セイルフェン狩りのレンダ、サイフラーに情報を与える
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。
初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!
ジャーガ団の頭領サイフラー。
ファラフ団の頭領ゴーリ。
ふたりの盗賊は悶々としている。
たとえ商人を襲っても、金貨を持っていない限り、無駄骨となる。
なぜなら、根城を離れれば、荷を捌いてくれる悪徳商人とは離れてしまうからだ。
「おい、酒だ!」
ゴーリがカップを振り上げて手下に言う。
「おかしら! ……酒はもうカラっす……」
「なに?! ……ちぃ……」
手下が小さな酒樽をさかさまに振る。
それは、サイフラーが村で盗んだのと同じだ。
「おい、その酒樽、どうしたんだ?」
念のために聞く。
「知らん。あちこちの村でおいてあるんだよ。優勝祈願とかなんとかだとよ」
「ゆうしょう…きがん?」
「ああ。なんか、領地対抗戦でもあるんだろ。剣技かなんか知らん」
(ああ、そうなのか……)
サイフラーはなぜ最近、村に小さな酒樽が置いてあるのか、理解した。
コブルー記念祝祭の競技会と見本市と宝くじの話は聞いている。
(てことは、この酒樽があるのも、10月までだな)
サイフラーは立ち上がる。外していた剣を差し、先に進む準備だ。
「俺たちはこれからコブルーを目指すんだ」
「なに? コブルー? 東の港だな」
「ああ。そこで祝祭があるんだと」
「祝祭?」
「ああ。お宝が集まるとさ」
「……本当か? ガセじゃねえのか?」
「俺はコブルー出身の冒険者から聞いたんだよ。間違いねぇ」
サイフラーがゴーリにそれを教えるのは、ある意味、やつらを囮に使うためだ。
一度にあちこちで盗賊が襲えば、警備に隙ができる。
他の盗賊たちには捨て駒になってもらい、自分たちが一番高価な荷を襲えればいいのだ。
「じゃな。俺らは先に行くぜ」
サイフラーは食べ物がなくなる冬を想像した。家もなければ食べ物もない。その先は野垂れ死にしか思い浮かばない。何とかして金を作らなければ、このままでは家を持てない。
盗んだ荷を捌く商人を見つけられなければ、金貨を奪うしかない。
(大量の金貨を奪う。それしかねえ)
残されたファラフ団がジャーガ団を見送ったあと……。
「お、おかしら!」
ゴーリの手下が声を上げる。
「おら、市場で話しているのを聞きやしたぜ。コブルーでは大きな市があるらしく、今から倉庫の争奪戦をやってるって……」
「なに? 倉庫の争奪戦だと?」
それは、コブルーに行けば、襲える倉庫が山ほどあるということだ。
「ふん。俺らも東に行ってみるか……」
* * *
王国軍の天幕は、ポムリールの街道脇の広場に移動していた。
「レオスト殿下。将軍。盗賊どもの位置をご報告いたします」
部下がやってきて、台に広げた地図の上に、番号のついた黒い石を置いていく。
「3日前にここ、ここ。それから、2日前にはここと……ここ。そして、昨日はここと、ここと……ここでございます」
「ふむ……」
レオストは腕組みをしながら、大きく頷いた。
「ちゃんと東に向かっておるな。上等だ」
「は。酒樽作戦がうまくいっておりますな」
将軍が満足そうに言う。
ふたりで顔を見合わせ、頷き合った。
あの小さな酒樽は、盗賊の位置を把握するための仕掛けだ。
小脇に抱えられる小さな酒樽を持ち去らない盗賊などいない。
酒樽が消えれば、村人が軍に知らせに来る。そして、軍は今盗賊がどこにいるかがわかるのだ。
(酒好きの気持ちは皆同じよ……)
レオストはムフフと笑った。
第154話 レンダの情報
6月3日。
サイフラーにとって、金の集まるコブルーに行くことはもはや本能のようなものだった。一世一代の盗みをする。その高揚感があれば、逃避行も耐えられた。
だが、コブルーに行くには問題がある。
ブリア領とバイクレン領の境には、川が流れている。プラウ川だ。
この川を渡るには、橋の前の検問を越えなければならない。しかし、盗賊はそのほとんどが検問を越えられない。身分証を持っているのはまだ盗賊としては半人前の情報屋だけなのだ。
「おかしら…。どうしやす? これを越えないと、コブルーにはいけませんぜ」
手下がサイフラーに聞く。
彼らは川のバイクレン側の林の中に身を隠していた。
(うむ……。こんな関門があるとは……。夜に舟で超えるか……。それには舟を盗まなきゃなんねえ。しかし、舟つき場には夜も兵士がいるし…)
これは難問だった。
だが、ブリアからバイクレンに逃げてきた盗賊たちがいるという話は聞いている。
(やつらはこれを越えられたということだ。いったいどうやって?)
