レオスト、帰り道もミナに使われる
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とするために官僚として働く。その実績で、次第に天才官僚と呼ばれるようになる。また、商人たちが少しでも安全になるように、ミナは領兵で商人を護送する護送団を提案し、さらに手形を使う案を提案する。そこへ、王弟レオストが隣国の交渉から帰国した。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
イソールズが胸を張る。
「はい。ミナ殿の案で、早速運用いたしました。ブリア領内、コブルーからティルダスまでは、すでに定時商人護送団が動いております」
「ほう」
レオストは腕を組んだ。
「すばらしい。ブリアはさすがに動きが速い。領主の決断が早いと見える」
そう言って、アンドリオンのほうを向いて褒める。
「は、優秀な部下に恵まれておりますので」
とアンドリオンは頭を下げた。
「それもまた、領主の器があればこそであろうよ」
レオストは何度か頷いた。
「う~む。なるほどな。兵は通常、待機時間が多い。城の警備、街道の巡回。それならば、商人どもをまとめれば、兵も効率よく使えるというわけか」
そしてレオストはミナを見る。
「それで? まだ私に提案があるのであろう?」
ミナは小さく微笑んだ。
「はい。お察しいただき、ありがとうございます。実は、その件で殿下のお力をお借りしたいのでございます」
「私の力? まだ私を働かせるのだな?」
レオストは嬉しそうに文句を言う。
「はい。申し訳ございませんが、殿下のお力が必要なのでございます」
ミナはニッコリして、机の上に広げた地図を指した。
「現在、護送団はコブルーからティルダスまででございます」
指がさらに北西へ動く。
「ですが、本来の商人の目的地は王都です」
レオストは地図を覗き込んだ。
「ふむ。つまり……」
「はい」
地図にはコブルーから王都までの街道が描かれている。
その途中には、バドマ、デラー、エレミアの3つの領地の名が並んでいた。通行税を無くしたときに文句を言ってきたあの3つの領地である。
ミナはそれを指さす。
「この3つの領地にも、領地の兵を動かしていただきたいのです。そうすれば、コブルー・王都線の護送団が完成いたします」
「なるほどな……」
そして、ニヤリと笑う。
「そして、コブルーの積荷証明書を持ち、荷箱に封印がある荷は、開封せずに検問を通れるようにしていただきたいのです」
「ふむ……。つまり、君はこの私に、王都への帰り道でそれを3つの領地に命ぜよと……」
「はい。殿下は王国軍の最高司令者でいらっしゃいますし、何より王弟というお立場でございますので」
ミナは明るい笑顔で無邪気そうに言う。
「ふむ。私を帰り道で使おうと、待ち構えておったのだな」
レオストは思わず笑いだした。
「ブハッハッハ! 本当に君はおもしろい。この私が君を使っているつもりでいたが、間違いであった。私が君に使われておる! 今のところ、君の全勝ではないか!」
レオストは豪快に笑った。
「まあ、なにをおっしゃいますやら……」
ミナは目を泳がせたが、目に茶目っ気が出てしまった。
「いや。よい。愉快だ。それはまた、あの3つの領地が儲かる話なのであろう?」
「はい。もちろんでございます。護衛費がかなり少なくなると聞くと、商人はこぞってこの道を通ります。とすると、3つの領地も儲かりますし、コブルーも大儲け……いえ、繁栄いたします」
うっかり本音を言ってしまった。
アラゴンキアの他の港よりも繁栄しなければ、コブルーの自由港は完成しない。
それに、ミナは王都でブリアが貧乏だとバカにされたことを覚えていた。ブリアが繁栄しているのを見せてやるという気概なのだ。
「ふむ。君はひとつ思いつくと、次々と関連付けて儲けを増やすのだな。見事なものよ」
レオストはいかにも痛快と言った顔で、ミナに賛辞を送った。
「恐れ入ります」
ミナは恐縮しながらも、レオストが面白がって引き受けてくれることがありがたかった。
「それに……。兵士たちにも利益がございます。普段、民衆に怖がられていることが多い兵士でございますが、このように民衆のために役立っているところを見せますと、民衆は感謝します。
