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王弟の嫡男ゼビルスとエカーリアの出会いは優雅に始まる……

MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とするために官僚として働く。ほかにも金融危機をすくったり、街道舗装の資金を作ったりと、その手腕は王都でも噂となり、「天才官僚」と言われるようになった。一方、カイルとジオルダンは密輸船を摘発し、それが隣国への侵略戦争の一端であることを知る。

それを隣国に知らせるために、王弟レオストがコブルーを出港することに……。


このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください


初めてお読みになる方は、下に用語集があります!


 王の剣としての働きは口外しない。だから、カイルは通常、ミナに自分の働きについて話さないし、コーガルもどの兵を使ったかを言わない。

「ああ。ちょっと用があってな」


 ミナに近づくと、カイルの後ろから、ぬぅっと大男が出てきた。

「よっ、ねえちゃん! 元気か?!」

「て、てめえ…。後ろからついてきやがったな!」

 カイルは驚愕の顔でジオルダンをにらむ。もうすっかり「てめえ」呼ばわりだ。


「あら、ジオルダン。あなたもいらしたのですね」

 ミナは笑顔でジオルダンに声をかける。

「えへっ」

 とジオルダンが照れる。それを見て、カイルが怖い顔をする。


「ミナ! 言っとくけどな。こいつは危ないやつだぞ。近づくなよ」

 カイルがジオルダンの顔を指さして言う。

 ミナはきょとんとする。


「カイル! てめぇ!!」

 ジオルダンがカイルをど突こうとしたが、カイルはミナごとよけた。

「ミナに手を出すなよ! ついでに顔も出すな!」


「ふん! てめえの命令なんざ、誰が聞くか!」

「フン!」

 ふたりでにらみ合う。


 そこへ護衛のゾーイが入り込み、ミナをカイルから奪い取る。

「ミナ殿、馬車の用意ができております」

「あ、ありがとう。…じゃ、おふたりとも、失礼させていただきますわ」

(助かった~…)

 ゾーイに守られて、馬車に乗る。


 カイルともっと話したかったが、そんな状況ではなかったので、さっさと帰ることにした。

 そのうちカイルもタンブリーに戻るだろう。

(あのふたり、なにやってるのかしら……。兄弟げんか?)


 ミナは帰りの馬車の中で、港湾部の業務改善案を練る。

(荷は積荷目録を商人に出させる申告制とする。それを税官吏が荷を見て確認する。…入港記録の書類は商人に書かせる…。それから、補給品はセットにしておいて、すぐに渡せるようにすれば…)

 いろいろと省力化を考えるのであった。


(港も広げないと…。拡張工事が必要だわ)

 ミナには未来のコブルー港の混雑ぶりが想像できた。


 第129話 ブリア城の舞踏会


 コブルーの禁輸事件の後、王弟レオストがスリマラビヤに外交に出かけることになった。護衛団とともに、タンブリーにやってくる。その際に、ゼビルスを同伴するという知らせが来た。


(やった! ゼビルス様とエカーリア様を会わせることができる!)

 ミナはほくそ笑んだ。


 アンドリオンは、ゼビルスも来ると聞くと、レオスト殿下の歓迎会のために舞踏会を催すことにした。これがエカーリアのためになればフィルベラも喜ぶだろう。


 6月末のブリア城は大忙しとなった。王弟をお迎えしての舞踏会など、めったにあるものではない。儀礼はどうだったかと、侍従たちは過去の事例を古い文書で調べる必要さえある。いつもよりも掃除や飾りつけに気合が入る。

 そして、タンブリーに集まる最高の食材を用意して、レオスト殿下をお迎えした。



 城の大広間は、この夜、まるで別の場所のように輝いていた。

 高い天井からは幾つものシャンデリアが吊るされ、無数の蝋燭の光が金の装飾に反射している。壁には深紅の幕が垂らされ、床の磨き上げられた石は鏡のように光を映していた。

 その中央にはふかふかの赤い絨毯が敷かれている。


 弦楽器の柔らかな調べが流れ、ブリアの貴族たちのざわめきがその上を漂う。

 今夜の主催者は、ブリア侯爵アンドリオン。王都からの客を迎えるための宴でもあった。

 広間の入口では、貴族たちが次々と名を呼ばれて入場している。


「ブリア侯妹君、エカーリア様」

 侍従の声が響く。

 広間の視線が一斉に入口へ向いた。エスコートするのは、普段からエカーリアの護衛を務める騎士である。


 淡いピンクのドレスをまとったエカーリアが、ゆっくりと歩み入る。銀糸の刺繍が蝋燭の光を受けてきらめいた。彼女は軽く一礼し、静かに広間へ進む。


 貴族たちの間で小さなささやきが起きた。

「侯爵家のご令嬢か」

「私は初めてお会いする…」

「美しいかたですな…」


 前回は前領主カリディオンの復帰を祝う園遊会だった。それに出席しなかった貴族にとっては、エカーリアの登場は初めてだ。

 その視線の先で、エカーリアは少しだけ緊張したように息を整えていた。


 バンリオルはいつも領主により特別に招待される。隠れた身分である王の剣という立場は一般には公表されないため、身分としては平民なのだが、国王陛下の覚えめでたい大商人であるため、このような集まりには必ず招待される。

