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人間離れした男、セイルフェン狩りのレンダ

このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。


初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!


 5月4日。

 ルールズの王都線の街道の東側の森。

 盗賊団ジャーガの首領、サイフラーは肩を大きく上下させて、山道に座り込んでいた。

「くそったれめ~!! チクショ~!!」


 ゲンコツを振り上げて、地面を叩く。

 まわりには同じく、息をハアハアと言わせて、座り込んでいる仲間たちがいる。

「お、おかしら……。10人、殺られちまった……」

「いや、今16人しかいねえぞ。だいぶ捕まっちまったんだろう……」


 サイフラーは「チッ!」と唾を吐く。

「……なんてこった……!」

 その苦々しい口調ではとても言い表せないほどの怒りが額の青筋に現れていた。


 盗賊団ジャーガは、このルールズの西の国境沿いに隠れ住んでいた。

 そこにはちょうど良い林があり、そこにいくつかの小屋を建てて40人ほどが住んでいたのだ。

 そこにドカドカと王国軍がやってきて、盗賊団として討伐された。


「いったいどうなってやがる……」

 今まで王国軍に討伐されたことなど一度もなかった。


 サイフラーは仲間の死よりも、村に隠していた金貨すべてを失ったことで頭がいっぱいだ。その悔しさで頭が燃え上がりそうだ。

 だが、さすがに王国軍となると、兵士の数が膨大だ。復讐を考えるどころではない。逃げ疲れて、やっとのことでここまで来た。命があっただけでも良かったというべきだ。


「しばらく、ここに隠れているしかねえな……」

 力なく倒れるように寝た。

 明日のことは明日考える。それだけだった。


 * * *


 サイフラーは翌日、林の中を仲間と共に歩いていた。街道の西は軍に抑えられている。東に向かうしかない。

 新しい根城を探さなければならない。わずかに続くけもの道をたどり、しばらく歩くと、煙が上がっているのが見える。

 そこへ少しずつ近づいていくと、肉を焼く匂いがしてきた。


「に、肉だ……」

 手下たちが小さな声を上げる。昨日の朝から何も食べていなかった。

 思わずその匂いに引き寄せられていった。


 すると、少し開けた場所があり、そこには男が一人、座って焚火を起こして肉を焼いている。マントを着て、そばにはソリがある。ソリには革で包まれた肉の塊や血まみれの袋が乗っている。

「なんだ、あいつは……」


 サイフラーは木陰からしばらく見ていたが、手下に声をかけた。

「おめえら! 行くぞ!」

 そして、ダッと飛び出し、16人で男の近くまで走り寄る。


 男はあまり驚きもせず、黙って肉を食べている。


(普通は驚いて、あっという間に逃げ出すだろうに……。なんだ、こいつ?)


「何か用か?」

 男はサイフラーたちに穏やかな声で聞く。それが逆に凄みを帯びた。

 サイフラーは男の不思議な迫力にしばらく声が出なかった。


 黒い髪、黒い目。無精髭を生やしているが、まだ若いように見えた。しかも、豪胆なようで、目元には盗賊にはない怜悧な光が隠れている。普通ではない雰囲気が漂う。


「おめえ……。ここで何してやがる?」

「見りゃわかるだろ? 肉を焼いて食ってるんだ」

「なんでかって聞いてるんだよ!」

「馬鹿か? 狩りをしたに決まってるだろ? 俺は冒険者なんだよ」


「ここで狩り?」

「ああ。これはロックベアだ」

 男は枝に刺した肉を一串持ち上げた。


「お、お前が狩ったのか?」

 サイフラーは驚いた。男は1人で、他に仲間はいそうもない。


「ああ。1人でな」

 男はニタリと笑った。しかし、その鋭い目はサイフラーを刺すようににらむ。


 その迫力にしばらく飲み込まれていたが、サイフラーはハッとした。

「おい、おめえ……。その肉を置いていけ」


 ドスの効いた低い声で、全力で威嚇する。

 そして、残り15人の男たちが冒険者を取り囲んだ。


「おいおい、殺ろうってのか?」

 盗賊たちは剣を構えた。

 だが、冒険者は肉のついた棒を持ってニタリと笑ったままだ。


「お前たちに教えてやるがな。10何人かいるからって安心してるんだろうが……。

 俺は魔物の狩人だぞ? 1人でこのロックベアが狩れるんだぞ? それ、わかってるか?」


 手下たちが後ずさりする。


「お前らの相手はどうせ商人か村人だろ? 俺はお前らの目にも止まらぬ速さで動けるんだぜ。

 つまり、お前らの全部とは言わねえが、半分はあっという間に首か腕が飛ぶぞ。残りで俺を倒せるのか?

