第18話 緊迫する二人の争い
異世界に来てしまったミナ。MBAのキャリアはパーに…。
ミナは自分で起業して、野菜の一括買い取りを始めた。しかし、クルムがじゃまをする。カイルはそれに腹を立てて…。
ミナ … 主人公。
カイル …ミナを助けた冒険者。
クルム … 冒険者の兄をカイルのせいで失ったと恨む村人
ミナはタンブリーから帰ると、その日のうちに村役場に報告をしていた。そして、役場から家に帰る途中だった。
「ミナ」
振り返ると、狩りから帰ってきたカイルがいた。簡易台車に皮でざっくり包んだ大きな荷物を載せていた。
カイルは途中の街でいくらかの肉を売り、加工が必要な部分だけを持ち帰っていた。
その中にはセイルが二枚、包みから覗いていた。
「おかえりなさい。それ、何?」
「魔物の一部。風魔法を使う魔物の背ビレ…みたいなものかな」
「へぇ~、またすごいのを倒したのね」
ミナは少し近づいて、セイルを眺めた。
「トーチが役に立ってる。前よりもさらに安全に狩りができるようになった。ミナのおかげだよ」
「ほんと?! それはうれしいわ!」
ミナは本当によかったと思った。
トーチが役に立つならカイルの安全性も上がるし、収入も上がるのだから、自分も少しばかり貢献していると言えそうだ。
「私、いくつか農家を訪問してから帰るから」
「わかった」
そう言って、途中で別れた。
村人を回った帰路の途中で、ミナは木陰の向こうから男たちの険悪な声が聞こえてきたので、少し歩みを止めた。
「お前だけいい思いしてるのが気に食わないんだよ」
…それは、クルムの声だった。腕を組んでえらそうにカイルを見下ろす。
「お前に関係ないだろ」
カイルが台車の紐を肩に掛けたまま、言い返す。
(あちゃ…。クルムと出会っちゃったのね…。まずいな…)
「それからお前、こないだミナとレイにいやがらせしただろ。荷馬車に…」
「ふん。何のことかわからないね」
クルムは肩をすくめた。
「次にまたあんなことをしたら、承知しないからな」
「承知しない? 俺を殺すのか? 俺はオオカミみたいに簡単にやられ…」
クルムはハッとして口をつむいだ。うっかり口を滑らせたことに気づいたのだ。
「お前…」
カイルの声に憎しみがこもる。
おおごとにならないうちに、カイルと共に家に帰ろう。そう思って、ミナは近づき、クルムの背後に出た。
クルムはハッと振り返る。カイルは正面にいる。二人とも無言でミナを見た。
「カイル、帰りましょう」
ミナはクルムの横を通り抜けようとする。
「おい、待てよ。女がしゃしゃり出るな! 今、俺がカイルと話をしてるんだよ」
「それ、話じゃないわ。いちゃもんでしょ? カイルが聞く必要なんかないと思う」
ミナはピシャリと言った。彼女はクルムを怖れない。
もともと28歳のミナからしたら、クルムはまだレイと同じく高校生みたいなものなのだ。
「おまえ…。生意気なんだよ」
クルムはミナを突き飛ばそうとしたが、ミナはさっと躱した。
「そうやってすぐに暴力をふるうの、やめてくれない?」
ミナが反論するのを、カイルは驚いた顔で見ている。
ミナが背を向けてカイルのほうに歩こうとすると、クルムが後ろからその腕を掴もうとする。
カイルが動こうとする暇もなく、ミナはその手をつかみ、手首をひねりながら軽く腕をひねった。
すると、クルムは大きくバランスを崩してくるりと回転して転倒した。
「お、おまえ…」
驚愕の顔で立ち上がろうとするクルムの顔は憎しみに満ちていた。
カイルは反撃を警戒して、身構えた。
ふたりの間に火花が散った。
しかし、先に動いたのはミナだった。
ミナは素早く動いて、倒れたクルムピッターを向けた。
一瞬、森の音が止まったように感じられた。クルムの表情が凍り付く。
「これ、武器だってわかるわよね? 私だって自分の身を守れるわ。きっとあなたのお兄さんも自分の身を自分で守ろうとしたでしょうよ」
クルムは倒れたまま、目を見開いた。ミナが何を言おうとしているのか、わからなかった。
「いい? 自分の身を守るのは自分なの。全力で自分を守るのよ。それに失敗したら死ぬだけよ。
それが嫌なら冒険者なんかやめればいい。
自分で危険に飛び込んだんだから、それくらいの責任を持つことよ」
クルムは驚いた顔で固まった。
「あなたはカイルが憎いんじゃない。ふがいない自分が憎いんでしょ。
カイルをねたんでいるだけでしょ。その悔しさを人にぶつける暇があったら、訓練すればいい。
未来が見えたって、それが死ぬ未来ばかりじゃ意味がない。
生きる未来をつくるには結局は実力なのよ」
クルムは両肘を立てて少し身体を起こし、無言でミナをにらんだ。ミナもにらみ返す。
「自分だけお兄さんの死を悼んでいるフリをして、カイルに怒りをぶつけるのはやめてちょうだい。彼があなたのお兄さんの死を悼んでいないとでも思うの?」
ミナはそこまで言って、ピッターを下げた。
「あなたはただのわがままな子供よ。実力がないくせに、カイルと同じものが欲しいだけでしょ。
そんな子供じゃ、お母さんが悲しむ。お兄さんの代わりになってお母さんを喜ばせるくらい、成長することね!」
そう言いながら、数歩歩き、カイルの腕をつかんで引っ張るように歩き出す。倒れたクルムの横を何もなかったかのように通った。
クルムばかりか、カイルもあっけに取られていて、台車ごとミナにずるずると引きずられるように歩く。
クルムは立ち上がりもせず、呆然として二人の姿を見送った。
カイルはしばらく黙って歩いていたが、家が近づくと「ふふっ」と笑った。
「なに?」
ミナが振り向く。
「いや…。なんか、俺も説教されたみたいだった…」
「そう?」
「で、……ミナに守られたみたいだった」
そう言って彼はまた笑った。
これは、ひとりの女性が、経済の知恵で、国を侵略から守るという壮大なストーリー。
長いお話ですが、よかったらお付き合い、お願いします。
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