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港で大混乱。ミナ、大切なことを忘れていた……

このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。


初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!


第161話 港で民衆大ゲンカ



 9月1日。

 コブルーに高級宿が開業する最初の日。

 一番最初に開業したのはサルドー。バンサラーのクッシャリエ商会の宿だ。

 ここは規模が小さいため、竣工が早い。

 だが、ここに泊まれるのかヒーズリー教徒だけだ。


 それから、数日後にコーハラルの建てた宿、コハルトが開業し、その後にトガリアの宿で港の広場に面したドーハイラ、そして、同じくトガリアで、港を見下ろす高台のミナリオラが開業する予定だ。

 9月中に4つの高級宿が開業するが、すでに予約受付は開始されており、どこも予約でいっぱいだ。


 祝祭が近づき、忙しくなったので、ミナはコブルーに滞在する必要ができ、ドーハイラに泊まることにした。

 初日はアルソーが上品な服を着て、客に挨拶をしている。

 トガリア商会の代表は一応ジオルダンだが、あの巨体が入り口にいると、客が怖がるだろう。


 カイルはコブルーにいるが、作戦中なので、基本的に兵士用の宿舎に泊まっている。そもそも、兵士か冒険者の服装では高級宿に入れないのだ。


 ミナも朝早くから夜遅くまで、働きづめで、2人でゆっくり過ごす時間はとても取れない。


(う~ん、……ブラック企業。夫と同じ街にいるのに会えない……)

 だが、イベントのときには仕方がないだろう。全力で働くしかない。


 * * *


 9月10日。

「ミナさん。宝くじの売り上げ中間集計が出ております」

 港湾局の執務室で、コマキア商会の担当クミルトンがミナに報告に来る。

「どのくらいでしょう……?」

 おそるおそるミナが尋ねる。これが低ければどうしよう……。


「はい。今のところ、約87万8000枚売れております!」

「えっ、そんなに?!」

「はい。9月末日まで受け付けますので、駆け込みであと5万枚は売れると思われます。最終的には100万枚近くになるかと」

「とすると……収益予測は……」

「おそらく、なんとか金貨200枚になるかと……」

「そ、そうですか……」

(よかった~! なんとかなった……。あとはご祝儀の寄付金箱もあるし……)


 宝くじの分類には苦労した。2つの勝者を当てるという方法が災いして、組み合わせを増やしてしまい、ブリア城の壁という壁を使って、分類するはめになった。人件費がかなりかかってしまった。

(来年はもっと簡単にしなきゃ……)


 予定外の人件費はあとで別のところで回収する予定だ。

(とりあえず、エカーリア様の結婚資金はめどがついた。あとは酒代を頑張って下げればいい……)


「現金輸送は大丈夫でしょうか?」

「はい。そこは抜かりございません。多くは手形でやり取りしておりますので」


 実は、盗賊団がつけまわしていた五大商会の馬車は囮で、現金の郵送の護衛は王国軍が担当している。

 それも行き先はコブルーではなく、まずは領地の中心の商会に集め、そこで手形にして、王都の本店に送っている。

 だから、たいした金額を輸送していないのだ。

 これは五大商会が手形を扱う良い訓練になっている。



 ミナのところへバンリオル商会の担当カルジャンが報告に来る。

「ミナさん、競技会と見本市の進捗状況をご報告いたします」


 そこへコーハラル商会の担当ガレックが割り込む。

「ミナさん、出店と観覧席の設営について、ご相談が……」


 さらに、ダルザ商会の担当ラバルも割り込む。

「ミナさん! 大変な問題が発生しました!」

「え?!」

(ああ、心臓に悪いわ……)


 バンリオルのカルジャンがさっと進み出る。

「困りますな。ガレック、ラバル。ミナさんはお忙しいのです。それぞれの商会からの報告は、まずうちがお受けします。

 うちがまとめてから、ミナさんにお伝えするという手順のはず。それをお忘れかな?」


「うう……」

 ガレックは唸る。

「……いや、しかし。ごもっともなのですが、大変なことが判明しまして……急いでなんとかしなければ……」


 競技会担当のラバルが言うには、競技会の内容を突き詰め、代表を決定することに神経を使うあまり、当日の出場者の宿を確保するのを忘れていたと言う。

 気が付いたら、もうどこも予約でいっぱいなのだ。


「な、なんですって?!」

「そ、それは大変ではないか?!」

「150人分の宿が……確保できておりません……」

 ラバルが申し訳なさそうに言う。

 みんな青ざめる。ガレックも自分の問題どころではないと思い始めた。


 ミナがとりあえず思案しているとき……。

「た、大変です!!」

 と、港湾警備兵が執務室に飛び込んでくる。


「何事だ?!」

 カルジャンが資料から目を離し、目を険しくする。

「港で騒動が起きております。今、港湾警備隊が仲裁に向かっております!」

「なんだと?!」


 カルジャンたちはさっと執務室を出て行き、現場の様子を見に行く。


 ミナは港湾局の三階のテラスから港を見下ろした。

 ゾーイがすぐにミナのそばに控える。

「あれは……」


 港湾広場で50人くらいの男たちが揉み合っている。そして、石畳にはペレという梅の実のような果物が山ほど転がり、それを踏んで転げる者もいる。そばには倒れた荷馬車が転がっている。港には緩やかな傾斜があるので、ペレは徐々に岸壁に転がっていく。