 財宝ならまだしも、肉ぐらいじゃ割が合わねえと思わねえか?」

 そう言って、男は肉にかぶりつく。


「う……」

 サイフラーは男の余裕が不思議でならない。

(なんだ、こいつは……)

 いつもと全く違う反応に、どう出ていいかわからなくなる。


「それよりも……。いいことを教えてやるよ」

 男は肉を差している枝をクルクルと振り回す。

「な、なんだ……?」


 冒険者は枝についていた最後の肉の一口を食べ終わり、指をなめた。

「見ての通り、俺は1人でな。ロックベアを狩っても、全部の肉は運べねえんだよ。だから、ちょっと向こうに行けば、残りの肉が転がっている。ま、礼はいらん。お前たちにタダでくれてやるよ」


 そう言って、林を指さした。

「どうする? 火をつけたまま待っててやるから、肉を取ってきたらどうだ?」

「お、おかしら!」


 腹をすかした手下が待ちきれないようにサイフラーをせかす。

「おめえたち、行ってこい!」

「へ、へい!」


「ああ、向こうに湧水があるから、ついでに飲んできな。水筒はねえんだろ?」

 そう言って、冒険者は自分の水筒から水を飲む。

「お、おお……」


 手下の2人がサイフラーのそばに残り、後は肉を取りに行った。

「おい、500メートルくらい先だぞ。気を付けろよ。他にも魔物はいるからな」

 冒険者は親切に注意してやる。


 サイフラーは焚火を挟んで、冒険者の向かいに座る。


「おめえ……。変わってんな……。おめえみたいなやつ、初めて見たぜ」

「そうか? 何が変わってるんだ? 見かけは人間だろ? 魔物じゃねえぞ」

 冒険者は首を傾けて眉を上げた。


(魔物じゃねえ……)

 そう言われると、逆に人間じゃない気がしてくる。

「……。俺はサイフラー。おめえの名は?」


「レンダだ。東のほうじゃ、ちょっとばかり名が知れてんだが……。ここじゃ誰も知らんだろ? 『セイルフェン狩りのレンダ』ってんだ」

「全然知らん……」

「ああ。どうせそう言うと思ったぜ」


 近くの木陰で、フライアが姿を消して覗いている。


(まったく……。かっこつけてんじゃないわよ……。何が「目にも止まらぬ速さ」よ。

 私が消してあげるんでしょ!)


 危なくなったら、カイルの姿を消して逃がすはずだったが……。

 ――そんな心配はいらなかった。



 サイフラーはレンダをじろじろと見ていた。

 だが、レンダは気にせず、顎を上げて「上から目線」になり、サイフラーにバカにしたような声で言った。


「お前、暇ならその辺の枝でも拾ったらどうだ? 10数人分の肉を焼くんだろ? こんな焚火じゃ焼けねえぞ。気が利かねえにもほどがある」


「な……?」

(こいつ、俺を怒ったのか……?)


 サイフラーは目の前の若い男に、まるで親のように叱られるという体験に、腹を立てるどころか、逆に震撼した。なぜか脂汗が出て来る。


(こ、こいつ……。この俺様を……。俺が盗賊の頭領だってわかってんのか、わかってないのか……)

 どうも調子が狂う。この余裕はなんだ? 本当に魔物か魔人かのようだ。


 サイフラーは脂汗をかいたまま、黙って、2人の手下を顎で動かして、枝を集めに行かせる。


「セイル……なんとかってなんだ?」

「え……? それも知らねえのかよ」


「はあ……」とレンダはわざとらしくため息をつく。

「セイルフェンってのはな、東のブリア領によく出る魔物だ。ほら、ブリア領の紋章は盾を囲むセイルフェンだ……っても知らんだろうな」


「つええのか?」

「ああ。アラゴンキアの魔物の中じゃ、一番強いぜ。風魔法を使うんだ」

「おめえ……。なんでそんなもん、倒せるんだ?」

「愚問だな。俺が強いからに決まってんだろ?!」


 レンダはあきれた調子で、ドスの聞いた声色で言った。


「なんだ、そりゃ……」

(答えになっていない)と言いたかったが、この男を怒らせると何が起きるかわからないような危険な匂いがあった。

(頭がいいんだか、悪いんだか、わからん男だ……)


