エカーリアとゼビルスの結婚に立ちふさがる大きな問題
このお話は自由港を作り上げて国を侵略から守ろうと奮闘するミナのお話です。
ミナはカイルと結婚後、一か月して王都にやってきた。目的はエカーリアとゼビルスの結婚の可能性について……。
初めてお読みのなる方は、下にあらすじと用語集があります!
第146話 他領の問題、吹き上がる
王城ではレオストが主催するサロンに出席し、そこでレオストに挨拶をする。
「おお、ミナか。先月会ったばかりだぞ。いかがした。新婚生活を楽しんでおるのではないのかな?」
と、レオストがミナに笑顔を見せた。
「はい。実は殿下にお話がございまして……」
「なんだ? 街道商会も護送団も、ちゃんと進んでおるぞ」
「はい、殿下のおかげでございます!」
護送団は王国の主要な街道が進めているが、まだほんの一部だ。基本的に、ブリアに比べて他の領地は動きが遅い。
ミナはレオストに少し近づく。
「実は、ゼビルス様の件で、殿下にご相談が……」
「ふむ……?」
そこへ3人の男たちがふたりのところにやってくる。
「失礼いたします。ブリア侯行政顧問のミナ殿とお見受けいたします」
「は、はい。ミナでございます。なにか……?」
3人の男たちはどうやら、どこかの領地の代表らしい。
1人の男が一歩進み出て、ミナをにらむ。
「私はバイクレン出張所の所長ズンダルでございます。護送団の件でミナ殿にご意見したい」
「はい。それがなにか……?」
バイクレンはまだ護送団を採り入れていない。
「うちの領地はとても迷惑しております。コブルー・王都線の街道が兵士に守られているため、盗賊どもがうちに押し寄せたのです。そのため、うちの街道を通る商隊が何度か襲われました」
「はあ……」
それを私に言われても……と、ミナは困惑顔だ。
レオストが一歩前に出た。
「で、それらの盗賊どもはどうしたのだ。兵を出したのか?」
「はい。出しましたが、どうにも捕まらず。領兵では他領に逃げられたら手が出ません。そして、また戻ってくるのでございます。
商人に死者が出ております。我が領地の評判は商人の間でガタ落ちでございます」
「それはミナのせいではなかろう。そなたらも早く、護送団を開始すればよかろう。その仕組みはすでに教わっているであろう?」
「は……。しかし……。盗賊が増えましたので、その対応に追われております。その上に護送団で兵士を使うわけにも……。それに、主な街道はそれでなんとかなるかもしれませんが、すべての街道を護送団で守るわけにはまいりません」
「それはそうである。しかし、かといって護送団をやめよ、というのは本末転倒。領内の盗賊を捕らえるのはそなたらの役目。他領のせいではなかろう?」
「いや、しかし……。護送団をやめろとは申しませんが、ブリアの盗賊が我が領に逃げてきているのは事実。それを我が領だけで捕らえるというのは納得がいきませぬ」
「なるほど……。そういう論理か……」
レオストはしばらく考えていた。
「わかった。これは護送団の問題ではない。軍の問題だ。この件は私が預かる」
レオストがそう言うと、バイクレンの所長は頭を下げる。
すると、別の男が進み出た。この男はミナも見覚えがあった。
「私はエレミア出張所の所長、シェルバでございます。私も護送団がらみでレオスト殿下にご相談がございます」
「なんだ。申してみるがよい」
「はは。殿下のご指示通り、我が領地では護送団を動かしておりますが、兵が足りなくなっております。ご存じの通り、エレミアにはマーガドナ鉱山がございます。
現在のところ、王家の所有にはなっておりますが、実質的には領内の兵や労働者で運営しております。作業はきつく、なかなか労働者が集まりませんので、兵に一部の仕事をさせております。
ところが、護送団に兵を使うことになりましたので、今度は鉱山に人手が足りず……」
「うむむ……」
「かといって、護送団の仕組みに参加できない、と言いたいわけではございませんが、なんとか鉱山に労働者を派遣していただきたく存じます」
「ふむ。……訴えはもっともである。検討することを約束しよう」
ミナは護送団があちこちに影響しているのを知って、冷や汗をかいた。
「殿下。私からもご意見をひとこと」
最後の1人が進み出た。
「私はサンダラン出張所の所長、ベレムンでございます」
それは、バイクレンの西北にある領地だ。
(うちと全然関係ない領地なんだけど……)
ミナとしては、いったいどんな文句があるのかと訝しく思う。
「最近、護送団の評判で、商人や兵の人気が高まっております。それは結構なことでございましょう」
ミナは心の中で目を逆三角にする。
(そうよ。それのどこが悪いのよ?)
