怪しい船、コブルー港に現る
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。ミナは、国家銀行案で王都の銀行を救い、街道を舗装するための商会の案を出し、王弟レオストの問題を解決した。
一方、ワモワ海に出ていたカイルとジオルダンはコブルー港に戻ってきたが…。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
第127話 密輸船と変態男
まだ若い新米港湾局税務官パウルは、港の帳簿をにらみながら唸る。
「やはり妙です…」
隣で窓から海を眺めていた上司のルスカンが言う。
「何がだ?」
「最近よく来る外国船なんですが、それが着いた時には空なんですよ。で、補給だけしてまた出ていくんです。何しに来ているんだか」
「つまりそれは、港に来る前にどこかで荷を下ろしたってことだな?」
「しかも、着くのがいつも夜なんですよ。なんか怪しい気がするんです」
ルスカンは少し考えた。パウルはじっと答えを待っている。
「それはおそらく、沖で荷を下ろしてるってこった」
「そ、それはもしや、密輸品?」
ルスカンは首を横に振る。
「もっと厄介なものだろうな」
「き、禁輸品……?」
「ああ。たぶんな。武器か、幻睡薬か、毒薬か。あるいは特殊鉱石か」
パウルは思わず唾を飲み込んだ。
「じゃ、どうやって取り締まるんです?」
「乗り込むしかないな」
「とすると、港湾警備兵に……」
「いや」
ルスカンは首を振った。
「警備兵が動けば港中に情報が広がる。やつらはすぐ逃げる。それに、空船だけでは検挙できん。荷を積み替えるところを押さえなきゃならん」
「じゃ、どうすれば…」
「私兵を使う」
ルスカンは短く言った。
「私兵を使う権限は俺にはない。港湾局長に連絡だ」
* * *
夜の海は不気味な暗黒の広がりだ。
港は桟橋の灯りはところどころ消され、潮の音と、遠くの船の軋む音だけが聞こえた。
夕暮れ時の優しさはすっかり消え、今は人ではない者が支配しているように見える。
桟橋には2人の男が座っていた。
カイルとジオルダンだ。
ジオルダンは海を眺めながら言う。
「……静かだな」
「ああ」
カイルは腕を組んだ。
「なんで俺がまたあんたと…」
カイルが愚痴る。
「なにぃ? 俺と一緒じゃいやなのか?」
「香木の匂いを嗅いで『ねえちゃん』なんて言う変態と一緒に仕事したくないだけだ」
「へ、変態だとぉ~? 言ってくれるじゃねえか。この男の中の男をよ」
「ふん。今度ミナに変な妄想したら許さないからな」
「ちっ。俺がどんな空想しようが、俺の勝手だ!」
「なに?! ミナは俺のだぞ!」
「あはん! まだ結婚してねぇだろ?!」
「結婚してなくても俺のなんだよ!」
「なに~?! 結婚してねぇなら、俺にだって権利はあらぁ!」
「あんたに権利なんかねぇ!!」
ふたりは顔をにらみ合い、火花を散らす。
「フン!」
やっとまた海に目線を戻した。
昼間、ルスカンから密輸の話を聞いてすぐに、バンリオルとトガリアの私兵が動いた。
桟橋には沖へ出るための小舟がすでに準備されている。今夜は積み荷の積み替えがあるだろうという予測で、ふたりはやってきた。
ジオルダンは桟橋の端に立ちあがり、海をじっと見ていた。
「ふん。おめえはひよっこだから、まだ知んねえだろ。海賊には海賊のやりかたってやつがあってな」
(ひよっこ……)
カイルはググッとにらみつける。
しかし、ジオルダンは31歳。カイルはまだ23歳だ。1歳違いのフライアに「坊や」と呼ばれているカイルとしては、まだマシと言うべきか…。
…とはいえ、むかついた。「俺はバンリオルの私兵の主軸だ」という自負があった。
「見てな」
ジオルダンが沖を指さす。カイルも隣に立った。
そのとき、沖の暗闇に小さな灯りが現れた。
「出たでぇ~」
カイルが目を細める。
「…なんだ、あれ?」
「…人魂だよ。幽霊船のな」
ジオルダンはカイルを振り向き、半眼になって幽霊がするような手ぶりでカイルを脅す。
カイルは(完全に子供扱いしやがったな!)と怒り心頭だ。
ジオルダンは怖い顔でにらみつけるカイルにかまわず、再びじっと灯りを見つめる。
灯りが一度消え、また現れた。
そして、もう一度。
ジオルダンが低く笑う。
「間違いない」
「何がだ?」
「合図だ」
「合図?」
「船同士が並ぶ合図だ」
カイルはハッとした。油断している場合ではない。
「つまり、今から積み替えが始まる?」
「そういうこった」
ジオルダンは振り返って腕を高く上げる。
すると、背後に潜んでいた10数人の私兵が音もなく現れた。
「俺らも行くぞ」
私兵たちがいくつかの小舟に分かれて乗り込む。そして、音もなく海へ滑り出した。注意深く音を立てずに櫂を漕ぐ。
月は雲に隠れ、海は真っ黒だった。
やがて沖へ出ると、二つの影が見えてきた。
大きな船が並び、その間に渡り板が渡されている。
人影が渡り板を歩いて荷を運んでいた。
ジオルダンが小声で言う。
「……やっぱりだぜ」
ジオルダンは周囲の船に腕で指示する。
「近づくぞ」
私兵たちの小舟がゆっくりと密輸船の影へ寄る。
そして距離が詰まった瞬間、ジオルダンは渡り板の反対側の舷側に鉤縄をかけて、飛び跳ねるように船に移った。
その音と揺れに密輸船の男たちが振り向く。
「なんだ?!」
あっという間に斬り捨てられる。
そして、ジオルダンはもう一つの船に飛び移りながら、残りの私兵たちに怒鳴る。
「おめえらはそっちの船を確保しろ!」
カイルも船に飛び乗った。体が甲板に着いた瞬間、剣を抜く。
こっちの船はもう強そうな敵はいない。他の私兵に任せて、ジオルダンが乗り込んだもう一艘の密輸船に渡る。
密輸船の乗組員たちは慌てて武器を取ったが、すでに逃げ場はない。夜の海に金属音が響いた。
「観念しやがれ!」
ジオルダンは剣を振り回して力任せに男たちをなぎ倒す。
カイルも急所を外しながら、相手をどんどん無力化していく。
次々と乗り込んでくる私兵たちは邪魔な乗組員たちを次々と海へ突き落とした。荷を確保するのが優先だ。無抵抗な船員はそのまま縛り上げた。
やがて、戦いはすぐに終わった。
甲板には縛られた男たちが転がり、まだ運ばれないままの荷箱が積み上がっている。
カイルはやつらが運ぼうとした箱を一つ開けた。
中には、黒い袋がぎっしり詰まっていた。
ジオルダンが覗き込む。
「……幻睡薬か」
「ああ、かなりの量だな」
カイルが量を確認する。
「これを港に通さず流してたってわけだ」
「てことは…。どこに持っていくつもりだったんだ?」
カイルは箱を閉じた。
そして、倒れている縛られた乗組員の一人の上半身をぐいと引き起こす。
「どこに持っていくつもりなんだ?!」
やっと、コブルー港の力がどんどんワモワ海に広がっていきます。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、ポイントをつけて応援してくだると嬉しです! よろしくお願いします。
用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…。
カイル … ミナの恋人で、バンリオル商会の私兵。元冒険者
ジオルダン … トガリア商会の私兵。元海賊
フライア … カイルの相棒の女で、バンリオルの私兵




