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レオスト、新発明の船に満足する

MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。王弟レオストは王都にミナを呼び、街道の問題を解決を依頼する。また、ミナは新しい船の設計図を発掘する。そんなミナに、バンリオルは忠告をするのだった。


このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください


初めてお読みになる方は、下に用語集があります!

「レオスト殿下に呼び出されたということは、レオスト殿下はミナさんを王都に引き留めたいのかもしれません」

 とバンリオルが言う。


「まあ…。そうなのですか?」

「ミナさんはご存じないと思いますが、……王都はなかなか変革されず、進みが遅いのです。それに対して、ブリアの変革はかなり速い。まるで別次元です。


 それについて、王都でもいろいろと噂されています。天才行政官がいるのだと。ミナさんのことですよ。


 こないだの国家銀行案もミナさんの提案ということが広まり、かなり噂になりました。女性と聞くと、みんなびっくりしますな…」


「ま、まあ! そんなことになっているのですね?!」


(そう言えば、私のこと、誰かが『噂の女』って言ってたっけ…)

 その意味がわかった気がする。


「ですから、ブリアから引き離そうとする者もいれば、レオスト殿下のように取り込もうとする者もいる。一番注意しなければならないのは、ミナさんが爵位を与えられることです」


「しゃ、爵位?!」


 ミナはつい最近、功績騎士や功績男爵というものを知ったが、自分がそんな爵位を持つことなど今まで、考えたことがなかった。


(いやいや、アンドリオン様が言ってなかったっけ? 『君にも身分が必要だろう』って。貴族の養女かなにかくらいに思ってたけど…。平民の女性にも功績男爵とかアリなの?!)


 男爵とか騎士という呼び方だと、男性だけに思えるが、元の言葉の意味はそうではないのだろう。今まで、女性がもらう機会がなかっただけなのだ。


「レオスト殿下は王弟。つまり、国王に一番近い方。ミナさんに爵位を授けることは簡単なのです。爵位をもらわないようにしなければなりません」


「は、はい! 爵位なんかもらったら……」

 さすがにミナもわかっている。

「カイルと結婚できません…」


「そういうことです。カイルと結婚する前に爵位をもらうことのないよう、しっかりと拒絶なさるのですよ」

 バンリオルは真剣な顔でそう言った。


(や、やばい! それはマーギナと同じ目に…)


