減価償却の考え方を、商務庁官僚、やっと理解する
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。ミナは、国家銀行案で王都の銀行を救い、街道を舗装するための商会の案を出し、王弟レオストの問題を解決した。商務庁官僚は、最初、ミナが説明する減価償却の考え方がまったくわからなかったが、やっと理解し、会議は次の展開へと進んだ。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
第123話 最初の主街道
ミナは再び王城内の商務棟の会議室に呼ばれていた。イズランは今回も同行した。
前回と同じ部屋だが、空気は少し違っていた。
前はミナを値踏みし、どこか軽く見ていた官僚たちが、今日は最初から机の上に大量の書類を広げて待っている。
石畳街道の建設費。既存の通行税の記録。商隊の規模。馬車の通行量。街道沿いの宿場の位置。それらが几帳面に分類されていた。
キアンは立ち上がり、ミナとイズランに一礼した。
「お待ちしておりました。前回ご指示いただいた件、ようやく数字が揃いました」
その口調には、もう前回のような侮りはなかった。
むしろ少し疲れているようでもある。何日も数字と格闘していたのだろう。
「ありがとうございます」
ミナはにこやかに答え、席に着いた。イズランも隣に座る。彼は部屋の空気を見て、少しだけ口元を緩めた。やっと会議らしくなったと思った。
キアンは机の中央に大きな紙を広げた。
「まず、王都フリストルからコブルーまで、タンブリー経由の主街道の長さについてです」
彼は棒で紙の上をなぞる。
「総延長、およそ三百二十里」
ミナは気を引き締める。これはかなりの長さ。大工事なのだ。
「このうち、王都からバドマまでが比較的平坦。バドマからデラー領にはやや起伏がございます。デラーからエレミアは土が柔らかく、雨季にはぬかるみやすい場所です。エレミアからブリアは…」
キアンは細かく説明した。ミナは真剣な顔で聞いていた。
「全面を石畳とした場合の試算でございますが、材料費、人夫賃、橋の補修を含めまして――」
キアンは一度紙をめくった。
「1億1800万ポル」
部屋が静まる。膨大な金額だ。金貨にすると11万8000枚だ。
「そして、街道の2分の1の幅、馬車の幅のみを石畳とした場合の簡易方式ですと――6900万ポル」
ミナの目が少し輝いた。
「まあ。それはかなり違いますのね」
「はい。石材の量と敷設時間が大幅に減りますので」
別の官僚が補足する。
「ただし耐久性は全面石畳の方が上です」
「石畳は何年持ちますか?」
ミナがすぐに尋ねた。
今度は誰も驚かない。
前回なら、その問いの意図がわからなかった者たちも、今はもうわかっている。
キアンが答える。
「全面石畳なら20年から25年。簡易方式なら15年から12年ほどかと」
「では、計算は20年と12年でいたしましょう」
ミナはすぐに言った。
「はい。かしこまりました」
キアンも即答する。もう、会話の速度が合っている。
「次に通行量ですが」
キアンは別の書類を開いた。
「過去3年の通行税記録、宿場の聞き取り、荷馬車の数、橋の通行台帳を総合いたしました」
官僚たちが少し得意そうになる。
前回の会議のあと、彼らは何度も書記の書いた記録を読み返した。そして、ミナが言わんとするところの意味を理解した。
その後、かなり本気で調べたのだ。
「年間の延べ通行量は、商隊、荷馬車、単独の貨物輸送を合わせて、およそ110万」
ミナは小さく頷く。
「人の往来は含んでおりませんね?」
「はい。街道商会が最初に料金を取る対象は、商用輸送に限るべきと判断しました」
「よろしいと思います」
ミナは微笑んだ。
キアンは続ける。
「ただし、街道が整備されれば通行量は増えると考えられます。商務庁内で検討したところ、3年以内に1.5倍、5年以内に2倍まではあり得るかと」
「なるほど…。その増加量は、耐用年数の予測に採り入れてあるのですか?」
キアンは担当官を見た。
「も、申し訳ございません。それは採り入れておりませんでした!」
担当官が頭を下げる。
「では…耐用年数は…17年と10年ということで計算いたしましょう」
担当官はほっとしたように息を吐いた。
「まず、簡易方式で計算いたしましょう。6900万ポル。これを10年で割ると、年あたり――」
すぐに若い書記官が答える。
