王立学院でミナ、質問される
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。ミナは、王弟レオストに頼まれ、街道を効率よく舗装するために、街道商会の案を出した。それは通行税をやめて、通行料を街道商会が取り、その金で舗装するという案だ。レオストはミナの才能をもっと活用しようとゼビルスをミナに近づけるのだった。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
第120話 ミナの大学講義
翌日、ミナはコラル宮の前で、少し緊張しながら待っていた。
今日は王弟レオストの嫡男、ゼビルスが王都を案内してくれることになっている。
やがて一台の馬車が石畳の道を静かに走ってくる。
止まると、扉が開いた。
「お待たせいたしました」
ゼビルスが降りてきた。
今日の彼は軽装の上着に長靴という、少し動きやすそうな服装だった。
貴族らしい品格はそのままだが、昨日よりもずっと親しみやすい。
「おはようございます、ゼビルス様」
ミナは丁寧に礼をする。ミナもあまり派手にならないような濃いグリーンのドレスを着て、グレーの帽子をかぶっていた。
「今日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。では参りましょう」
ゼビルスは手を差し出し、ミナを馬車へと導いた。馬車が動き出す。後ろから護衛たちも馬に乗って付いてくる。
王城の門を出ると、すぐに王都の大通りに入った。
朝の王都は活気に満ちている。商人の荷車、行き交う市民、店を開ける職人たち。
あちこちで人の声が響いていた。
ミナは窓から身を乗り出すようにして眺める。しばらく走っても、人の多さは途切れない。
「本当に大きな街ですのね」
ゼビルスが少し誇らしそうに言う。
「王都は人口30万ほどと言われています」
「30万!」
ミナは目を丸くした。
「タンブリーの3倍ですわ」
「ええ。王国の政治と商業の中心ですから」
馬車は広い通りを進んでいく。やがて、大きな石造りの建物の前で止まった。
広い庭があり、その奥に堂々とした建物が立っている。
「ミナ殿がご希望なさった、若者が育つ場所として、ここを選んでみました」
ちょっと得意そうにゼビルスが言う。
学生らしき若者たちが行き来していた。
「ここは王立学院です。貴族や官僚の子弟が学ぶ学校です」
ミナは建物を見上げた。
「まあ……すばらしい! 立派ですわ」
ここは貴族の学校だから、ミナにはなかなか見ることができない場所だ。
「ここでは財務、商務、農務、軍学、都市計画などを学びます」
「なるほど……」
ミナは少し感心した顔になる。
「つまり、王国を運営する人材を育てているのですね」
ゼビルスは嬉しそうにうなずいた。
「その通りです」
ふたりは建物の中に入っていく。護衛を連れているので、すれ違う人たちはゼビルスに気づく。すると、廊下の端で礼をしたまま止まる。
それを見て、ゼビルスは手を振って、問題ないという挨拶をする。
「私は昨年の12月にここを卒業いたしました」
「まあ。そうなのですね? で、今はどこにお勤めなのですか?」
「父の下で領地の管理をさせていただいております」
「なるほど…」
王弟は公爵だ。大貴族ともなれば、広大な領地を持っている。それを管理するのは大変なことなのだ。
「こちらは図書館です」
図書館!
ミナはこの世界のことをまったく知らなかったために、市場に通うついでに、教会の図書室にときどき行っては、本で勉強をした。
行政顧問になってからは、ブリア城の図書室を利用した。
中に入ると、ブリアとは比べ物にならない大量の本が並んでいる。
「素晴らしいです…」
建築様式もすばらしく、重厚感のある建物だ。そこに重厚な装丁の本がずらりと並んでいる。時代によって本の大きさが異なるようだ。昔からの本が保存されているのだろう。
小さめの本を一冊取り出して、めくってみる。
「ふふ…」
思わず楽しそうに笑ってしまった。
「なんですか?」
ゼビルスが近づいて、本を覗き込む。
「あ、いえ、つい学生時代を思い出してしまって…」
と言いながら本を元に戻す。
すると、ゼビルスはすごく驚いた顔をした。
「ミナ殿は、学校に行っていらっしゃったのですか?」
「え、ええ。そうですわ」
「あの…失礼でなければお聞きしたいのですが、何年学校に行っていらっしゃったのでしょうか…」
「何年? ええと…」
人差し指で頬を押さえながら、勘定した。
MBAまで取ったのだから、25歳までかかってしまった。
「19年ですね」
「えっ、19年………」
「あ、大学だけではございません。6つの時からの勉強を含めてですわ」
と慌てて言った。こちらの世界では16歳とか18歳とかで大学に行くから、どれだけ年なんだと思われたかもしれない、と思ってだ。
いやいや、それは藪蛇だ。少なくとも25歳以上だと逆にばれた。
「えっ、大学…」
この世界では女性は大学に行かないのだ。何から何までうっかりしてしまった。
「おほほ。わたくしの元いた世界は、こことはかなり異なるのですわ」
「そ、そうなのですね…。私には想像もできない世界のようです」
「あ、あまりお考えになりませんように…」
と言っておいたが遅かったかもしれない。ブリアでの実務経験を含めると28歳以上だと完全に年がばれた。
「でも、少し安心いたしました」
「え? 何がでございますか?」
そこに何か安心する要素があっただろうか?
