全国の村、大興奮! 村人、ヒーローになれるチャンス到来。その裏に隠された……
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。
初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!
第150話 熱狂する村とレオストの策
3月20日。
国王からの正式な結婚許可をもらい、エカーリアはアンドリオンと共に王都に行き、ラッスル公爵家と正式な婚約式を執り行う。
4月1日。
婚約が成立したため、コブルー記念祝祭の開催は王都中へと一斉に布告された。基本的にブリア領の行事だが、競技会は国の参画事業となる。
そして、ブリア領が制作した大きな告知の紙が、至る所に貼り出される。
王都の広場。
主要な街道の宿場町。
領主の住む城下町の市場。
そこには、美しく描かれたエカーリアとゼビルスの姿と、大きく書かれた文字があった。
その絵姿は実際にブリアに一流の絵師を呼び、描かせたものだ。
『コブルー記念祝祭』
『第一回 技能競技大会開催!』
朝早くから、人だかりができる。
「なんだ、この競技大会って?」
「農民も出られるのか?」
「優勝したら金貨がもらえるってよ!」
「な、なに~?! き、金貨だと~?!」
「こ、こりゃあ一大事じゃねぇか~?!」
噂はあっという間に町中へ広がった。
さらに、その下には競技種目が並んでいた。
1.農民技能競技。
2.漁民技能競技。
3.鍛冶職人技能競技。
4.大工技能競技。
5.畜産技能競技。
6.樵技能競技。
「ただし、出場は領地の代表として出場すること」
優勝者には賞金のほか、「王国一」の称号が与えられると書かれている。
「王国一……」
農民たちは思わずその文字を見つめた。
今まで、誰もそんな称号を与えられたことはない。
「親父!」
一人の少年が父親の袖を引っ張る。
「出ようよ!」
「ばか言え。」
父親は照れくさそうに頭をかく。
「俺なんかが王国一になれるわけねぇ……」
すると、隣で野菜を並べていた年老いた母親が笑った。
「何言ってるんだい。この村で一番いい麦を育てるのはあんただろ」
「そうだそうだ!」
「領地の代表になれ!」
いつの間にか周囲から声が上がる。
男は困ったように笑いながら、
「……考えてみるか。」
と、小さくつぶやいた。
酒場でも話題は祝祭一色だった。
「おい、聞いたか! 大工の技能競技だってよ!」
「ええ~? つまり、俺ら、出られるってことか?」
「村の代表にならないと出られねぇぞ」
「だったら……うちの親方なら出られるかもな」
「鍛冶屋も出られるんだぞ」
「ええ~、ほんとか?」
「俺らはなんも出られねぇな……」
「いや、出ないやつらは優勝者を当てるっていうくじがあるらしいぜ」
「そうなんか? くじに当たったら、賞金が出るんか?」
「ああ。出場者が決まったら、くじが始まるそうだぞ」
「こりゃ、目をはなせねぇな!」
酒を片手に、大人たちは期待に胸を膨らませる。
噂は小さな村々にも広がる。
漁村では子どもたちが釣り竿を振り回していた。
「おれは村一番の釣り師だぞ!」
「へん! 俺は王国一の釣り師だ!」
「だったら競争だ!」
「おう! 俺が一番でかいのを釣ってやらあ!」
笑い声が響く。
大人たちはその姿を見て笑った。
「ああ、大きくなったらいい釣り師になるぜぇ……」
それぞれの村で誰が代表になるか、沸き上がっていた。
最終的には、あちこちの村で代表に推された者が領主のところに届けられ、そこから領地の代表になる選考会が開催され、10月にコブルーに送り込まれるという予定だ。
国中が湧きたつ大騒ぎとなった。
特に、農地では穀物の収穫までに時間がある。その収穫で選定される。農地の一層の手入れに力が入った。今年は豊作間違いなしだった。
* * *
4月10日。
王城内のレオストの執務室に続く小会議室。
集まっているのは、一部の領地の出張所長たちだった。
そこへ、どかどかと音を立てて入ってきたのは、レオストとその部下の将軍たちである。広間の空気が引き締まる。
ドカッと椅子に座ると、いきなりレオストは宣言する。
「皆ご苦労である。早速始めるぞ」
