祝祭が終わって、ミナ、またお金が足りないことに悩む……
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。
初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!
第四部 成長する王国
第2章 安心安全な世界の構築
第165話 ミナのプロジェクトは止まらない
コブルー記念祝祭は大成功裡に終わった。
最終日はレオストが来訪し、アンドリオンとともに、両家の良縁を祝い、コブルーを祝福して閉幕した。
精算にはしばらくかかるが、かなりの利益が得られたことは言うまでもない。
五大商会は利益にも満足したが、何よりも、盗賊がかなり一掃できたことに歓喜した。
さらに、王国一の称号を持つ技能者たちをどう取り込んでブランド化するかで、五大商会は祝祭閉幕直後からしのぎを削っている。
「ふう……」
ミナは少し安心して、タンブリーに戻り、若草宮で久しぶりに静かに過ごしている。
だが、カイルはまだ帰ってこないのだ。王国軍は帰っていったが、バンリオルの私兵としてボリックに同行している。
(今回の利益をどうしようかな……)
ミナはすでに次のことを考え始めていた。
ブリア侯の個人的な利益はギリギリだが、ブリア領の税収としてはかなり成功した。
(港の拡張を始めなければ……)
漁民の不満はとりあえず収まったし、祝祭が終わればまた落ち着く。とはいえ、これからコブルーは発展する一方なのだから、埠頭が足りなくなるのは時間の問題だ。
(う~ん……。今日は何も考えず、ゆっくりするの……)
と思いながらも、ついつい仕事のことを考えてしまう。カイルがいれば仕事のことは忘れられるのだが……。
頭がいったん回りだしたら、止められないのであった。
* * *
翌日、ミナはブリア城内の行政棟の土木部に顔を出す。そして、主任のスカルドに会う。
「実は、コブルー港の拡張工事についてご相談したいのでございます」
ミナは応接室で話を切り出す。
「ほう。拡張ですか……。ここしばらくは拡張していませんでしたな……」
スカルドは執務室に戻り、資料を探る。
そして、資料を持って、応接室に戻ってきた。
「ええと……。前の拡張工事はこのような状況になっております」
それは20年前のことで、埠頭を3つ広げたという記録で、その経費なども書かれている。
「で、今度の拡張はどのくらいの規模をお望みで?」
「はい。埠頭を7つは増やしたいのです」
「7つ! ……それは結構な規模ですな……」
スカルドは資料をパラパラとめくって見る。
「まあ……。ざっとですが、前回の費用などを参考にしますと、金貨4000枚は見ませんと……」
「は、はあ……」
ミナは予測はしていたが、4000枚と言われると気が遠くなるような数字だ。
「しかし、問題は金だけではありません」
「はい?」
「土木の人材が少なすぎるという点でしょうな」
「設計や技術者がいないということでしょうか?」
「その通りです。ブリアでは貯水池事業が始まっておりますから、土木関係者はそちらに行っております。
王国内に技術者がいないわけではないのですが、なかなかブリアで働こうという者がおりませんので、集まりにくいかと……」
(ぐぐぐ……)
ヒト、カネ、モノがないというのはどんなプロジェクトでも最初に問題となることだ。
だが、規模が大きすぎる。
(ぜ、絶望的……)
ミナはすごすごと土木部を出ていく。
そして、城内の自分の執務室でぼんやりと考えている。
ミナはコブルー港の埠頭について思い浮かべる。
現在の埠頭は9つだ。
第1、2埠頭は漁船用。朝市への荷揚げがしやすく、塩漬け工場が近い。そして、網を修理する広場付きだ。
第3埠頭は小型商船用で、これは国内の荷を扱う商船専用だ。
第4、5埠頭は中型から大型の商船で、穀物や材木など、場所を取る荷が多い。
第6埠頭は外国からの商船で、税関や検査場、倉庫がある。
第7埠頭は緊急時の仮接岸や修理ドックとして使われる。今回の祝祭では、ここに宿用の船を置いた。
第8、9埠頭は軍船用で、軍の兵站倉庫とつながっている。
「増やしたいのは外国からの商船用これはどんどん増えるはず。それに修理ドック。将来の護送船団を見据えて、軍船用。それに予備が1つ……。できれば漁船と中型船用も……」
(う~ん……)
望めばきりがない。
ミナの頭の中で、さんざん見てきた港の風景が広がる。
(要は、接岸時間なんだわ……)
空間の広さはどうしても物理的に限られる。しかし、効率を上げるならば、利用時間を短くするという手もあるのだ。
できるだけ少ない予算で、港の効率を上げる。
ミナはコブルー港開発の責任者ではあるが、船の専門家でも土木の専門家でもない。
うんうんと唸りながら、できるだけ効率を上げる方法を考え、あとは土木チームとの相談ということにした。
* * *
ミナが執務室に一人でこもって考えていると、アンドリオンが入ってくる。さっと立ち上がって迎える。
「ミナ、何をやっておるのだ?」
「はい。次の事業について考えております」
アンドリオンは「はあ~……」と深くため息をつく。
「君は休むことを知らぬ」
そして、ミナの執務室の応接テーブルのソファにドカリと座った。
それは「こっちにこい」という意味だ。
「何でございましょうか?」
