どんな機会も見逃さない! ミナの人材集め
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。ミナは、国家銀行案で王都の銀行を取り付け騒ぎから救い、街道を舗装するための商会の案を出し、王弟レオストの問題を解決した。また、レオストの長男ゼビルスは、ミナを王立学院へと案内し、学生たちは天才官僚と名高いミナに質問し、回答に満足するのだった。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
第121話 ゼビルスの質問
ゼビルスとミナは王立学院を出て、再び馬車に乗り込んだ。
「ミナ殿。ありがとうございました。学生たちはとても有意義な時間を過ごせたと思います」
ゼビルスはすごく嬉しそうに言った。そして、続ける。
「で、私も少しわかったことがありました」
「なんでしょうか?」
「昨日、ミナ殿があの3人の所長に言ったことの意味です。つまり、彼らは失う恐怖におびえていた。その感情を取り除き、儲かる期待という感情に変えた、ということなのですね?」
「まあ。さすがですわ! その通りです」
ミナはゼビルスの頭の良さに驚いた。彼の頭は応用が利くのだ。
「でも、まだ疑問があります」
ゼビルスは馬車の向かいから身を乗り出すようにして、両手を組んだ。とても熱心な態度だ。
「なぜ彼らはそれがわからないのですか? 彼ら自身が儲かる可能性を見つけられなかったのはなぜなのでしょう?」
「まあ!!」
ミナは思わず輝く笑顔になった。
「それは最高の質問でございます! それこそ、賢者の質問ですわ!」
ゼビルスは顔を赤らめる。
そんなに褒められる質問とは思わなかったのだ。
彼が質問したのは答えを出すためのルートのついての質問だ。
これを質問することができる人は少ない。ルートがわからない人は応用が利かない。だから、知識が知恵に変わらないのだ。
「答えは…視野の狭さなのです。時間的にも空間的にも狭いときに、良い答えが見つからなくなるのですわ」
「時間的、空間的?」
「ええ。そう言えば、レオスト殿下もおっしゃっておられました。軍費の必要性を理解しないのは、彼らの考えが局所的だからだと。局所的、短期的ではダメなのです。
その反対が、『時間的、空間的に視野を広げる』ということです。
そうできてはじめて、良い答えが得られるのです」
「なるほど…」
「そして、もう一つのコツ、『解決できた未来があるとしたら?』と考えて視野を広げるのです。この2つさえ覚えておかれれば、どんな問題もたいがい答えが出せますわ」
「わかりました! 素晴らしい教えです。ありがとうございます!」
ゼビルスはしばらく黙って、何かを考えていた。
「ミナ殿。ミナ殿がもし、功績男爵などの地位をお持ちであれば、大学で講義をしていただけます。それはいかがでしょうか?」
「い、いえ…それはちょっと……困るのです」
ミナは慌てた。バンリオルが注意するようにと言っていたのはこのことだ。
「え、身分をもらうのは困るのですか?」
ゼビルスはまったく予想外の答えが返ってきて、目を丸くして驚いた。
「え、ええ…ちょっと困るのでございます」
ミナはちょっと照れて笑った。
「わたくし、来年には結婚したいと思っているかたがいまして…。身分があると、そのかたとの結婚に支障が…」
「えっ、そうなのですか?! そのかたは…平民…ということですか?」
「はい。ですので、わたくしは今のままで十分満足しております。今も大切にしていただいておりますので、特に不便もございません」
うふふ、と照れ笑いをしておいた。
「わかりました。余計なことを申しました。お忘れください」
ゼビルスもにっこりしてこの話は終わりとなった。
石畳の大通りをしばらく進むと、王都の中心部から少し離れた場所に出る。
周囲の建物の雰囲気が変わってきた。商店や屋敷よりも、倉庫や工房のような建物が多い。
やがて、背の高い石壁に囲まれた広い敷地の前で馬車が止まった。
大きな鉄の門の上には、王国の紋章が掲げられている。
「次はこちらです」
ゼビルスが言った。
「王立技師養成所でございます」
門の中から、カン、カン、と金属を叩く音が聞こえてくる。ミナは思わず耳をすました。
「まあ…。ここが王立技師養成所…」
ここにやってくるのは大多数は平民で、貴族もいるが、長男ではなく次男以下だ。王立学院よりもずっと実務的な講義内容となっている。
王立学院とはよく交流をする。官僚も技術がわからないと机上の空論になってしまうからだ。
門をくぐると、広大な敷地が広がっていた。
まず目に入ったのは、いくつも並ぶ大きな工房だった。屋根の高い建物の中からは、煙がゆっくりと立ちのぼっている。
学生らしき若者たちが、革の前掛けをつけて作業をしていた。
ある者は鉄を打ち、ある者は木材を削り、ある者は巨大な歯車のようなものを組み立てている。
カン、カン、カン――。金属の音が敷地いっぱいに響いていた。
ミナは目を輝かせる。
「まるで職人の町のようですわ!」
ゼビルスは笑った。
「ええ。ここでは学ぶだけではなく、実際に作るのです」
二人は最初の建物に入った。そこには長い机が並び、学生たちが紙の上に線を引いている。
机の上には、奇妙な形の定規や分度器のような道具が置かれていた。