実際、護送団が通ると、民衆は手を振ります。それは兵士にも嬉しいことでしょう」
「確かにな。それは兵士の誇りを高めるためにも役立つな」
レオストはしばらく黙って、護送団が民衆に与える兵士の印象について思いを巡らせた。
(いずれは全土に広げたいものだ……)
この商人護送団が評判になれば、軍最高司令官の自分の評判も上がるというわけだ。
レオストはミナに与えられる役割のおかげで、王都での自分の立場が少しずつ強くなっていくのを感じて、満足していた。
「誰か、酒をもて! 祝杯を上げようぞ!」
レオストは気分がいいと昼でも酒を飲む。
「はっ」
侍従長があわてて部屋を出て準備に行く。
アンドリオンは黙って見ていたが、改めてミナの実力を思い知る。
レオストさえもすっかりミナの味方なのだ。そして、そのミナはブリアのために全力で働いている。ブリアを繁栄させることに生きがいを感じているのだ。
(妻にはできずとも……)
アンドリオンは深い息をひとつ吐いた。
(エビーナの遣いがそばにいると思えば……私は幸運なのであろうな)
そう思って、傷心をいやすのであった。
第134話 騎士という身分
ブリア城の中の貴賓室の応接間には西に傾いた午後の光が差し込んでいた。
王弟ラッスル公レオストは椅子に腰掛け、机の上に置かれた書類を一枚一枚めくっている。
「ふむ……」
その向かいには、大商人バンリオル商会当主ボリックが座っていた。
その横にはカイルが立っている。
レオストは最後の一枚を読み終えると、書類を机に置いた。
「なるほど」
軽く頷く。
「これがカイルの戦果か」
書類には、今までの事件の報告がまとめられていた。
エレミア領の鉱山密売事件の阻止。
グリダッカル国内の橋を爆破し、侵攻を阻止。
コブルー港の税官吏のミナ殺害未遂を阻止。負傷。
王都金融危機を起こしたルーガン商会残党16人を逮捕。
グリダッカル国によるモーガダイ国傭兵船団侵攻をトガリア商会と合同でモーガダイにて阻止。
コブルー港にて密輸船をトガリアと合同で逮捕。
その多くは防衛担当として報告を受けていたものだ。そのほとんどがカイルの関わるものだったことに驚いていた。
「これは見事だ。驚きだな。まだ若いというのに。ほんの2年ほどでこれか」
どれも小さくない功績だった。
「エレミアの鉱山密売事件の阻止……」
レオストはその一行を読み上げた。
これは、レオストを救うことになった事件だった。
これが発覚したおかげで、エレミアが「王家は忠誠に値しない」と考えていることに当時の王太子アル―ストがショックを受けた。
そして、自分の過ちを認め、王太子暗殺未遂事件を起こしたレオストを許したのだ。
「はい。それはカイルがブリア侯を救うため、独自に調査して発見した事件でございます」
バンリオルは言った。
「そうか……」
レオストは2年前のことを思い出す。
(ミナとカイル。あのとき、このふたりに助けられていたとは……)
このふたりがいなければ、自分は王太子に処刑されていたのである。
そのふたりを今、自分が思いがけず逆に保護しようとしているという運命が不思議でもあった。
バンリオルが付け加える。
「これは王の剣としての仕事のみでございます」
「ということは、このほかにバンリオル商会での活動もあるということか」
「はい。そのとおりでございます」
「バンリオルは王の剣として、良い働きをしている。ここにあるものだけでも、軍功と言ってよい」
レオストは力強く言った。
「は。そのとおりかと」
バンリオルは軽く頭を下げる。
レオストはカイルを見上げた。
「お前はなかなか優秀だ。ミナの夫になるのにふさわしい男と言えるだろう」
カイルは目を見開く。彼にとって、最高の賛辞だと思った。
「ありがとうございます」
カイルは礼をして、短く答えた。
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…。
イソールズ … ブリア領主補佐官。40代
レオスト … 王弟。隣国スリマラビヤに交渉に行っていた帰り。42歳
アンドリオン … ブリア侯でブリア領主 25歳
アラゴンキア … ミナの住む国
エビーナ … 商業の女神
カイル … ミナの恋人で、バンリオルの私兵。23歳




