盗賊掃討戦のあとは、詐欺師掃討戦! 商人たちの戦いは止まらない!
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。
初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!
第163話 第二の掃討戦の開始
10月8日。
各区画で見本市が始まる。
正式には10月13日から3日間なのだが、早く始める分は問題ない。商人もコブルーに早く来るし、買い物をする貴族たちも早めにやってくる。
だから、7日間の開催を目指して、今日からオープンする店が半分くらいあった。
盗賊を呼ぶための偽情報の見本市の中身ではなく、本物の展示品がずらりと並んでいる。
見本市なので、基本的にはまだあまり流通していない珍しいものが多い。
港の広場や街角のあちこちに、板に描かれた地図があり、そこにどこに会場があるかを示す案内がある。それを見て、街中を回るのだ。
移動しやすいように、辻馬車ならぬ辻バギーが走っているので、スピーディーに回れる。
基本的には、比較的安い商品は中級区画以下で、高級な商品は上級、特級に置かれている。
そのコーハラルの特級区画に、カイルはいた。
たれ布が下がる紫のシャペロン帽をかぶり、上質の布の上着を着ている。どこから見ても、裕福な商人だ。
そして、商品を見るフリをして、実は客を探っているのだ。
これもミナが依頼してレオストが命じた仕事で、怪しい商人をみつけるためである。
このような諜報商人は、カイルだけではなく、五大商会からそれぞれ3、4人が出ていた。
ジオルダンはどう見ても商人には見えないので、仕方なく、カイルの護衛としてそばに着くことになった。
「ち。なんで俺がおめえを『旦那様』って呼ばなきゃなんねえんだよ……」
ジオルダンは頭の後ろで指を組んで、口をゆがめる。
「だったら帰ってもいいんだぜ?」
カイルは冷たい。
(そんな態度の護衛がいるか!)と言いたい。
「いや。ついていくぜ。ねえちゃんに約束したからな」
(ねえちゃん……)
それはミナのことだった。
ジオルダンはデヘデヘと、目を三日月にして笑う。
「『カイルをお願いね』ってねえちゃんが……。デヘッ」
「あんた……。言っとくけど、ミナはもう俺のもんだからな」
「知らん」
ジオルダンは聞かなかったフリをする。
(まったく、ミナもミナだ。なんで俺がジオルダンに「お願い」されなきゃいけないんだ~!!……)と思いつつ、まあ、ジオルダンが役に立たないとは言わない。
見本市で怪しい商人がいる可能性は4つある。
1つ目は、商人同士の取引でやり取りされる金貨を奪おうとする偽商人だ。
2つ目は、盗んだ商品を並べて売りさばこうとする悪徳商人だ。
3つ目は、見本市の場を利用して、怪しい取引を持ちかける悪徳商人だ。
4つ目は……
実は、この見本市での代金のやり取りは、手形で行うことになっている。
まだ試験段階なので、五大商会のみとなり、そのほかの商会ではまだ不可能だ。
それでも、動く金貨は少ないと言える。
だから、1つ目は、五大商会としては警戒が必要ない。
2つ目の問題は、それが盗品かはわからないが、値付けを見ればある程度推測できる。つまり、安くてオトクと思わせる商品が怪しいということだ。
3つ目が一番やっかいだ。おそらく一番数が多い。要するに、詐欺師である。存在しない商品を売るやからだ。だから、基本的には、これらのやからを見つけるというのがカイルたちの仕事だ。
「失礼……。あなたはどこの商人で?」
かなり面長の、背の高い商人が、カイルに声をかける。
「私はバンリオル系列の商人、レンダです。これは護衛のオルデン」
「ほう。バンリオル系列ですか……。私はエッカールと申す者。少しお話できますかな?」
「……ええ。少しならいいですよ。なんでしょう?」
エッカールは、衝立の向こうの商談用のテーブルにカイルを案内する。
「オルデン、誰も近づかないように見張りを頼む」
「へ、は、はい。旦那様」
ジオルダンがぎこちなく返事をし、衝立の向こうに立った。
(フフン。「旦那様」と言わせてやった……)
カイルはジオルダンに自分のことを「旦那様」と呼ばせ、ちょっと満足して、右の口角を上げる。
「ここだけの話なのですが……」
エッカールが小声で話し始める。
(来たぞ……)
カイルは警戒する。それはだいたい詐欺師の話の出だしの常套句だ。
「実は、亡命王族の財宝を預かっておりまして……」
「ほう? どちらの?」
「はあ。それは申せません。私の身が危なくなりますので……」
「ほう……」
カイルはその男の特徴を観察する。ひょろりとした体形で、茶色の髪の毛が頭の間なんかで分けられ、ストレートに伸びて、肩までの長さだ。
