ミナとカイル、平民脱出。二人とも地位を得る
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とするために官僚として働く。その実績で、次第に天才官僚と呼ばれるようになる。ミナをもっと王府で使いたいレオストは、ミナと恋人カイルをふたり同時に騎士にするため、王都に呼び出した。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
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第136話 騎士叙任式
王城の大広間には、普段とは違う静かな緊張が漂っていた。
天井の高い広間の正面には、王家の紋章の入ったタペストリーが掲げられている。壁際に貴族たちが並び、奥には将校たちの姿もあった。
中央の高座には、王弟ラッスル公レオストが座っている。
本来ならば国王が行う叙任であるが、今回は国王の名において王弟レオストがその役を務めることになっていた。
その前に、2人の男女が立っていた。
黒髪の青年――カイル。
そして、紺のドレスを着た行政顧問ミナである。
広間は静まり返っていた。
レオストがゆっくりと立ち上がる。
「本日は、王国に功績を挙げた者に騎士の位を授ける」
低くよく通る声が広間に響いた。
「まず、カイル・ヨードン」
カイルが一歩前に進み、片膝をついた。
これまで農民であった彼の姓は村の名だったが、騎士叙任にあたり父の名を取って「ヨードン」と名乗ることになった。
レオストは侍従から剣を受け取る。
「カイル。そのほうはこれまで、王国の敵を退け、多くの功績を挙げた。グリダッカル軍の侵攻阻止、モーガダイ海域での戦功、ルーガン残党の討伐、コブルー港の密輸船摘発……いずれも王国に大きな利益をもたらした」
広間の空気が少し動く。「ほう……」という感嘆の声が漏れる。
若い男の短い経歴としては、異例の功績だった。
レオストは剣を肩に当てる。
「よって、王の名において、王弟レオストが代理としてそのほうを騎士とする」
剣が右肩に触れる。
「立て、カイル」
カイルはゆっくりと立ち上がった。
「今日よりお前は、私の騎士だ。王弟騎士として、王国のために働け」
「御意」
カイルは深く頭を下げた。
広間のあちこちで小さなざわめきが起きる。平民出身の若者が、王弟付きの騎士となったのだ。
レオストは満足そうに頷いた。
「次」
視線がミナへ向く。ミナはどきどきしている。
「ミナ・クロエ」
ミナは静かに前に出て、同じように膝をついた。
しかし広間の空気は、先ほどとは少し違っていた。
貴族たちは知っている。この女性が、ブリアを変えつつある人物であることを。そして、その影響は王都にも及びつつあることを。
レオストは少し笑った。
「ミナ。そなたの功績は、剣ではなく知恵によるものだ」
広間に小さな笑いが起きる。
「コブルー港の自由港政策、農民支援制度、国家銀行案、商人護送団、今進んでおる街道商会……。王国の商いは、そなたの働きで大きく変わりつつある」
レオストは剣を持ち直した。
「よって、王の名において、王弟レオストが代理としてお前を騎士とする」
剣がミナの肩に触れる。
「立て、ミナ」
ミナはゆっくりと立ち上がった。
「今日よりお前は、王の騎士だ。そしてこれまで通り、ブリアにてその才を振るうがよい」
「光栄でございます」
ミナは深く一礼した。
広間には今度こそはっきりとしたざわめきが広がった。
爵位は女性にも与えられる。多くは世襲だからだ。しかし功績騎士は違う。功績によって授けられる。だから女性に与えられることは極めて稀だった。しかも王直属としては。
レオストはふたりを見比べる。
「面白いことだ」
楽しそうに言った。
「一人は剣の騎士。一人は知恵の騎士」
広間を見渡す。
「このふたりがいれば、王国はなかなかに面白くなるだろう」
貴族たちの間から小さな笑いが起きた。
カイルは横目でミナを見る。ミナもまた、少しだけこちらを見た。ほんの一瞬、ふたりの視線が合う。
平民だったふたりは、今――。
――同時に騎士の身分を得たのだった。
叙任式が終わると、その夜、王城では舞踏会が開かれた。
大広間には無数の蝋燭が灯され、天井の高いホールが金色の光に包まれている。楽団がゆったりとした舞曲を奏で、貴族たちが優雅に踊っていた。
新しく叙任された騎士も招かれている。カイルは少し居心地が悪そうに立っていた。
裾の長いエレガントな礼服を着ている。それはバンリオルから祝いに贈られたものだ。
だが、こういう場所にはまだ慣れていない。
「ははは、そう固くなるな」
横から声がした。
大商人バンリオル商会当主ボリックだった。
「今やお前は騎士だ。堂々としていればよい」
「……どうも、こういう場は苦手でして」
カイルは小さく頭を下げた。
「ま、慣れていないだけだ。そのうち慣れる」
バンリオルは楽しそうに笑う。
「だが今日は特別だぞ。練習した甲斐があったというものだ」
そのとき、広間の向こうから人々が少しざわめいた。カイルが視線を向ける。
そこにいたのは――ミナだった。護衛騎士のゾーイにエスコートされている。
叙任式とは違う、華やかな若草色のドレスを着ていた。
髪もいつもよりも華やか細い金と銀、緑のリボンをたっぷり織り込んで編み上げ、まとめている。フリーゼが時間をかけて編んでくれたのだ。
首には銀細工ネックレスが掛けられ、胸元を飾っていた。
「あれが、女性で功績騎士に叙任された……」
貴族たちがひそひそと噂話をする。
「ミナ殿ね。レオスト殿下が特に目をかけておいでとか」
「財務官たちが一目置くブリアの行政官だ。なんでも、国家銀行の案を出し、バンリオルを救ったとか……」
「え? それはまことのことですか?」
「ああ。私は叙任式に出たぞ。確かに、レオスト殿下がそうおっしゃった」
音楽に紛れて聞こえるそんな噂話をかすかに耳にしながら、ミナは少し緊張した様子できょろきょろとカイルを探す。
そして、彼をみつけると、笑顔になって、ゾーイに目配せをして、カイルのほうにまっすぐに歩いていった。
バンリオルが小声で言う。
「ほら、行ってこい。エスコートだ」
「は、はい」
カイルがミナに歩み寄り、さっと手を出す。カイルの少し照れた様子にミナはにっこり微笑んで、ゾーイの手を離れてカイルの手に手をおいた。
ゾーイは下がって、壁際の護衛の位置についた。
(カイル……。出世したな。いまや私と同じ騎士……どころか……王弟付きとは……)
と、複雑な思いのゾーイだったが、少しうれしくもあった。
彼が最初にカイルを見たのは、ほんの2年前、彼が騎士団の見学に来たときだ。いや、今は真夏。あれは秋だったから、2年はまだ経っていない。
いなかの冒険者から、ほんのわずかな期間で彼は王族の騎士に上り詰めた。
カイルとミナはふたりで見つめ合いながら広間の中央近くの壁に歩いていく。
音楽は鳴り響き、たくさんの男女が優雅に踊っている。それを少しふたりで眺めていると、音楽が一曲終わった。壁に下がって行く者。残る者。そして、次の曲が始まる。
カイルは緊張していて、ミナにどう話しかけていいかわからなかった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、ポイントをつけて応援してくだると嬉しです! よろしくお願いします。
用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…。
カイル … ミナの恋人で、バンリオルの私兵。23歳
レオスト殿下 … 王弟。ミナとカイルを支援する。42歳
バンリオル … ボリック・バンリオル ミナを支援する大商人 29歳