「何をしているのかしら……」


 警備兵が報告に来る。

「漁民と人夫がケンカしているようです。どうやら、漁民が人夫に荷をぶつけられ、魚を台無しにしたということで、それに腹を立てた漁民が集まって、今度は人夫が運んでいた荷をひっくり返したようです」


「なんですって?!」

 ミナは思い切り眉をしかめた。

(大変だわ。これはいったいどうしたら……)


「ゾーイ! 行きましょう」

 ミナは広場に行こうとする。

「だめです! ミナ殿。危険すぎます! 我々にはどうにもできません! 警備隊に任せましょう」

 ゾーイはミナの手を引っ張って、推しとどめようとする。


「で、でも……。あのままだと怪我人が出ます」

「では、ミナ殿はどうしたいと? それを決めて命令しましょう」

 ゾーイは冷静だ。


「ええと……」

 どうしたらいいかわからない。

「少なくとも、警備兵が武器を使うのはやめさせたいのです」

 すると、ゾーイは控えていた警備兵にすぐに言う。


「顧問殿は警備兵に武器を使わずに民衆を引き離すようにと仰せだ」

「はっ。かしこまりました」

 そう言って、警備兵は出て行った。


(大丈夫かしら……。これで重傷者でも出たら、せっかくの祝祭が……)

 上から見ていると、ハラハラする。


 警備兵たちは武器を使わず、民衆に「散れ」と怒鳴っている。

 しかし、民衆が50人、警備兵は40人ほどで、しかも足場が悪い。他にも漁民や人夫が集まり、群衆はどんどん人数を増す。


「いい加減にしやがれ! 俺たち漁民をじゃまにしやがって! 港はお前らだけのもんじゃねえ!」

「なに言ってんだ! 荷をひっくり返しやがったのはそっちだろう!」

 つかみ合いのケンカになっている。


 もう、最初の原因はわからなくなり、ただ暴れたい者たちの集まりと化した。

 ペレのせいで足場も悪く、このままだと、警備兵にもけが人が出そうだ。


「王国軍……! 王国軍に応援をお願いしましょう!」

 ミナはゾーイに言う。

「わかりました。私が伝えてきますから、ミナ殿、ここから決して動かないでくださいね!」

「はい。大丈夫です。お願いします」


 ミナはハラハラして上から見ていた。

(ああ……、コブルーの評判が……)


 こういうイベントで一番怖いのは、客同士、スタッフ同士のケンカだ。それが始まってしまった。

(私の先読みの足りなさ……)

 ミナは反省しきりだ。


 急に忙しくなって、みんなイライラしていたのだ。

 それに、港が混雑しすぎて、漁民たちに影響が出た。競技会もあるのに、漁民たちが活動できないと勝てないのではないかと恐怖を感じたのかもしれない。

 そして、人夫がぶつかったのを「じゃまされた」と感じたのかもしれない。


 現代でもこういうイベントをするときには、地元に迷惑をかける。車が多すぎて通勤にじゃまだ、騒音がうるさい、などだ。

 だから、現代では地元民に何かの特典を配るというのが、一般的な対処法なのだ。

(それをすっかり忘れていたわ……)


 しばらくして、やっと王国軍が馬で走ってくる。その数30。すべて騎兵だ。

 群衆の周囲を取り囲む。

 あまり近づくと馬がペレを踏んでしまう。


 ――ドンドンドンドン!!


 軍の太鼓が鳴る。

 ルジャンドー将軍が、馬の上から剣を振り上げて怒鳴る。


「静まれ~!!!!」


 群衆はびっくりして、掴み合ったまま止まった。

「これ以上騒ぎを起こす者は、監獄に放り込むぞ!! コブルーで騒ぎは許さん! さっさと立ち去れ~!!」


 そう言って、剣を振り回す。すると、群衆はだんだんと散らばり、そのまま静かに引き上げていった。


(ああ……。助かった……)

 ミナはホッとする。


同じ街にいるのに、夫と会えないなんて……。ミナはイライラ。


いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。

この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。


---今までのあらすじ---


ブリア領主アンドリオンの妹エカーリアと、王弟レオストの長男との結婚の費用を作るため、ミナはコブルーで祝祭を開催することにした。その宝くじの収益が結婚費用だ。その裏で、王国軍が盗賊掃討戦も進めており、かなりの盗賊が討伐された。祝祭開催まであと1か月半。ミナも五大商会の番頭たちも、大量の人々がコブルーに集まる準備に明け暮れていた。


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用語集

ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…

アルソー … トガリア商会の参謀で、実質の代表

カイル … ミナの夫。工作員として王国軍の討伐戦に参加中。

ゾーイ … ミナの護衛騎士


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