身なりはヨーカイダの者のようだが、ここで調達した服かもしれない。
「で、その財宝を捌きたいのですが、捌いてくれる商人を探しているのですよ」
「ほう……。で、その財宝はどこにあるのですか?」
「はい。コブルーに持ち込んでおります」
「ほう、コブルーに……。で、私になにをお望みで?」
「亡命王族の財宝を捌くのは大変難しいのです。どこの王族かバレると、新王族がその財宝を返せと言ってくる可能性があります。ですから、亡命先で売ることはできません。必ず、別の国で売る必要がございます。そのために、私はかの国からアラゴンキアにやってきたのです」
「なるほど……」
「ですが、私はここに人脈がない。ですから、その財宝をあなたにお預けし、売っていただきたいのです」
「なるほど。私に委託するとおっしゃるのですな」
「ええ。売り上げの2割を報酬といたします。いかがでしょうか」
「2割……ですか」
「すごく高価なものですから、2割でもかなりの額になりますとも」
「ほう……。で、その財宝は見せていただけるので?」
「え、ええ。お見せすることはできますが……。ただ、契約書を交わしていただいてからとなります」
「えっ? それは順番が逆でしょう」
レンダは言う。
「財宝が確かに売れるものか、確認せずして契約書を交わす者などおりますまいよ」
「ええ。それはおっしゃるとおり」
エッカールは胸の内ポケットから、小さな袋を出す。
「こちらは、ほんの一部でございます」
そう言って、袋から出したのは、金の腕輪と指輪、首飾りだ。
「ほう……。触っても?」
「ええ。もちろん」
レンダはまず腕輪に触る。金を確かめるなら重さだ。ある程度の重さで、それが本物かどうかの検討がつく。
次に首飾りを持ち上げる。
「ふむ……。本物のようですな」
「もちろんです。これだけでも、十分な証明となりましょう。全部で荷馬車一台分ございますよ」
エッカールは満足げに微笑む。
「で、契約書というのは?」
「ええ、こちらです」
エッカールが見せた契約書には契約金が金貨5枚と書かれてある。
「財宝をお預けすることになりますので、保証金とお考えください」
「なるほど……」
レンダは考え込むフリをする。
「ええ。もちろん、今すぐにお決めいただかなくてもいいのです。他にも何人か、すでに検討中の商人がいますので、早い者勝ちとなりますが……」
「ふむ……」
詐欺師の口上はだいたいこうだ。
1.あなただけの特別な儲け話だと吹聴する。
2.めったにない機会だと思わせる。
3.商品を全部は見せず、想像させる。
4.幻の競争相手に勝ちたいと思わせる。
「……残念ですが、私にはまだそのような人脈がございません。お役に立てないと存じます」
そう言って、レンダならぬカイルは、席を立つ。
「な、なんともったいない……」
エッカールは少し失望したように言った。
「儲け話に乗れる者はそう多くありませんな……」
断られたら、
5.相手が損をしたような捨て台詞を言う。
……でワンセットだ。
エッカールは去っていく。
しかし、ジオルダンはこっそりと部下に合図をし、エッカールを付けさせる。
カイルとジオルダンの役割は、怪しそうな商人をあぶりだすことだ。そして、後は他の者がこっそりと後をつけ、調査をするのだ。
ミナは3月の五大商会を集めての祝祭説明会で、見本市の偽商人掃討戦を提案していた。
「商人の敵は盗賊だけではございません。詐欺師、偽商人もです。これらは見本市で一掃いたしましょう」
――盗賊掃討戦の次は、悪徳商人掃討戦の開始である。
盗賊討伐の次は悪徳商人掃討戦! ミナはアラゴンキアのならず者をとことん許さない!
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
ブリア領主アンドリオンの妹エカーリアの結婚の費用を作るため、ミナはコブルーで祝祭を開催することにした。その裏で、王国軍が盗賊掃討戦も進めており、かなりの盗賊が討伐され、最後にはコブルーに追い込まれ、罠にかけられた。次はいよいよ見本市が始まる。
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別小説、完結しています。よかったら、訪問してください!
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…
カイル … ミナの夫。バンリオル商会工作員、偽名はレンダ。24歳
レオスト … 王弟。王国軍の最高司令官。40代
ジオルダン … トガリア商会の工作員。偽名はオルデン。32歳




