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結婚後のミナの暮らしと、再び王都訪問

ミナとカイルが結婚して、一か月後……。

第四部、始まります。

初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!

第四部 成長する王国


第1章 王国あげての一大事業


第145話 公爵家と侯爵家



 真冬の結婚式から1か月が過ぎた。まだ2月だ。


 結婚してからも、ミナは若草宮でカイルとふたりで住んでいた。


 最初はふたりで家を借りようとしたのだが、アンドリオンが反対した。

 カイルはよく留守をするので、ミナがひとりになるからだ。どんなに護衛を付けても、タンブリー市内と、ブリア城内では治安が異なる。


 行政顧問としての価値が知られてくると、いつどんな目に遭うかもしれないから、ブリア城内に住むようにと、アンドリオンが強く主張した。城内ならば、住まいと執務室の往復に、いちいち護衛はいらない。庭の中を歩くようなものだからだ。


 こうして、結局、アンドリオンの勧め通りに、ミナはカイルと共に若草宮にそのまま住んでいた。領主から派遣されている侍女も護衛騎士も、そのままになった。



 王都コブルー間の街道の工事も4カ月前に始まっていて、まだブリア領内は工事をしていないが、そろそろ街道周辺の施設の計画に取り掛からなければならない。


(コブルーから来る外国商人が、ブリア領内で1泊すれば、かなりの儲けが見込める……)

 王都までは3日。そして、通る領地は4つ。パドマ、デラー、エレミア、それにブリアだ。

 つまり、1つの領地はそのまま通り過ぎることになる。


 コブルーを朝早く出発してブリア領を抜ける頃は、だいたい午後4時なのだ。そのままエレミア領に抜けられては、ブリアの儲けがない。


(や、やばい……!!)


 ミナはそこに気づいた。

(エレミアよりも魅力的な宿泊地にしなければ……!)


 古代ローマ帝国の民衆統治のための三大施策はパンとサーカス、それに大浴場だ。

(パン、つまり食料はあるとして……。大浴場はこの世界には必要ないかな……。あとはサーカス。つまり娯楽か……)


「楽しい娯楽のある宿って……」



「ミナ、街道の宿は商人たちに作らせるのだろう? 領地がするのは土地の貸し出しと下水道の基礎工事だけであろう?」

「はい。……ちょっと考えてみたくなったのですわ」

 ぶつぶつ声に出していたので、アンドリオンに楽しい宿のことを考えていることがばれた。


「はぁ~。我が領地は今、金がないのだぞ。遊んでいる場合ではない」


 アンドリオンに怒られてしまった。


「それよりも、ミナ。エカーリアのことだが……」

「はい。何か?」

「ゼビルス様と文通をしているのだが……。君はどう思う? ゼビルス様はエカーリアを娶っていただけるだろうか?」


「まあ! もちろんですわ!」

 ミナは両手を胸の前でパンと合わせて元気よく言った。


 その言葉にアンドリオンは目を逆三角にする。

「なぜ君がそんなに確信を持って言う?」

「おふたりはお似合いですもの」

「はぁ~。君は単純だな……」


「で、エカーリア様もお望みなのですね?」

「ああ。はっきり聞いたわけではないが、ゼビルス様の話をするときには、頬を染めている。母上も私と同じ考えだ。もし、公爵家と縁組ができたら……。母上もお喜びになるだろう」


「そうでございますね……」


「で、君は次にいつ王都に行くのだ?」

「あの……、1か月前に結婚式を挙げに行ったばかりでございますから……」


 あんなに「王都に行くな」と言っていた人が、1か月前に帰ってきたばかりのミナに、さっさと行けと言わんばかりだ。


「次に行ったら、ぜひレオスト様にお会いして、エカーリアのことを尋ねてほしい。あれももう22歳だからな。本来、侯爵家の娘としては結婚が遅すぎる年齢だ。一刻も早く決めなければ……。もちろん、ゼビルス様にその気がないなら仕方がないのだが……」


「かしこまりました。ええと……。3月には農民支援策をお始めになる予定ですから、そのお伺いということで訪問いたしましょう」


「ああ。それは良いな! 頼むぞ」


 ミナはアンドリオンがフィルベラに、エカーリアの結婚をなんとか進めよと、せっつかれているのだと理解した。


 ということで、ミナは1週間後、再び王都に行くことになったのだった。



 ミナは家に戻って、カイルが帰るのを待っていた。

 彼はタンブリーにあるバンリオル私兵のための宿舎、カイザ寮でいろいろと訓練を受けている。最近は剣やアイキドーを他の兵に指導する側にも回る。

 バンリオルの護衛だから、ボリックが移動すると、基本的にカイルも移動する。だが、この1か月はバンリオルの計らいで、ずっとタンブリーに残っていた。


(彼がせっかくタンブリーにいるのに、私が王都に行くって言ったら、がっかりするかしら……)

