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コブルー秤をワモワ海の標準にするミナの第一歩

MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とするためにブリア官僚として働く。王都でも数々の施策により、天才官僚と呼ばれるようになり、騎士位を与えられた。そんなころ、対岸のアーガリア大陸のドラーハー港では密輸問題が生じていた。ミナは、この機会にコブルー秤を持ち込もうとバンリオル商会に依頼する。ニキールはその使命を帯びてドラーハーの税関長に面会する。


このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください


初めてお読みになる方は、下に用語集があります!


 ニキールは一礼する。

「私はバンリオル商会本部付きの番頭、ニキールと申します。本日は、コブルー港を管理するアラゴンキアのブリア侯爵から依頼された用件で参りました」


「な、なに? ブリア侯爵と?」

 ニキールはブリア侯爵の紋章入りの手紙を出す。


 ハドックはそれを恐る恐る開いた。そこには、確かにニキールがブリア侯の遣いであることが証明されていた。

「し、失礼した……」


 ハドックはニキールを応接用のソファに案内する。トーマムとカイルはその後ろに立つ。そして、ハドックは対面に座った。


「ブリア侯アンドリオン様は、ドラーハーにおける最近の苦境についてお聞き及びになり、手を貸したいとの仰せでございます」

「な、なに? ……なぜブリア侯が……?」


 意味がわからんという顔で冷や汗をかき始めた。

 ドラーハーは単なる港。そこに、外国の領主が関わるなど、本来ありえないからだ。国際問題になると自分がスラーラ王に咎められる。ハドックは恐れを感じたのだ。


 しかし、ニキールは柔らかい表情で言う。

「ドラーハーでは今、密輸船対策で税関が混乱しております。税関を厳しくするのは良い対処であると思われます。しかし、その一方でアラゴンキアの荷が損害を受けているのも事実。ですから、その件でお役に立ちたいということでございます」


「は? 外国がどのように役に立つと言うのだ……言われるのですかな?」

 ハドックは相手がただの商人ではなく、侯爵の遣いだと思い出して、言葉を変えた。

 外国がこのドラーハーにどんなことができるのか、想像がまったくつかない。


「税関長殿はお聞き及びでしょうか。この密輸船の目的は、スリマラビヤに幻睡薬を持ち込むことなのでございます。それに気がついたブリアは、スリマラビヤと交渉し、コブルーで積荷の確認をされた荷は、スリマラビヤのレッカ港では、簡単な視認だけで荷を通すという約束をいただいたのでございます」


「な、なに?」

「そのおかげで、密輸船はコブルーで荷を積み替えることができなくなりました」

「それはどういう……? たかが積荷証明書で?」


「密輸船の目的は、もともと、出所をごまかすためにコブルー船を使い、コブルーを経由したふうを装うことですから、船がコブルーのものでも、税関検査を通った証明が得られなければ、出所隠しに使えません」


 ニキールは落ち着いて説明する。

「ああ、なるほど……」

 ハドックは頷く。


 ニキールはまだ若いが、15歳の時からバンリオルのそばで働いており、今や10年のベテランなのだ。ボリック・バンリオルがどのように話すか、どのように考えるかを頭の中でシミュレーションできるのだ。


