コブルーの基準を売り込むときがきた!
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とするために官僚として働く。その実績で、次第に天才官僚と呼ばれるようになる。ミナをもっと王府で使いたいレオストは、ミナと恋人カイルをふたり同時に騎士にするという。それは、結婚への序章だった。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
ブリア城を辞し、カイルはバンリオルと別れて、若草宮に立ち寄る。
ミナと夕食を取る予定だ。
「カイル! どうだった? 殿下はなんて?」
ミナはカイルを抱きしめながら、すぐに話を聞きたがる。
「ああ。満足していただけたようだ」
「そう! すごい! よかった! カイル、騎士になれるのね!」
「ああ。ミナのおかげだな」
「ううん。カイルの実績よ! カイルの実績があれば、いずれ騎士になっていたわ。私はきっかけになっただけ。すごくうれしい……」
ミナをしっかりと抱きしめて、カイルは続けた。
「俺はレオスト殿下の騎士で、ミナは国王陛下の騎士になさるとのことだった」
「そうなの? なんで違うの?」
彼の肩から顔を上げて顔をみつめると、カイルはミナにキスをする。
「たぶん、俺は軍事担当で、ミナは行政担当だからだと思う……」
「……ん。そうなのね」
だんだんと日が暮れて、部屋は薄暗くなる。ふたりはそのまま明かりもつけず、抱きしめ合う。
「……じゃ、次は結婚ね」
「ああ。母さんにも言っておかないと……」
「きっと喜んでくれるわね……」
「ヨーカは絶対にしたり顔だぞ。『知ってたわ』みたいな顔をする。絶対……」
「いいじゃない。悔しいの?」
ミナは笑う。そういう子供っぽいところがまだあるところもいとおしい。
カイルはヨーカに上から目線で見られたくないらしい。でも、8歳も上なのだ。子供の頃に母親代わりに世話をしてくれただろうから、仕方ないだろう。
「……これでミナとずっと一緒にいられる。ずっとそう願ってた」
「うん。……私もずっと一緒にいたい。カイルと離れたくない……」
ふたりで薄暗がりのなかでたたずんでいると、シオーヌが呼びに来た。
「ミナ様、カイル様、お食事のご用意ができました」
そこでふたりは身体を離し、ふふっと笑いながら階下の食堂に降りていくのだった。
そして、ディナーのマナーの練習のあとは、ダンスの練習だ。
ふたりで踊るダンスは今や、確実な現実となっていた。
第135話 秤という経済の武器
夏の盛りのコブルー港は、いつにも増して賑わっていた。
桟橋には船が何隻も並び、荷役人夫たちが忙しく行き交う。
香辛料、酒、布、干し魚、鉄材、木材、香木――様々な荷が倉庫へと運び込まれていた。
その喧騒の中で、突然怒鳴り声が響いた。
「ふざけるな!」
頭に布を巻いた大柄な商人が机を叩いた。
「これは10キロの約束だ! 8キロの代金しかないではないか!」
向かいに立つ、つば広の帽子の商人も負けずに怒鳴る。
「うちの税関が計った量が8キロなんだ! 10キロ持ってこなかったそっちが悪い!」
「その秤が怪しいってことだ! うちの秤じゃ、10キロだったんだよ!」
周りにいた荷役人夫や商人たちがざわつき始めた。
「またか……」
「最近多いな……」
倉庫の奥で帳簿を確認していた港湾税吏パウルは、慌てて駆け寄った。港湾警備兵も2人やってくる。
「どうした?」
パウルがふたりに尋ねる。
つば広帽子の商人が香辛料の入った袋が乗った秤を指さす。
「この荷は8キロだ。うちは10キロ頼んだのに、8キロの袋をもってきやがった。だから、代金は8キロ分だって言っているのに、文句を言いやがる!」
もう一人の頭に布を巻いた商人が怒鳴る。
「いやいや、そちらの秤がおかしいのだろう! ちゃんと10キロ持ってきたはずだ!」
「そんなはずがあるか! コブルーの税関の秤だぞ!」
「あんたはどこの国の商人だ?」
パウルが間に立って、布巻きの商人に聞く。
「バンサラーだ」
(ああ……)
パウルは原因がわかった。バンサラーはワモワ海を隔てたアーガリア大陸の国。アーガリアの秤は、アラゴンキアとかなり違うのだ。そのことを知らない商人同士が注文をしたのだ。
同じ「キロ」という言葉を使っていても、国ごとに基準は違う。大陸が違えば、その差はなおさら大きい。
