王国軍は討伐の手を緩めない。そして、アンドリオンは開会宣言を……
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。
初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!
特級区画はコーハラルの宿コハルトのロビー広間だ。
昼間は他の客もいるが、真夜中は二階以上の客室に入っていく。
一階にいるのは、その客の使用人、宿の従業員、あとは宿の私兵の警備兵だ。
見本市の商品をいちいち運んで出し入れすると、それだけ危険が増えるので、商品はそのまま並べ、夜は警備兵が寝ずの番をしているのだ。
ロビーにいる警備兵は10人。
だが、その10人がだんだんと眠り始める。
「おい、どうした?!」
うとうとする警備兵を他の兵が叱りつける。
「うう……」
その警備兵は自分も動きにくくなったようで、なんとか身体を動かして、警報を鳴らす紐へと近づいたが、そこで睡魔に抵抗しきれず、紐を引っ張る前に眠ってしまう。
午前3時。
客の使用人たちが泊る部屋の扉がスッと開き、音もなく男たちが6人ほど出てくる。警備員が全員眠ってしまった様子を確認して、見本市の商品を運び始めた。
それから、上の階からもう1人現れる。
これが偽商人のボスだ。
彼らが狙っているのは、新発明の高速織機だ。
(おい、そっちを持て)
男がかすかな声で部下に指示して、織機を運ぼうとする。
(へい……結構重いっす……)
4人で静かに織機を運ぶ。2人が裏口を開け、荷馬車を近づける。1人がそれらを見守る。
荷馬車に織機を載せ、さあ逃げるぞ、と全員が走ろうとした瞬間……。
何本ものたいまつがボッとつき、兵士が取り囲んだ。
「な、なに?!」
「盗賊ども! 動くな! 荷馬車から離れろ!」
王国軍の小隊長が怒鳴る。
偽商人と仲間たちは、50人の兵士に取り囲まれていることを知った。
しかも、眠ったはずの警備員が全員立ち上がる。
「く、くそ……。ばれてたのか。なんでわかった?」
「ちっ……」
兵が縄をもって捕まえようとすると、7人は抵抗し、なんとか包囲を突破しようとする。
「逃げろ! 荷馬車はおいていけ!」
偽商人たちはなかなか力のあるやつらで、兵士を何人か突き飛ばす。
そこへジオルダンが飛び込んで、怪力で一人ひとり吹っ飛ばす。
「てめえら! 観念しやがれ! 往生際が悪いんだよ!」
ジオルダンは容赦がない。
偽商人と仲間たちは皆骨を折ったのか、地面に倒れて動けなくなった。
――こうして商品は守られた。
見本市で怪しい商人がいる可能性の4つ目は、豪商を装いながら敵の懐に走り込み、商品を丸ごと盗もうとする偽商人だ。
五大商会の代表たちはその長年の経験から、偽商人の見分け方や手口をまとめた資料を持ちより、一つの資料にまとめた。それを宿にも配った。
偽商人たちは、その資料の書かれた特徴に当てはまっていた。
本物の大商人ならば番頭を連れており、その下にも部下がいる。それから御者や身の回りの世話をする使用人も共に泊まる。泊まるのは高級宿だ。
番頭は使用人部屋には泊めない。つまり、本物の大商人の一団が高級宿に泊まると、必ず上から下まで部屋のグレードにばらつきが出るのだ。
しかし、偽商人にはそんな余裕がないため、1人が上等な部屋に泊まり、残りは全員使用人部屋となる。これは偽商人の特徴だ。
宿はこのような客がいると、兵士に通報するよう通達されていた。
そして、諜報員が宿に派遣され、影で調査される。
「今回は、あんたの大活躍だな。俺は出番がない」
とカイルがフライアの隣で、捕り物を眺める。
派遣されたのはフライアだ。
「ふふん。……久しぶりに安全な仕事ね」
そう言って、フライアは得意そうにカイルを見た。
フライアはナスコムを使い、偽商人が催眠薬を警備兵の飲み水に入れることを部下に指示するのを聞いた。そして、今晩、盗みを実行するのを兵に知らせたのだ。
そして、眠ったふりをして敵を油断させ、犯行現場を押さえた。
「あんたがバンリオルで大切にされている理由がよくわかるよ」
カイルがフライアを褒める。
(俺は一度もフライアに褒められたことはないけどな……)
「ま、あんたもバンリオルで大切にされてるじゃない? 旦那様に衣装までもらってさ……」
それは騎士位の叙爵のときの服のことだ。
「……いま、俺を褒めたのか?」
「褒めてない。嫉妬してるだけ」
フライアはツンと顎を上げる。
「あ、そ……」
カイルはムスッとする。
相変わらずの会話だ。
(ま、いいわ。カイルはこれをくれたし…)
フライアは胸元の小さなペンダントを指先でつまみ、誰にも見えないようにそっと微笑んだ。
腰のピッターにも手を触れる。
これらひとつひとつが衣装以上に高価なものだ。
(これだけは、誰にもあげない……)
第164話 コブルー記念祝祭の開催
10月13日。
夜明け前から、コブルーの港は目を覚ましていた。
大型帆船が港を埋め尽くし、沖合にも入港待ちの船が列をつくる。
埠頭では人夫たちが荷を運び、商人たちは開店の準備に追われる。
広場では楽師が楽器の音を確かめ、屋台では香ばしい魚介の匂いが漂い始めていた。
港湾局の屋上から斜めに突き出されたポールには、色とりどりの旗がはためく。
王家の紋章。
ブリア侯家の紋章。
コブルー港の旗
そして、港湾広場に立つポールには、五大商会の旗が並んでいる。
自由港の宣言をして、2年半。
高級宿のないひなびた国際港であったコブルーは、今や国中が目指す港となった。
そして、異国からもこの祝祭の見物に、たくさんの豪商や貴族たちがやってきている。
ミナは、トガリアの建てた宿、ミナリオラの展望台から港を見下ろしていた。
胸が熱い。
(やっとこぎつけた……)
元はエカーリアのための資金集めだったが、ミナが想像したよりもかなり大掛かりな事業となり、たくさんの人々が不眠不休で働いた。
特に注意したのは、街の安全性だ。
不正や盗みを徹底的に取り締まる。
これは国際港として成長するためには必要な条件だ。
それを、この祝祭の開催までに形にする。
多くの人の協力なしにはできないことだ。
だが、まだまだ油断できない。この3日間こそが本番なのだから。
(無事に終わりますように……)
「ミナ殿。領主様がお待ちです。まいりましょう」
ゾーイが呼びに来る。
ロビーには立派な衣装に身を包んだ、アンドリオンがいた。彼はここに泊まっていたのだ。
そして、2人で馬車に乗り込み、競技場へと向かう。
「ミナ。いよいよだな」
「はい。アンドリオン様。大切なお役目、よろしくお願いします」
「うむ……」
ミナが膝の上でしっかりと握り締めた右手を、アンドリオンが左手で握る。
ふたりとも緊張しているのだ。
(最高の3日間になった……! 最高の3日間になった……!)
