ミナ、お金を動かさない商売を提案する
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とするために官僚として働く。銀行の取り付け騒ぎを収め、街道を舗装する方法を提案し、天才官僚と呼ばれる。王弟レオストの支援で恋人カイルとともに騎士位をもらい、結婚に向けて進むことになった。それを聞いてブリア領主アンドリオンは不機嫌になるのだった。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
ミナはアンドリオンに深々と頭を下げた。
アンドリオンは驚いて目を見開く。
「な、なんだ?」
「カイルと結婚したいというのは、わたくしのわがままでございます。お許しくださいませ」
「……」
ミナは頭を下げ続けた。
「もういい。最初からわかっていたことだ」
少しだけ頭を上げて、ミナが聞く。
「そう……なのですか?」
カイルと結婚することは最初からわかっていたという意味だと思った。
「……最初から私の妻にはできぬ」
ミナは衝撃を受けて、顔を上げる。
「バンリオルでも、カイルでも同じだ。君を私の妻にはできない」
「アンドリオン様…」
少し胸が苦しかった。本当は自分が気づきたくなかったのだ。気づいてしまったら、仕事ができない気がした。
「ただ、希望が欲しかっただけだ」
「……」
「だが、最初から希望もなかった。希望があるふりをしていただけだ。侯爵の妻では君の才能が活かせぬ。わかっていたのに……。ただ私の……あきらめが悪すぎた」
ミナは頭を下げながら、涙が勝手にぽろぽろと流れた。
申し訳ない気持ちで胸がいっぱいだ。こんなにもよくしてもらいながら、自分から彼に差し出すものが何もなかった。
「だから、カイルと結婚すればいい。文句は……言わぬ。もう希望もいらぬ」
そう言って、彼は背を向けた。
「は、はい……」
そう言って、ミナは扉に向かう。扉の前で涙を拭いた。
「ミナ」
アンドリオンは扉を出ようとするミナを引き留めた。
「……君は……生き生きと仕事をしていればよい。それが……私の一番の慰めだ」
「……」
なにも言葉が言えず、そのままミナは部屋を出た。
書字板を胸に抱きながら、うつむきながら歩く。
(私はブリアに恩返しをする……)
ミナは心の中でつぶやいた。
(今まで、彼を粗雑にしてきたのかもしれない。感謝が足りなかった……)
胸が痛いくらい、反省した。
(アンドリオン様に……必ず恩返しをいたします)
そう決意した。
第132話 手形決済の導入
7月の半ば。タンブリー城内のいつもの小さな会議室に、4人が向かい合って座っていた。
バンリオル商会の当主ボリックとその番頭ニキール。
トガリア商会の参謀アルソーと、財務部長のネザル。
この2つの商会は、王から防衛の特権を与えられた「王の剣」であり、共同で軍事行動を取ることもある。しかし、商売ではライバルだった。
バンリオルは創業120年の大商会で、海外拠点も多い。
トガリアは新興の商会だが、滅ぼされた国ドーハイの仲間を抱えることから、支店が多国間に広がっていた。
会議室へミナが入ってくる。
「皆様、ご足労ありがとうございます」
アルソーがネザルをミナに紹介する。
それが終わると早速バンリオルがミナに尋ねる。
「ミナさん。今日は財務に明るい者を、という呼び出しですが、いったい何をお考えですかな?」
「ええ。商人護送団についてはもうお聞き及びですよね?」
あれを導入して、まだ1週間だ。
「ええ。あれは助かります! 大変すばらしい制度でございます!」
喜ぶバンリオルにミナは続ける。
「街道もこれから整備されますし、完成すればかなり輸送費が下がるでしょう。少なくとも王都まで護送団を伸ばしたいと思います。
…しかし、現金を運ぶという危険性は、まだまだ消えません。街道は良いとしても、宿までの間や宿の中など、細かいところでの危険がありますからね」
「ええ。護衛に雇った者が信頼できるとは限りませんし…」
バンリオルが言う。
(そう。そこよね。だからこそ、職安を進めて、技能の認定制度を始めないと…)
ミナは他の事案のことも考えていた。
「で、今回皆様にご提案して、ご意見をお聞きしたいのは、手形のお話でございます」