「こ、これはいったい……。殿下、何の会議でございましょう?」
居並ぶ将軍たちを見て、出張所の所長たちは不安にかられる。
その中には、以前ミナに苦情を言いに来たバイクレン出張所長ズンダルの姿もある。
レオストは壁に貼られた、祝祭のポスター……板絵を指さす。
「これから、祝祭に関する軍事作戦を説明する。各領地の協力が必要だ」
「な、なんですと……」
所長たちは顔を見合わせる。祝祭と軍事作戦の関係がわからない。盗賊対策なら、いつものように領地で対処すればいいからだ。
祝祭を狙う侵略でもあるのかと戦々恐々だ。
「安心せよ。戦争ではないぞ。これは……」
レオストはズンダルのほうを見た。
「――盗賊掃討作戦だ」
「なっ……」
所長たちは一斉に唖然とする。
今まで盗賊掃討作戦など、行われたことなどない。盗賊が出たら領兵が対応する、ということしかやってこなかった。
「祝祭まで6カ月ある。この6カ月をかけて、各領地で盗賊狩りを行う」
誰もがごくりとつばを飲み込む。
「わかっておるだろうが、この作戦は絶対に秘密厳守だ。だから、そなたらが報告してよいのは、領主とその領軍最高指揮官のみ。他には決して漏らすな。どこに盗賊と通じている者がいるかわからぬからな」
これはレオストを最高司令官とする、王国軍の作戦となる。
「はっ……」
「それは……ありがたいことでございますが……」
所長たちは祝祭が絡む意味がまだわからない。きょろきょろと顔を見合わせる。
レオストは部下に机の上で地図を広げさせる。そして、一本の指示棒でなぞった。
「西から始める」
「西から……?」
「ああ。だから、西の領地にまずは来てもらった」
ズンダルが首をかしげる。ズンダルは東の領地だからだ。
レオストはそのズンダルを見て笑う。
「ズンダル。そなたを呼んだのは間違いではないぞ」
ズンダルはホッとして落ち着く。
指示棒は王国西端を指す。
「まず、西側の盗賊を掃討する」
部下が黒い石をいくつか並べる。それは盗賊たちだ。
そして、白い石をその西側に並べる。それは兵士たちだ。
それから、王都に続く主街道をなぞる。
「この街道で護送団を始める。ここ、……次はここだ」
「それと同時に、王国軍がここらへんを掃討する。ここは国境線があるから、王国軍が出て行く理由になる。そして、領地を跨いで布陣する」
領兵には領内しか動けないという制約があるが、王国軍は違う。
レオストはいくつかの地域を指示棒で丸く囲む。
それに従って、部下がT字棒で、石を動かした。
所長の一人が口を開いた。
「殿下、それでは盗賊どもは東へ逃げまする。つまり、我が領地に盗賊がなだれ込みます」
その東隣の領地の所長が不満気に言う。
「その通りだ」
レオストは静かに笑った。
「わざと東に逃がすのだ」
「……!」
部屋がざわめいた。
「次に、王国軍はこの位置にも置かれる」
レオストの指示で、部下はT字棒で白の石を北西から北に置く。
「こうして、東南に盗賊団を追い込むのだ」
部下は黒い石を東南へと移動させる。
「そなたらは領兵を使って、やつらをどんどん東南に追い込め。もちろん、叩ける分はいくらでも叩け。取り残した者を東南に追い込むのだ」
「……逃がして、どこへ集めるのです?」
その質問に、レオストは指示棒をゆっくりと東南の端に動かす。
その先には、コブルー自由港がある。
「最終的には……ここだ」
「コブルー……」
ズンダルは驚愕した。
「だ、だから……。コブルー記念祝祭……が絡むのですね?」
「ああ、そういうことだ。祝祭の影に隠れて行う作戦だ。
祝祭準備で、国中大盛り上がりだ。町は騒がしくなり、街道の動きも活発になり、兵が動いても怪しまれぬ。
夏になれば荷がコブルーに向かって大量に動く。それを追って、盗賊も移動するであろう。
ゆっくり6か月かければ、盗賊どもはこれが作戦だと気づくまい」
「ま、まさか……」
ズンダルは思い当たる。
レオストはズンダルのその顔を見て、ふっと姿勢を緩め、片手に腰を当てて立つ。
「そのとおり。そなたがミナに盗賊の件を訴えたであろう? だから、ミナはブリアの祝祭を利用して掃討作戦をせよと私に提案し、私が作戦を組み立てたのだ」
「な、なんですと……?!」
ズンダルは驚愕だ。
(あの小娘に……そんな知恵が……?)
