表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
158/167

官僚たち、やっとミナの真価がわかる

MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。ミナは、国家銀行案で王都の銀行を救い、街道を舗装するための商会の案を出し、王弟レオストの問題を解決した。王都から帰ってくると、ブリアの仕事は滞っていた。そこで、ブリア領主はミナに解決を求めた。


このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください


初めてお読みになる方は、下に用語集があります!


第126話 ミナの業務改善


 ブリアの行政棟は、このところ慌ただしかった。

 廊下には書類を抱えた書記が行き交い、部屋のあちこちからため息が聞こえる。机の上には紙の束が山のように積み上がっていた。


「まだあるのか……」

 若い書記がうめいた。

「ある。これでも昨日より減っている」

 隣の書記は無表情で答えた。


 ミナはそこにやってきた。アンドリオンの補佐官ロエルが同行する。アンドリオンの学生時代からの友人で、側近の1人だ。

 彼は文官なので、ミナを案内がてら護衛しているのだ。


 ミナは黙って、いろいろな役人が書類作業をしているのを観察している。

 ミナが来ると、役人たちは恨めしそうな目でミナを見る。


 しかし、ミナはそれを気にもせず、山積みの書類を一枚取り上げ、じっと見る。一通り見ると、またもとに戻す。

 それをあちこちの机でやっていた。


 しばらくすると、腕を組み、片手を顎に置き、「う~ん……」と目を閉じて唸る。

 そしてまた、あちこちを歩く。また書類をつまんで、しばらく見る。そんなことを繰り返す。


 すると、会議室から出てきたアンドリオンが、役人の中にミナをみつける。

「ミナ、何をしている」

 スタスタとミナのそばにやってきた。


「はい。どのように仕事を削減できるか、考えております」

「仕事を削減? 私は人手不足をなんとかせよ、と言ったのだぞ」

「はい。人を増やす以前に、まず業務の改善が必要ですので、わたくしが仕事を見させていただいているのでございます」


 周りの者たちは、ふたりのやりとりをちらちらと見ている。


「領主様、お話はあとで執務室でお聞きします。領主様がお話しになると、皆が仕事ができないではございませんか」

「う、…す、すまぬ」


 アンドリオンはミナに怒られて、そそくさと事務室を出ていった。

 そして、再びミナはまじめな顔で、いろいろな書類を見たり、掲示物を見たりして観察するのだった。


 そこへ文官の1人がやってきた。50代の年配の役人だ。


「顧問のミナ殿。我らは困っておる。仕事が多すぎるのだ。しかも、新しい仕事が次々に増えていく」

 ミナは笑顔で答える。呼び出すのではなく、来てくれるのを待っていた。


「はい。ぜひ、お話をうかがわせてください。ここでは邪魔になりますので、会議室にまいりましょう」

 そう言って、ミナは何枚かの書類を集め、ロエルに会議室に案内してもらい、中に入った。


「私はモルギア。商務部長だ。今困っているのは競りに参加する商会の登録だ。ブリア全体となると、大量なのだ。まだまだ登録を希望する商会は多いが、なかなか許可を出すまでには至らぬ」


「なるほど。許可はどのようにして出していらっしゃいますか?」

「一つ一つの商会を全部、過去の記録まで調べねばならぬ。それには結構時間がかかるのだ」


「なるほど…。では、それを廃止いたしましょう」

「な、なに?!」

 モルギアはこれ以上ないほど大きく目を開いた。


「競りに参加したいという商会を、いちいち調べる必要はございません。競りでは、その場で代金が支払われます。ですので、もし支払われなかったら、その商会の参加資格を取り上げればいいのです」


「なに? つまり、誰でも参加できると…?」

「参加を届け出制にするのです。こちらの書類をご覧ください」

 ミナは書類の形式の一つを見せた。


「この書類では、商会の登録番号、扱い商品分類、登録場所、登録年、代表者名、その住所。これだけが書かれています。届出書もこれだけの内容で良いでしょう」


「なんと…。審査なしで競りに参加させるというのですか?」

「はい。それならば、どのくらいの作業がなくなりますか?」


「いや、それならば、半分はなくなる。いや、…ほとんどなくなる」

 モルギアは目を丸くした。


「そんなやり方でいいのか? 今までとまったく違う…」

「はい。いいのです。もし、何か問題があれば、他の商会や農民が連絡できるように、窓口を用意します。わたくしたちが調べなくても、皆が情報をくれるでしょう」


「た、確かに。それは…考えたこともなかった」


「素晴らしいご意見、ありがとうございました。他にもなにかございますか?」

「ああ、…そうだな。次は、誰の農産物がどこにいくらで売れたかを記録した帳簿で、競りのあとにその記入をするのが大変なのだ。毎日のことでな」


「ごもっともです。でしたら、役人が競りの後にそれを帳簿に書きとめるのではなく、木箱を渡す前に、落札者に書類を書かせましょう。担当官はそれを確認するだけ。帳簿を使わなければ一挙にできますね。


 役所では、この書類を木箱の番号ごとに分けて保存します。週に一度、木箱の番号ごとに集計して支払いをすればよいでしょう。その後、書類はそのまま綴じて帳簿にしてしまえばよいのです」


