商人たちの盗賊対策はきりがないほど……
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。一方、ミナの恋人カイルは、バンリオル商会所属の諜報員だ。モーガダイ国がコブルー港を襲撃するのを、諜報員ジオルダンとともに阻止し、その帰り道で、怪しい荷をみつける。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
「じゃあどうすんだ?」
ジオルダンの言葉に、カイルはゆっくり言った。
「港の役人を使う」
船長が首をかしげる。
「役人?」
「そうだ」
カイルはみんなを見回して説明した。
「この港は小さい。役人の数も少ない。だからこそ密輸を一番嫌う。密輸を疑われたら、商船はわざわざ補給のために寄ってこないからな」
番頭が眉を上げた。
「なるほど…。港には死活問題だな」
カイルは続けた。
「傭兵団が倉庫に出入りしている。しかも香木の匂いがする。役人にとっては怪しすぎる」
ジオルダンがニヤッと笑う。
「つまり、役人に倉庫を開けさせるわけだ」
「そういうことだ」
翌朝。
船長を残して、カイルたち3人は港の管理所を訪れた。古びた石の建物で、机の向こうに中年の役人が座っている。
「何の用だ?」
カイルは名乗った。
「バンリオル商会の船、サーカウル号の護衛カイルです」
役人の眉が少し動いた。
「バンリオルだと?」
名前は知られているらしい。
カイルは険しい顔をして言った。
「港に密輸の疑いがあります」
役人の表情が変わる。
「なんだと? それはどこだ?」
「ナコール商会の倉庫です」
役人はすぐ立ち上がった。
「案内しろ!」
港の役人と兵士が数人、倉庫に向かった。
「開けろ! 査察だ!」
倉庫の番小屋にいたナコール商会の男が慌てて出てくる。
「な、なんだ!」
役人が言った。
「密輸の疑いがある。倉庫を開けろ」
男は青ざめた。
「そ、そんな…!」
「今すぐだ」
渋々、鍵が開けられる。扉が開いた瞬間、ふわりと甘い香りが広がった。
ジオルダンが小声で言う。
「やっぱりだ」
倉庫の中には、木箱が山のように積まれていた。役人が箱を開ける。中には黒褐色の木。香木だった。しかもそれは外皮がなく、くりぬかれたものだ。
カイルは近づき、一つを手に取る。そして底を見た。バンリオルの小さな焼き印があるはずだ。しかし、それは削られていた。
「刻印を削った後がある。盗品の証拠だ」
カイルはそれを役人に見せた。
「ち、違う! 傭兵から買ったんだ!」
役人が男を睨む。
「盗品を買ったのか? 説明しろ」
男は口ごもる。
役人は兵士に命じた。
「この荷を没収しろ」
兵士たちが倉庫の荷を運ぼうと動いた。
「待て! それは困る! それはうちの…!」
役人が遮る。
「密輸の疑いがある以上、港の管理下に置く」
カイルは一歩前に出た。
「役人殿」
「なんだ」
「その香木はバンリオルの物かもしれません」
役人が眉を上げる。
「証明できるか? 刻印は削られているぞ」
カイルは木を持ち上げた。
「うちの香木なら、証明できます」
香木は丸太のうちに細い穴を開ける。そこに刻印入りの銅片を入れて、木の栓で塞ぐ。だから、芯を削らない限りわからない。それが香木の秘密印だ。
カイルは一本を棚に置き、ナイフで半分に切ろうとする。
切り口からカパンと割ると、小さな金属の印が出てきた。
「おおっ………印が出てきたぞ」
役人が思わず声をもらす。金属印を手に取ってよく見る。
ヤツデに三本の麦。
「確かに、バンリオルの刻印だ」
ナコール商会の男は「クソッ」と小さな声で毒づく。
役人は、番頭に向かっていった。
「よろしい。荷はバンリオルに返還する」
「は、ありがとうございます!」
番頭は役人に深々と礼をする。
ジオルダンが笑った。
「やったな」
カイルは香木の秘密印を見ながら言った。
「ああ」
カイルも話には聞いていたが、秘密印を実際に見たのは初めてだ。
「商人は自分の荷に印を忘れない。秘密印さえ入れて、盗まれてもちゃんと戻ってくるようにしてるってことだな」
それは、それだけ商品を大事にしているということだ。
(商人ってのは、たいしたもんだ。先の先まで読む)
カイルは心の底からそう思った。
港の外では西風がまだ強く吹いていた。だが、そのおかげで、カイルは図らずも香木を見つけることができた。これはかなりの収穫だ。香木はバンリオルの元へ無事に戻るだろう。
* * *
「俺ら、いつ帰れるんかな…」
動かない船の舷側にもたれて、ジオルダンとカイルが海を見ながら話している。
「ああ…。でも、香木のおかげで少なくとも俺は、この長い帰路でただ飯ぐらいにならずに済んだ」
ジオルダンはカイルに振り向いた。
「おめえ、そんなこと考えてんのか?」
「ああ。今、のんびりしすぎだろ? 俺はけっこう給金もらってんだよ。いろんな教師も付けてもらっててさ。旦那様には頭があがらない」
「へぇ…。おめえ、律儀なんだな。なんの教師だ?」
「ダンス」
「なっ……」
ジオルダンは頭がバグるような衝撃を受けた。
「おめえがだんす~??」
「ふふん。ミナとダンスをするためだ。いいだろう?」
得意げにカイルが笑う。
「な、なに?! そんなんに、なんでバンリオルが教師付けてんだよ。てめえで習え!」
「ふん。これもミナのためなんだよ。だから、旦那様が応援してくれる」
「意味わかんね……」
「要は、どんなときでもミナのそばにいて守れるようにってことだな」
「ふうん…」
ジオルダンは香木の木片を胸から出して、香りをかいだ。
「なんだ、それ。なんでそんなもの持ってるんだ?」
カイルが訝る。
「へっへっ。いいだろう。これ、ねえちゃんとおんなじ香り、すんだぜ」
「な、なに? どういうことだ?!」
カイルが毛を逆立てる。
「知ってっか? ねえちゃんの扇、この木でできてるんだぜ」
と、ジオルダンが木の香りをかぐ。
「やめろ! 気持ち悪いだろう!」
「ほっとけ。俺はこれで我慢する。おれが守ってやるぜぇ~」
「気持ち悪いからやめろったら!」
カイルはジオルダンから木を取り上げようと二人でもみ合う。すると、木片は飛び跳ねて、海に落ちた。
「ああ~! 俺のねえちゃんが!」
「あんた…。今度それ言ったら……ぶっ殺す!」
カイルが鬼の形相でジオルダンを本気でにらみつけた。
「カイル……。こええ……」
涙目のジオルダンであった。
次はまたミナの話に戻ります。街道商会、どうなった?
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、ポイントをつけて応援してくだると嬉しです! よろしくお願いします。
用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…。
カイル … ミナを助け、一緒に暮らしていた元冒険者で今はバンリオル商会の諜報機関の工作員。自分の死が関わると未来視できる能力がある
ジオルダン … トガリア商会に所属する諜報員。




