災い転じて……チャンスとなす
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。ミナは、国家銀行案で王都の銀行を救い、街道を舗装するための街道商会の案で、天才官僚と呼ばれるようになる。一方、カイルとジオルダンは、コブルー港に出没する怪しい密輸船を襲撃し、乗組員を捕らえた。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
「ふん!」
その男は思い切り顔をそむけた。
「おらおら。どいてな。おめえは甘いんだよ」
ジオルダンがカイルをどかせる。
おそろしい形相で、ナイフをなめる。ジオルダンは刺青のある大男だ。
「こいつは楽しませてもらわなきゃなあ…。目玉か、鼻か」
そう言って狂気の表情を見せると、男は震えあがった。
「…ま、待て! 俺は運ぶのを頼まれただけだ……持っていくのは……レ、レッカだ」
青ざめた表情で喉を詰まらせながら、震えた声で答えた。
(レッカだと? スリマラビヤの港か…)
カイルはなぜレッカなのかを考える。
「ほんとか~?! うっそだろ。俺は甘くねぇぜぇ。ヒッヒッヒ~」
ジオルダンは笑いながらナイフをくりくりと動かす。
「た、助けてくれ~! ほ、ほんとだ~! うそじゃねえ~!」
男は恐怖の叫び声をあげて恐ろしさで泣き始める。
「どこに頼まれた?! さっさと言いやがれ~!!」
目玉が飛び出すくらいの形相で、ジオルダンが叫ぶ。
「ひぃぃ~!! ア、アバ…。アバキア。お助けを~!!」
「ケッケッケ…。嘘つきやがると、助かると思うなよ~!!」
「ひ、ひぃ~……、ほ、ほんとだ…。お助け~~!!!!」
カイルは思った。
(演技は学んでるが…俺には絶対にこれはマネできない。チッ…。変態も役に立つってことか…)
カイルなりの結論だった。
第128話 コブルーの新戦略
次の日の夕方。コブルー港湾局の会議室に4人が集まった。
港湾局長コーガル。
常駐行政官バラントン。
王都から出向の商務官セグリオ。
そして、早馬の連絡を受けてタンブリーから急いでやってきたブリア侯行政顧問ミナ。
ミナが到着する前に、コーガルは警備兵に引き渡された乗組員たちを自白させ、さらなる情報を得ていた。
コーガルが報告する。
「密輸の荷は幻睡薬でした」
セグリオが眉をひそめる。
それは、吸うことで快楽の幻想が浮かび、だんだんと気力がなくなり、そのうちに眠りに陥り、死に至るという麻薬だ。
「それは最悪な…」
コーガルが続ける。
「アバキアがスリマラビヤに撒こうとしたようです。その隠ぺいにコブルーを使ったと」
バラントンが低く言う。
「アバキアの仕業か…。アバキアはスリマラビヤを狙っているというわけだな」
セグリオも腕を組んで苦い顔をする。
「国民を快楽で釣って、幻睡薬で弱らせ、治安を乱す。その後に軍を動かす。古い手ですな」
ミナも頭の中で整理しながら、つぶやくように言う。
「なるほど。出所を隠すということは、幻睡薬で稼ぐつもりではない。となると、侵略準備だということですね」
「さて、この情報をどう扱うか、ですが…」
コーガルが議題を進める。
「もちろんスリマラビヤには知らせるべきでしょう。ですが…」
そこでミナは目を伏せて考え始めた。
それを見て、3人はしばらく黙る。
「これを期に、そろそろコブルーの外国とのつながりを強くする時期にできるかもしれません。たとえば、コブルーからの船が優先利用できる埠頭…。それから優遇税率を要求する…とかですかね?」
とミナが頭を傾げながら、さも当たり前のように、スリマラビヤに対する交換条件を考える。
「そ、それは…つまり、スリマラビヤに、コブルーに対する特別待遇を要求する…ということですか?」
コーガルが驚愕の顔で言う。
こちらがスリマラビヤに謝らなくてはいけない案件だと思っていたら、ミナが逆にスリマラビヤに対する要求を述べ始めたのだ。
セグリオも腕組みしながら頷いて、
「なるほど。コブルー港を有利にするのですな? スリマラビヤと取引したい者は、コブルーに寄れば有利になる、ということですな。でしたら、税関の優先権も欲しいですなあ」
と、さらなる要求を言う。税関を通るのに時間がかかることを、商船は一番嫌うのだ。
「専用倉庫を造ってもらうのはどうですかな?」
バラントンも欲を出す。
コーガルはだんだんよくわからなくなってきた。自分が常識的なのか、甘いのか…。
3人を代わる代わる見て、冷や汗をかく。
(転んでもただでは起きない3人だ。どっちが侵略しようとしてるんだかわからなくなってきた…)
「まあ、こちらの要望は全部出しておいて、あとはレオスト殿下に外交をお願いしましょう。セグリオ卿、殿下にご連絡をお願いいたします」
「承知しました」
「そして、大切なのは、このような出来事を二度と起こさない対策をすることです」
とミナは本質的な話題に変える。
「え? 二度と起きないようにすることが…できるのでしょうか?」
コーガルがまた驚く。こんなことはイタチごっこだと思っていたからだ。警備を怠れば、またやられかねないと。
「ええ。できますわ」
ミナは新しい仕組みの説明を始める。
「つまり、今回の事件は、税関を通らなかったということが問題ですから、税関を通ったという証明の封印をつけるようにするのです」
「ああ、なるほど! 税関を通った荷にはコブルー印の封を押すということですな」
バラントンはすぐに理解する。
「はい。それは逆に、信頼を生むでしょう。コブルー印の封印がある荷は他の港でも怪しい荷ではないと見られる、という信頼です」
「ついでに中身の書状を付ければ完璧ですな」
バラントンが付け足した。
「それは良いですね! 中身の書状の発行については、別料金をいただきましょう」
これはコブルーのブランド戦略だ。コブルー印があれば、コブルーの税関を通った正規の荷であることの証明となり、中身を証明する書状はさらなる信用の証明となる。
税関の監査が価値あるものになれば、どうせならコブルーに寄港しよう、となるだろう。すると、港の利用料、積荷証明の発行料が収益となり、補給品も売れる。
それを少なくともスリマラビヤに認めてもらえれば、国際的に通用する証明書となるわけだ。
「はあ。なるほど。それを付けられては、海賊はコブルーを利用できなくなりますな」
コーガルも感心した。
災い転じて福となす。ピンチをチャンスに変える。これがミナのモットーだ。
こうしてコブルーはブランド戦略を実行していくことになった。
ミナが会議を終えて、ゾーイに迎えに来てもらい、港湾局の建物を出てくると、そこに愛しい姿を見た。
「カイル! ここにいたの?」
思わず駆け寄る。カイルはミナがここにいるのを知って、出口で待っていたのだ。
いよいよ、コブルーの自由港戦略、動き出します。……やっと……。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、ポイントをつけて応援してくだると嬉しです! よろしくお願いします。
用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…。
カイル … ミナの恋人で、バンリオル商会の私兵。元冒険者
ジオルダン … トガリア商会の私兵。元海賊
レオスト … 王弟で、コブルーの開発部長
ゾーイ … ミナの護衛




