宝くじの大興奮と、盗賊たち、最後の悪あがき
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。
初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!
第158話 宝くじの興奮と盗賊たちの焦り
7月10日。
この日、アラゴンキア王国中の五大商会の支店には、朝早くから人だかりができていた。
「本日より販売いたします!」
店員が高らかに宣言すると、集まった人々がどっと前へ押し寄せる。
「おい! 本当に今日からか!」
「1枚くれ!」
「俺は10枚だ!」
「待て待て! 押すな!」
商会の者たちは大慌てで列を整理する。
「お並びください! 1人ずつです!」
これまで、商会にこれほど人が押し寄せたことはなかった。
宝くじは1枚50アロ。2枚1ポル。50アロはだいたい500円くらいだが、この世界の感覚では、1人の2日分の食費だ。
安いとは言えないが、農民でも、職人でも、漁師でも、誰でも買える値段だ。
これを手にして、競技会の始まる前、9月末までに、予想する者の名前を書いて登録すればよい。
だから、とりあえず買っておこうという者が次々と現れた。この世界では紙が高いので、紙を買う時に代金を払う。
その日の夕方には、その噂は村々へと広がっていく。
* * *
「おい! 宝くじ、買ってきたぞ!」
村へ戻った若者が、広場で叫んだ。
すると、畑から帰ってきた農民たちが、一斉に集まる。
「どれだ?!」
「見せろ!」
若者は胸を張って、一枚の紙を掲げた。
それは競技の名前を書き、その下に領地の名前を書き込むようになっている。
1枚で2競技を当てなければならない。
当たりが多数いるときには、あとは抽選だ。
「まだ書くなよ!」
「なんでだ?」
「代表が全部決まるのは9月だ。今、書いたら外れるかもしれねえ。」
「なるほど!」
「いやいや。お前、うちの領地が勝つに決まってるだろ。他の領地の名前を書いて、どうするんだ!」
「いや、だって、鍛冶師とかはどうしたって、王都に近い村が強いだろ? 作ってる本数が違う」
「なにぃ! うちの領地の鍛冶師を馬鹿にすんのか?!」
「やめろや。他の領地のことなんか俺らにわかるわけねえ。だから、自分の領地を書くしかないんだよ」
村人たちは紙を囲んで大騒ぎになる。
そこへ村の役場の者が、小さな箱を役場の窓口に置く。その上の壁には神の印が描かれた紙が貼ってある。
「みなさ~ん! こちらは神殿の寄付金箱です。幸運を祈りたい方は、こちらで祈ってください! 寄付金箱に小銭、入れてくだされば、神様に気持ちが届きますよ~!」
「な、なに~?!」
「俺、祈ってこ」
「俺も!」
「あ、そんなに慌てないで。この箱は毎日出しますから……」
そこへ村の年寄りがやってきて、怒鳴る。
「静かにせい!」
皆が振り返る。
「お前たち。収穫を忘れるなよ。もうすぐ収税時期だろ。今から浮かれてどうする?!」
「う……」
長老に怒られて、みんな静かになる。
「この競技会は、仕事の意欲を高めるためのものだ。まずは仕事に精を出せ。そして、今年の収穫が良ければ、王様はまた来年も競技会を開催してくださるだろうよ」
「そ、そっか……」
「そだな……」
黙って祈って、寄付金箱に小銭を入れると、村人たちは静かに帰っていった。
「さ、さすがですな……」
村長は長老を称賛する。
「なに。まあ、今年は確かに、皆やる気が違うようだの。たまにはこういう刺激がないと、つまらんからな。今年はおもしろい夏になりそうだわい」
長老は目を細めて、村人たちを見送った。
* * *
バイクレンの領兵詰所に、10歳くらいの少年が駆け込む。
「兵士のおっちゃんたち!! 助けてくれ~!!」
「なんだ、どうした?!」
兵士たちが詰所から出て来る。
「おらの村が……おらの村が……」
少年は緊張が途切れて泣きながら話す。
「おい! 上隊長に連絡だ!」
詰所から数頭の馬が走り出る。
* * *
8月1日
カイルは村のそばの林に潜んでいた。そばにはフライアがいる。周囲には50人の王国軍の兵士が取り囲んでいた。
夜になれば村は寝静まる。そのとき戦闘開始だ。
この村は10軒くらいの家しかない小さな集落だ。
それが今、6人の子供たちを人質に取られ、11人の盗賊に乗っ取られていた。村人たちは盗賊の言いなりになり、母屋にいる盗賊たちの食事や酒の準備をしている。
久々に屋根の下で寝られると、盗賊たちは大喜びでどんちゃん騒ぎだ。まさかすでに囲まれているとは思ってもいない。
そして、夜が深まると眠り始めた。
カイルはトーチで、村人と盗賊の位置を確認する。
(離れに子供が6人……外に見張りが3人)
(母屋には8人。……村人は台所に4人……)