「おめえ、ブリアから来たんか?」

「ああ。ブリアは故郷だ。あちこち旅しているから、たまに帰るだけだがな」

「ふうん……」

「知ってるか? ブリアは今年の秋に、大きな祝祭をやるんだと。だから、今年は俺も帰るつもりだ」


「なんの祝祭だ?」

「領主の娘が婚約したんだと。相手はなんと王族だ」

「ほ、ほんとか?!」


「ああ。だから、ブリアのコブルー港で盛大な祝祭をやるらしいぜ。こんな機会はめったにないだろ? 生きてる間に一度あるかないかだ。だから、今年は帰らないとな。

 おもしれえもんがいろいろ見れそうだからな」


(そう言えば……村でもコブルーとかなんとかが噂になっていたが……)

 サイフラーは思い出そうとしたが、思い出せなかった。


「おもしれえもんってなんだ?」

「え? お前、興味あんのか? コブルー港は遠いぜ」

 レンダは「やめとけ」とばかりに手の平を上下に振った。


「なんだって聞いてるんだよ!」

 サイフラーはイライラして怒鳴る。

 頭領の自分が手下にこんな適当な返事をされることはありえないのだ。


 レンダはサイフラーの怒鳴り声を気にもしない。

「競技会とか、見本市とか、宝くじって言ってたな」

 顎にゲンコツをあてて宙を見ながら思い出すように言った。


「見本市って……なんだ?」

「新しい商品とか、珍しいものとか、お宝を並べるんだろ」

 レンダは火が消えないように木切れで焚火をつつく。


「え? お宝を並べる?」

「ああ。全国から大商会が集まって、互いに商品を競うんだと。見るだけならタダだぞ」

「へえ……。いつやるんだ?」

「ええと……。10月15日だったっけな。俺は早めに帰るけどな」


「おめえ、そこに家があんのか?」

「ああ、あるぜ。おふくろが住んでる家がな。…泊めてやらねえよ」


「だ、誰が!」

 まったく調子が狂うやつだ。

(こいつ……。本当に俺を誰だと思ってやがるんだ……)


「コブルーの祝祭の張り紙があちこちに貼ってあるぜ。市場とかな。詳しく知りたきゃそれを見てみな」

「ああ、張り紙か……」

 サイフラーも、村人が興奮している理由を思い出した。


「それにしても……なんでこんな西の領地にまで張り紙があるんだ?」

「競技会があるからだよ。全部の領地から代表が出て勝負するってやつさ」

「ほ、ほう……。本当に大規模な祝祭なんだな」


「お、あんたの手下どもが戻ってきたようだぜ。じゃ、俺は行くか」

 レンダは立ち上がって、ゆっくりと荷物をまとめ、ソリの縄を担いだ。

「じゃあな。肉代は貸し、な」


「おめえ、さっきタダって言ったろ?!」

「アハハ」

 レンダは後ろに向かって手を振り、林の中に消えていった。


(コブルー……か……)

 サイフラーは考え込む。


(商人が全国から集まる……)

 そして、大きく頷いた。


(おもしれぇ……)


* * *


「魚はコブルーに向かって集まり始めた」

 天幕の中で、レオストは言った。


 その言葉に、将軍たちは黙って頷く。


「では、次は『疑似餌作戦』だ」


 レオストは静かに笑った。

「エサを運ばせよ」

「はっ」

 部下は頭を下げ、指令に行く。


 レオストはおもしろそうに腕組みをしてひとりで頷く。


(ふふん……楽しみだ)


この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、ポイントをつけて応援してくだると嬉しです! よろしくお願いします。


---今までのあらすじ---

ブリア領主アンドリオンの妹エカーリアと、王弟レオストの嫡男ゼビルスの結婚の費用を作るため、ミナはコブルーで祝祭を開催することにした。しかし、金儲けだけではなく、その裏には別の策がいくつも隠されていた。その一つは、国を挙げての盗賊掃討戦だった。国防担当の王弟レオストの作戦が始まる。

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用語集

ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…

レオスト … 王弟。軍最高司令官。ミナの支援者。40代

レンダ … ミナの夫カイル。バンリオル商会の諜報工作員。24歳

フライア … カイルの相棒で、認識疎外魔法を使う女。25歳

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別小説、完結しています。よかったら、訪問してください!

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