 ミナは涙目になるのであった。急にマーギナの気持ちがわかってきた。


「王都の人間は、才能ある者を放っておきません。囲い込むか、敵にするか、そのどちらかです。ミナさん、その争いに巻き込まれないよう、お気をつけください」


 ミナは頷きながら、ごくりとつばを飲み込むのであった。



第117話 革命を起こす船



 翌日の昼食に、ミナは再びレオストに呼ばれて、パワーランチをすることになった。レオストも日々忙しいので、その隙間を縫ってミナと会う時間を作り出している。


 ミナは、設計図の相談をするのは今だと思った。

「殿下。わたくしからご相談があるのでございますが、よろしいでしょうか」

「うむ、何だ? 申すがよい」


「はい。実は船のご相談でございます」

「船? 港ではなくて?」

 レオストはかなり驚いたようだった。海に詳しくないミナから出る質問が船とは。


 ミナはルーシャに預けておいた設計図を持ってこさせた。


「こちらの設計図を、昨日わたくしが預かったのでございます」

 ミナはお皿を少し片付けさせ、その設計図をテーブルの真ん中に広げた。


「ふむ…」

 ランチを食べながらなので、細かくは見ないが、それは確かに、プロの手による設計図だった。

「この特徴は、向かい風でも進むことができる、というものでございます」


「な、なに?! この大きさでか?」

 レオストはさすがに、その意味を理解した。向かい風でも進む船は小さな漁船程度のはずだった。


「はい。設計者はそのように申しております。ですが、誰も信用せず、この設計図の買い取り手がいないのだということでございました」


「おい、ファーゾンを呼べ」

「はっ」

 側近の一人が昼食の席からさっと立ち上がり、出ていった。


「今造船技師を呼びにやった。あれがまいってから話をしよう」

「はい。かしこまりました」


 しばらく昼食を続けていると、ファーゾンがやってくる。レオストに言われて、設計図を引き取って、窓のそばで細かく見始めた。


「どうか?」

「は、これは検討の余地があるかと」

 それを聞くと、レオストは別の部下に言った。


「午後からの会議、一時間遅らせるよう、伝えてまいれ」

「はっ」

 また部下が出ていく。

 すると、食事を片付けさせ、その場を会議室にした。


「ミナ、この設計図はどこで手に入れた?」

「はい。きのう、ブリア出張所を訪問しておりましたら、王立技師養成所の学生が、これを売り込みに来たのでございます」


「造船技師か。まだ学生だと?」

「はい。お金がないので、これを担保にお金を貸してくれ」と申しまして、あさって、わたくしが返事をすることになってございます」


「殿下!」

 ファーゾンが待ちきれぬように口を挟む。


「これはかなりの価値があると思われますぞ。ここをご覧ください」

 ファーゾンはバンリオルも目を付けていた船底のラインをなぞった。


「このキールは今までにない深さ。横流れしにくくなっています。そして、帆が、なんと細かく風の量を調整できるようになっております。バラストも積み荷によって変えられるよう工夫があります。なかなかの設計と思われます」


「これは向かい風でも進めるか?」

「はい。進める設計になっております。ただ問題は…」


「なんだ?」

「やはり、操舵技術かと。よほど訓練しませんと、これを操舵できるとは言えません。三角帆の船は設計技術があっても、乗組員が操舵に成熟していないと難しいのでございます」


「ふむ。しかし、乗組員次第では可能なのだな?」

「はい。実際に造ってみないと確実なことは言えませんが、この設計ですと、おそらく向かい風の航行も可能でございます」


「ふむ…」

 レオストはこめかみに人差し指を当てたまま、しばらく考えた。


「ミナ」

「はい。殿下」

「君はなぜこの船を私に持ってきた? ブリアに売りに来たのであろう。ブリアで造っても良かろう」


「はい、確かに。ですが、わたくしは、これは軍船に向いていると思ったのでございます」

「ほう。なぜだ?」

 レオストの目が光る。


「この船は速度が速く、風上にも進めます。そして、商船にできるほどの大きさで、機動力があるようです。ですが、乗組員が少し多めに必要ですし、熟練していなくてはいけません。


 ですから、商船というよりも、兵を乗せる軍船、偵察船、伝令船に向いているのではないかと。それならば、国家規模にするほうが良いだろうと思いました」


 ファーゾンが「ふむ」と言いながら、頷く。

「この船には衝角がございません。ですから、軍船として体当たりはできませんが、足が速いので、別の戦い方になるでしょう」


「ということは、戦い方が変わる……ということだな。おもしろい」

 フフッとレオストは笑う。

 そして、大きく右手を広げた。


「そなたら、聞いたか! 自分の領地の利益より、国の利益を優先する。これがブリアの天才官僚ミナだ!」

 レオストはそう言うと、声を上げて大笑いした。


 ミナは恥ずかしくて、顔が真っ赤になってうつむいてしまった。

 またまたルーシャが得意そうに微笑むのだった。



 レオストが側近たちに向かって高らかにミナを称賛するのには理由があった。


 レオストは謹慎が解かれてからまだ1年ちょっと。まだあまり活躍の場がなく、王城での力が弱い。だから、側近たちはレオストの渋い顔を見ることが多かった。


 レオストが割譲案に反対したのは正しい判断だったと、側近たちは皆思っている。実際、国王は自らの不明を認め、レオストを許したのだ。

 知力、武力共にあるレオストが不遇であることに側近としてはやきもきしていた。


 それが、ブリアから戻ってきたら、女官僚のミナを王都に呼ぶという。そのとき、側近たちはレオストがミナを女として気に入ったのかと疑っていた。まさか、ミナが復活の切り札になるとは到底思えなかったのだ。