ベレムンは続ける。
「しかしながら、国の骨幹は農業、漁業、工業ではございませんか。作り手がいてはじめて商業の意味がございます。ところが、最近の若者ときたら、『農業は嫌だ、商人がいい』などと申しまして、村を出て行く始末。農業人口が減る傾向にございます。これでは先が思いやられます……」
(はぁ~。そんなことまで文句を……)
ミナは心の中でムカッとしていた。
「そなたら……」
レオストもムッとしている。
「文句を言うのは勝手だが……。そもそも、そなたらはそれに対してどのような工夫をしたのだ?」
「そ、それは……」
ベレムンはたじろぐ。
ミナはレオストの反論にちょっと嬉しくなった。
「問題が起きたのはわかる。だが、すぐに文句を言うのではなくて、自らも工夫をすべきであろう。その工夫が見つからなければ、他者に知恵を求めるべきであろう。それでこそ、知恵がありがたいと思え、価値がわかるのだ。
誰かに知恵を求めるのではなく、責任を取らせようという態度では、政は進まぬぞ」
レオストは腕を組んで、3人をにらむ。
これは、レオストがかねてから思っていることなのだ。
多くの者は問題があるとすぐに腹を立て、誰かを責めようとする。すると、脳が怒りに支配され、知恵が回らなくなる。
だから、知恵を出されても「そんなことはできない」と言い張り、解決できなくなる。解決しようとするのではなく、「自分の怒りは正しい」ということに執着してしまうからだ。
レオストは今まで、このような官僚の態度に何度も出会った。
「ふう……」とため息をついて、レオストは身体を緩めた。
「まずは、そなたらがその問題を解決できるよう、努力してみよ。それでうまくいかなかったら、また相談に来るがよい」
そう言うと3人は黙り、頭を下げ、レオストから離れて行った。
「ミナ。気にするな。多くの官僚たちはこのようなものだ。今までのやり方を変えなければいけなくなると、すぐに誰かに文句を言う。頭が固いのだな」
レオストは眉をしかめてミナに言った。
ミナはその状態を理解できる。
大きな役所は大量の人を扱うので、型にはめて、ルール通りに処理しなければならない。でなければ公平性に欠けるからだ。しかし、それは頑固さを生む。
「公平な対応」と「柔軟な対応」は、トレードオフの関係なのだ。
レオストはミナを壁際の椅子に座らせ、自らも隣に座った。
「で、話と言うのはなんだ?」
「はい。ゼビルス様とエカーリア様のことでございます。前に殿下もおっしゃっておられましたが、もしかして、ゼビルス様はエカーリア様をお気に召していただいたのではないかと……。それを確かめましたところ、ゼビルス様はご結婚の意志があるようで……」
「ああ……」
レオストは笑った。
「アンドリオンがそなたをすぐに王都にやるとは、と不思議に思ったが、そういうことか」
ミナはその言葉にクスッと笑う。
「ゼビルスはエカーリアを気に入っておると思うぞ。言いたくはないが……共に、問題を起こした家同士。互いに気兼ねがいらぬ。本人同士が結婚したいと言うのであれば、私は問題ないぞ」
「まあ! 本当でございますか? 殿下はご了承いただけるのですね?」
「ああ。賛成する。陛下もお許しくださるであろう」
ミナはホッとした。
「だがな……」
「はい?」
「一つ問題がある。おそらくブリアのほうにな」
「……それはいったい?」
「ゼビルスとエカーリアの婚儀のためには大金がかかる。しかし、今ブリアには金がないであろう? 婚約は可能だが、もう少し経たなければ、婚儀の準備ができぬのではないか?」
「まあ……。そうなのですね」
公爵家と侯爵家の結婚だ。持参金もさることながら、花嫁の衣装や家具、従者の衣装を新調しなければならない。それから、領地内に祝儀として撒くお金。結婚式を取り仕切る神殿への寄付金……。さまざまなお金がかかるのだ。
ミナにはいくらかかるか、想像ができなかった。
「さらに、両家とも国王の罰を受けているため、本来没収されるはずだった財産の一部の支払いを命じられておるからな。金の余裕がない。我が公爵家もかなりの負担だが、我が領地の税収は変わっておらぬからまだよい。しかし、ブリアは関税を下げた分、税収に困っておろう。だから、アンドリオンは金の工面をせねばならぬ」
「なるほど……。まったく存じませんでした」
ミナはまったく想像してなかったことを言われ、遠くを見る目で考えた。
レオストはふふふと笑う。
「さて、ミナ。どうするかな? そなたなら何かやれるであろう。その莫大な金を生み出して見せよ。さすれば、ゼビルスとエカーリアはいつでも結婚できるであろうよ」
「は、はい! かしこまりました!」
(ゼビルス様に『お任せください!』と言った手前、私がなんとかしなくちゃ……)
ミナは思いがけず、大きな課題を課せられたのだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、ポイントをつけて応援してくだると嬉しです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とするためにブリア官僚として働く。王都でも数々の施策により、天才官僚と呼ばれるようになり、恋人カイルとともに騎士位を与えられ、結婚した。まだまだコブルーは自由港となるには道が遠い。
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…
レオスト … 王弟。ミナの支援者。40代
ゼビルス … 王弟レオストの嫡男。20代
アンドリオン … 若きブリア領主
エカーリア … アンドリオンの妹
両家の問題 … かつて、国王アル―ストの暗殺未遂事件を起こした