パウルがふたりに言う。
「あんたらは商人としてまだ日が浅いようだ。国によって、秤が違う。港を通る荷は、その港の税関秤が最終だ。覚えておけ」
そう言って、パウルはふたりを黙らせた。
そして、バンサラーの商人に向かって言う。
「ここはコブルーだ。コブルーの秤に従ってもらう。だから、8キロだ。それが嫌なら、持ち帰るんだな」
「……」
そんなことができるか、とばかりにバンサラーの商人はパウルをにらみつける。
「しかたねぇ……。今回はくれてやるが、次回はそうはいかないからな」
そう捨て台詞を言って、バンサラーの商人は、立ち去った。
(最近こういう揉め事が増えている。港が栄えるほど、秤の違いが問題になる。局長に相談せねばならん……)
パウルは額の汗を拭きながら考えた。
翌日の午後、コブルー港湾局の会議室には4人の姿があった。
行政顧問ミナ。
行政官バラントン。
王都商務官セグリオ。
そして港湾局長コーガルである。
窓の外からは、港の喧騒が絶え間なく聞こえてくる。
秤の件で騒ぎが起きたばかりの港は、今日も荷の計量であちこち揉めていた。
コーガルがため息をつく。
「港が大きくなり、取引が増えました。そのため、昨日の騒ぎのようなことは、最近特に多いのです。スリマラビヤ、バンサラー、スラーラ、……どこの国も秤が違う。同じ『1キロ』と言っても、重さが微妙に違う。それを我々になんとかせよと言われても……」
セグリオも頷く。
「税の計算にも影響しますな。税関の秤で決めるとはいえ、商人同士の契約が食い違えば揉め事になる」
バラントンが腕を組む。
「揉め事が増えれば、ケンカになる。ケンカになれば、港湾警備兵が駆り出される。できれば減らしてもらいたいものだ。法務官も分量の問題ごときに使われたくないでしょう」
3人の目がミナに集まる。
「ミナ殿、良い案がありますかな?」
「そうですね……。規格の統一は重要な問題です」
コブルーで使われている秤。それはアラゴンキアの標準の秤だ。
これはもともとカルナットという木の実100個の重さを基準にして1キロを決めている。それを1000分の1にして、1グラムを決めている。だから、多少の誤差はあれども、誰もが確認できる基準があるのだ。
「前回検討したコブルーのブランド……いえ、信頼戦略ですが、コブルーを経由すれば、税関で中身の証明が得られ、さらに正しい分量がわかる。これは大きな利点でしょう。これを広めるのです」
「広める……とは? コブルーに寄港して、中身を確認し、計量を計り、船は中身と計量の証明書をもらう。すると、取引する側も安心できるということですか?」
バラントンが問う。
「いえ。コブルーに来なくても、コブルーと同じ秤で計られ、同じ積荷検査をされ、その証明書を発行されれば、どこの港でも通関が速い、という仕組みを広めます」
「そ、それは……」
3人が顔を見合わせる。
「かなりの外交力が必要ですぞ……」
バラントンは渋い顔だ。
「しかし、それがなされれば、かなりの価値がありますな」
セグリオが深く頷く。
コーガルは少し明るい顔で言った。
「もしそうなれば、ケンカも減る。俺としてはありがたいですな」
「一度に全部の港に広げる必要はありません。徐々に広げていきましょう。少なくとも、ワモワ海の3つの国で、コブルーの秤が使われれば、後は楽に広められます」
ミナは言った。
たかが中身の証明。たかが分量の証明。
しかし、歴史的に見ても、実はこれは重要なのだ。
証明できるのは、基準があり、信頼があるからだ。
世界はこうして変わっていく。
コブルーもまた、その流れの中にあった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、ポイントをつけて応援してくだると嬉しです! よろしくお願いします。
用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…。
カイル … ミナの恋人で、バンリオルの私兵。23歳
レオスト殿下 … 王弟。ミナとカイルを支援する。42歳
バンリオル … ボリック・バンリオル ミナを支援する大商人 29歳
ヨーカ … カイルの姉
シオーヌ … 領主から派遣されているミナの一番若い侍女
アラゴンキア … ミナの住む国




