アンドリオンのカイルに対する思いが変化していく…
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とするために官僚として働く。王都でも数々の施策により、天才官僚と呼ばれるようになり、騎士位を与えられた。そんなころ、対岸のアーガリア大陸のドラーハー港では問題が生じていた。これを機にアーガリア大陸にアラゴンキアのコブルー秤を持ち込もうとミナは息巻く。そんな様子を見て、領主アンドリオンは不思議な思いが芽生えた。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
アンドリオンは酒を一口含むと、暗い部屋の中で立ち上がり、鍵のついた引き出しから一通の手紙を取り出して、またソファに戻る。
これは、「あの日」の数日後に届いたミナの手紙だ。
その内容は恐怖の日々を過ごすアンドリオンにとって、希望だった。「王太子はブリアを助ける逃げ道を模索中」だと書かれていた。
王都のブリア出張所からの手紙にもバンリオルがカイルを使って働いてくれていることが書かれていたが、ミナも王太子に面会をしてとりなしてくれているとは思わなかった。もちろん、当時はミナが王太子を動かせるとは思ってもいなかったのだが。
だが、その手紙にはところどころ能天気なことが書かれており、……王都の店がどうとか、市場の賑わいがどうとか……、それがアンドリオンには腹立たしいやら、おかしいやらで……。ミナの異次元の能天気ぶりに思わず泣き笑いした。読み返すたびに何度も……。
……手紙にはそのときににじんだ文字がいくつかあった。
ミナはそのとき、まだ知らなかったのだろう。暗殺事件にすでにカイルが巻き込まれていたことを。もし、カイルがあのまま予定通りに、王国を放浪するしかない運命になったとしたら、ミナはブリアを許さなかっただろう。
父カリディオンは半年の謹慎の後、エカーリアのデビューとともに「病気回復」と称して復帰の園遊会をしたが、アンドリオンは父の復帰を許さなかった。
あれ以来、父は離宮で静かに暮らしている。
(そうだ。あのとき……)
アンドリオンは会議で感じた不思議な感覚を思い出す。脳裏にはミナが嬉しそうに話す様子が浮かんだ。
ミナの嬉しそうな顔を見ていると、本当にミナがブリアを侵略から救うかもしれないと思えてきた。
……逆に言えば、アンドリオンは今まで信じていなかったのだ。港の繁栄がブリアを救うということを。
ただ、自由港の開発を進めると言えば、処刑を免れた。だから、盲目的に進めてきただけだった。
それが、今日の会議で、現実味を帯びた。
(もしかすると……。本当にブリアは恐怖から解放されるかもしれない……)
そう思えたときに、心の中で何かが弾けたのだ。
それは、恐怖という暗い森の沼地に生えた、最初の花のつぼみが弾けた音かもしれなかった。
アンドリオンがミナを妻にしたかったのは、自分の不安な心の慰めにしたかったのだ。そばにいて、いつも見ていてくれる。そして、褒めてくれ、励ましてくれ、自信をつけてくれる。そんな存在が欲しかったのだ。
だが、それは一時的な慰めに過ぎない。
ミナがやろうとしていることは、ブリア領主の宿命を変えることなのだ。それは、この恐怖に染まった血が浄化されるということなのだろう。
(そうか……)
アンドリオンは手紙を胸に当てて、深呼吸をした。
(恐怖が根本的に消えれば、慰めてくれる存在も必要ない……)
アンドリオンはフレスタの子爵邸でのミナの言葉を思い出した。
「どうしてもなりたたないことがあるとき、君ならどうする?」
と、アンドリオンがミナに問うたとき、彼女はこう言った。
「きっと……。価値観を変えるべきか、それとも人生そのものの目的や意味を変えるべきなのだと思います」
アンドリオンは今、ミナという存在の価値を変えたのだ。個人の慰めではなく、ブリアの運命を変えるためにミナは存在しているのだ。
そして、アンドリオンの人生の目的は、恐怖に耐える領主になることではなく、恐怖そのものをブリアから消すことなのだ。
「そうすれば新しい道がみつかるでしょう」
ミナの言葉の続きだ。
今まで「ない」と思っていた道がある。
この土地に生まれたならば、侵略に対抗するか、割譲されるか。
それ以外はないと思っていたのに、今は別の道があるのだ。
それは魔法のようだった。
見えなかったもう一方の道が見えた。……あたかも前から存在していたような顔をして。
アンドリオンは大きく息を吐いた。
(ミナは決してブリアを裏切らない……)
それは確信に満ちた深い安堵だった。
(ミナは必ずブリアを救う……)
アンドリオンは大きく息を吸った。それは希望の光の塊だ。
(ミナが心強くいるために、カイルが必要なのだろう……)
そう思うと、カイルに嫉妬する思いがアンドリオンの心の中から……。
――不思議なほど消えていった。
第140話 統一規格戦略の第一歩
夏も終わり、ワモワ海は秋の西風の季節となった。いつものように、バンリオルの船がドラーハーに着く。船は荷の検査のために税関の検査を待つが、そこから降りてきた2人の若者は、船の乗客として港に降り立った。
そして、バンリオル商会のドラーハー支店に向かう。
「お久しぶりです。トーマムさん」
カイルはニッコリして挨拶をした。
「おお、カイルか。久しぶりだな。今日はあの子は一緒じゃないんかな?」ときょろきょろした。
そして、カイルの隣に並んだ若者を見る。
「おお、あんたはニキールじゃないか。これまた久しぶりだな」
トーマムはニキールに近づいて、肩をトントン叩いた。
「はい。覚えていただいて……。ニキールです。よろしくお願いします。今日は、旦那様とブリア行政官のミナ殿の指示で参りました」
そう言って、ニキールはバンリオルの手紙と、ミナの手紙を渡した。
「ふむ。では、会議室で話そう」
そう言って、3人は会議室に向かった。
* * *
その後、トーマムはドラーハーの税関事務所と連絡を取り、税関長との面会の約束を取り付けた。2日後にそこへ3人で向かう。
ドラーハー港、税関事務所。トーマムは材木や香木の輸入のため、よく訪れる事務所である。その所長室に入っていった。
重厚な木の机の向こうに、税関長が腕を組んで座っていた。
壁には押収品の一覧と、密輸に関する通達が貼られている。
ニキールとトーマムは、その前に立っており、一歩下がってカイルが立つ。
「……わざわざ、アラゴンキアのバンリオル商会の者がやってくるとは……。用件は?」
税関長は、低く、警戒した声で尋ねた。
「あの日」(王太子暗殺未遂事件)から約2年。アンドリオンの心の闇が徐々に取り除かれます。
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、ポイントをつけて応援してくだると嬉しです! よろしくお願いします。
用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…。
アンドリオン … コブルーのある領地、ブリアの領主。25歳
カイル … ミナの恋人で、バンリオルの諜報員、私兵。23歳
バンリオル商会 … ミナを支援する商会で、「王の剣」という防衛担当で
エカーリア … アンドリオンの妹。パニック障害だったがミナが治した
ニキール … バンリオルの優秀な番頭。まだ20代




