無風の海でたどり着いた島でみつけたのは……
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。ミナの恋人カイルは、元冒険者だったが、今は国家安全のための諜報機関の工作員だ。同僚ジオルダンとともに、モーガダイ国のコブルー襲撃を阻止した後、ワモワ海を東から西のコブルー港に戻る途中だった。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
第122話 カイルとジオルダン
バンリオル船サーカウル号がポグマ港に入ったのは、午後遅くだった。
西風が強くなり、船は思うように進めなくなっていた。このまま逆風に向かって進むより、いったん港に入って風が落ちるのを待った方がよい。
そこはワモワ海に浮かぶ小さな島の港だ。遠くには古びた灯台が立っていた。
「相当しけた港だな」
「あんたは来たこと、ないのか?」
「ねえ!」
ジオルダンはあっさり言った。
「海のことなら任しとけ…って言ってたわりには…」
カイルが白い目で見る。
「知るかよ。こんな小さな港」
ジオルダンは下唇を突き出す。
サーカウル号の本物の船長や本物の番頭を残して、カイルとジオルダンと港に降りていった。水や食料の補給はできるが、ここには宿がなさそうだ。
だから、酒場に行くくらいしか用がない。酒場は情報収集の基本だ。ここに寄らないわけにはいかない。
まだ明るいが、二人は港の小さな酒場に入る。
「らっしゃい…」
あまり元気がなさそうな店主は、カウンターの中から二人をじろじろと見た。
「ヨーカイダのもんか?」
「ああ、そうだ」
カイルはそう言って、ジオルダンと二人でカウンターに座った。
「そっか…」
緊張が解けてほっとしたような様子を見て、カイルは聞いた。
「誰かと思ったんだ?」
「ああ…、最近、ザイトンの傭兵団のやつらがよく来るんだよ」
「へぇ? 何しに?」
ジオルダンは興味を持った。
「知らん。港でなにかやっているらしいが、うちでは酒を飲んでるだけだ」
「そうかい」
「で、酒代を踏み倒すやつらがいてな…。俺はそれに迷惑しているだけだ」
「お、俺らは大丈夫だぜ。ちゃんと金を持ってるぞ」
ジオルダンは念のために金袋を振って言った。
二人は酒と肉料理を注文する。他に客はいなかった。
二人は酒場を出ると、港に向かった。ザイトンが港で何かしているというのを確認に行く。
人づてに聞いて、彼らがよく見に来ているという倉庫を探り当てた。
「傭兵団がこんなところの倉庫に何の用かよ…」
「どう思う?」
「ふ~ん。やつらの補給庫か、それともお宝をためてやがるか…」
その倉庫は木造で、壁の木が腐りかけて穴が開いているところがいくつかある。
「ん?」
カイルはハッとした。その日は風が強く、その風に乗って、嗅いだことのある香りがした。
「これは香木の香りだ」
「なに? 傭兵団が香木だと?!」
ジオルダンは腕組みをする。
「こいつは怪しいな…」
「つまり、盗んだ荷ってことか?」
カイルはジオルダンに確認する。
「その可能性がたけえな。考えてもみろ。傭兵が香木を持って何の得がある? 売るしかねえだろ?」
「そう言えば…」
カイルはスラーラのドラーハーで香木がくりぬかれて盗まれていたことを思い出した。
ああいうものは普通の商会では売れない。ということは、海賊に売るか、海賊もどきの傭兵団に売るか、ということになるのだろう。そして、やつらがまたどこかに売る。
「この倉庫、開けて調べたいが…」
「無理だろ。現場を押さえられたら、俺らが泥棒って言われるぜ」
元海賊のジオルダンが常識人のようなことを言う。
「ん!?」
カイルはとっさにジオルダンを倒して、身を伏せる。
「な、なんだ?!」
「ピッターで狙われてる!」
「な…?!」
カイルは驚くジオルダンの手を引っ張って、走り出した。