まさか、ミナが盗賊掃討作戦を提案するとは思いもしなかった。
「だから、そなたにこの作戦を第一陣で伝えておる。成功を祈るがよいぞ」
レオストはニヤリと笑う。
(な、なんと……。本当に対処するとは……)
ズンダルは心底驚愕した。
「よいか。そなたらのやるべきことは、盗賊どもをコブルーに追い立てることだ。村も街も宝くじだの競技会だので沸き立っておるのを理由に、騒動を避けるためとでもして、祝祭まで領兵を街道に常駐させておけ。そして、東側を緩くしておけ」
「し、しかし……。そんなにうまくコブルーに集まるでしょうか……」
所長の1人が怪訝な顔をする。
「北東に行くことは考えられませぬか?」
「ふん。北東にはいかぬ」
レオストは自信たっぷりに言う。
「盗賊は根城を失い、恐怖にかられて逃げようとする。そして、利益に群がり、恐怖を消そうとする。だから、コブルーの祝祭に向かうのだ」
周りの将軍たちはそれぞれに頷く。
「祝祭では見本市が行われる。つまり、今まで見たこともない高価な品、貴重な品が集まるということだ。追われて仲間と財産を失った盗賊どもが、これを見逃すはずはない。
しかも、今回の行事は全国から商会の荷が集まる大掛かりなもの。だから、直前に運ぶことはできず、コブルーの周辺の倉庫にしばらく取り置かなければならない。盗賊が狙うのはそのときだ。
フン。飛んで火にいる夏の虫にしてくれようぞ」
「うむむ……」
所長たちは脂汗をかきながら、地図と祝祭の張り紙をにらむ。
「殿下……。これは殿下のご嫡男ゼビルス様のご婚約の祝い事……。それをこのような囮にしても良いものでございましょうか……」
恐る恐る1人が言う。
「ブリアのミナ殿の案とお聞きしましたが……。これは不敬では?」
レオストは思わず声を上げて笑う。
「ワハハハ! 私は国防の長ぞ。これで国が盗賊を一掃できるなら、ゼビルスへの良い祝福となるであろうよ」
「はあ……」
公爵家の婚約の祝祭を囮にという発想があまりにも大胆過ぎて、所長たちは戸惑いを隠せない。
しかし、レオストにしてみれば、これが成功すれば、名誉挽回の大きな功績となる。
「いや……しかし!」
眉をしかめる所長たちの中で、1人の所長が立ち上がる。
「これは領地にとっては大変喜ばしいこと。この作戦が成功するように、我らも心して取り組みましょうぞ! 我が領地は全力でご指示に従います!」
そう決意を込めて宣言する。そして武者震いをしながら、レオストに明るい表情を見せた。
「お、おお……!」
「まこと……」
「確かに……」
残りの所長たちも次々に立ち上がり、協力を誓った。
「我らも全力を尽くします!」
「よく言った」
レオストは満足げに頷いた。
「よいか! アラゴンキアはもう盗賊団を許さぬ。
そなたらもこの作戦を絶対に成功させるべく、機密を守り、作戦を遂行せよ!」
「はっ!!!」
会議は終わり、所長たちは出て行き、将軍たちが残る。
ズンダルは会議室を辞したが、まだ驚きが冷めやらない。
(あの娘……。天才官僚と呼ばれているが……)
ズンダルはミナを侮っていたことを思い知り、ミナへの思いを改めた。
そして、殿下の言葉を思い出す。
「すぐに文句を言うのではなくて、自らも工夫をすべきであろう」
(殿下が言われたことはこういうことか……)
ズンダルは、ブリアに協力を求めるで、自分は対処していると思い込んでいた。
だが、それは違ったのだ。そのことを思い知った。
(策を立て、実行してこそ「対処した」と言えるのだ……)
ズンダルはいまさらながら、自らの不明を恥じるのだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、ポイントをつけて応援してくだると嬉しです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
ブリア領主アンドリオンは妹エカーリアと、王弟の嫡男ゼビルスの結婚を進めるよう、ミナに依頼した。ミナは、その費用をなんとか作ろうと、大イベントを提案する。しかし、金儲けだけではなく、その裏には別の策がいくつも隠されていた。
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…
アンドリオン … 若きブリア侯爵、ブリア領主。20代
レオスト … 王弟。ラッスル公爵。ミナの支援者。40代
エカーリア … アンドリオンの妹
ゼビルス … 王弟レオストの嫡男。20代
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