「て、てがた?」
「はい。こちらが見本になります」
ミナは一枚の紙を机に置いた。
「これは?」
4人が身を乗り出した。
「これが手形でございます」
ミナは説明を始めた。
「例えば、コブルーの商人がバンリオル商会のコブルー支店に1000ポルを預けます」
「ほう」
この世界では、各地の商会の支店が銀行の代わりをしている状態なのだ。その中で、外国の通貨を扱い、両替をするのが両替商と呼ばれる。
「銀行」と正式に呼ばれているのは、銀行業務を専門に行う商会の店舗で、それは王都の5店しか存在しない。
「するとバンリオル商会の支店は、この紙を発行して、お金を拘束します」
「つまり、引き出せないということですな?」
「はい、その通りです」
ミナはバンリオルの質問に答える。
「そしてその商人は、この紙を持ってタンブリーへ行き、タンブリーのトガリア商会にこの紙を渡して、1000ポルを受け取るのです」
ミナは書字板を使って、2つの支店とお金の所在、手形の移動をわかりやすく説明した。
ネザルはすぐに理解した。
「なるほど……金を運ばなくて済む」
アルソーは首を傾げる。
「しかし、我々はないところから金を払うことになると?」
ミナはうなずいた。
「はい。ですから帳簿をつけます」
机にもう一枚紙を置く。
「コブルーのバンリオル支店は1000ポル預かる。その分の手形を発行し、1000ポルを拘束する。そして、タンブリーのトガリア支店はその手形と引き換えに1000ポル支払う」
「つまり」
ネザルが言う。
「帳簿上の貸し借りになる、ということですな」
「はい」
ミナは微笑んだ。
「もちろん、逆もございます。つまり、タンブリーの商人がタンブリーのトガリア支店に1000ポルを預けて手形を発行する。そして、その手形を持ってきた商人に、コブルーのバンリオル支店が1000ポルを支払う」
「な、なるほど」
4人は頷く。
「この場合は、お金を動かす必要がない…」
「その通りです。ですから、一定の期間ごとに、両商会で帳簿を合わせるのです。拘束した手形のお金が支払われます。しかし、実際には差額分の現金を運べばよいのです」
バンリオルがハッとしたように声を上げる。
「な、なるほど……」
ネザルも頷く。
「実際に金を運ぶのは差額だけで済むとしたら、たいした額ではないと…」
「その通りでございます」
ミナは続けた。
「これが広まれば、商人は金を運ばなくて済みます。盗賊に襲われる危険も減ります」
「う~む…」
4人が唸る。
「そして…」
ミナは少し間を置いた。
「…手形の発行には、手数料を取るのです」
バンリオルとネザルは顔を見合わせた。
そして同時に笑った。
「なるほど。これは面白い」
バンリオルが言う。
「つまり、金は動かずに商売だけが動く」
ネザルも言った。
「そしてそのたびに、我々に手数料が入る」
「金を動かす量が減れば、盗難の危険も大幅に減りますな」
「つまり、護送費が格段に減るということか!」
バンリオルとネザルが顔を見合わせる。
ミナはニッコリと頷いた。
「国内の商人が皆この手形を使うようになれば、商いはずっと安全になりますわ」
「なるほど!」
4人は明るい笑顔を見せる。
「でも…まだ喜んでいただくのは早すぎます」
ミナはまじめな顔で続けた。
「良いことばかりではございませんよ。もちろん、そこにはリスクがございます」
「りすく?」
「あ、いえ。損失の危険性です」
街道のような物理的インフラ、手形のような金融のインフラ。ミナが欲しいものはどんどん作る!
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、ポイントをつけて応援してくだると嬉しです! よろしくお願いします。
用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…。
アンドリオン … ブリア侯でブリア領主 25歳
カイル … ミナの恋人で、バンリオル商会の私兵。元冒険者 23歳
バンリオル … ボリック・バンリオル ミナを支援する大商人 29歳
王の剣 … 軍務と諜報を許されている商会
商人護送団 … 商隊に護衛の領兵を20人つけて、一斉に移動する方式




