他国の港の困難を、ミナ、コブルーの好機とする
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とするために官僚として働く。その実績で、次第に天才官僚と呼ばれるようになる。ミナをもっと王府で使いたいレオストは、ミナと恋人カイルをふたり同時に騎士にする。そのころ、対岸のアーガリア大陸のドラーハー港では問題が生じていた。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
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第138話 ピンチをチャンスに変える
アーガリア大陸北岸。スラーラ王国の外港、ドラーハー。
バンリオル商会ドラーハー支店の支店長トーマムは、最近胃が痛くなるような怒りに震えていた。
突然、ドラーハーの港の税関の検査が厳しくなり、そのために税関で待つ日が長くなっている。せっかく早く着いた荷も、税関の列の長さで時間がかかり、商機を失ったり、最悪、商品がダメになったりすることもある。大損をしているのだ。
「なんてこった……。これで3度目の大損だ。いったいなぜ急に検査が厳しくなったんだ……」
トーマムにもよくわからなかった。
ドラーハーにも駐在する諜報員は2人ほどいる。その2人に調査させているところだ。その1人が帰ってきて報告をする。
「支店長、……少しわかってきました」
「ああ、ナグバ、一体どうなってるんだ?」
「はい。コブルーから来た船乗り何人かに聞いたのですが、どうやら、2か月ほど前にコブルーで密輸事件があったようで……」
「なに?! 密輸だと?」
「そうなんです。それが、禁輸品でして……」
ナグバはトーマムに小声で言った。
「なんと、幻睡薬だそうで……」
「な、なに?!」
薬物を運び込もうとする者は、すなわちその国を滅ぼそうとすることと同じだ。それは完全な敵対行為なのである。
「つまり、アラゴンキアに対する敵対行為なのか?」
「いやいや、それがそうじゃないんです。港で船を入れ替えたらしくて。コブルーは積荷の出所隠しに利用されたってことのようです」
「というと、持ち込もうとしたのは、アラゴンキアではなくて……?」
「スリマラビヤだとか」
「な、なに~?」
複雑な国際間の争いにコブルーが巻き込まれていたとは。
そして、今や対岸のこのドラーハーにその影響が来ているらしかった。
「で、密輸船が今度はドラーハーで荷を積み替えようとしているらしくて、隙を伺っているようです。それに気づいた港湾局が、税官吏たちに、幻睡薬が持ち込まれないように、検査を入念にするように要請したのだとか。そしたら、別の問題も沸き上がりまして……」
トーマムの眉にさらにしわが寄る。
「なんだ、その別の問題っていうのは……?」
「はい。計量の問題です。計ってみると、申告と違う重さなので、『荷が軽すぎる。荷をどこかで下ろしたのか?』とか、逆に『荷が重すぎる。何かを詰めただろう』とか疑いがかけられ、業者と官吏との間で喧々囂々の言い合いになり、通関が長引いているのだとか」
「な、なんだと?! ……とんだとばっちりだ!」
トーマムは唸った。
「う~む……これはたまらん。いったいどうすれば……」
当分、この騒ぎは収まりそうもなかった。
「で、どこが幻睡薬を持ち込もうとしたんだ?」
「いや、そこまでは……」
ナグバは頭をかいた。
「つまり、まだ正体がわからない敵だということか……」
問題は禁輸品を密輸するような輩にこの港が狙われているということ。
それから、計量が曖昧なために、検査で疑われる船が多いことだ。
そして、その敵がわからないため、いつまでこの状態が続くのかの見通しが立たない。
「……とにかく、本部に相談だ……」
トーマムはバンリオル本部に手紙を書き、それをコブルー行きの便に託した。
* * *
コブルーにトーマムの手紙が届き、それがバンリオル商会の留守を預かる私兵隊長ミゼロに渡り、コブルー港にも関係しているので、ミナのところにも報告が来た。
そして、真夏のある日、タンブリーの会議室には、何人かの官僚たちが集まっていた。
出席者は領主アンドリオン。
王都商務部官セグリオ。
領主補佐官バラントン
そして、ミナとあとは書記の官僚たちだ。
ミナが立ち上がって、報告をする。
「ご報告いたします。アーガリア大陸スラーラ王国の港、ドラーハーにあるバンリオル商会ドラーハー支店の支店長、トーマムからの報告です。6月半ばに起きたコブルー港での密輸騒ぎで生じた幻睡薬の問題ですが、それが今、ドラーハーに飛び火しているようです」
「な、なんと?」
まず声を上げたのはセグリオとバラントンだ。ふたりで顔を見合わせる。
「はい。密輸船がうろついているという懸念があるため、税関がかなり厳しい検査をしており、アラゴンキアの商会の荷にも損失の影響が出ているとのことでございます」
「う~む……」
ふたりの行政官は唸る。
しかし、アンドリオンは意味がわからない。
「しかし、ミナ。これは商会とドラーハーの問題であろう。ブリアに関係があるのか?」
ミナはニッコリした。
「はい。領主様。わたくしはこれが好機だと思うのでございます」
「な、なに?」
驚いたのはやはりセグリオとバラントンだ。
「ミナ殿。なにゆえこれが好機なのです?」
「ドラーハーはコブルーに一番近いアーガリアの港でございます。
ドラーハーが密輸船を警戒せざるを得ないのは、密輸船がコブルーを使えなくなった証拠。コブルーの対策が正解だという証明となります」
「ほう。ということは?」
バラントンはまだよくわからない顔だ。
「これは、密輸船を遠ざけたコブルー式を広める良い機会だということになります」
「なんだ、そのコブルー式というのは?」
アンドリオンが訝し気に首を傾ける。
「はい。コブルーの秤で計量した積荷証明を持っていれば、少なくとも、現在、コブルーからスリマラビヤへの港へは楽に入れることになります。密輸とは無関係であるという証明になりますので」
「ああ、それはわかる。スリマラビヤはレオスト殿下に交渉のおかけで、コブルーの積荷証明があれば、密輸品ではないとしてすぐに税関が簡単に通れるようになったからな」
「はい。ドラーハーにもこれを広げるのでございます」
いよいよ、本格的なコブルー国際港化が始まります。今までの単なる助走……。ブリアにはお金もなく、宿も足りなかったので、まだまだ動けませんでした。
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…。
バンリオル商会 … ミナを支援する商会で「王の剣」という秘密の防衛担当でもある。ミナの恋人カイルはここの諜報員
アンドリオン … コブルーのある領地、ブリアの領主。25歳




