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奪われる現金。その捜査を命じられたカイルは……

このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください


初めてお読みになる方は、下に今までのあらすじと用語集があります!


第141話 カイルの極秘任務


 ドラーハーの港は、秋の風に包まれていた。

 西から吹く風に帆がはためき、荷を積んだ船が次々と入港してくる。

 だが、その活気とは裏腹に、バンリオル商会ドラーハー支店トーマムの気持ちは重かった。


 トーマムは机に両手をつき、深く息を吐いた。狭い所長室のテーブルには、カイルがいた。

「カイル。すまんな。帰り道に頼みたい仕事がある。今回は極秘任務だ。実はニキールの護衛任務は目くらましだ」

「えっ?!」


 カイルは不可解だった。今回は、ニキールの護衛と言われていたが、仕事が簡単すぎた。

 税関長と会うだけなのだから、特に危険はないだろう。


「なるほど。あれは表向きの仕事なのですね」

「ああ。これからが本番だ」

 そう言って、トーマムはバンリオルからの手紙の封筒をパタパタと振った。そこに本番の仕事が書いてある、というわけだ。


「実はな……」

 トーマムはカイルの前に座り、身を乗りしだして、声を潜めて話し始めた。


 バンリオル商会ドラーハー支店では、一定の期間でたまったキア通貨をコブルーに運んでいる。取引によって利益となったスラーラ王国の通貨、ララ通貨をキア通貨に換えて、バンリオル本店に送るためだ。

 しかし、最近、二度ほど、そのキア通貨がコブルーに着く前に盗まれた。これは大失態である。


 多数あるコブルー行きの船のどれに現金を積んだかは、内部の者しか知らないはずなのに、それが狙われたということは、内部の犯行とみなされる。トーマムの管理不行き届きを疑われても仕方がない。


「ドラーハーからコブルーのどこで盗まれたかはわからない。補給地は2か所。ここと……ここだ」

 トーマムは地図を指さす。それは、ワモワ海に浮かぶ島だ。


 一つはコガン島。もう一つはロッカル島だ。このどちらかで奪われた可能性が高いと思われる。


「君には、この次に現金を載せる船に乗って帰ってもらい、盗んだ奴を捕まえてほしい。船にいる護衛兵は使わずに、コブルーから連れてきた私兵2人を使ってほしい」

「なるほど。了解しました」


 トーマムは祈るように指を組み、「頼んだぞ」と言った。


 トーマムにとっては踏んだり蹴ったりの日々だ。ドラーハーの税関検査で荷がダメになったり、現金が奪われたりと、このところ良いことがなかった。特に、現金紛失は首がかかっている大きな問題だ。カイルが一縷の望みなのだった。


 現金を輸送する船は、表向き材木を載せている。現金を載せているのを知っているのは、積荷証明を得る関係上、船長と、船の番頭、そして、カイルだけだ。2人の私兵と共に、ドラーハーを出航する。


 カイルは考えた。

 番頭がバンリオルに不利益なことをすることは考えにくい。

(とすると、船長が一味ということになるが……)

 船長は船によって変わる。過去の二度の事件では、船長が異なる。

(じゃ、犯人は誰だ?)


 現金を船から降ろされるとしたら、港に船が着いた時だが、そればかりとは限らないだろう。密輸船がやっていたように、船と船が沖で接続されて、荷が移されることもある。

 そのため、カイルの部下として配属されていた2人の私兵と交替で見張りをし、夜も注意していた。しかし、最初の補給地までは、特に何も起きなかった。


 そして、最初の補給地コガン島に着く。

 カイルは部下2人を、現金の箱の影に潜ませる。

 部下たちはこの箱の中身を知らないまま、その箱を守っていた。

 ……しかし、特に何も起きなかった。


(ふ~む……。ここでもないとしたら……)

 次のロッカル島が怪しいということになる。その可能性は格段に上がった。


 カイルは索敵用魔法具トーチを眺めた。

 これは、生き物の心臓に反応する。ネズミのような小さなものではなく、ある程度の大きな生き物だ。だから、現金の箱には反応しない。現金箱にネズミをくっつけようかと思ったが、無駄のようだった。

(仕方がないな。とにかく、守るしかない)


 ロッカル島に入る前の夜から、カイルは監視を厳重にした。沖で盗まれる危険があるからだ。部下2人を現金箱に貼り付け、自分はそこに近づく者を少し離れたところからトーチで探る。

 船長と番頭のほかに、現金を輸送していることに気づく者がいるだろうか? 