「いえ、ミナ殿のその知恵、賢さ、機転。それらが単に天才的なものでなく、きちんと教育を受けたうえでのものなのだと思ったのでございます。それならば、私も追いつけるかと」
「まあ…!」
ミナは驚いた。王族なのに、自分に追いつきたいなどと。なんて正直で素直なんだろう?!
「追いつけるか、などととんでもない。わたくしなどは半分ハッタリでございますわ」
「ハッタリ?」
ゼビルスはきょとんとした顔をしている。
「あ、いえ。要は大したことない…ということでございます」
どんどん化けの皮がはがれそうで、ミナは顔が赤くなってしまった。
「もし、何かコツなどございましたら、お教えください」
ゼビルスも少し顔を赤らめて、ミナに指導を求める。
その素直な様子を見て、ふふっと笑う。
「ゼビルス様。わたくしよりも知識のある方はたくさんいらっしゃると思いますわ。でも、わたくしがもし、勝っているところがあるとするならば、それは…」
「それは…?」
ミナは言葉を選んだ。これがゼビルスに伝わるかどうかわからなかった。
「心の進化を求める気持ちなのだと思います」
「心の進化を求める気持ち?」
「はい。わたくしはいつも、不可能に思えることも可能にしたいのです。ですから常に、難しい問題も『解決できるとしたら?』と考えて、解決策がみつかるのを待つのですわ。すると、だんだんと道が開けるのでございます」
「なるほど…」
ゼビルスはしばらく黙っていた。
「父上にも言われます。古い考えにしがみつくなと」
それはミナも知っている。彼は日々、頑固頭に悩まされているからだ。
「心の進化を求める…。なんだか、ミナ殿らしい言葉…という気がいたします」
「はい」
ミナも素直に頷いて、ニッコリした。
図書館を出て、講義室の並ぶ本館を歩く。すると、ギギーッと扉が開いて、授業の終わった教室から、学生が何人か出て来た。
「あっ、ゼビルス様!」
「おい、みんな! ゼビルス様がおいでだぞ!」
学生が何人か彼に気づき、寄ってきた。
「やあ、久しぶりだな」
ゼビルスは先輩らしく、堂々と挨拶をした。20人くらいの学生たちがゼビルスとミナを囲む。
「みんな、知っているだろう? 最近噂の天才行政官の話を」
ゼビルスがみんなに話し始めた。
「ええ! 国家銀行の話はつい最近の授業に出てきました!」
「大商人たちを救ったんですよね?!」
「最近、あちこちで噂になっていますよね!」
学生たちはその話題に強い興味を持っていた。
「ああ。そして、次はそのかたの提案で、街道の大改革が始まる」
ゼビルスも街道商会のことをレオストから聞いていた。
「えっ、レオスト殿下が切望されていた案件ですよね。解決したのですか?」
「ああ。殿下が天才行政官をブリアから招へいなさったのだ。それで解決策が生まれた」
そして、ゼビルスは右手をミナに向けた。
「こちらが天才行政官、ミナ殿だ」
学生たちは驚愕して固まった。
こんなに若い女性が天才行政官? 驚いて声も出ない。
「じょ、女性とは聞いていましたが…。まさかこんなに若い…」
学生たちが一歩詰めて取り囲む。
「もちろん本物だぞ。私もきのう、この目でミナ殿の実力を見た。あっという間に敵を論破し、逆に納得させて返した。すばらしい頭脳戦であった」
ゼビルスはまるで軍事の話をしているように言った。
学生たちの目がミナに向く。
「で、では、ミナ殿! 質問させていただきたいのですが……」
「なんでしょうか?」
積極的な学生が目を輝かせて言う。
ゼビルスはレオストからミナに聞き出してほしいという頼まれごとをされています…。それは…。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、ポイントをつけて応援してくだると嬉しです! よろしくお願いします。
用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらい
ゼビルス … ミナを支援する王弟レオストの長男
タンブリー … ミナの住むブリア領の中心都市