そう言いながら、深く深呼吸する。
未来のことを過去形で何度も唱えるのが落ち着くコツだ。そう言うと、口角が上がり、深く深呼吸できる。
競技場のまわりはすでに大賑わいだ。
たくさんの出店にすでに人だかりがある。
馬車を車寄せに着け、そこで降りると、馬車はすぐに馬車だまりへと向かう。
山ほどの馬車が次々にやってくる。特別席の観客たちが集まってきていた。
太鼓がゆっくりと鳴る。
ドン!……
ドン!……
ドン!……
控室でしばらく待っているうちに、観客席が満席となる。
カルジャンたち、五大商会の担当者たちは、現場で大忙しだ。
まるで戦場にいるように汗まみれで指示を出す。
「出場者はもう着いたか?!」
「はっ、全員おります!」
「競技に必要な道具はそろっているか?!」
「は、あと少しです……」
ほら貝が響く。
パオ~!
それは開催の合図だ。
この日のための衣装を整えたカルジャンが壇上に上がる。
「皆様! ご来場ありがとうございます! これよりコブルー記念祝祭を開催いたします。
……まずは、ブリア侯爵アンドリオン様より、開会の宣言を頂戴いたします」
そう言って、壇を降りる。
アンドリオンがゆっくりと、威厳を持って壇上に上がる。深紅のマントをまとい、侯爵家の紋章を胸に付けている。
正面には、貴族たちの貴賓席があり、その周りに豪商たちの席、そのほかは庶民席だ。
観客席の数は3000だ。これだけの人数から注目される機会は、めったにない。
アンドリオンは貴族席をよく見る。
正面には、母のフィルベラがいる。息子と娘の大切な行事を見るために、わざわざコブルーまで来たのだ。
(母上……)
アンドリオンは少し落ち着いて、緊張を緩めた。母の嬉しそうな顔が自信を与えてくれる。
「聞け! アラゴンキアの者たちよ。そして、異国の訪問者たちよ。
コブルー港は自由港として宣言し、2年と6カ月が過ぎた。この港はそのあいだに大きく繁栄した。だが、コブルー港の発展は、留まるところを知らぬ。
コブルーがアラゴンキアの繁栄を推進する旗手となるよう、我らはコブルー記念祝祭を計画した。多くの者が準備をし、さまざまな困難から守り抜いてやっと開催となった。
この祝祭で、我がアラゴンキアの誇り高き技能者、勇敢で賢い商人、それらの者が育て上げた優れた品質の産物を、多くの者に示すのだ。
ただいまより、コブルー記念祝祭の開催を宣言する!!」
アンドリオンは高く右腕を揚げる。
「う、うお~~!!!」
観客席から地鳴りのような声と拍手が響き、興奮に火がつく。
アンドリオンはそれを見て、ホッと息を吐くと、壇上を降りた。
ミナはさっと駆け寄り、彼のそばに並ぶ。
「アンドリオン様、すばらしい宣言でございました! ありがとうございます!」
「ああ……」
アンドリオンはさわやかな笑顔で、ミナに微笑んだ。
以前のように、「私はちゃんとできていたか?」とは聞かない。
(りっぱにできた……)
自分で自分を認められた。
アンドリオンは自分の成長を感じていた。
アラゴンキア始まって以来の、技能競技会! 民の興奮は最高潮に……
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
ブリア領主アンドリオンの妹エカーリアの結婚の費用を作るため、ミナはコブルーで祝祭を開催することにした。その裏で、王国軍が盗賊掃討戦も進めており、かなりの盗賊が討伐され、最後にはコブルーに追い込まれ、罠にかけられた。次はいよいよ見本市が始まる。ミナはそこでも罠をしかけた……。
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…
カイル … ミナの夫。バンリオル商会工作員、偽名はレンダ。24歳
ジオルダン … トガリア商会の工作員。偽名はオルデン。32歳
フライア … カイルの相棒の女で、認識疎外魔法ナスコムの使い手、25歳
ゾーイ … ミナの護衛
アンドリオン … ブリア領主。ミナの上司。26歳




