しますが……」
「はい。確かに。ですが、一つ完成させて、そこから利益を出せば、次の予算ができますし、人夫も技師も少なくて済みますから」
「作りながら、稼働させて利益を上げると……? ふむ」
「で、なんとか経費をかけずに埠頭を作りたいのですが、一番経費が掛かるものはなんでしょうか?」
「うむ……。それはなんといっても、石材でしょう。石は基本的に、エレミアやサンダランなどの山から運びますので、石材の価格もさることながら、その運搬料が馬鹿になりません」
「なるほど……」
「ですから、一つの埠頭を作るのに、前回の資料によりますと……金貨700枚が掛かっています」
「金貨700枚……(やすいっ……)」
4000枚と聞いてしまったせいか、700枚ならば、安い気がしてくる。実現可能な気がしてくるから不思議だ。
「もしかして、こういう工法は可能でしょうか?」
ミナは書字板に絵を描く。
「海に面する岸壁部分を大きな石材にして、その内部は頭くらいの大きさの石を詰める……」
「ううむ……。そうですね……。しっかりと洗った割石ならば可能でしょう」
「わりいし?」
「はい。大きな石を割った、頭くらいの大きさの石ですよ。石を削りだすときには必ず割石が出ます。それは普通、商品になりませんので捨てられます」
「な、なるほど……。だったら、お安く仕入れられますね?」
「ええ、ほぼタダですな。ただし、積み込み料や運搬料がかかります」
「では、それを使うとすると、だいぶお安くなりますか?」
「はい。大きな石が6割で済みますな。とすると、その分の運搬料も減りますから……工事費としては、ざっとですが、150枚くらいは金貨を減らすことできますな」
「ほ、本当ですか?!」
ミナは心の中で試算を始めた。
(この削減は大きい! これなら、事業債を販売して集められるくらいの金額だわ!)
「では、これで一応、もう少し正確な見積もりをお願いできるでしょうか」
「かしこまりました」
エレミアのマーガドナ鉱山でも割石は出るはずだ。それを活用すれば、かなり安く手に入るだろう。
(よし! これであとは……お金だわ!)
* * *
ミナは王都に来ていた。
コブルーから王都への街道は、工事が始まってから1年経つ。もう半分くらいは完成しているので、かなり楽になっている。
今回は財務庁長官カルドゥスに面会して、債券の話をする予定だ。
その前に、まずはレオストに挨拶に行くことにした。祝祭が成功したのは、レオストの力が大きい。そのお礼を言いたかった。
11月の半ば。
王城内はいつもよりも静かで、すでに木々は色づき始めていた。
銀月宮に行くと、侍女頭のビオンダがにこやかに迎えてくれ、私室のほうに案内してくれた。
部屋に入ると、シャンドラがいた。
「まあ。ミナ。よくいらしたわね!」
そう言って、かなり上機嫌で歓迎してくれる。
「はい。公爵夫人におかれましてはご機嫌うるわしゅう……」
挨拶はどうでもよいという感じで、シャンドラはミナをソファに案内する。
「殿下はあとでいらっしゃるわ。まずはここにお座りなさいな」
「はい」
「ミナ、あなたのおかげで、わが公爵家がどれだけ助かったか! 殿下が手紙でブリア侯に伝えたと思いますけど、お聞き及びかしら?」
「は、はい。例の支払いの件でございますね?」
「ええ、そうよ。あれは本当に素晴らしいわ! あなたのおかげよ」
公爵夫人シャンドラは、ビオンダに指で合図をする。すると、ビオンダはどこかに行った。
「殿下がおっしゃっていたわ。あなたの発想は、この世の常識を超えているって」
「え、そうでございましょうか……」
ミナはレオストにそう言われる覚えがない。
(盗賊を討伐してくださいとお願いしただけなんだけど……)
ビオンダが戻ってきて、ビロードの袋をシャンドラに差し出す。
「これは、私からあなたへ贈り物よ」
そう言って、シャンドラは袋から美しいイヤリングを取り出した。
それは、大きな黄色に石がはめられ、その石を細かなレリーフの金細工が囲んでいる。
「えっ、こんな貴重なものを……」
ミナは驚いてシャンドラを見る。
「お金のことだけではないわ。今回のことで、我が公爵家がどれだけ名誉を回復したか。殿下だけではないわ。ゼビルスもこれで、晴れて王族の一員として、どうどうとふるまえることになったの。あの日からわずか3年で、こんなにも名誉回復できるなんて、私たちは思っていなかったのよ」
ビオンダはシャンドラに目配せされて、ミナにイヤリングをつける。それはピアスになっている。重い石でも落ちない。
「ええ! よく似合うわ!」
シャンドラはすごくうれしそうだ。侍女のルーシャが鏡を持ってくる。
ミナも鏡をのぞき込む。その黄色の石は親指大の大きさで、耳元できらきらときらめく。
ミナは我ながら、思わず見とれた。
「公爵夫人……。わたくし、なんとお礼を言ってよいやら……」
本当に、この宝石に見合うことができただろうかと疑いがよぎる。
そこにレオストがやってきた。
「おお。ミナか」
女たちは皆立ち上がって、王弟にお辞儀をする。
レオストはそのままミナに近づいて、抱きしめた。
(えっ、はっ?)