「ですので、ドラーハーも同じことをすれば、密輸船はドラーハーには近づかなくなる、ということでございます」

「……ということは……」


 ハドックも税関長という職を担ってから、すでに8年だ。愚かな男ではない。

「つまり、ドラーハーでも積荷証明書を発行すればよいということか……」

「はい。確かに」


「いやいや。そんなものが密輸船を遠ざけるとは到底思えぬ。税関側の都合はともかく、商船がそれを欲しいという理由がなかろう?」

 つい、ハドックは普通の話し方に戻ってしまう。


「はい。そこでございます。この証明書が効果を持てば、商人たちは皆それを欲しがります」

「ほう……。どのような効果を持つと?」

「この証明書を持つ者は優遇される、という効果でございます」

「ふむ?」

 ハドックは興味を持った。


 そこで、ニキールは言葉に重みを少し加えて、続けた。

「現在、コブルーの積荷証明書を持つ者は、スリマラビヤのレッカ港においては優遇されるのでございます。

 税関では優先列に進むことができ、証明書と荷の簡単な照合だけで税関を通ることができるのです」


「な、なんと……? スリマラビヤで優遇される? ま、まさか……ありえん」

「また、アラゴンキア内のことではございますが、この積荷証明書は国内の城門の検閲でも効力を持ちます」


「ほ、ほう……。たかが証明書が……ですか?……」

 ハドックは深く息を吐いた。それは彼が思うよりも効能があるということだ。


「ブリアの交渉が成功したのは、我が国の王弟レオスト殿下がスリマラビヤを表敬訪問し、その結果得た王族同士の同意なのでございます」

 ニキールはわざわざ、王族同士の交渉の結果であることを強調する。


 ハドックもそれは理解する。王族同士の交渉があればこそ、成り立つ話であると。

「な、なるほど……」


 つまり、ドラーハーが同じことをするには、王族を説得しなければならないということだ。これは、一介の税関長にはハードルが高すぎる。


「いやはや……。王族を動かすことなど、私には……」

 と冷や汗を拭く。


 そこでニキールは助け舟を出す。

「ご安心くださいませ。そこでご提案があるのです。


 スリマラビヤにとって重要なのは、コブルーと同じ条件でつくられた積荷証明書なのでございます。つまり、コブルーの秤で計られ、コブルーの基準で出された積荷証明書でございます。もちろん、厳格に検査の規則が守られるという監視の目が必要となります。


 それに封印です。これは、ドラーハーの税関長のもので良いでしょう。封が切られない限り、積荷の証明になります」


「なるほど……」

 ハドックは腕組みをして頷く。

「そして、こちらはコブルーで使われている積荷証明書の見本でございます」

 ニキールは見本を税関長の机に広げる。


「ほう……。これは……」

 そこには積荷の中身、品質、分量、そして検査番号や担当者の名前、そして封印が押されている。

「なるほど。これは厳重だな。これではなかなか偽造はできんということか……」

 ハドックはその重要性を理解した。


「わたくし共がご提案いたしますのは、今回の密輸船問題に限らず、この証明書がある船は、ドラーハーとコブルーでは、互いに優遇しあうという、相互主義に基づいた取り決めでございます。私はブリア領主から、その取り決めを締結する権限をお預かりしております」

 ハドックは目を見開いた。


「なんと! では、ドラーハーの船もこの証明書があれば、コブルーで優遇してくださるということですか?」

 ハドックは信じられない様子で興奮して聞き返す。


「はい。コブルーと同じ検査を通った積荷に対し、優遇させていただきます。信頼は、一方では成り立ちません。互いに認め合ってこそ、効力を持つのでございます。ですから、互いに互いの証明書を認め合えば、スリマラビヤでも認められましょう」

「おお~! これはすごい!」


 ハドックは思わず驚きと喜びの声を上げたが、急にハタと思い出して、顔をしかめた。

「いや、待て。コブルーの秤で計られた……とおっしゃいましたな。我が港にはコブルーの秤は……」

 ハドックはふう……とため息をつく。


「は。ごもっともでございます。そこで、私どもがお助けしたいのは、そこでございます」

 ニキールはカイルを見て、合図をする。

 すると、カイルは税関の入り口で待機しているバンリオルの者たち2人を指示して、大きな荷物を持ち込ませた。

 それを税関長の前で開ける。


「そ、それはなんだ?」

 荷が解かれ、中から金属の塊が現れた。

「これは、コブルーで使われている、アラゴンキアの秤でございます」

 ニキールが得意そうに言う。

 一組の秤と分銅がきれいに並べられる。


「こ、これで計れと……?」

 ハドックは信じられないように呆然とする。

「はい。この仕組みをご検討いただけますなら、この秤を贈呈したく存じます。いかがでございましょうか?」

 そう言って、ニキールはにっこりとほほ笑んだ。


「こ、これはありがたい! ……本当に……、本当によろしいので?」

 ハドックはあまりにも高価な贈り物に驚愕しながらも、嬉しさを隠し切れない。

 その秤は分銅もまだビカビカで、希望の塊のようにきらめいていた。


「はい。コブルー式をぜひ、採り入れていただきたいと思います。もし、ご採用いただきましたら、あらためて必要な秤の数をご用命ください。特別価格でご提供いたします」

 ハドックはキラキラして見えるその秤に近づいて眺めながら、言った。


「うむ……。わかった。ドラーハー港を管理するモンダレイ侯に上申し、この許可をいただくことにしよう。正式な許可をしばらく待っていただきたい。ドラーハーのためにも、必ず許可をいただきますぞ!」

 ハドックは興奮しながら、そう約束したのだった。


 その後、秤はスリマラビヤのレッカにも配られ、同じ仕組みで3つの港が回ることになる。3つの異なる国は、こうして、同じ計量秤を共有するのだった。

 それは、ミナが求めた自由港コブルーにかなり近づいた一歩となった。


次はカイルの極秘任務です。


いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。


この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、ポイントをつけて応援してくだると嬉しです! よろしくお願いします。


用語集

ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…。

ニキール … バンリオルの優秀な番頭。まだ25歳

バンリオル商会 … ミナを支援する商会で「王の剣」という防衛担当

ハドック … ドラーハー港の税関長

カイル … ミナの恋人で、バンリオルの諜報員、私兵。23歳

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