商務庁官僚、全員青ざめる……
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。王弟レオストはミナを王都に呼び、街道の整備のための予算を財務省に出させる知恵を求めた。そこでミナは、街道商会の案を出したのだった。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
第118話 天才官僚の計算
アルーストが裁可を下して一週間後、ミナは商務棟の会議室に呼ばれていた。
これは街道商会の仕組みを商務庁官僚たちと詰めるためのものだ。
レオストは、6人の側近の1人、イズランを王弟代理としてミナの補佐につけた。レオストは、ミナが官僚たちに侮られないようにと気を利かしたのだった。
イズランは長年レオストの側近となっている40歳前後の男である。軍人としてレオストとともに歩んで来たので、たくましい体つきだ。王城で働いてもう長い。
彼を侮る者は官僚にはいないはずだ。
会議室に入ると、すでに数人の文官が席についていた。中央に座っている男が立ち上がる。
「私は商務庁長官付きの官僚、キアンと申します。街道商会の担当を長官ディヨルド様から申しつかっております」
年は30代半ばほどの男だ。ミナに礼はしたが、その目は明らかに値踏みをしている。目を細くして、ミナのあれこれを見ていた。
「ブリア侯行政顧問のミナでございます。よろしくお願いいたします」
ミナは丁寧にお辞儀をした。そして、用意された席に座る。机の正面はキアン。そして、その左手にミナが座り、隣にイズランが座る。
キアンは書類をめくりながら言った。
「では本題に入りましょう。街道商会案ですが――」
彼は紙を指で叩いた。
「通行税を廃止し、商会が通行料を取る。……かなり大胆な案です」
「はい」
「というか、無理が多い。まず、通行税を無くすというのは、どういうことでしょうか? なんのために無くすのです?」
キアンは鋭い目つきでミナに詰め寄る。
「あ、あの…」
ミナはそこから議論が始まるとは思わなかった。それはすでに王の裁可があるはずだった。
「キアン殿」
イズランが強い口調で口を出す。イズランのことは、ここのみんなは知っている。
「議題はそこではない。それはすでに陛下の裁可が下りている。ご存じであろう」
その岩のような態度に、キアンも少しおののく。
「そ、そうですな。失礼しました」
そして、また書類を見る。
「で、街道商会が行う整備の内容ですが…」
「はい。その点はレオスト殿下のご意向をうかがっております。殿下は王都とコブルーの間の街道に石畳を敷くよう、ご希望でございます。もちろん、タンブリーを経由する道でございます」
「いやいや、それはどれだけの資金がかかるか…ミナ殿はおわかりですかな?」
少しバカにした言い方だったが、ミナはどうでもよかった。
「いいえ。存じません。ですから、申し訳ございませんが、それで予算を算出していただきたいと存じます」
「な、なに…?」
いきなりミナから仕事を振られ、キアンは度肝を抜かれた。
こちらが戸惑わせて恥をかかそうとしたら、逆に堂々と「知らぬ」と言われ、あまつさえ「その額を算出せよ」と言われたのだ。
口ごもってはこちらが恥をかく。とはいえ、どう返答するかと迷っていると、ミナが続けた。
「その予算に応じて、最初の出資金の大きさを決めなければなりませんので、そのご提示をお願いしたく存じます」
「……わかった。ドリグ、算出いたせ…」
冷や汗をかきながら、彼は部下に算出を命じる。
「はっ」
「あ、あの…」
ミナはその部下を呼び止める。
「なんだ?」
少し不安そうなミナを見て、キアンは強気を取り戻した。
「あの、試算は2つの案でお願いいたしたく存じます。一つは、全幅に石畳を敷いた場合。もう一つは、軍の最大の馬車の車輪の幅に敷き、離合地点のみ全幅に石畳を敷く、ということで。また、その場合のおよその耐久年数もお調べくださいませ。よろしくお願いいたします」
街道の幅は広い。余裕があるのだ。一度に全部敷く必要はないだろう。
「………」
あまりにも当然のようにミナが部下に指示するので、キアンは何も言えない。
「か、かしこまりました…」
ドリグと呼ばれた部下は、ミナに返答し、会議室を出ていった。
(なんだ、これは…。なぜ私が主導権を奪われているのだ?!)
キアンはいつもとまったく異なる状況に、混乱を始めた。
しかし、ここは自分の場所のはず。向こうがアウェイなのだ。
「コホン。…で、その通行料の設定はどのようにいたすのだ?」
キアンは当然、通行税がそのまま通行料になると思っていた。単に名前が変わるだけだから、意味がないと思ったのだ。
だから、ミナの返答は予測していた。「今の通行税をそのまま通行料にする」だ。
「それは、……街道を通る商隊の数を加味して検討いたします。ですから、必要なのは、先ほどお願いしました経費と、街道を通る商隊の年間通行量の数字でございます。そのご手配をお願いしたいと存じます」
「な、なに…?! 今、なんと申した? ……今までの通行税の額はどうなる?」
キアンは頭がパニックになる。予測とまったく異なる返答が返ってきた。
「税金の額は参考になりません。必要なのは、建設経費と、通行する商隊の数でございます。今まで通行税を払っていた人々の記録があれば、この数は算出できます」
「な、………」
キアンも部下たちも、静まり返った。しばらく声が出せない。皆、下を向き始めた。
重たい空気が会議場に流れた。
そのまま会議場は沈み込み、しばらくのあいだ、誰も口をきかなかった。
「……あの? 何かおかしかったでしょうか?」
ミナはみんなを見回しながら、首を傾げる。
そして、隣のイズランを見て、「何かいけなかったかしら?」という表情で答えを求めた。
「ミナ殿。その量を知って、それからどのようにするのだ?」
イズランがみんなの混乱を察して、ミナに尋ねる。
「はい。石畳の質にもよりますが、だいたい10年で敷きかえるといたしまして、道路の建設経費を年数で割るのでございます。
そして、その数字を年間通行量でさらに割るのでございます。
すると、一回あたりの通行の費用が算出されます。
ですので、その2倍から3倍の料金をつけておけばよいかと」
つまりミナは、街道を一つの資産として考え、その建設費を10年で割り、さらに通行量で割って1回あたりの費用を出そうとしているのだ。
いわば街道の減価償却という発想である。
官僚たちは青ざめた。
しかし、ミナはなぜ青ざめているのかがわからない。これ以外にどのような計算法があるのか?と思っていた。
現在、実際にあちこちで使われているコンセッション方式で、ミナは街道を舗装しようとしています。
でも、道の減価償却ってなに?とよくわからない官僚たち。
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これは、読みながらいつの間にかMBAを知ってしまうという機能小説。
世界初の試みです。応援していただけると嬉しいです!
用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問という地位を得る
アル―スト … 国王
レオスト … 王弟で、ミナの能力を高く評価している
タンブリー … ブリア領の中心の城下町
コブルー … ブリア領内の国際港