ミナはびっくりだ。真っ赤になってしまった。
「ミナ、本当によくやった。我が公爵家がどれだけそなたに助けられたか……」
レオストはミナを離すと、ソファに座らせた。そして、全員座る。
「あの。シャンドラ様にこれをいただいたのでございますが……。本当にわたくしはこれに価することができたのかと……」
恐る恐るミナが問う。
「ああ、そなたはその価値が十分にある。なにしろ、我が公爵家の膨大な借金を消し去ったのだからな!」
ワハハと大声でレオストは笑った。
「それだけではない。コブルー祝祭の大成功は王都でも持ちきりだ。ゼビルスには祝いの品が毎日のように来ておる。
それに、陛下は盗賊が掃討できたことを、ことのほかお喜びだ。
私は今まで、軍の責任者でありながら、盗賊の討伐をすることを考えたことがなかった。それは領地の仕事であると思ってな。
だが、今回、国を挙げての討伐戦をすることになった。そなたの提案でな。
これは愉快であった。そして、盗賊どもの財宝を皆、王府に返すことができた。これほどの成果があろうか。
陛下もそなたのことをかなり評価しておられるぞ。祝祭を囮にするとは恐れ入る、とな」
「は、はあ。それもこれも、殿下のお力があったからこその成功でございます。作戦を立ててくださったのは殿下でございますから」
それは心の底からの思いだ。自分には軍事作戦は考えられない。
(大変だったけど……頑張ってよかったな……)
「ああ。私も頭を使ったが、そなたの見本市の掃討戦も驚いた。みごとなものよ。隅から隅まで祝祭を利用するとは相当豪胆と言える」
ワハハとレオストは笑う。
改めてミナは、立ち上がって深々と二人にお辞儀をし、
「このようなお計らい、ありがとうございます。ありがたく頂戴いたします」
とお礼を言った。
「うむ」
レオストもシャンドラも満足そうだ。
「で、ミナ。今回の王都訪問はなんの目的なのだ?」
「はい、実は港を拡張したいと思っておりまして、その準備でございます」
「ほう……。また金のいることを考えたものよ。で、今度はどうやって金をひねり出すのだ?」
「はい。債券という金融商品でございます」
「ほう。債券……とな?」
「明日、カルドゥス長官にお会いすることになっておりますので、そこで相談するつもりでございます」
「ふむ……。また何かあったら、相談に来るがよい」
「はい! ありがとうございます!」
ミナはレオストの計らいで、王城のコラル宮に泊まることが許された。騎士の身分ではまだ泊まれないのだが、これは助かった。ミナは常に侍女と護衛を引き連れているからだ。
ミナは必ずひとつのことで複数の問題を解決する!
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
ブリア領主アンドリオンの妹エカーリアの結婚の費用を作るため、ミナはコブルーで祝祭を開催することにした。その裏で、王国軍が盗賊掃討戦も進めており、かなりの盗賊が討伐された。コブルー見本市にも罠をしかけ、詐欺師たちも取り締まった。そしてやっと祝祭が無事に終わる。だが、コブルーが繁栄するにつれ、港の拡張が必要となり、ミナはその資金作りに頭を悩ませた。
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…
カイル … ミナの夫。バンリオル商会工作員、24歳
アンドリオン … ブリア領主。ミナの上司,26歳
レオスト … 王弟。国防の最高司令官。40代
シャンドラ … レオストの正妻