 その後ろにはカイルが控えていた。


 カイルにとって、舞踏会の護衛は初めてだ。うっかりすると、華やかさに目を奪われて、護衛を忘れてしまいそうだ。気を引き締めてしっかりと立つ。


「ブリア侯爵アンドリオン様、そして、ご母堂フィルベラ様、おなり~」

 アンドリオンとフィルベラが入ってきた。


 ブリア側の陣容が整うと、主賓であるレオストとその息子、ゼビルスが登場する。

「王弟ラッスル公レオスト殿下、嫡男ゼビルス様、おなり~」

 レオストは一人で現れ、ゼビルスがエスコートしたのはミナである。


 ミナも、ゼビルスにエスコートされるのは二度目なので、あまり緊張しなくなった。

 今日は王都で新調した薄いパープルのドレスだ。ミナの知的な顔立ちに、パープルはよく似合う。デコルテのラインが美しい、上品なデザインだ。


 レオストは中央の椅子に座り、そばにアンドリオンが立つ。そして、次々と地方貴族の挨拶を受けた。

(王族は大変…)

 ミナはそれを見て、本当に感心する。もっとも、王族は子供の頃から慣れているのかもしれない。


 ミナはまわりを見回すと、…カイルをみつけた。

 ミナがニッコリすると、カイルも小さく微笑んで頷いた。ここでは言葉を交わすことはできない。


 ミナはゼビルス担当だ。挨拶に来る貴族をゼビルスに紹介する立場である。…と言っても、侍従が名前を言うのだが。


「ゼビルス様、エカーリア様をご紹介させてください」

 近づいてくるエカーリアをミナは紹介する。

「こちらは、ブリア候の妹君、エカーリア様でございます」


 エカーリアはエレガントな礼をする。

「エカーリアでございます。ゼビルス様、どうぞお見知りおきを」

 そう言って、顔を上げる。


 ゼビルスはエカーリアのたおやかな美しさに目を奪われた。きれいな金髪を高く盛って、細い縦ロールを中央からいくつか垂らしている。


「エカーリア様はとても聡明なお方で、最近は行政のことも一緒に勉強してくださっているのです」

 ミナはエカーリアの賢さをアピールする。美しさは見ればわかる。

「え、ああ…。そうなのですね…」

 ゼビルスはミナの言葉は上の空なのか、少し頬が赤らんでいた。


「今は農民支援制度を手伝っていただいております。ですから、お詳しいですわ」

 ミナはそう付け足した。


「そ、そうなのですか? では、ぜひ、それについてお伺いしたい」

 ゼビルスは良い会話の話題を得たとばかりに、エカーリアに手を差し出し、ソファに誘って、話を始めた。エカーリアもゼビルスが気に入ったようで、笑顔で応じていた。


(よしよし。後はふたりに任せて…と)

 扇を持って「うふふ」とにんまりしていると、バンリオルがやってきた。


「ミナさん」

 カイルを伴っている。

「はい、ボリックさん。王都でお会いして以来ですわね」


「ええ。ミナさん、聞き及びましたよ。レオスト殿下の街道商会の話。さすがですね。あっという間に解決なさったと、王都でまたミナさんの名声があがっておりますよ」

「まあ…。お恥ずかしいですわ」

 ミナは照れる。


「うちも宿や店を街道に出す計画をしております。もちろん、街道商会に出資もする予定ですよ」

「さすがですわね。結構高い出資額になりますでしょ?」

「ええ。でも、ずっと利息が入ってくるならば、商人にとって、悪い話ではありませんからね」



 バンリオルはふと思い出したようにミナに尋ねる。

「ミナさんはいったいどうやって、あのような仕組みを思いつくのですか? 街道の通行税を廃止するなど、普通は思いつきませんよ。そして、出資を商人たちから集めるとか。

 今まで誰も考えなかったからこそ、レオスト殿下はずっと解決できなかったのですよ」


「うふ…。お金は持っているかたに出していただくのですわ。そして、そのかたがたが儲かるような仕組みを考えます。それがすべてですわ」


「なるほど…ミナさんはやはりエビーナの遣いですね」

 バンリオルは何度も頷いた。


「それから、ブリアの役場での手続きが大幅に変わったそうで。これもミナさんの業務改善だそうですな。競りに参加しているうちの部下が急に役所が変わったと驚いておりましたよ」


「ええ。わたくしが事業を広げすぎるので、役人が足りないのです。それで、人手不足の解消を領主様に命じられましたので、大ナタを振るわせていただきました」


「ミナ、私の悪口を言っておらぬだろうな」

 突然、ミナの後ろから声がした。アンドリオンが近づいてきた。


「まっ。おほほ…。もちろんでございますわ」

 振り返って、扇で口元を押さえながら答える。


 アンドリオンはバンリオルの後ろにいるカイルに目をやった。カイルは一礼する。

「誰かと思ったら、カイルか…」


アンドリオンがカイルに会ったのは彼がフレスタで襲われたのをカイルが助けて以来。ほぼ2年前。その後、バンリオルの私兵となり、身だしなみを整えたから、外見が変わっています。


この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、ポイントをつけて応援してくだると嬉しです! よろしくお願いします。


用語集

ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…。

王の剣 … 国王から国防のための軍務を秘密裏に許可された商会のこと

カイル … ミナの恋人で、バンリオル商会の私兵。元冒険者 23歳

ジオルダン … トガリア商会の私兵。元海賊。王の剣を担う 31歳

ゾーイ … ミナの護衛 30代

レオスト … 王弟で、コブルーの開発部長 42歳

スリマラビヤ … 密輸船に狙われた隣国

ゼビルス … レオストの長男で、ミナに好意的。19歳

エカーリア … ブリア領主の妹 22歳

アンドリオン … ブリア侯でブリア領主 25歳

バンリオル … ボリック・バンリオル ミナを支援する大商人 29歳

エビーナ … 商業の女神

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