カイルの危機?! そこにジオルダンが……
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください!
初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!
カイルは索敵用魔法具トーチを起動する。
すると、小舟から船にあがってくる者たちが6人いるのがわかる。
(敵は6人。さらに、この船にもいるかもしれない。こっちは1人だ。入り口で一人ひとりを相手にするしかないな)
狭い船倉の入り口を通る時に1人ずつ倒す作戦だ。
だが、やつらは船に乗り移るのにもたついている。それより先に、1人の男が船倉に入ってきた。それは2人の見張りが眠ったかを確かめに来たのだ。
すかさずカイルがその男を倒し、顔を見る。やはり、あの魔物の刺青の男だ。
「お前が盗人か!」
カイルが怒鳴る。
「チッ!」
カイルはみぞおちにパンチを入れる。男はグホッと口から血を吐き、気絶した。船の振動で小舟の6人が上がってきたのがわかる。
カイルはそいつらを入り口で待ち伏せした。
1人が入り口の扉を開けて入ろうとする。それをあっという間に斬り倒した。
2人が飛び込んできたが、それも肩をついて倒していく。叫び声がすれば、誰かが起きて来るだろう。なんとか時間を稼ぐのだ。
しかし、3人目の男は強かった。カイルの剣をやすやすと受け止め、カイルを壁際に追い込む。空いた入り口から4人目が入ってきて、3人目の男の脇からカイルに斬りつけようとする。
(まずい!)
5人目も入ってきたかと思ったら、5人目が「ギャッ」と叫び声を上げて、船倉の低い天井にぶっ飛んで床に落ちた。
カイルに斬りつけようとした男2人が、驚いて振り向く。
その瞬間を見逃さず、カイルが2人に斬りつけた。
「ギャ~!!」
結局、カイルはなんなく4人を倒す。
5人目を倒したのは、ジオルダンだった。
6人目もすでに甲板で倒したようだ。
「よっ、カイル!」
ジオルダンがカイルに手を上げて挨拶する。
「なんであんたが……」
そこへ叫び声を聞きつけた船長がやってきて、船倉を見て呆然とする。
「な、なにがあったんだ……」
船長が見たのは、狭い船倉に計8人の男たちが倒れている惨状であった。
翌日のロッカル島の港湾事務所で、ジオルダンとカイル、それにバンリオル船の船長と番頭が集まった。
「つまりだな……」
ジオルダンが得意げに説明する。
「俺たちトガリアの船も、現金輸送船が狙われたことが続いてな。それでこの島で奪われたことに気づいたってわけさ」
「し、しかし……。どうやって、この船が現金を運んでいるって知ったんです? 乗組員も知らないはずですよ?」
番頭は青ざめてジオルダンに尋ねる。
「それがな、ドラーハーの税官吏から情報が漏れているんだよ」
「税関で漏れた?!」
番頭と船長はぞっとした表情で顔を見合わせる。
「どうやって乗組員に伝えるんです?」
「税官吏が、乗組員に合図して教えてやがったのさ。そして、その乗組員が、この港に着いた時に信号で盗賊団に教えてやがるんだ」
「なんと……」
カイルは驚いた。船長も番頭もシロだ。
「つまり、税官吏と、一部の船乗りがグルで、この島の盗賊団に分け前を与えてやらせてたってことですか……」
バンリオルの番頭も肩を落としている。
「どっちが分け前なんだか、まだわからんけどな」
とジオルダンが言う。
「税関に裏切られるとは……」
船長もがっくりとうつむく。
「でよ、俺らはここで奪われたことには気づいたけど、盗賊団のもんを捕まえることができなかったのさ。そんで、おとりを待っていたってわけだ。そしたら、あんたらが来た」
(やっぱりおとりにしやがったな)
カイルはそう思ったが、……ジオルダンに救われたことも事実だったので、文句は言えなかった。
「ま、一つ貸しだな~。カイルちゃんよ」
デヘデヘと笑いながらカイルの肩に腕を載せるジオルダン。
「て、てめえ……!! 離れろ! おとりにしやがった分でチャラだ!」
ジオルダンとカイルは私兵を連れて、盗賊団のアジトを襲った。そして、無事にトガリアの現金箱と、バンリオルから盗まれた分を取り戻した。
ジオルダンは「ワハハ!」と笑いながら、……カイルの乗っているバンリオルの船に当然のように乗り、コブルーに帰ったのだった。
航行中ずっと、ジオルダンが船上でカイルにからんで、カイルがどついていたのは言うまでもない。
第142話 結ばれた外国の港
タンブリーのバンリオル支店の会議室には、重い空気が流れていた。
長机を囲むのは、バンリオルの幹部たち。