トーチに見える残りの点は兵士たちだ。
カイルが頷くと、フライアがナスコムを起動する。
そして、2人で姿を消したまま、子供を捕らえている小さな家に音を立てないように近づく。ここには見張りが3人だ。
カイルはほとんど音もなく、その3人を殴り倒す。
そして、盗賊の首にかかっていた鍵を取り、離れの扉の鍵を開けた。
静かに扉を開ける。姿を消したまま中に入ると、静かな声で言った。
「声を出すな。助けに来た。静かにしていろ。できるか?」
子供たちは縛られたまま、頭を動かして見回すが、誰もいない。
「だ、だれ?」
「声を出すなと言ったろ? 盗賊どもに気づかれるぞ」
5歳から10歳までの6人の子供たちはぶるぶる震えている。
「安心しろ。声を出さずに静かにしていれば、守られる。いいな? 怖ければ、目を閉じていろ」
子供たちはうんうんと頭を振る。小さい子は目を閉じた。
カイルとフライアはナスコムを切り、姿を見せる。
「縄を切ってやるからじっとしてろ」
2人で素早く縄を切る。
子供たちを解放し、扉を開けてそっと外を見ると、母屋から盗賊が1人出てきた。そして、倒れている見張りに気づく。
「て、ていへんだ! お、おい!」
慌てて引き返し、母屋に知らせに行こうとしたところ……。
盗賊の身体が前方に吹っ飛ぶ。後ろからカイルが殴りつけたのだ。かろうじて身体を起こそうとしたところをまた殴って気絶させた。
「フライア! 子供たちを連れて逃げろ!」
カイルが叫ぶ。
そして、兵士たちに合図をする。
「隊長! 村人の安全を確保しろ!」
「よし!!」
兵士が走り出す。一部はたいまつを持っており、あたりが明るく照らされる。残りの家に閉じ込められている村人を救出に向かう。
カイルはそのまま母屋に飛び込む。台所に固まっている村人たちを真っ先に守らなければならない。おそらく縛られている。
異変に気付いた盗賊たちは飛び起きて、うち3人が台所の村人を人質にするため捕まえようとする。カイルはそこに飛び込んで、あっという間に3人に斬りつける。
兵士も飛び込み、ぶるぶる震える村人の縄を切って、連れ出した。
しかし、頭領以下7人は剣を持ち、カイルに斬りつけようととびかかる。
カイルの未来視が作動する。
台所にいた村人たちが無事に逃げ出したのを横目で見ると、炉の灰を剣で撒き上げる。目つぶしだ。それからすかさず、灯り用の油壺を盗賊の足元に投げつける。
「うわ~!!」
足元が滑る。2人がズルッと倒れた。そこをすかさず斬る。
3人は窓に体当たりして、身体ごと飛び出す。しかし、窓の外には兵士がいる。
焦った頭領と2人の手下は一斉にカイルに剣で挑む。しかし、2人を交わし、蹴とばすと、頭領に向かい、一撃でその剣をはじき、頭領を斬り倒した。手下たちはひるむ。そこへ扉から入ってきた兵士が手下を押さえる。
「ふう……」
カイルは母屋を出ると、汗を拭き、一息つく。
「終わった……?」
フライアがそばに来た。
カイルは一瞬止まったが、バッとフライアを突き飛ばし、剣で矢をはじいた。
(もう1人いる!)
矢が飛んできた方向に向かって腰の短剣を投げる。
それは射手の背中に命中し、倒れた。12人目だった。
「あぶねえ……。森にいやがったんだな」
フライアの手を引っ張って起こす。
「怪我、ないか?」
「う、うん…」
カイルは念のため、フライアが怪我をしていないか、顔や腕を確かめる。
「油断禁物だな」
カイルは汗を拭いた。
フライアは胸にかけているお守りを服の上からこっそりと握る。それはカイルがくれたものだ。
「このままだと狙われる村が増える。……そろそろ最終戦だな」
アラゴンキア中の盗賊をコブルーに追い込む作戦は、そろそろ最終戦だ……!
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
ブリア領主アンドリオンの妹エカーリアと、王弟レオストの長男との結婚の費用を作るため、ミナはコブルーで祝祭を開催することにした。しかし、ミナの予測よりも経費がかかり、予定していた宝くじの利益が足りない。そこで、宝くじ事業を来年から神殿に渡す代わりに、結婚式の費用をタダにしてもらえることになった。大喜びで、王弟レオストに報告に行くのだった。
------------------------------------------------
用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…
カイル … ミナの夫で、バンリオル商会の工作員で、盗賊討伐戦に参加中
フライア … カイルの相棒で、認識疎外魔法ナスコムが使える女
トーチ … 索敵の魔法具
未来視 … カイルの特殊能力。命の危険を感じると、未来が見える