 レオストが側近たちにミナを天才官僚として称賛するのは、側近たちのそういう疑いがあることを知っているからだ。


 ミナが来てからレオストは急に明るくなり、大胆で自信に満ちたように変化した。側近たちはレオストが何度か大笑いするのを見た。それは何年ぶりのことだろう。

 6人の側近たちはこの変化が続くことを願わずにはいられなかった。



「よし、ではミナ、軍務庁としてはその学生を確保したい。しかし、それではブリアには利益がない。どうする?」


 レオストがおもしろそうに言う。ミナを試しているのだ。


 確かに、今のままではブリアは絡めない。これではアンドリオンに申し訳ない。

「殿下、お許しいただけるならば、まず、その学生はブリアの所属の研修生とさせていただきたく存じます」


「ふむ。研修生とは?」

「はい。優秀な学生を、実際の仕事をさせながら教育するという仕組みでございます」


「ほう…。実際の仕事とは?」

「殿下はこの学生を設計主任として、この船の製造に関わらせるおつもりではございませんか? だとしたら、それはブリアからの人材の派遣ということにさせていただきたく存じます」


「なるほど。それならば、軍務庁は彼の給料をブリアに払うということだな?」

「その通りでございます。そして、ブリアから彼に支払います」

 これは人材派遣と同じ仕組みだ。


「ブリアといたしましては、彼をブリアの技術者として、今後も活躍してほしいのです。今回の設計に留まらず、試作を重ねれば、もっと大きな船にできるかもしれません。

 彼の才能が伸びるよう、ブリアとしても支援しながら、彼に働いてもらいます」


「ふむ。なるほどな」

 レオストは満足したようだった。


「やはり君は抜け目がないな」

「いえ、殿下を信頼しておりますからこそ、わたくしはキトーを隠す必要がないのでございます」

 とウフフと笑った。


 設計図にはしっかりと名前が書いてある。だから、その学生がキトーという名前であることはわかるのだ。


「うまいことを言う。君はかなりの策士であるな」


「それはお褒めの言葉と受け取っておきます。それと、…設計図の使用料は別となります。これはキトーに直接お支払いください。殿下がそれを丸ごと買い上げるか、一艘ごとに特許料を支払うかのどちらかとなると思います」


 レオストはフフッと笑う。

「ああ、丸ごと買い上げようぞ」

 レオストは大胆に言った。


「そして、君の言う通り、キトーはブリアの研修生とする。船は我が軍で造る。これでよいな?」


「はい、殿下。異存はございません」

 交渉成立だ。


 * * *


 翌日、ブリア出張所での打ち合わせも終えて、翌々日、ミナはゾーイを使ってキトーを技師養成所の寮から呼び出し、研修生としての契約を先に結ぶことにした。

 キトーは1日早く呼び出されたので、驚く。


「キトーさん、あなたの設計図はわたくしが王弟レオスト殿下に売り込みました」

 そういうと、キトーは「えっ」と素っ頓狂な声を上げる。


 そして、ブリア所属の研修生として船の建造の現場で設計士として働くこと、その給料の交渉と管理はブリアが代行することを伝えた。


 そして、設計図は丸ごと王弟殿下が買い上げることなどを伝えた。


「当面の生活費として、ブリアから先払いで給料を今日、お出ししますね。前回の貸出金もその一部とさせていただきます」


「あ、ありがとうございます! よろしくお願いいたします!」


 キトーは助かったとばかり、息をついて、喜んだ。彼はほとんど無一文だった。

 しかも、設計図は王弟が買い取り、莫大なお金が手に入る。そして、平民の自分には恐ろしく思える王弟との間に、ブリアが入って交渉してくれる。

 こんなに良い条件は他にないと思えた。


「何かお困りのことがあったら、わたくしにご連絡くださいね」

「は、はい!!」

 そう言うミナが、キトーには女神に見えた。


次回はいよいよ商務庁官僚とのやりとり。ミナが天才官僚の名をほしいままに……?


よかったら、ポイント付けてくださるとうれしいです!

いろいろと調べながら、真剣に書いていますので、応援してくださるとうれしいです。

よろしくお願いします。

用語集

ミナ … 主人公。ブリア行政顧問。見かけは18歳。中身は…

バンリオル … 大商会で、代表ボリックはミナの支援者

ブリア … ミナのいる領地

レオスト … 王弟で、ミナの支援者

カイル … ミナの恋人で、バンリオルの私兵

マーギナ … 子爵。父が急遽引退して、子爵となったので、恋人と結婚できなくなった

ルーシャ … レオスト付きの侍女で、今はミナについている

ゾーイ … ミナの護衛騎士


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