隠されたアンドリオンの心の闇とミナの関係
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とするために官僚として働く。王都でも数々の施策により、天才官僚と呼ばれるようになり、騎士位を与えられた。そんなころ、対岸のアーガリア大陸のドラーハー港では問題が生じていた。これを機にアーガリア大陸にアラゴンキアのコブルー秤を持ち込もうとミナは息巻く。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
しかし、アンドリオンは怪訝そうだ。
「ドラーハーがこの案に乗る意味があるのか?」
「はい。今のままでは、港の信用が落ち、商人が離れます。それは避けたいでしょう。でも、彼らは今、どうすればこの問題が解決できるか、見いだせないのです。そこへ、我々が解決策を提案します」
ミナは指を1本立てる。
「第一段階。ドラーハーもコブルー式の積荷検査法を採用し、コブルーの秤を使って計量し、中身を証明する積荷証明を書く」
ミナは指を2本立てる。
「第二段階。ドラーハーでコブルーの積荷証明書を持つ荷は簡単な検査で通す。
コブルーでも、ドラーハーの積荷証明書を持つ荷は簡単な検査で通す」
「ふむ。相互主義を適用するということですな」
セグリオはすぐに理解する。
「はい。その通りでございます。すでにコブルーでは、スラマラビヤに対して、この証明書の有効性を認められており、密輸船が近づけなくなっております。ですから、密輸船がドラーハーに向かったわけですので、ドラーハーも同じ手を使えば、密輸船を追い払えるでしょう」
「なるほど。そういうことか」
アンドリオンは理解する。
相互主義とは、国と国が互いに条件を同じにし、扱いを同じにすることだ。主に、外交や関税、法的な手続きなどでおこなわれるため、国際外交の基本だ。良く言えば、「お互い様」の精神で互いを扱うということで、友好関係にある国同士には成り立つ。
相互主義がなりたたない国は、ある意味、友好関係にある国とはみなされない。
現代社会では外交において重要な概念なのだ。
「これにはコブルーの秤が必要となりますので、ドラーハーにコブルーの秤を贈ることで、この案に乗ってもらいます」
「つまりそれは……」
アンドリオンは少し考える。
「体よく、アラゴンキアの秤をスラーラの港でも基準にさせる、ということだな」
「はい。さすがでございます!」
ミナは少し苦笑いをして続けた。
「ですが、体よく……というか、純粋に親切心で、スラーラに良い解決法をご提供しようとしているのでございますわ」
とミナはもっともらしく言う。
「ふん。君は理屈をつけるのがうまい」
アンドリオンは少しあきれながら、フフンと笑った。
「まあ……確かに、こちらの目的は、アーガリアにもアラゴンキアの秤を使っていただくことで、コブルー方式を世界標準にしようとしております。スラーラがアーガリア大陸の国であることが重要です。これが成功すれば、2つの大陸で使われる基準となり、自由港としての価値が高まりますので」
ミナは嬉しそうに言う。
「ふむ……」
アンドリオンはミナの嬉しそうな顔を見て少し不思議な思いが浮かんだ。何かが心の中で弾けたような気分だ。
しかし、その思いの正体を確かめる前に、話は進んだ。
バラントンが言う。
「それは良い案ですが……どなたが交渉に行かれますかな?」
……そこで、誰も手を上げない。
「私は船は苦手で……」
とセグリオは目を伏せ、頭痛がするように手で額を覆う。
「わたくしは乗ったことがございませんし……」
ミナも頬を手で包み、悩みの表情だ。
皆、船は苦手だ。揺れる。酔う。食事もまずい。寝られない。あんなものには乗りたくないというのが本音である。
ドラーハーの港湾局が相手なので、レオストに行ってもらうほどのことではない。
「はあ……」
と3人ともため息をついた。
「仕方がありませんな。これは商人に任せましょう」
と、バラントンが決断した。
……ということでバンリオル商会に頼むことになった。
バンリオル商会はドラーハーに支店を持っているので、港湾局にも顔が聞く。秤を贈れば、その秤をバンリオルの支店が管理することもありうる。バンリオル商会ならば、良い使者になるだろう。