何か解決法はないかと、サイフラーは考えていた。
だが、どうにもならないまま、半日が過ぎる。
(くそ…。いったいどうしたら…)
「あ、おかしら! あれを…」
手下が街道を指さす。
それは、この暑い日にも革マントを着た男だ。黒い髪で、ソリを担いでいる。
「あ、あれは…」
(レンダ…とか言ったな)
1か月前に会った男だ。なぜか印象深い男だった。
「あいつ、ブリアに帰るところなのか…」
サイフラーは考えた。
あいつなら、これを渡る方法を知っているかもしれなかった。
「おい、あいつを呼び止めろ! レンダなら、連れてこい」
若い情報屋に命令した。
「へ、へい!」
レンダはジャーガの潜む林に連れて来られた。
サイフラーは岩の上に座って、片膝を立て、レンダを見下ろす。盗賊の頭領らしき演出だ。
「また会うとは奇遇だな。なんか用か? 肉はねえぞ」
レンダはサイフラーを見上げて言った。
「肉じゃねえ。今、俺らは困ってる。おめえ、知恵を貸せ」
「へぇ。俺の知恵ねえ……。ま、俺は頭が切れるからな。だけど、タダじゃねえぜ」
「ふん……。後払いだ」
「馬鹿か。誰が盗賊の後払いを信じるかよ。そんなもん信じたら、馬鹿の証明だろ? お前、馬鹿の証明をしたやつの知恵を借りるのか? それこそ本物の馬鹿だぜ」
「ぐぐぐ…」
サイフラーはレンダの減らず口に歯ぎしりをする。
「じゃあな。俺は行くぜ」
レンダは背を向ける。
「ちょっ、ちょっと待てったら!……」
焦ったサイフラーは慌てて立ち上がる。かっこつけてもなんの意味もなかった。
レンダはふっと笑った。
「しかたねえ。休みがてら、ちょっとくらいなら、話を聞いてやるさ」
そう言って、ソリを下ろし、剣を外し、木陰に座った。水筒を出して、水を飲む。
「知ってるか? 盗賊どもがあちこちで捕まっているぜ」
レンダが水筒から口を放して、言った。
「なに~?!」
「罠にはまって一網打尽だとよ。酒場じゃその話でもちきりだ」
「罠……だと?」
「お前らもさっさとこの国を出るんだな」
「国を出るにはこの川を越えなきゃならんだろ……」
「ああ、そうだな。だけど、お前らにはこの橋は越えられねえぜ」
「な、なんでだ? ブリアの盗賊は越えられるんだろう?」
「ああ。奴らは越えられる」
「そんな馬鹿なことがあるか。なんでブリアだけ越えられるんだよ?!」
レンダはもったいぶるようにニタニタしている。
「しかたねえ。教えるだけ教えてやるよ。お前らにはできない方法だが、どうやってブリアの盗賊がここを越えるかって話な」
「……お、おう!」
「ブリアには、偽の身分証の売り買いがあるんだよ。やつらはそれを買ってブリアを離れたのさ」
「な、なに……・?」
「な、お前らにはできないだろ? ブリアは国境の領地で人の出入りが激しい。だから、身分証売買の専門業者がいる。バイクレンにゃ業者はいない。しかも、それを手に入れるには相当な金が要る。お前らは持ってないだろ? つまり、お前らはもう詰んでんだよ」
「な、なに~?!」
サイフラーは頭に血が上る。
手下たちは頭領が怒り狂って暴れ出さないか、おろおろしながら頭領の顔を盗み見る。
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、ポイントをつけて応援してくだると嬉しです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
ブリア領主アンドリオンの妹エカーリアと、王弟レオストの嫡男ゼビルスの結婚の費用を作るため、ミナはコブルーで祝祭を開催することにした。しかし、金儲けだけではなく、その裏では、国防担当の王弟レオストの盗賊討伐作戦が始められていた。王国軍の攻撃で各地の盗賊団は次々と逃げだし、コブルーを目指して動いていく……。
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…
レオスト … 王弟。軍最高司令官。ミナの支援者。40代
レンダ … カイルの偽名。ミナの夫で、バンリオル商会の諜報員。この作戦に参加している。24歳
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