 そんなことを考えているうちに、カイルが戻ってきた。

「おかえりなさい、カイル」

 二階の私室で彼を抱きしめる。すると、カイルは強く抱きしめ返して、ミナにキスをした。


 ミナはおそるおそる「私、王都に行くことになったわ」と言う。

 すると、カイルは少し黙って、「俺も出かけることになった」と言った。

「え、そうなの?」

「ああ」

「そうか……」


 彼が行先を言わないときは、国家機密の諜報の仕事なのだ。

「はあ……。甘い日々はもう終わりってことね」


 諜報員と結婚するって、こういうことかと改めて思う。

 カイルはカイルで、

「優秀な官僚と結婚するとはこういうことか」と思っている。


「終わりじゃなくて、お預けってことだよ」

 カイルが微笑んで言い直す。

「うふっ。それ、いいわね」

 お預けなら楽しみが残る。笑顔で待っていられる。


(カイルが仕事に復帰するなら……なかなかタンブリーには帰って来られないかも……)

 ミナはため息をつきながらも、結婚できただけでもありがたいと思うことにした。


 * * *


 ゼビルスは月の大半はラッスル公爵領にいるが、毎月数日間は王都に来ている。ミナはその日程を確かめ、王都でゼビルスにお目通りを願う。


「ミナ殿。お久しぶりでございます」

 銀月宮の応接室でゼビルスはにこやかにミナを迎えてくれた。

「ゼビルス様、本日は、農民支援策について、何かご不明な点はないかと思い、お訪ねいたしました」

 とミナは礼をする。


「ああ。それは助かります。初の競りが迫っておりますので、いくつか確認したいことがございました」

 ゼビルスはニコニコして、いくつか質問をした。

 ミナはそれに丁寧に答える。


 それが終わると、ミナはひとつ提案をする。


「ゼビルス様。初の競りには、実は……密かに用意するべきものが……ひとつございます」

「ほう? それは何でしょうか?」

 ミナが「内緒」のように言うので、ゼビルスは興味を持った。


「実は、……サクラでございます」

「は? サ……ク……ラとは?」

(あれ?! サクラが通じない?)


「つ、つまり……。競りでの手本のような存在でございます」

「はあ。手本……ですか?」

 手本なのに、なぜミナが声を潜めるのか、ゼビルスには意味不明だ。


「初めての競りでは、商人たちはどうしていいかわからない、ということがございます。ですから、こちらで用意したサクラ……いえ、ええと……、こちらが用意したニセの競り人に、最初の声をかける手本を見せるようにさせるのでございます」


 サクラの説明は難しい。ミナは焦りながら説明する。


 これはズルではない。正しい戦略なのだというふうに、説明しなければならない。

 ミナはなんとか、サクラの活用法を説明した。


「ああ。わかりました。最初、どうしていいかわからないから、『こうやって手を上げて値を言うのだ』という手本なのですね」

 やっと理解してもらえた。ミナは汗を拭く。


 ミナが初競りで味わったあの気まずい雰囲気を、ゼビルスが体験しなくて良いようにと思った、母心なのである。


 競りの話を終えると、ミナは話題を変えた。

「あの、ゼビルス様。お話は変わりますが、エカーリア様とは文通をしておいでだとお聞きしておりますが……」

 やっと本題だ。


「は、はい。農民支援策について、かなりいろいろと教えていただきました。特に、仕事を分けるやり方などは、大変勉強になりました」

「そうですか……。エカーリア様もゼビルス様のお話をとても嬉しそうになさっているご様子でございます」

「え、……そうですか……」

 ゼビルスは少し顔を赤らめる。


「で、……大変ぶしつけではございますが……。実はブリア侯に依頼されまして……」

 とミナは話を切り出す。

「もし、エカーリア様をお気に召していただけたのならば……と」


 はっきり言わないところが上品な物言いというものだ。


 ゼビルスも、ミナが言いたいことは理解した。

「はい。正直に申しまして、こんな気持ちは初めてで……。ぜひエカーリアを我が地に迎えたいと思っておりますが……」


(……『が』?)

 ミナは何が障害になるかがわからない。

「まずは父上のご意向を伺いませんと……」


「まだ殿下にはお話をしていらっしゃらないということでございますね?」

「はい。そうなのです。エカーリアの気持ちを確かめたわけでもございませんから」


 本来、この世界の高位の貴族は恋愛結婚をしない。どんな順番で何をすべきか、すぐにはわからないのだ。


「かしこまりました。お任せください!」

 ミナは俄然ファイトが湧いた。


「は……。ミナ殿が何かをしてくださると……?」

「はい。おふたりが互いにご結婚の意向をお持ちなのはわかりましたので、あとは殿下とブリア侯が進めさせていただればと思いますが、よろしいでしょうか?」


「ええ。もちろん、父上の許可があるならば……」

 ゼビルスは顔をあからめたまま目を輝かせる。


 ……こうして、ミナはゼビルスの元を辞して、レオストに会うことにした。


いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。


この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、ポイントをつけて応援してくだると嬉しです! よろしくお願いします。

---今までのあらすじ---

MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とするためにブリア官僚として働く。王都でも数々の施策により、天才官僚と呼ばれるようになり、恋人カイルと共に騎士位を与えられた。そして、ふたりは結婚したのだった。

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別小説、連載しています! よかったら、訪問してください!

クリスタル・ハート・カフェ

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用語集

ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…。

カイル … ミナの恋人で、バンリオルの諜報員、私兵。23歳

アンドリオン … 若きブリア領主

エカーリア … アンドリオンの妹

ゼビルス … 王弟レオストの嫡男

フィルベラ … アンドリオンの母

ボリック・バンリオル … 大商会バンリオルの会長、ミナの支援者

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