代表ボリックはもちろん、王都のバンリオル銀行から頭取にしてバンリオル商会大番頭のフレーゲルも来ていた。
そして、その向かいには――トガリア商会の参謀アルソー、それに、財務部長のネザルが座っていた。
「皆、お揃いですな。では、始めよう」
ボリック・バンリオルが自分の部下たちを見回して、低く言った。
「今回の件、うちのドラーハー支店からの報告は受けておるな」
机の上に置かれた報告書を人差し指でポンと叩く。
「そして、トガリア商会からも、報告書をいただいた」
ボリックはそれを手に取って、まわりに見せる。
「バンリオルの代表ジオルダンと、うちの護衛騎士カイルのおかげで、盗賊団が捕まった。そして、現金は戻ってきた。……おおむね良しと言えるだろう」
皆、頷く。
「問題は、この元凶がドラーハーの税官吏だということだ。もちろん、トガリア商会のほうからドラーハー税関局に抗議がなされているので、すでに税官吏は拘束されている」
「つまり……」
アルソーがボリックの言葉に続ける。
「今後も起きる可能性があるということですね」
「そういうことです」
ボリックも同意する。
「つまり、現金輸送は、もはや限界だ」
ボリックは言った。
すると、幹部たちの何人かはまわりを見回す。
「意味がわからない」という様子だ。
「限界と言われても……」とつぶやきが聞こえる。
一人の幹部が口を開く。
「ということはどういうことです? 護衛をもっと増やすということでしょうか?」
ボリックは首を振る。
「護衛を増やせば、利益はどんどん減るだろう。その費用はバカにならない。護衛を増やしたとしても、盗賊たちも数を増やす。結局、いたちごっこだ。喜ぶのは雇った護衛だけだろうな」
「ふう……む」
トガリアも、ボリックの側も、皆ため息をつく。
「では、……保険ですかな?」
と、別の幹部が言う。
「ああ。それも一案だが……」
ボリックが言いかけると、
「保険料もバカにならぬ」
と、フレーゲルが口を開いた。
アルソーが腕を組んだまま言う。
「保険をかけているとわかりゃ、護衛兵だって、命をかけてまで金を守ろうとは思わないでしょうよ。つまり、護衛兵の意味がない」
「ふむ。それはそうだ」
とボリックも同意する。
ボリックがゆっくりと視線を巡らせた。そして、ネザルとアルソーに目配せをした。
「そこでだ」
「我らは、金を運ぶのをやめる」
ざわめきが広がる。
「……やめる?」
「どういうことですか」
あちこちから声が広がる。
ボリックは落ち着いて言う。
「手形だ」
ボリックは書類の下から手形の見本を取り出した。
さらにざわめきが大きくなる。
フレーゲルは驚いてボリックを見る。
「そ、それは借用証書のようなもので?」
「いや。これは支払いの約束をするための証書だ。つまり、この紙を持って来た者に、商会は金を払うという約束の紙だ」
「な、なんと?!」
幹部たちは動揺する。
「すでに、コブルーとタンブリーの互いの商会では試しています」
トガリアの財務部長ネザルが言う。
「なんですと?!」
フレーゲルの声とともに、幹部たちがざわめく。
「これは、ブリア侯行政顧問のミナさんが発案されたものだ。それを我々2つの商会の支店が、試験的に行ってみた。すでに2か月経った。まだまだ実績は少ないが……。仕組みは理解できた」
とボリックは言い、ネザルも頷いた。
「こんな紙一枚で金の代わりになると?」
「まさか……。信じられない」
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この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、ポイントをつけて応援してくだると嬉しです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とするためにブリア官僚として働く。王都でも数々の施策により、天才官僚と呼ばれるようになり、騎士位を与えられた。そんなころ、対岸のアーガリア大陸のドラーハー港では密輸問題が生じていた。ミナは、この機会にコブルー秤を持ち込もうとバンリオル商会に依頼する。カイルはその件で、ドラーハーの税関長に面会する。
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…。
カイル … ミナの恋人で、バンリオルの諜報員、私兵。23歳
ジオルダン … 元海賊で、今はトガリア商会の会長にして、私兵
ボリックバンリオル … バンリオル商会の代表で、ミナの支援者