ミナはソファに座る。
「宝くじの収益の精算ができた。見るがよい」
そういって、資料を1枚テーブルに置く。
ミナはそれを手に取って、思わず「まあ!」と声を上げた。
宝くじの収益と祝福の投げ銭の収益で、計230枚の収益がブリア侯の手に入った。
資料から目を上げると、にっこり笑うアンドリオンの顔がある。
これなら、あと少し酒代を節約すれば余裕だ。
「アンドリオン様! これなら、エカーリア様も堂々とお輿入れできますね!」
「ああ。それに、レオスト殿下からも書簡をいただいた。国王陛下は、ラッスル公とブリア侯の支払金を終了となさると!」
「え?! それはまことですか……?!」
それはミナにとっても驚きだ。
支払金というのは、本来、財産没収の罰を受ける代わりの支払いなので、多額のはずだ。
アンドリオンは深く頷く。
「ああ、まことによかった! 今回の祝祭の功績は王国でも広く認められている。
王国軍の盗賊討伐も大成功したし、競技会のおかげで、国民の勤労意欲が断然高まった。さらに、手形の普及にもつながった。来年から神殿の宝くじが始まれば、神殿が潤い、王府の予算問題がかなり消える。
これらの手柄を考慮していただき、両家への祝福として、国王陛下が支払金をゼロにしてくださったのだ」
ミナは、アンドリオンが抱えていた支払金がどれほどなのかは、詳しくは知らない。
「あの、アンドリオン様。わたくしは支払金の額を存じませんが、それはとても大きな金額なのですか?」
「ああ。残債が……金貨800枚だった」
「そ、そんなに大きな金額をゼロにしてくださったのですか?!」
「ああ。なんでも、レオスト殿下が盗賊から奪い返した金額が相当あったということで、それが大きかったようだな」
「まあ~……」
ミナは思わず両指を口元で組む。すごく嬉しい。
盗賊から取り返した金額が、両家の支払金以上であったわけではないだろうが、盗賊の大規模討伐そのものを国王が高く評価したということだ。
「まあ! それはよかったです! レオスト殿下のおかげでございますね!」
「ははは。レオスト殿下は君のおかげだとおっしゃっていらっしゃるぞ」
アンドリオンはさわやかな笑い声を立てた。
「わたくしは案を出しただけでございますわ。実行こそが真の手柄というものでございます」
「うむ。確かに。殿下でなければ、このような大掛かりな作戦を遂行するのは難しかったであろうな」
侍従がお茶を運んでくる。
ふたりはお茶を飲みながら話を続けた。
「で、次の事業とはなんだ?」
「はい。港の拡張事業でございます」
「ほう?」
「コブルーはこれから、どんどん発展いたしますので、早めに手を打ちませんと」
「ふむ。それはもっともだが……金がかかるぞ。それも相当な……」
「はい。そこが問題でございます」
「商人に金を出させる、あの方式を使うのか?」
「いえ。おそらくそれは難しいかと……。別の方法を考えませんと」
「ふむ。……いつまで経っても、金の心配は尽きぬのだな……」
「はい。尽きません……」
二人でため息をつきながら、お茶を飲んでいた。
* * *
アンドリオンが帰っていくと、ミナは一人残って、再び考える。
(う~ん……。さすがにもうコンセッション方式でお金を集めるのはムリ)
コンセッション方式は、ある意味株式会社と同じだ。お金を出した者たちが利益を分け合うが、儲からなければリスクもある。
ある程度の余裕のある者でなければ、出資しないだろう。
まだ利益があったと言えるほど、事業はまだ進んでいない。
(広くお金を集めるには……債券だわ)
債券は、利払いの率が決まっている。ある意味、貸すほうにとってみれば利率が決まっている預金だ。かなり小さな額でも参加できるため、債券購入者はかなりの数になるはずだ。
ミナはまた金融の世界に入り込もうとしている。
(金融は苦手だって言ってるのに……。なんでこうなるの?!)
自分で突っ込みが入る。
しかし、どんな事業をやるにも、お金が必要なのだ。
港を拡張すれば、その分の利用料が増えて、収入は入る。だが、最初に港を拡張する工事費が必要だ。だから、最初に借金をして、完成したら利益で借金を返済する、ということになる。
(そのためには……)
だんだんと、ミナの頭にいろいろな絵が見えてきた。
第四部 第二章は、ミナが債券に挑戦していくお話。それに伴い、また新たな敵が……。
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
ブリア領主アンドリオンの妹エカーリアの結婚の費用を作るため、ミナはコブルーで祝祭を開催することにした。その裏で、王国軍が盗賊掃討戦も進めており、かなりの盗賊が討伐された。コブルー見本市にも罠をしかけ、詐欺師たちも取り締まった。そしてやっと祝祭が無事に終わる。だが、コブルーが繁栄するにつれ、次の問題が生じていく……。
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…
カイル … ミナの夫。バンリオル商会工作員、24歳
アンドリオン … ブリア領主。ミナの上司,26歳
エカーリア … アンドリオンの妹、レオストの長男の婚約者
レオスト … 王弟。40代。かつてブリア前領主と王太子暗殺計画をたてたため、ブリア領主とともに王家の罰を受けている