こうして、バンリオルの番頭ニキールと、その護衛カイルがドラーハーに行くことになるのだった。
第139話 アンドリオンの心の秘密
会議が終わって、アンドリオンは私室に戻った。
書斎に酒のグラスを持って来させ、ソファに深く座って一人で酒を飲みながら、思いに耽る。
すでに外は暗くなり、小さなランプの灯りがあるだけだ。
ミナがドラーハーの難儀を好機だと言い、嬉しそうにしていると、ブリアのために全力を尽くして働こうとしていることを感じて、少し心が温かくなった。
その時に、アンドリオンの心に、何かがパチンと弾けた。会議の間は、それが何かわからなかった。
酒を飲みながら、それについてゆるゆると思いを巡らせた。
アンドリオンは2年前の「あの日」から、こうして夜にひとりで酒を飲むことが増えた。
薄暗い部屋の中で酒を飲むと、だんだんと心の中の恐怖に気づく。
まるで、心の中にかつてのエカーリアがいるようだ。
本当は自分も怯えていて、泣き出したいのに、泣き出せない。まるで凍り付いてしまったかのようだ。
アンドリオンは「あの日」のことを思い出す。それを思い出すと今でも身体がカタカタと震える。
「あの日」、夜駆けで王都から王国軍の早馬が百騎も現れ、城にドカドカと入り込んだ。そして、王国軍の将軍に父と自分と母が呼びつけられた。
レオスト殿下とブリアの兵数人が捕らえられたと告げられ、ブリア侯爵の「重篤な罪」を言い渡される。侯爵一家は直ちに全員謹慎しなければ、罪は広範囲に及ぶと思えと言われ、父は青ざめ、凍り付く。母はその場に倒れ込んだ。
将軍はなぜか罪状を明確にしなかった。自分は何が起きているのかわからなかった。
ただわかったのは、嫡男である自分も父と同罪だということ。そして、抵抗すれば、母や妹、弟たちまで罰せられるということだ。
アンドリオンは倒れた母を抱いたまま、父に代わって謹慎することを将軍に約束したのだった。
王国軍が去ると、口がきけなくなってしまった父に代わり、ラフカーンが事情を説明する。
アンドリオンはそのとき初めて、父がしでかしたことを知った。
……それは、処刑が免れない大罪だった。父と自分、そして、悪くすれば……母までも処刑となるだろう。その想像はアンドリオンをなによりも恐怖に落としこんだ。
だが、アンドリオンは父を責めることができなかった。
皮肉にも、自分が処刑の恐怖を味わったときに、父が今まで長い間感じていた恐怖をやっと知ったからだ。
ブリアは国境の最前線。だから、父だけでなく、ブリア領主は代々侵略に怯えてきたのだ。
自分の存在が消される恐怖。それがブリア領主に代々受け継がれ、自分の血の中にも刻み込まれていると知った。
父にとって、当時の王太子アルーストによる割譲案はさらに恐ろしい。恐怖に耐えて、国のために国境に立ち続ける自分を、後ろから斬り捨てるようなやり方だ。父の憎しみが理解できた。
いつ滅びるかと怯えてこの先も何年も暮らすくらいなら、いっそのこと今すぐ何もかもぶち壊して滅びたいと思うことがある。あのときの父の気持ちはそれなのだ。
それは紛れもない狂気である。
それが代々受け継がれた血の結果ならば、自分もいつか父のように狂気に陥らないと誰が言えるだろう?
アンドリオンは自分の血が怖かった。
結婚すれば、その血が受け継がれる。それに強い嫌悪感を覚えた。
いよいよ本格的に動き出したコブルー自由化構想。それを聞きながら、アンドリオンは自分の心の中の何かに気づく。
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…。
アンドリオン … コブルーのある領地、ブリアの領主。25歳
セグリオ … 王府から出向の商務官僚。コブルー担当官
バラントン … ブリア領から派遣のコブルー担当官
バンリオル商会 … ミナを支援する商会で、「王の剣」という防衛担当でもある。ミナの恋人カイルはここの諜報員
エカーリア … アンドリオンの妹で、パニック障害だったが、ミナが治した
レオスト … 王弟で、かつて兄アル―ストを暗殺しようとしてブリア全領主と手を組んだ