視認されると狙いを付けられる。狙いを付けられたら、あれは外せない。遮るものがなければ避けられない。今はマントを着ていない。
「ジオルダン、俺の前を走れ!!」
カイルは先にジオルダンを行かせる。
後ろに自分がいれば、敵は自分を撃とうとする。それならば、カイルの未来視が働いて、対処できるのだ。
一発撃ってきた弾を、カイルは振り向きざまに剣の腹で弾いた。魔法はそこで霧散する。
そして、そのまま倉庫の裏に走り込み、街の中に逃げ込んだ。
「どうする?」
ジオルダンは壁に寄り掛かって息を整えている。
カイルは黙ってトーチを発動する。
すると、追ってきた点は、場所がわからなくなったのか、うろうろとして、そのまま引き上げていった。カイルはそれにマーカーを付けた。
「よし、後を追うぞ」
「おう」
二人はマーカーを静かに追う。
すると、そのマーカーは建物の中に入ったようで、そこで止まった。その建物の陰に潜む。それが何の建物か確かめたいが、建物の前に出ると相手に見つかるかもしれない。ピッターを持っている以上、視認されては困る。
カイルは通りを歩いている10歳くらいの子供を手招きした。
「坊主。この建物、なんていう建物だ?」
「えっ、知らねえ…。おら、字、読めねえもん」
「じゃあさ、あそこにおじいさんがいるだろ? あの人に聞いてこい」
向かいの建物の前に椅子を置いて座っている老人を指さした。
子供が嫌そうな目をするので、カイルは小銭をやった。
「聞いてきたら、もう1枚やる」
「わかった」
子供はニコッとして走って行った。
しばらくして戻ってくる。
「ここはナコール商会だってよ」
「そうか。よくやった」
カイルはもう1枚のコインをやった。
子供はそれを裏返したりして、不思議そうに見る。
「なあ、これ、どこの金だよ?」
「モーガダイだ」
カイルはそう言うと、ジオルダンと共に船に戻ることにした。
船に戻って、番頭と船長に相談する。
「倉庫を探ろうとしていたら、ナコール商会のやつにいきなり撃たれそうになった」
「んだな。魔道具ってやつだな」
「ナコール商会……聞いたことがありませんね」
番頭は考え込んだ。
「どうせまともな商会じゃねえだろ」
「あの倉庫もナコール商会のものだろうな」
カイルは思った。傭兵団のものなら、襲ってくるのは傭兵だろう。しかし、襲ってきたやつは剣を持ってはいなかった。商会員がいきなり攻撃してくるのはおかしい。まともな商会員ではないのは明らかだ。
「つまり、あの倉庫は相当怪しいってことだ。なんとか調べられないか?」
番頭は困った顔をした。
「ここはバンリオルの人脈はまったくないです。だから、なんとも…」
カイルは腕を組んでしばらく黙っていた。
ジオルダンが言う。
「どうする? 夜に忍び込むか?」
「だめだ」
カイルはすぐに答えた。
「中身が本当に香木だったとしても、俺たちが持ち出したら盗人だ。あんたさっき、そう言って俺を止めたろ?」
やっぱり常識がないやつだった。
カイルとジオルダン、結構仲が良いです……
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、ポイントをつけて応援してくだると嬉しです! よろしくお願いします。
用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…。
カイル … ミナを助け、一緒に暮らしていた元冒険者で今はバンリオル商会の諜報機関の工作員。自分の死が関わると未来視できる能力がある
ジオルダン … トガリア商会に所属する諜報員。
ヨーカイダ … ミナやカイルがいる大陸。向かいはアーガリア大陸。その間にワモワ海がある。
ザイトン … ワモワ海の傭兵団
スラーラのドラーハー … アーガリア大陸のスラーラ国のドラーハー港
ピッター … 銃のような魔法具
トーチ … カイルが持つ索敵の魔法具
モーガダイ… コブルーを狙っている国で、今はそこをつぶした帰還途中