 知っているのは……あとは税関だ。


 一人、現金箱に近づく者がいた。

 しかし、見張りがいるのを見てか、それ以上は近寄らない。

 カイルはその乗組員に近づく。よく顔を見るためだ。

「おい、悪いな。たばこ、持ってるか?」

 とさりげなく近づく。


「いや。持ってねえ」

 その男はぶっきらぼうにカイルの横を通り抜けた。そいつは商会員ではなく雇いの船乗りだ。

 カイルはその男の特徴を覚える。

 茶色の巻き毛で、眉の太い男だ。顎が丸くしゃくれている。カイルよりも頭一つ分、背が低い。左腕に魔物の入れ墨がある。


 現金箱は重い。一人では運べない。仲間がいるはずだった。

(どこに? 船の上か? 外か?)

 盗賊団が外から来るとしても、少なくとも、1人か2人は船に共犯がいるはずだ。


 次の日、船にはたくさんの出入りがある。補給品を船内に運ぶのだ。

 カイルは、2人の部下に現金箱を見張らせて、自分は運ばれてくる荷と、人夫たちを監視していた。


 すると、港から手を振る男がいる。刺青のある大男だ。

「ジオルダン……。なんでこんなところに……?」

 手を振り返したが、カイルはここを動くことができない。すると、ジオルダンが船に上がってきた。


「おい、こんなところで何してんだ?」

「こっちのセリフだよ。あんたこそ、ここで何してんだ?」

「この島には、かわいいねえちゃんが……ブハッ?!」


 言いかけたジオルダンのみぞおちに、カイルは軽くパンチを入れる。

「俺の前でその言葉、……使うなよ」

 カイルのド迫力の重い声が響く。


「なんでぇ……。俺がどの言葉使おうが自由だろ。おめえ、ここで動かないようだが、もしかすると、仕事中か?」

「ああ、そうだ。邪魔だから失せろ」


「ふふん。そんなこと言っていいのかよ?」

 得意気なジオルダンを見て、カイルは眉をしかめる。

「なんだ。何か知っているってのか?」


 ジオルダンはカイルの耳に手を当てて、わざとらしくひそひそ話をする。

「おめえ、狙っているのは現金泥棒だろ?」

「えっ……?!」

 カイルは表情を変える。

 だが、次の瞬間、「ふふん」としたり顔になった。


「ふん。つまり、トガリアもやられたってことだな?」

 ジオルダンがそれを知っているということは、トガリアも現金を狙われたからだとカイルは思った。


「ふふん。まだ終わっちゃいねえ。あとは仕上げを御覧じろだ」

 ジオルダンは腕を組んで、怖い顔をしながら、口元で笑った。

「なんだ。まだ終わってないのかよ?」

 カイルはあきれたように言う。


「ああ。まだブツが戻らねえんだよ」

「ふん?」

「ま、おめえも気をつけな。今夜あたりはこえ~ぇ夜になるぞぉ~。……へっへっ……」

 そう言って、ジオルダンは船を降りていった。


(犯人はわかってるってことか?……)

 カイルはまだ危険が終わっていないことを知った。


 ジオルダンは船を降りると、カイルに向かってニコニコしながら手を振る。

(調子いいやつめ。……あいつ、もしかすると、俺たちをおとりにしやがっているかもな……)

 そう思うと、現金が心配だ。カイルは現金箱に向かった。


「異常はないか?」

「はい、何もありません」

 2人の部下は報告する。

「誰も近づいていません」

「そうか」 

 カイルは現金箱を触って確かめる。重い。ちゃんと中身が入っている証拠だ。


「今夜が一番危ない。この箱を絶対に守る。それが俺たちの使命だ」

「はっ」

 3人とも気を引き締めて警護に当たる。


 その夜のこと。バンリオルの船が停泊したままのところへ、真夜中になって、小舟が近づいてくる。

 甲板にいて海を監視していたカイルが小舟に気づく。

 カイルは走って、船倉の現金箱に行く。


「お前たち! 来たぞ!」

 しかし、返事がない。

 ふたりとも現金箱のそばで眠っている。


「しまった……!!」

 夕食に睡眠薬でも混ぜられたのか、酒で眠らされたのかもしれなかった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。


この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、ポイントをつけて応援してくだると嬉しです! よろしくお願いします。

---今までのあらすじ---

MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とするためにブリア官僚として働く。王都でも数々の施策により、天才官僚と呼ばれるようになり、騎士位を与えられた。そんなころ、対岸のアーガリア大陸のドラーハー港では密輸問題が生じていた。ミナは、この機会にコブルー秤を持ち込もうとバンリオル商会に依頼する。カイルはその件で、ドラーハーの税関長に面会する。

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別小説、連載しています! よかったら、訪問してください!

クリスタル・ハート・カフェ

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用語集

ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…。

カイル … ミナの恋人で、バンリオルの諜報員、私兵。23歳

ニキール … バンリオルの優秀な番頭。まだ25歳

バンリオル商会 … ミナを支援する商会で「王の剣」という防衛担当

ジオルダン … 元海賊で、今はトガリア商会の会長にして、私兵

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