「な、なるほど…。そんな方法が…。しかし、書かない商会があったら?」

「書かなければ木箱は与えません。すると、取引が成り立ちません」

「な、なるほど…」

 モルギアはぐうの音も出ない。


「確かに、これで農民支援制度については、7割がたの仕事がなくなるな…」

「何か、他にもお気づきのことがございましたら、ぜひご相談くださいませ」

「おお、わかった!」


 モルギアは嬉しそうな顔をして、会議室を出ていく。


「…ミナ殿。見事だな。あっという間に7割の仕事がなくなった」

 ロエルが感嘆する。

「まだまだ序の口ですわ。今のは商務部の農民支援制度のみ。他の課にも次々に相談に来ていただきます」



 モルギアが嬉しそうに会議室を出ていくと、扉の外で待っていた役人たちがすぐに彼の周りに集まった。

「どうでした、部長?」

「何か解決策はありましたか?」


 皆、心配顔で尋ねる。

「うむ……仕事が半分以下になる」


 モルギアは嬉しそうに興奮した声で言った。

 周囲が一斉にざわめく。


「は?」

「半分以下?」

「どういうことです?」


 モルギアはミナの言葉をやっと自分の中に落とし込めて、ニヤリとした。

「競りの参加審査をやめる」

「え?」

「届け出制にするのだ」

 役人たちは顔を見合わせた。

「そ、そんなことが可能なのですか?」


「ミナ殿は問題が起きたら、その商会を排除すればよいと言っていた。その問題提起も、他の商会や農民が訴えたときに調査すればいいと。その窓口を開けておけばいいと」


 若い書記が思わず言う。

「……それなら、確かに事前審査は不要になりますね。事前審査をしても問題は起きますし」

「そうだ」

 モルギアはうなずいた。


「しかも、競りの記録も木箱を受け取りに来た商会に書かせると」

 モルギアは続ける。


「木箱を渡す前に同じ書式の紙に記入させて、それを後で綴じるだけでいいそうだ」

 役人たちはしばらく黙り込んだ。


 やがて一人が小さく言った。

「……そんな簡単なことだったのですね…」

 誰かがため息をつく。


「我々は、ずっと自分たちで全部やろうとしていた」

 モルギアは振り返り、会議室の扉を見た。

 その向こうでは、まだミナが書類を広げているはずだ。


「我々はミナ殿を理解していなかったようだ」

 モルギアは深いため息とともに言った。


「ミナ殿は発想が違うのだ。なにかこう…。そう、発想が逆な気がする」

「逆とは?」

「我々は来た道から考える。しかし、ミナ殿は……」


 モルギアは言葉を探していた。そして、やっと思いついて、言った。

「ミナ殿は出口からこっちに向かって来るようなのだ」

「出口から…?」


「そうだ。まるでミナ殿が出口から手を伸ばして、泥沼から私を引っ張り出したような気がした。あのかたは解決できた未来から考えている。視点がそこにあるのだ」

「な、なるほど…」


 役人たちは、しばらく腕組みをして黙っていた。

 そして若い書記がぽつりとつぶやいた。


「……あのかた、本当にただの商人なのですか?」

 モルギアは苦笑した。

「うむ…。いったい何者なのか……」


 そして小さく付け加えた。

「少なくとも、あの若さにだまされてはいかぬということはわかった。まるで、百戦錬磨の商人のようだ。これからは、我々よりも100年は経験豊富だと思うくらいがちょうどよい」


「100年…! な、なるほど…。我々はあの姿に騙されていたと…」

 役人たちは、その姿につい騙されてしまっていることに気づいた。


 一人の役人が、ふと思い出したように言う。

「そ、そう言えば…バンリオルはミナ殿を『エビーナの遣い』と呼んだと聞きました」

「ほう、あのバンリオルが…? なんと…」


 役人たちは顔を見合わせる。

 モルギアは「う~む…」と唸り、低い声で言う。

「あの者の才能を見抜いた領主様も、さすがとしか言いようがない」


 役人たちはそれまで、領主はあの女に憑りつかれたのではないかと思っていた。しかし、そうではないことが今ようやくわかった。

「領主様のご慧眼ということか…」


「最近、王都出張組から聞いたところによると、王都ではブリアの評判がすごいそうです」

「さまざまな改革が進んでいるという評判ですな」


「だからこそ、王弟殿下が先日、ミナ殿を呼び出したのであろう」

 全員で「う~む」と唸る。


「何かあれば、さっさと相談したほうが早そうですね」と役人が言う。

「うむ。これからはそうしよう」


 役人たちの空気は、ほんの数分でがらりと変わってしまった。


 その後、次々と各部の部長がミナのところに押し寄せたのは言うまでもない。


次はまた港の話。カイルとジオルダンが出てきます。


この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、ポイントをつけて応援してくだると嬉しです! よろしくお願いします。


用語集


ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…。

アンドリオン … ミナが仕えるブリア領主。25歳

バンリオル … ボリック・バンリオル。ミナを支援する大商人

エビーナ … 商業の女神

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=828069169&size=135
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