「こちらは設計室です」
ゼビルスが説明する。
「橋、船、水車、城壁など、様々なものの設計をここで学びます」
学生たちは突然の女性の訪問者に驚く。しかし、護衛たちを連れていることから、王族なのだと思った。しかし、誰だかわからない。
「ゼビルス様!」
学生の一人が気づいて立ち上がる。
「邪魔をしてすまない」
ゼビルスは軽く手を上げた。
「見学だ。続けてくれ」
学生は少し緊張しながら、再び机に向かった。
ミナは机の上の図面をのぞき込んだ。美しい線で描かれた橋の図面だった。
「まあ……すばらしいです」
「これは橋梁学の授業の図面です」
ゼビルスは机の上の橋の図面を見ながら言った。
そして、それを描いている者に質問をする。
「これを描くのに何時間かかっているのだ?」
「は、はい。何時間というか…。3カ月前から取り組んでおります」
学生は緊張しながら言った。
「そして、模型を作るのですね?」
ミナが尋ねる。
「は、はい。その通りです! 模型を作ってみたら、うまく行かなくて…。設計し直しているところです」
「まあ…。そうなのですね。どこを改善したのですか?」
「は、はい。橋脚の形を変更いたしました」
「なるほど。水の流れを受け流す形にしたのですね?」
「はい。その通りです!」
すると、その学生の指導員が説明した。
「良い設計がなければ、どんな職人でも良い物は作れません。何度も何度も失敗を重ねながら、良いものにしていくのです」
「なるほど……」
ミナはうなずいた。
「行政も同じですわ」
ゼビルスが少し驚く。
「行政も?」
「ええ。いきなり完璧な制度を作るのは難しいですが、実行することで改善点をみつけ、それを繰り返すことで良い制度にしていきます」
「なるほど、確かに。行政の制度もいきなり完璧に作るというのは難しいのですね」
「ええ。世の中にはいろいろな立場の人がいますからね。それらをすべて抱合して作り上げるのは大変難しいのです。かといって、その犠牲になる人が出ることも許されません。ですから、慎重に進めるしかないのですわ」
ミナの改革が速いのは、ある意味、ミナの元の世界ですでに試されたことのある改革だからだ。
そんな話をしているところへ、一人の学生が走り寄る。
「ミナ様!」
それはキトーだった。
「まあ、キトーさん。こちらにいらしたのですね」
「ええ! ……あっ」
キトーは慌てて跪く。
「失礼いたしました。ご無礼をお許しください」
隣にいたゼビルスに気づかなかったからだ。
「いや、気にするな」
ゼビルスは優しく言った。
「ゼビルス様、このキトーさんは、先日レオスト殿下にお買い上げいただいた新しい船の設計者なのでございます」
「な、なに? あの船の…」
「はい。お聞き及びでございますか? レオスト殿下はとても気に入ってくださいましたわ」
「ええ。聞いております。しかし、なぜキトーはミナ殿に?」
つながりがわからない、ということを言いたいのだ。キトーはブリア出身者ではないからだ。
キトーは少し照れて言った。
「はい。ゼビルス様。実はブリアなら私の設計図を買ってくれるのではないかと思い、出張所に何度か足を運んだのでございます」
「ほう…。なぜブリアなのだ?」
「はい。ブリアはたくさんの新しい試みを行っている領地でございます。平民でも有能であれば取り立てていただけると。ですから、ブリアならこの設計図を理解してくれるだろうと…」
「なるほど…。確かに」
ゼビルスが話を聞いているあいだ、ミナは他のことを考えていた。
「ね、キトーさん。ここにはあなたのような学生はたくさんいるのでしょうね?」
「は、はい。困窮した学生ですか? ……はい。いると思います」
キトーは少し恥ずかしそうに言った。
「わたくし、そのような学生のお手伝いをしたいのです。少し協力してはいただけませんか?」
「えっ、私にできることでしょうか…」
「ええ、簡単ですわ」
そう言って、ミナは学生から紙を1枚買い、ペンで次のように書いた」
「ブリア領では、才能ある学生の生活支援をしております。どうぞ、お気軽にご相談ください。ブリア侯行政顧問ミナ・クロエ」
「この紙をどこか、学生がよく見る場所に貼っていただきたいのです」
「は、はい! お任せください!!」
キトーは大喜びで、その紙を受け取った。
ゼビルスはそれをおもしろそうに見ている。
「ミナ殿はどんな機会も見逃さないのですね」
そう言って笑った。
その後、ミナはブリア技師研修生制度を作り上げ、学生に仕事を与えながら、生活費を補助する制度を作り上げた。こうして、辺境の地ブリアに優秀な技師が来てくれるよう、仕組みを作ったのだった。
さて、次はカイルとジオルダンです。風が悪くて、なかなかコブルーに帰れないふたり……。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、ポイントをつけて応援してくだると嬉しです! よろしくお願いします。
用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…。
ゼビルス … ミナを支援する王弟レオストの長男。19歳
3人の所長 … 王都とブリアの間の3つの領地の王都出張所所長たち
キトー … 船の天才設計者。ミナに設計図を売りに来た
レオスト殿下 … ゼビルスの父で王弟