「690万ポルでございます」
「では700万ポルといたしましょう」
「はい」
「通行量110万で割りますと、一回あたりの原価は――」
今度はキアン自身が言った。
「およそ6.3ポル」
ミナはにっこりした。
「ありがとうございます。皆様のおかげで、原価が出ましたわ」
官僚たちの何人かが、照れたように目を伏せる。
イズランは黙ったままだが、明らかに面白がっていた。
「原価の3倍で考えますと、利用料は銀貨2枚がよろしいかと」
銀貨1枚は10ポルだ。
キアンが顔を上げた。
「2枚……?」
「はい」
ミナは説明する。
「2枚なら、補修、利息、再投資、事故への備えが十分にできます」
「ですが、今までの通行税と比べると、高すぎると思われるかもしれません」
別の官僚が口を挟む。
「今までの通行税はいくらでしたか?」
ミナはすでに知っているが、わざと尋ねる。
「街道全体を通して銀貨1枚半ほどです。今までよりも高い料金は反発を買うのではないかと」
「差は銀貨半枚ですね」
「はい」
「その差で、泥に車輪を取られず、荷を傷めず、日程を短くできるのであれば、商人には高くありません。商人は街道を通る時間そのものが経費となります。それが短縮されれば、それは利益なのです。
泥に車輪を取られたときのために人夫を2人雇っていたとして、それが1人になれば、それも利益です。この長さの街道で銀貨半枚の上乗せは十分に元を取れます。むしろ安く感じるでしょう」
キアンがゆっくり頷く。
「たしかに……。今まで、雨のたびに立ち往生し、宿代と馬の餌代が余計にかかっていたことを考えれば、銀貨半枚の上乗せは十分に回収できますな」
「そういうことですわ!」
ミナはすぐに言った。
「商人は税を嫌いますが、得になる料金は払うのです」
「なるほど…」
キアンは小さく呟いた。改めて、通行税と通行料の違いがはっきりとわかったのだ。
彼は顔を上げて、初めてまっすぐミナを見た。
「ミナ殿」
「はい」
「ようやく理解いたしました。通行税とは街道を使わせてやっているという領主側に払う礼金のようなものでした。しかし、通行料とは、便宜を得るために払う料金なのですね。ですから、商人は喜んで払うと」
前回、まるで異国語のように聞こえていた話が、ようやく彼の中で一つの仕組みとして組み上がったのだ。それがわかり、キアンは思わず口元がほころんだ。
「はい。そのとおりにございます」
ミナは最大級の笑顔で言った。
その言葉に、部屋の空気が少し緩んだ。ミナは心から嬉しそうに笑った。
「確かに、今までの通行税は領主や国王への礼金のようなものであって、街道のために再投資するための金ではなかった。だから、財務庁は『金がない』と言っていたのだ…」
キアンはイズランを振り返る。
「イズラン殿。いまやっと私は、レオスト殿下がおっしゃっていた言葉がわかりましたぞ」
キアンは頬を紅潮させて嬉しそうに言った。
「それはよかった。殿下にお伝えしておきましょう」
イズランも満足の笑みを浮かべた。
「では、結論をまとめましょう」
キアンは再び書類に目を落とす。皆がそちらを見る。
「王都―コブルー線は、まず簡易方式の石畳で始める」
「利用料は1回銀貨2枚」
「出資金は建設費6900万ポル。初年度運営費を加えた額7100万ポルで募る。異論はあるか?」
誰も声を出さなかった。前回の沈黙とは違う。今度の沈黙は、全員が腹落ちした後の沈黙だった。
「よろしい」
キアンが書記官に向かって言う。
「記録せよ。街道商会の第一案、これで確定だ」
書記官の筆が走る。
カリカリという音が部屋に響いた。
「では次は」
ミナは顔を上げた。
「出資者募集の条件を詰めましょう」
キアンは今度こそ、すぐに頷いた。
「はい。そこからは、我々もかなり案を持っております」
その声音には、もう完全に仲間の響きがあった。
カイルはまだ海の上。
次回は、ゼビルスと王太子とミナの出会いです。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、ポイントをつけて応援してくだると嬉しです! よろしくお願いします。
用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…。
イズラン … 王弟レオストの側近。ミナを保護している。
キアン … 商務庁の官僚
レオスト … 王弟で、ミナの能力を高く評価している。




